第9話 私たちのアンサー!
(目が……痛い)
手を少し持ち上げると、腕全体がまだだるかった。額に当てると、手の甲に額のぬくもりが伝わってきた。暖かい。
「七奈ちゃん……目、覚めた?」
ぼんやりする中で、額に置いていた手を、誰かが手のひらで包んだ。その手は……私の手をそっと握っていて……暖かい。
私は目を開けて、思わずもう片方の手で目元を覆った。
「まぶしい」
「ああ、よかった……七奈ちゃん」
千晴は布団に顔を埋めて、両腕で私をぎゅっと抱きしめていた。
「千晴ちゃん、私は大丈夫だよ。けほっ、けほっ。ほら」
私は千晴ちゃんを引き起こして、両手を腰に当て、かっこいいポーズを取った。
「も、もう、七奈ちゃんってば……あはは」
目をこすっていた千晴ちゃんは、私のポーズを見て、思わず笑い出した。ベッド脇の棚には、小さないちごのケーキが置いてあった。
「七奈ちゃん、お腹空いたでしょ。ケーキ、食べる?」
千晴はすぐに立ち上がり、反対側へ足早に回って、いちごのケーキを取った。
「はい、あーん」
目の前のケーキは黄金色で、クリームが少しついていて、半分のいちごも載っていた。
「あの、千晴」
「どうしたの?」
「悠斗は、もう大丈夫なの?」
「まだ起きてないんじゃないかな。このケーキ、外に出てから悠斗が走って買ってきてくれたんだよ」
「えっ?」
「ほらほら、早く食べて。冷たくなくなっちゃうよ」
フォークの上のいちごのケーキを見て、私は「あーん」と口を開け、ぱくりと食べた。口の中が、甘くて……甘くて。
「千晴ちゃん、あのとき、どうやって私たちを見つけたの?」
千晴ちゃんの手が宙で止まった。うつむいて、膝の上のケーキを見ていた。
「あのときは……七奈ちゃんのお兄さんのおかげだよ」
「お兄ちゃん? 来たの?」
私は辺りを見回した。服はまだ、きちんと置かれたままだった。よかった。
「来てないよ。ほら」
千晴ちゃんはケーキを脇に置いて、バッグから、魔杖みたいな形の絵筆を取り出した。
「これ、絵筆?」
「うん。七奈のお兄さんが、画杖なんだって言ってたよ」
私は千晴の手元の画杖を見た。筆先では、青緑色の宝石がきらきら光っていた。
「じゃ、じゃあ、千晴ちゃんも魔法使いになったの? やったあ!」
私は千晴の肩に、頭をそっとすり寄せた。これからは、一緒に世界中のどこへでも行けるかな!
「ほら、口のクリームが私についちゃうよ。先に食べ終わってからね」
「うん!」
千晴がケーキを取ろうと振り向いた隙に、私は口元のクリームをこっそりぺろりとなめた。
◇
ケーキを食べ終わると、私は部屋の掛け時計を見上げた。
「もう十時なの!? 私、そんなに長く寝てたの?」
私は立ち上がってベッドのそばへ行き、カーテンを少しだけ開けた。顔に降り注ぐ月明かりは、少しひんやりしていた。お日さまに比べると、月の光はいつも柔らかいんだね。
コン、コン、コン。
「千晴、七奈は起きた?」
聞き慣れた声が、ドアの向こうから聞こえてきた。千晴が歩いていって、ドアを開けた。
私が振り返った瞬間、ちょうど悠斗と目が合った。
「悠斗、起きたんだ」
「……うん。七奈が無事でよかった」
私はうつむいて、悠斗の目を見られなかった。私にケーキを買ってきてくれるなんて……少しは優しいところもあるんだね。
悠斗が駆け寄ってきて、しゃがみ込み、下から私の顔をのぞき込んだ。
「えっ!?」
「どうしてうつむいてるの? 気分が悪い?」
「ばか! 何でこっちに来るの!」
「また何かあったのかと思っただけだよ」
「ばか、ばか!」
私は急いでベッドへ戻った。枕に顔を埋めたときも、顔はまだ熱かった。
「また怒られた。俺、何もしてないのに……」
しばらくして顔を上げると、悠斗は椅子に座って、手の中で魔杖をくるくる回していた。
「悠斗、私たち、松本さんにだまされちゃったのかな……」
「そうみたいだね」
悠斗は椅子を揺らしながら、天井を見上げた。手にした魔杖も、くるくると回し続けていた。
「やっぱり、松本さんに捕まってたんだね」
千晴はうつむき、両手で画杖をぎゅっと握っていた。
「あのとき……あのとき、私がもっと早く二人に言っておけばよかった……」
少し落ち込んでいる千晴を見て、私はそっと抱き寄せた。千晴の髪は、やっぱりいい匂いがした。おんぶしてもらったときと、同じ匂いだった。
「私たちは千晴のこと、責めてないよ……私たちが勝手に出かけなければ……」
「ほら」
そばで悠斗が立ち上がり、私たちの話を遮った。
「みんな無事だったんだから、それが一番だろう?」
「うん!」
私は千晴の頭に自分の頭を寄せて、うなずいた。
「じゃあ……七奈ちゃんは、翔太さんを助けに行くの?」
千晴が顔を上げて、私の目を見た。
「私……」
千晴の瞳は、海みたいに青かった。
「行く! 一度だまされたからって、人を助けるのをやめちゃったら……そのうち、誰も助け合わなくなっちゃうよ。でも……」
私は顔を上げて、悠斗を見た。
「自分で翔太さんに会って、判断する!」
私は魔杖を呼び出し、ぎゅっと握りしめた。窓の外では、三日月が雲の間からそっと顔を出していた。
悠斗は少し笑うと、魔杖を振り、魔法使いのローブに着替えた。
「じゃあ、今度はみんなで行こう」
「「うん! 一緒に行こう!」」




