第12話 三人の思い出
佐藤さんの箱運びを手伝い終えると、私と悠斗は椅子にぐったりと座り込んだ。魔法で箱を運ぶのって……やっぱり疲れるんだね。
厨房からアイスクリームジュースを持ってくる佐藤さんを見た。その笑顔は、童謡に出てくるヒマワリみたいだった……あれだけ魔力を使った甲斐があるよね。
「お疲れさま。これ、ごちそうするわ」
ジュースを受け取ると、手のひらがひんやりした。匂いをかぐと、ほのかに小麦の香りもした。一口だけ飲んで、テーブルに置く。今は……まだ、のんびり味わってる場合じゃないんだ。
「佐藤さん」
「えっ? 口に合わなかった?」
佐藤さんはテーブルの上のジュースを眺めて、首をかしげた。
「違うんです……今日は、いくつか聞きたいことがあって」
「うーん、何でも聞いて。でも、私は百科事典じゃないからね」
佐藤さんは胸の前で、指を軽く振った。
「あの、翔太さんのこと、もっと詳しく聞かせてもらえますか……私たちにとって、本当に大切なことなんです……お願いします」
私の言葉を聞いて、佐藤さんは店の外を見やった。顔を上げてまばたきをし、軽く鼻をすすった。
「翔太ね……も……もちろん、いいわよ」
店の中は静まり返り、私たち四人の息づかいと、セミの声だけが聞こえていた。
「私と翔太と松本は、小さい頃から村の入口で一緒に遊んでたの。その頃は、ここもまだアイスクリームの町って名前じゃなかったのよ。毎日、村の入口の大きな木の下で、かくれんぼしたり、歌を歌ったり、いろんな遊びをしたりしてね」
話しながら、佐藤さんの口元が少しほころんだ。頬を支えていた手も、いつの間にか下ろしていた。
「それから、一緒に小学校へ通うようになったの。その頃の翔太は、いつもテストで零点ばかり取っててね。そのたびに、私たちも手伝って、こっそり村の入口の大きな木の下に答案を埋めてたの。それから……私……私のおばあちゃんが……」
佐藤さんは口元を押さえ、目をぎゅっと閉じた。それでも、目尻からは涙が数滴こぼれ落ちた。千晴がバッグからティッシュを一枚取り出して、佐藤さんに差し出した。
「あ……ありが……ありがとう……私……」
「佐藤さん……ごめんなさい。つらいことを思い出させちゃって……話したくなかったら……話さなくても……」
店の中は、またしばらく静かになった。佐藤さんはティッシュを受け取ると、手を横に振った。それから少しして、涙声で話を続けた。
「だ、大丈夫。話したほうが、少し楽になるから。あの日、おばあちゃんが家で倒れたの。町の診療所で、私たち三人は窓越しに、ベッドに寝ているおばあちゃんを見ていたわ。あのときの私に……おばあちゃんを診てあげられる力があればよかったのに……」
佐藤さんは息を吐いた。真っ赤になった目で、ときどき窓の外を見やっていた。
「それから何年かして、私たちも卒業したの。松本は手紙に、今は魔法学院にいて、魔法を学べないかと思ってるって書いてたわ。翔太は、外へお金を稼ぎに行って、この辺りで一番すごい町にするんだって、私に言ったの」
佐藤さんは笑って、目尻の涙を拭った。私は店の外を見た。石畳の通り、きちんと並んだ家々……もしかしたら、翔太さんは本当にやり遂げたのかもしれないね。
「そのあと、戻ってきた翔太は作業員たちを連れて、町の滝の裏で鉱脈を見つけたの」
「じゃあ……それがアイスクリームの坑道なの!?」
私は大きく息を吸い、佐藤さんの次の言葉に耳を澄ませた。
「うん。最初に翔太がアイスクリーム鉱石を見つけたのは、坑道の開発を進めている途中だったの。それを研究してできたのが、アイスクリームジュースなのよ」
佐藤さんはアイスクリームジュースのグラスを一つ手に取ると、そのまま飲んだ。
「ああ! やっぱりおいしいわね」
「翔太さん、すごい!」
千晴は目の前のアイスクリームジュースを手に取り、じっくりと眺めた。
「そうでしょ。それからは町の人たちも、よく翔太を褒めてたのよ」
佐藤さんは両手を腰に当て、得意そうな顔をした。
「それで、それで?」
私の言葉を聞いて、佐藤さんは椅子の背にもたれた。
「そのあと、松本も帰ってきたの。その日は、また三人で集まって、昔の話をしたわ」
「えっ、どんな話?」
佐藤さんは私に、しーっという仕草をした。
「秘密。ふふん。それから、翔太が坑道でちょっと問題が起きたって言ってね。噴出が起きるとか、そんな話だったかな……私もよく覚えてないんだけど。そのあと、翔太は作業員たちに、毎日もう少し長く働くように言い始めたの。そのうち、自分も下へ引っ越していってね。そういうことで、松本ともけんかしたのよ」
「そうだったんだ」
グラスの中のジュースを見ていると、店の風鈴がりんりんりんと鳴った。佐藤さんは涙を拭い、入ってきたお客さんを見た。
「それじゃ、続きはまた今度ね」
「はい。佐藤さん、頑張ってくださいね!」
私は片手をきゅっと握ってこぶしを作り、目の前の佐藤さんに笑いかけた。急にあんな悲しいことを思い出させちゃったんだから……このまま悲しそうな顔でお客さんを迎えさせちゃだめだ!
「みんなもね!」
◇
挨拶をして店を出ると、私たちは公園のベンチに座った。通りでは、セミが相変わらず「ミーン、ミーン」と鳴いていた。
翔太さんが変わったのは……坑道で噴出が起きるかもしれないって、わかったときからに違いない……。
「七奈……?」
悠斗が私の肩をつついた。
「わかったよ。悠斗、千晴ちゃん、もう一度、坑道へ行こう」
「佐藤さんが言ってた、あの噴出のこと?」
千晴ちゃんと目が合った。私はこぶしをぎゅっと握り、小さくうなずいた。
「きっと、噴出と関係があるんだ」
私はベンチから立ち上がり、坑道のほうを見た。
「今度こそ、絶対に答えを見つけるんだ!」
「よし。じゃあ、解決したらゆっくりひと眠りしよう」
悠斗はベンチから立ち上がり、伸びをした……悠斗ったら、どうして私より寝るのが好きなの……。私は、おいしいものを食べるのがちょっと好きなだけだもんね。
「待って!」
「どうしたの? 七奈ちゃん」
「私、アイスクリームジュースを飲み終わってない……あああー!」




