↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、魔法使いを見た!  作者: MorinoNanana
魔法使い漫遊記
PR
43/50

第12話 三人の思い出

佐藤さんの箱運びを手伝い終えると、私と悠斗は椅子にぐったりと座り込んだ。魔法で箱を運ぶのって……やっぱり疲れるんだね。


 厨房からアイスクリームジュースを持ってくる佐藤さんを見た。その笑顔は、童謡に出てくるヒマワリみたいだった……あれだけ魔力を使った甲斐があるよね。


「お疲れさま。これ、ごちそうするわ」


 ジュースを受け取ると、手のひらがひんやりした。匂いをかぐと、ほのかに小麦の香りもした。一口だけ飲んで、テーブルに置く。今は……まだ、のんびり味わってる場合じゃないんだ。


「佐藤さん」


「えっ? 口に合わなかった?」


 佐藤さんはテーブルの上のジュースを眺めて、首をかしげた。


「違うんです……今日は、いくつか聞きたいことがあって」


「うーん、何でも聞いて。でも、私は百科事典じゃないからね」


 佐藤さんは胸の前で、指を軽く振った。


「あの、翔太さんのこと、もっと詳しく聞かせてもらえますか……私たちにとって、本当に大切なことなんです……お願いします」


 私の言葉を聞いて、佐藤さんは店の外を見やった。顔を上げてまばたきをし、軽く鼻をすすった。


「翔太ね……も……もちろん、いいわよ」


 店の中は静まり返り、私たち四人の息づかいと、セミの声だけが聞こえていた。


「私と翔太と松本は、小さい頃から村の入口で一緒に遊んでたの。その頃は、ここもまだアイスクリームの町って名前じゃなかったのよ。毎日、村の入口の大きな木の下で、かくれんぼしたり、歌を歌ったり、いろんな遊びをしたりしてね」


 話しながら、佐藤さんの口元が少しほころんだ。頬を支えていた手も、いつの間にか下ろしていた。


「それから、一緒に小学校へ通うようになったの。その頃の翔太は、いつもテストで零点ばかり取っててね。そのたびに、私たちも手伝って、こっそり村の入口の大きな木の下に答案を埋めてたの。それから……私……私のおばあちゃんが……」


 佐藤さんは口元を押さえ、目をぎゅっと閉じた。それでも、目尻からは涙が数滴こぼれ落ちた。千晴がバッグからティッシュを一枚取り出して、佐藤さんに差し出した。


「あ……ありが……ありがとう……私……」


「佐藤さん……ごめんなさい。つらいことを思い出させちゃって……話したくなかったら……話さなくても……」


 店の中は、またしばらく静かになった。佐藤さんはティッシュを受け取ると、手を横に振った。それから少しして、涙声で話を続けた。


「だ、大丈夫。話したほうが、少し楽になるから。あの日、おばあちゃんが家で倒れたの。町の診療所で、私たち三人は窓越しに、ベッドに寝ているおばあちゃんを見ていたわ。あのときの私に……おばあちゃんを診てあげられる力があればよかったのに……」


 佐藤さんは息を吐いた。真っ赤になった目で、ときどき窓の外を見やっていた。


「それから何年かして、私たちも卒業したの。松本は手紙に、今は魔法学院にいて、魔法を学べないかと思ってるって書いてたわ。翔太は、外へお金を稼ぎに行って、この辺りで一番すごい町にするんだって、私に言ったの」


 佐藤さんは笑って、目尻の涙を拭った。私は店の外を見た。石畳の通り、きちんと並んだ家々……もしかしたら、翔太さんは本当にやり遂げたのかもしれないね。


「そのあと、戻ってきた翔太は作業員たちを連れて、町の滝の裏で鉱脈を見つけたの」


「じゃあ……それがアイスクリームの坑道なの!?」


 私は大きく息を吸い、佐藤さんの次の言葉に耳を澄ませた。


「うん。最初に翔太がアイスクリーム鉱石を見つけたのは、坑道の開発を進めている途中だったの。それを研究してできたのが、アイスクリームジュースなのよ」


 佐藤さんはアイスクリームジュースのグラスを一つ手に取ると、そのまま飲んだ。


「ああ! やっぱりおいしいわね」


「翔太さん、すごい!」


 千晴は目の前のアイスクリームジュースを手に取り、じっくりと眺めた。


「そうでしょ。それからは町の人たちも、よく翔太を褒めてたのよ」


 佐藤さんは両手を腰に当て、得意そうな顔をした。


「それで、それで?」


 私の言葉を聞いて、佐藤さんは椅子の背にもたれた。


「そのあと、松本も帰ってきたの。その日は、また三人で集まって、昔の話をしたわ」


「えっ、どんな話?」


 佐藤さんは私に、しーっという仕草をした。


「秘密。ふふん。それから、翔太が坑道でちょっと問題が起きたって言ってね。噴出が起きるとか、そんな話だったかな……私もよく覚えてないんだけど。そのあと、翔太は作業員たちに、毎日もう少し長く働くように言い始めたの。そのうち、自分も下へ引っ越していってね。そういうことで、松本ともけんかしたのよ」


「そうだったんだ」


 グラスの中のジュースを見ていると、店の風鈴がりんりんりんと鳴った。佐藤さんは涙を拭い、入ってきたお客さんを見た。


「それじゃ、続きはまた今度ね」


「はい。佐藤さん、頑張ってくださいね!」


 私は片手をきゅっと握ってこぶしを作り、目の前の佐藤さんに笑いかけた。急にあんな悲しいことを思い出させちゃったんだから……このまま悲しそうな顔でお客さんを迎えさせちゃだめだ!


「みんなもね!」


◇


 挨拶をして店を出ると、私たちは公園のベンチに座った。通りでは、セミが相変わらず「ミーン、ミーン」と鳴いていた。


 翔太さんが変わったのは……坑道で噴出が起きるかもしれないって、わかったときからに違いない……。


「七奈……?」


 悠斗が私の肩をつついた。


「わかったよ。悠斗、千晴ちゃん、もう一度、坑道へ行こう」


「佐藤さんが言ってた、あの噴出のこと?」


 千晴ちゃんと目が合った。私はこぶしをぎゅっと握り、小さくうなずいた。


「きっと、噴出と関係があるんだ」


 私はベンチから立ち上がり、坑道のほうを見た。


「今度こそ、絶対に答えを見つけるんだ!」


「よし。じゃあ、解決したらゆっくりひと眠りしよう」


 悠斗はベンチから立ち上がり、伸びをした……悠斗ったら、どうして私より寝るのが好きなの……。私は、おいしいものを食べるのがちょっと好きなだけだもんね。


「待って!」


「どうしたの? 七奈ちゃん」


「私、アイスクリームジュースを飲み終わってない……あああー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。