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私、魔法使いを見た!  作者: MorinoNanana
魔法使い漫遊記
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第5話 不思議な松本さん

 滝の下で、松本さんがこちらへ歩いてきた。頭の上にかざした書類鞄には、水しぶきの跡が少し残っていた。


 悠斗が松本さんに向けて、魔杖をひと振りした。


「おはよう、みんな」


「おはようございます、松本さん。ここで何をしてるんですか?」


 松本さんの服はびしょびしょで、ほんのり青草の匂いもした。


「ああ、昔の友達に会いに来たんだ」


「翔太さんですか?」


 私の言葉を聞くと、松本さんは驚いた顔をした。


「どうして、私が翔太を知ってるってわかったんだい?」


「あの、昨日の夜、食事中のお話が聞こえちゃって。ごめんなさい」


 松本さんは手を振り、ハンカチで顔の水を拭いた。


「気にしなくていいよ。ただ、今日は翔太に会いに来たんじゃないんだ」


 松本さんは洞窟の中へ目を向け、ぎゅっと拳を握った。


「翔太が作業員たちを無理やり働かせている証拠を、見つけたいだけなんだ……」


 そう言って、松本さんはポケットからたばこの箱を取り出した。火をつけようとしたけれど、そのまましまい直した。


「ごめんね。君たちがそばにいるのを忘れていたよ」


 松本さんの目の下には濃いくまがあって、長いこと、ちゃんと休めていないみたいだった。


(それなら、なおさら松本さんを助けなくちゃ!)


 私は悠斗と千晴を見て、互いにうなずき合った。悠斗が一歩前に出た。


「松本さん、俺たちも一緒に行きます」


「それは……君たちに迷惑じゃないかい?」


「大丈夫ですよ。俺は魔法使いですから」


「私も!」


 私は魔杖を呼び出して、ぎゅっと握った。


「それじゃあ……本当に面倒をかけるね!」


 松本さんは私たちに深々と頭を下げた。悠斗は慌てて松本さんに手を添え、その体を起こした。


「気にしないでください。人を助けるのは、魔法使いの役目ですから」


「じゃあ、ついてきて。坑道の中の警備員に見つからないようにね」


「うん」


 私たちが返事をすると、悠斗は魔杖を持って松本さんの後ろについていった。私はその後ろを歩きながら、魔杖を手に、隣の千晴を守るように気を配った。


「中はそんなに危なくないよ」


 松本さんは私たちを振り返って、また笑みを浮かべた。


 ◇


 坑道の中では、岩壁からときどき水滴が落ちてきた。空気はじめじめしていて、入った途端、服も手もべたべたする感じがした。


「松本さん、アイスクリームジュースって、ここで採れるんですか?」


「うん。この辺りでしか採れない鉱石だからね」


(飲むとあんなにひんやりするのに、こんなに暑いなんて)


 坑道を見回すと、岩壁にも色とりどりの鉱石があった。そばへ行って手で触れてみると、硬かった。手には、鉱石の熱さが少し残った。


 これがアイスクリーム鉱石なのかな……。


「松本さん、作業員の人たちはどこにいるんですか?」


 悠斗が、前を歩く松本さんを見た。


「ああ、この下だよ」


 私たちは松本さんについて、奥へ進んでいった。途中で、千晴が地面から小さな鉱石のかけらをそっと拾い、バッグに入れた。


 千晴は私に手を振って、自分のバッグをぽんぽんとたたいた。


「七奈ちゃん、こっち」


「どうしたの?」


 千晴のそばへ寄ると、千晴は私の手を取って、自分のバッグに触れさせた。


「えっ、千晴ちゃん、鉱石をバッグに入れたの?」


「うん。絵の具にできそうだなって思って、ちょっとだけ」


「えっ、じゃあ食べられるの?」


「食べちゃだめだよ」


 千晴ちゃんは口元を押さえて笑った。そのあとも、歩きながら、地面に落ちている小さな鉱石をいくつも拾っていた。


 千晴ちゃんの絵も、きっとアイスクリームジュースと同じくらいおいしくなるんだろうな。えへへ。


 ◇


 坑道の下のほうまで来ると、辺りには花のランタンがいっぱい吊るされていて、坑道全体が明るく照らされていた。


「悠斗、どうして下に行くほど暑くなるの?」


「周りに鉱石がたくさんあるからね。見てて。『そよそよ』」


 悠斗の呪文で、私たちの周りにそよ風が吹いた。空気はまだ熱いのに、なぜかその風はひんやりしていた。


「悠斗、すごい!」


「これくらい、どうってことないよ。行こう」


 私たちは小さな岩の上から飛び下りた。後ろで、松本さんがふん、と小さく息を漏らし、続いて飛び下りた。


 千晴ちゃんは振り返って松本さんを見ると、私のそばに寄ってきた。


 ◇


 大きな岩の後ろまで来ると、私たちは顔を出して、奥をのぞき込んだ。


 花のランタンの下で、作業員たちが鉄のつるはしを手に、力を込めて岩壁の鉱石を掘っていた。


 カン、カン、カン――


 つるはしが鉱石にぶつかる音とともに、作業員たちの額から、汗が雨粒みたいに地面へ落ちていた。


 少し離れたところでは、一人の女の人が、メガホンを持って作業員たちの後ろに立っていた。


「みなさん、五日後までに生産を終わらせなければなりません。今夜はさぼらず、もうひと頑張りしてください」


 メガホンを持って後ろから指示を出している女の人を見ると、なんだか少し嫌な感じがした。


(あんなに頑張ってるのに、そんなことを言われるなんて。納得いかないよ)


「わかりました」


 作業員たちは次々と返事をした。手にしたつるはしの動きが、さっきより少し速くなった気がした。


「ほら、翔太は作業員たちをあんなに長く働かせてる。これじゃ、町の人たちをこき使ってるのと同じじゃないか」


 後ろに立つ松本さんの声には、少し怒りがにじんでいた。


 松本さんの話を聞いて、魔杖を握る手に、思わずさらに力が入った。


「見てごらん。翔太の事務所はあっちだよ」


 松本さんの指さすほうを見ると、作業場から少し離れたところに、小さな木の小屋があった。


「よし、行こう」


 私は悠斗を引っ張って、小屋へ向かおうとした。


「君たち、ここで何をしているんだ!」


 後ろから厳しい声が飛んできた。振り返ると、制服を着たおじさんが二人、警棒を持ってこちらを見ていた。

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