特級昇級試験2
14.特級昇給試験2
「では二本目……開始っ!」
審判が二本目の開始を告げる……すると距離があるにもかかわらず巧は一直線に対戦相手の方へ駆けよっていく……すぐさま迎撃とばかりに魔道具から火弾を発射するが、巧は軽いフットワークで直進しかしない火弾を楽々躱しながら尚も詰め寄っていく……。
それでも対戦相手も慣れたもので、魔道具操作の指先など全く見ずに巧の動きに合わせて狙いを変え、発射するタイミングもずらして放つが……巧は真正面への火弾はなんと木刀で掃い避けながら勢いを殺さずに突っ込んで行く……
「ちいっ……」
すぐさま魔道具を持つ左手を放し剣に沿え、斬りかかってくる巧に備えようとしたが……
「だありゃあっ!」
思い切り振りかぶっての脳天への一撃に対し剣を横にして頭上に構え受け止めようとしたがそれはフェイクで、踏み込んだ右足に力を込めて体重を後ろへ戻すとそのまま手首を返して今度は胴へと狙いを切り替え、左足を突っ張ってもう一度前へと踏み込み水平切り一閃……全体重を乗せた胴への一撃は……対戦相手を大きく左方向へと吹き飛ばした。
「一本っ、それまでっ!」
審判が模擬戦終了を告げた。巧の勝利だ。
「は……はあっはっはっ……。」
壁際迄大きく吹き飛ばされた対戦相手は目を丸くしていたが、やがて笑うしかないとばかりに大笑いをした。
「初戦勝利、おめでとうございます。向こうの対戦場ではまだ試合が終わっておりません。試合終了後に次の模擬戦開始となりますので……それまでは控室で休憩可能です。いかが致しますか?」
あまりにあっけなく模擬戦が終了してしまったので、控室に戻れると審査員が言ってきた。
「ああ……エミリアも控室で休憩中だったな……だったら戻るが構わないのか?」
「はいっ……四枠の方は三枠の方とは対戦しない組み合わせなので情報漏れなどありませんから、構いません。」
「そうか……では戻るぞ……。」
巧は急ぎ先程の控室まで戻った。
「次のエミリアの対戦相手はまだ分からんが、恐らく六枠の剣士か七枠の槍使いかどちらかだろう。そうでなければ仲間同士は戦えないから、対戦相手がいなくなってしまうからな。
どんな相手かまともには見てはいないが……恐らく今戦った四枠の剣士とさほど大きくは変わらないはずだ。エミリアは見ていないからわからないだろうが、兜も手甲も足帯もなしで甲冑の胴巻きだけつけていた。間違いなく魔道具の標的を減らす目的だろうが……今度の奴も防具は胴巻きだけで、兜も面帯も手甲も足帯も付けずに来るはずだ。どう戦う?」
控室に戻ったところで兜を脱いで、巧が徐に切り出した。
「そ……それは……防具がない場所に当たったら大けがをしそうで危険ですから、矢も魔法もアルたちにも胴回り以外は攻撃させられませんね。仕方がないから胴巻きだけに一度に魔法と矢とアルたちを集中させてみます。」
エミリアは仕方がないので防具がある胴部分に攻撃を集中させると回答……。
「なんでそんな敵の術中にはまるような真似をするんだ?防具がある部位以外は狙ってはいけないのは魔道具だけだろ?矢は矢じりがないしアルル達も付け爪も付け牙も禁止だ……そのまま防具のないところを攻撃したところで当たっても怪我するだけで死にはしない。相手だってそんなことは承知の上だから構わず攻撃しなくては勝てないぞ。」
「でっ……ですが……当たり所が悪ければ……。」
巧が防具がない部位も攻撃するよう促すが、エミリアは承服しかねるといった反応……
「だから……向こうは金がなくて防具が買えないわけではない。仮にも上級冒険者なのだからな。エミリアみたいな甘ちゃん相手に有利に戦いを進めるために動揺させようと、わざと防具なしで戦おうとしているだけなんだぞ!」
巧が珍しくエミリアの眼前に詰め寄っていく。
「先ほどの魔道具の実技試験もそうだ……奴らは奴らなりに……ゼーンの修行をしていないから魔道具の操作をしなければ魔力を溜めて置くことすらできない中で、必死で知恵を働かせてうまいこと切り抜けようとしていた。普段の試験ならそんなことしないのだろうが……恐らくエミリアが首から魔道具をぶら下げているのを見て何かを感じたのだろう。
なのにエミリアはどうだ?念じるだけで魔道具を発射寸前にできたはずなのに、そうしようとはしなかった。奴らはもよおしてもいないのに漏れそうだから厠へ行きたいと言って外に出て、その辺で魔道具の試射を行っていたのだろうからな。
実技試験が滞るから審査員がいい顔してはいなかったが、それでも平然と嘘をついて自分を有利にしようと画策していた。冒険者家業なんてそれくらいずる賢くなければ、生き残ってはいられないという事でもあるのだぞ!」
巧が相手も反則まがいなことを行っているのだから、こちらが馬鹿正直にふるまう必要性はないと主張。
「ですが……やはり何事にも真摯に正しい行いをしなければ……。」
エミリアは頑として首を横に振り続けるが、
「あああっ……そんなことを言っていたら……エミリア……負けるぞ!というか……今後もずっと勝てやしないぞ。ウエストサイドリバーの両端の魔物駆除に関しては、平気で取り決めを無視するような交渉をして百区画ずつ引き受けることを勝ち取ったエミリアはどこへ行ったんだ?」
巧が今のエミリアの考え方のままでは今後も勝てはしないと厳しく叱責し、頭を抱えて蹲る。
「あの時は……現地での駆除作業よりも移動時間の方が長いという常識外れの依頼でしたからね……おかげで人気がなくて巧さん以外の引き受け手がおらず長く放置されていた。だからこそ交渉すれば引き受け区画を増加する余地はあると考え交渉したのですよ。
ですが今回は……厳密に守るべき昇級試験の決めごとですからね……私なりに考察してみましたが交渉の余地はなく、順守すべきと判断したまでです。大丈夫ですよ……相手を怪我させるような真似までして勝っても仕方がありませんからね……なんとか考えて対応いたしますから……。」
エミリアは至極普通に表情を変えずに答えた。
「それでは……次の模擬試合が始まりますので、お二人ともに試合場へ来てください。」
係員が呼びに来て二人が長い廊下を歩いていく……
「では続きまして二枠の剣士と五枠の弓使いの対戦および、三枠の弓使いと七枠の槍使いとの対戦となります。四枠と六枠の方は控室に待機して頂いております。
既に防具の結界処理は済んでおりますから、そのまま模擬戦場へ進んでください。何度も申し上げますが、防具のない箇所への魔道具攻撃は避けてください。それではお願いいたします。」
審査員に促され巧は先ほどと同じ模擬戦場へ……エミリアは廊下を挟んだ向こう側の模擬戦場へ入っていく。
巧の今度の相手はエミリア同様小柄な弓使いの女性だった。今回も先ほどの剣士同様……いや、兜や手甲どころか……金属製の胴巻きすら装備してはいない……道着と袴に女性の弓道家が使う革製の胸当てを付けているだけだ。
「剣士相手に兜や面帯どころか鉢金すらつけていないとは舐められたものだな……頭に食らったら木刀とはいえ死ぬこともあるはずだが、構わないのだろうね?」
二十間ほどの距離を持って対峙する相手に対し、巧が牽制気味に声をかける。
「いっ……いえ……ですが……まともな防具を持っていないもので、ごめんなさい。」
弓使いは素直に深々と頭を下げて謝った。恐らく巧と同年代ではないだろうかと言った印象……先程の剣士と同じ冒険者仲間だからそれくらいだろうと巧も納得の様子。
「綺麗な顔に一生残る傷を付けたくはないから……何としても顔だけは守ってくれよ……。」
巧はそれだけ言ってから、低く身構えた。
「開始っ!」
審判の号令の下……巧はすぐさま一直線に駆け出した。
対戦相手は華麗な指さばきで矢継ぎ早に連射してくるが、巧は華麗なステップで左右に躱し少しも速度を緩めず突っ込んで行く……そうして五間先まで来たら一足飛びに間を詰め……
「だありゃあっ!」
振りかぶって相手の脳天目がけて木刀が振り下ろされ対戦相手は思わず目をつぶる……
「一本っ!」
審判の掛け声で対戦相手が目を開けると、木刀の切っ先は喉元へ突き付けられていた。
一本取っても巧は笑顔も見せずにそのまま先ほどいた場所まで引き返していく……
「では二本目……開始っ!」
二本目の開始の合図とともに巧はまたもや一直線に突っ込んで行く……対戦相手も同じく矢継ぎ早に矢を射かけていくが、巧は軽いステップで躱しながらスピードを緩めない……そうして五間ほどの間合いまで入った時……弓使いが今度は矢をつがえるのをあきらめ右手で魔道具操作……火弾を連射し始めた……。
至近距離から巧の体の正面を狙ってしかも連射スピードが半端なく速い……巧は木刀では掃えないと瞬時に判断し、自分も腰ひもに結び付けた魔道具から水弾を発射して火弾を消滅させていく……そのまま勢いを緩めず間を詰め木刀の切っ先を喉元へ……
「一本っ!それまでっ!」
またもやあっさりと決着はついた。
「二戦目も勝利おめでとうございます。向こう側ではまだ決着がついておりませんから控室へ戻れますが、いかが致しますか?」
審査員が巧に控室へ戻るか尋ねて来た。
「向こう側で模擬戦をしているのは俺の相棒だが……観戦してもいいかい?どうせ俺の模擬戦はこれで終わりだから、他の対戦を見ても構わないはずだろ?」
巧はエミリアの様子を気にかけている様子。
「はいっ……観戦していただいて構いませんし激励の声をかけるくらいはいいのですが……戦術的な助言は禁止されております。場合によってはお二人ともに失格となる可能性もありますので、注意してください。」
審査員が観戦は構わないが、技術的指導は禁止と忠告。
「分かった……気を付けるよ。」
巧が廊下の向こう側の模擬戦場へ入ると……二十間ほどの距離を置いてエミリアと槍使い……槍とはいっても八尺ほどの長さの木の棒を槍代わりに持っているだけで、そうしてやはり甲冑の胴巻きだけで手甲も足帯も兜も付けていない様子。
考えてみたらエミリアも頭を守るための帽子類は射撃の邪魔になるからとつけてはいないが、それでも革ドレスは手首まで袖があるし、足元は革製ブーツを履いているから、やはり魔道具の標的を少なくするためとしか考えられない。
壁側へ視線を移すとスコアが掲示されており、なんと相手に一本が入っていてエミリアはゼロ……そのせいか相手は十分な距離をとっている様子……試合の残り時間を示す蝋燭はまだ半分以上は残っているようだが……。
エミリアは時折矢を射かけはするのだが距離があるため簡単に避けられ、アルルとぺリルは対戦相手の間合いに入ってはいるものの、胴巻き部分だけでは攻撃を仕掛けようもないのか周囲をうろうろとしているだけの様子。つまり万事休すで打つ手がない。
「エミリアっ!いいのかそれで?」
蝋燭の残りが半分を切ったところで堪らず巧が声をかける……が、エミリアは反応しない。
「エミリア……君は対戦相手にも随分と失礼なことをしていると……分かっているのだろうな!」
さらに声を張り上げてみる。
「………………………………そうですよね……戦う術があるというのに……模擬戦とはいえ試合だというのに……手を尽くさないというのは相手の方にも失礼で……本当に申し訳ございませんでした。」
巧の言葉にしばし沈黙していたエミリアだったが、小さく呟きながら深々と頭を下げる。対戦中だというのに平気で見せる隙に……対戦相手も思わずあんぐりと口を開けた。
「参りますっ!」
そうして一層大きな声で自分にも喝を入れた。
矢をつがえ大きく弦を引くと……対戦相手の脳天目がけて矢を放つ……
「わわっ!」
高速の矢は一直線に油断していた対戦相手に向かってきたため避けるいとまもなく、槍代わりの棒を使って掃い落とす……が、次々と連射で正確に頭部を狙って矢が飛んでくる。
「ペルっ、左足っ、噛めっ!アルっ、頭、噛めっ!」「がああっ!」「があっ!」
エミリアが矢を連射しながら叫ぶと二頭の相棒が対戦相手の左足と頭部に襲い掛かる。
「わあああっ……」
これには堪らず相手はその場に転がり、なす術なくのたうち回り、
「止めっ!」
エミリアの号令で二頭は攻撃を取りやめた。
「一本っ!」
審判が右手を上げ、エミリアにようやく一本が入った。
「戻れっ!」
エミリアの下へと二頭が駆け足で戻っていく。
「では三本目、開始っ」
審判の号令と共に槍使いがダッシュでエミリアの下へと駆け込んできた……エミリアは矢継ぎ早に矢を射かけるが、長い棒を使って掃いながら速度は落とさない。
「アルっ、右足っ、噛めっ!ペルっ、左足っ、噛めっ!」
すぐさま相棒へと指示を出すが、今度は槍使いが魔道具を左手で操作をして視線を動かさずに両脇へと火弾を連射……アルルもぺリルも足を止められ近づけない。
エミリアはさらに矢を射かけるが……胴巻きだけではなく頭部も足元にも狙いを変えるが、右手だけで操る棒で掃い落としなおも突っ込んできた……両者の間合いが五間ほどに達した時……エミリアの胸にぶら下がっている魔道具から火弾が発せられ、対戦相手の胴巻き中央に当たった……。
「一本っ、それまでっ!」
審判が右手を上げた。
「何とか勝てたな……。」
すぐに巧がエミリアのところへ駆けよっていく。
「はいっ……巧さんの激励のおかげですっ!」
エミリアがようやく笑顔を見せた。
「俺は別に何もしてはいない。エミリアの実力が相手より勝っていただけだ。だがその実力も……変な考えにとらわれていたら発揮できずに窮地に追いやられることはよくわかっただろ?」
「はあ……ですが……相手の方に怪我なく済んでよかったです。」
「だから……それが相手を舐めているという事なんだ!相手に失礼だろ?」
「そんな……相手の方を侮辱するような態度をとった覚えはありませんけど!」
巧の言葉にエミリアが強く反発する。
「例えばだなあ……エミリアが近所の中学生の冒険者志望の子に弓を教えてくれとせがまれたとする。柔軟体操や体力増進のための走り込みなどじっくりやらせてから弓の扱い方の基礎から教え……やがて実践の模擬訓練などが始まる。
その時に相手の子供が全身隙だらけだったとしても、エミリアは決して攻撃しないだろ?せいぜい……足首のところに木の板でも巻き付けて置いて……そこだったら多少狙いがずれても大きな怪我なんてしないだろうから……相手はエミリアの全身何処でも当てられたら一本で、エミリアは子供の足首だけが一本だ。そんな訓練をするとする……。」
「私だったら子供に細くて長い棒を刺した帽子をかぶらせて、その棒の先に的を付けてそこを射抜いたら一本にしますけれどね……子供で背が低いから狙いづらいのとか理由を付けて……そんな高い位置なら相手が予期せぬ動きをして狙いがずれても安全ですから。」
「ああそうか……だったらそれでも構わんが、それと先程のエミリアの戦い方とどこが違う?」
「あっ……!」
巧に指摘されエミリアは絶句……
「怪我の心配までしていたが、上級冒険者なのだからエミリアの攻撃なんかぎりぎりで躱して……無理でも急所は絶対に外すから大きな怪我なんてしないのさ。それを変に想いやっているようなふりをして……相手を自分より遥か格下の小物だと馬鹿にしているのと同じことなんだぞ!」
「ええっ?そっ……そうでしたか?」
「お話し中申し訳ありませんが、次の対戦が始まりますので……」
「おおっ、申し訳ない。だが戦術面の作戦を教えていた訳じゃあないぞ。模擬戦でのエミリアの態度がよろしくないからたしなめていただけだ。」
「それはお二人の会話をお聞きしていてわかっておりますが……次の対戦が控えておりますのでお戻りください。」
巧がエミリアを叱咤していたら審査員がやってきて次の対戦開始を告げ、巧はすごすごと廊下へと出ていった。
「それでは本日の特級昇給試験、最終模擬戦となります。こちらの模擬戦場では四枠の剣士と七枠の槍使いの受験者が、反対側では三枠の弓使いと六枠の剣士の受験者の対戦となります。何度も申し上げておりますが、魔道具での攻撃の際は結界を施した防具以外の部位は狙わないようにしてください。
最終戦となりますので対戦が終わった受験者全員の観戦が可能となりますが、同じチームの受験者に声をかける程度の激励は構いませんけど、戦術の助言及び対戦相手の弱点を教えたり作戦を予想しての助言等一切禁止です。
破った場合は声掛けを行った受験者と、かけられた受験者双方が失格となる場合も御座いますのでご注意願います。それでは……お願いいたします。」
いよいよエミリアの最終模擬戦が始まる……。




