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特級昇級試験

13.特級昇級試験

「一度に八人までは実技試験を受けられますが、今回は六人なので両端の枠は使わずに六枠のお好きなところにそれぞれ一人ずつ入って下さい。魔道具試験は炎、水、風、雷、土の五つの魔道具を使用していただき、標的に当てて頂きます。


 標的は一番奥にある的ではなく、それぞれが入った枠内の何処かの距離に突然現れますので、現れてから発射してください。その際の最初に的を当てた方が三点で次が二点、三人目が一点で四人目は減点一、五人目は減点二で最期の方は減点三となります。それぞれの特性で合計五回試験を行い、最終的に零点か減点の場合模擬戦で魔道具は使用できません。


 速く撃てても的に当たらなければ減点三で、その場合は最後に的に当てた人は減点二となります。二名以上的に当たらなかった場合もそれぞれ減点三ですが、その際は最後に的に当てた人は減点一か上の評点となります。


 まずは当てねばなりません……撃てるのは一発だけで、一番弱い効果としてください。巨大な火炎を発射して小さな標的を射抜いても費用対効果がありませんからね。的の中心を必ずしも当てる必要性は御座いません。掠った程度でも的にダメージを与えられていれば当たったと判断いたします。


 また……的が上がる前は魔道具の操作ボタンに手を触れてはいけません。的が上がった瞬間から発射して当たるまでの順位を競います。同着はありです。一位が二人いれば次に当てた人は三位となります。


 では二枠から七枠までお好きな場所に各自入って下さい。」

 審査員に促され、巧が二枠にエミリアが三枠へと歩いていく。


「いいか……近くに水源はなさそうだから水弾は発射するまでに水の調達に時間がかかるはずだ。特に水弾の時は的が上がる前から発射できるよう魔力を溜めて置けよ……火弾でも岩弾でも雷撃もそうか……魔力は溜めて置いたほうがいい。」


「えっ?それは反則ではありませんか?的が上がるまで魔道具を扱ってはいけないのですよ。」

「発射ボタンに手を触れてはいけないというだけだ……俺たちは別に発射ボタンを押す必要性はないだろ?反則でもなんでもないさ。」

 エミリアの指摘に巧は平然と答える。


「でっ……ですが……。」

 それでもエミリアは眉を寄せ首をかしげながらついていく……。



「いいですか?まずは炎の玉を的に当ててください。的が上がるまで魔道具から手を放しておいてくださいね。では……。」


 少し間があって突然十間ほど先に白い円形の板に黒い丸と黒点が描かれた的が現れ、一斉に火弾が各ゲージ内で発射された。


「一着二枠三点。二着四枠、五枠同着二点。四着三枠減点一、五着六枠、七枠同着減点二。」

 巧が一着で三点とり、エミリアは四着で一点減点となった。


「すいませんっ……突然腹痛が……今にも出そうですっ!」「俺もっ!朝食べた弁当が悪かったかも……!」

 すぐ様五枠と六枠の二人が手を挙げてトイレへ駆けて行った。


「特級試験ということで緊張しているのでしょうかね……自然現象ですから仕方がありませんが、これ以上続くようなら試験態度への評価点も検討する必要性がありますね。」

 振り向くと審査員は眉を寄せ唇をかみしめ、厳しい表情をしているようだ。


「どうやら先に厠へ行った奴らは魔道具の試射を行っていたようだな。初弾が最も発射までに時間がかかり、次弾充填は自動的に行われるからな……次に撃つときはすぐに発射可能だ。それに気が付いて五枠と六枠の奴らも恐らく試射をしに行ったのだろう……さすがに特級試験を受けるだけあって、誰一人的を外す奴なんていやしない。速さ勝負だからな。


 エミリアも……次はちゃんと弾込めしておけよ。」

 巧が今一度エミリアに促す。


「でっ……ですが……。」

 それでも性格が許さないのか、エミリアは首を横に振るだけだ。



「それでは二名厠から戻って来ましたので、次は水弾の試験ですっ、はじめっ!」


 しばらくして的が上がり高速の水の玉がそれぞれ的に向かって発射された。


「一着二枠三点合計六点、二着六枠、七枠同着二点合計零点、四着四枠、五枠同着減点一点合計一点、六着三枠減点三点合計減点四。以上となりました。早くも大幅減点をとったものが出ておりますが、次回以降頑張ってください。」

 審査員が現在までの合計点を含めて発表して最下位のエミリアを激励する。


「先ほど厠へ向かった二名は充填したばかりだったから、その分早めに発射できたようだな……だがこのままではまずいぞ。エミリア……魔道具使えなくてもいいのか?」

 巧が必死にエミリアを促す。


「では次は……風魔法の場合は吹き流しが的の代わりに上がりますので、なびかせてください。はじめっ!」


 しばらくしてから今度は長い棒の先に吹き流しが付けられた的が上がったので、各自それに向かって風魔法を発射。


「一着二枠三点合計九点、二着六枠、七枠同着二点合計二点、四着三枠減点一合計減点五、五着四枠、五枠同着減点二合計減点一。依然として大幅減点の方がいらっしゃいます。頑張ってください。」

 審査員がもう一度エミリアを励ました。


「ダメだな……実技は後二回だから両方ともに一着をとるしかない。こりゃあ……あきらめだな……。」

 さすがの巧もさじを投げた様子……


「分かりました……少々反則のようにも感じますが……的が上がる前から弾込めを致します。」

「ああ……頑張れよ……。」

「それでは……はじめっ!」


 しばらくしてから的が上がり、岩弾が的に向かって一斉に発射された。


「一着三枠三点合計減点二、二着四枠、五枠同着二点合計一点、四着六枠、七枠同着減点一合計一点、六着二枠減点三合計六点。減点の方と一点だけの方は次回頑張らないと魔道具が使えない場合があり得ます。頑張りましょう」

 審査員がエミリア達ぎりぎりの受験者に対し喝を入れた。


「では最後の実技……はじめっ!」


 しばらくして的が上がりそれぞれの的に雷撃が発せられた。


「一着三枠三点合計一点、二着は……四枠、五枠、六枠、七枠同着二点合計三点、六着二枠減点三合計三点。

 以上……補助武器である魔道具の扱いに関しても大差なく、全員が模擬戦闘に使用可能となりました。


 引き続きまして各自主たる武器の実技試験に移ります。では武道場と射撃場へそれぞれお移りください。」


「申し訳ありませんでした……本当だったら巧さんは断然一位の成績のはずだったのに……私のために……。」


「いやいや……実技試験など通ればいいのさ。一位で通過する必要性などさらさらないどころか、下手にいい成績を上げておくと模擬戦の時に警戒されるからな。どのみち合格点まで取ったら手を抜くつもりだった。だから……構わないよ。」


 恐縮至極で首がなくなるほど引っ込め縮こまって歩くエミリアに、巧は明るい笑顔で答えた……審査員に促され巧が廊下の先の武道場へと向かう……エミリア達の弓の射撃場は武道場手前にあった。



 武道場は大きな板の間の道場で、中央付近に四体の成人男性ほどもある大きな藁人形が立っていた。


「では皆さんは普段ご使用の剣及び槍を使い、木偶……藁で作られた木偶人形を斬りつけて頂きます。藁とはいっても芯には竹を使っておりますので、綺麗に振り切らねば斬り落とせませんし貫くことも出来ません。


 指示されたとおりの部位に剣と槍を振るってください。審査官は特級の剣士と槍使いが務めます。では各自……木偶の正面へ向かってください。」

 審査員に指示されるがままに巧は一番右端の藁人形の前に立ち剣を抜き身構える。


「でははじめっ……首っ!」

 指示通りに一閃……藁人形の首部分を刎ねる。


「左肩っ!」

 今度は向かって右側の肩口から斬り落とす。


「右肩っ!」

 今度は向かって左側の肩口から斬り落とした。


「腹を一突き!」

 藁人形の腹部分を剣で一突き。



 一方エミリアが通された弓道場では……


「二つに仕切られた射的場のそれぞれ十間、二十間、三十間の位置に的が一つずつ置かれておりますから、指定された的を矢で射ぬいてください。試射はありません。一つの的に放てる矢は一本ずつのみです。よろしいですか?」

 エミリアは左側の枠内に入って弓を持ち矢をつがえ構えた。


「でははじめっ、二十間っ!」

 真ん中の距離の的の中央をエミリアは射抜いた。


「十間っ!」

 今度は手前の的の中央を射抜いた。


「三十間っ!」

 一番遠い的へ照準を合わせようとしたらなんとこれが横へ動いているではないか……しかも不規則に右左右右左右左左と……予測しづらい動きを見せている……恐らく一本の竹竿に二つの的を付け横から誰かが動かしているのであろう……が、悩んでいる場合ではない……見切りをつけてエミリアは発射……中央は外したが的を射抜くことはできた。



「以上ですっ。これで実技試験は終了となります。全員実技試験は問題なく合格いたしました。

 では引き続き模擬戦闘会場へ移ります。こちらへどうぞ。」


 審査員に促されるがまま模擬戦会場へ……とはいっても廊下を戻って、先ほどの魔道具実技試験を行ったドアから外へ出ると、既に仕切っていた木枠は外され開けた草地となっていた。幅が二十間ほどで奥行きは五十間ほどはありそうだ。


 さらに振り返ると先ほどのドックランも左右を隔てていた壁が取りはずされ、壁や水郷に砂場などの障害物も撤去され芝生の広い空間へと変わっていた。


「では……先程行った魔道具試験の際の枠番でお呼びいたします。


 二枠と三枠、四枠と五枠、六枠と七枠はそれぞれ同じ冒険者チームの所属でありますから、不正防止のために模擬戦闘での対戦は御座いません。模擬戦闘はそれぞれ二戦ずつ戦って頂きますが、特級昇給受験者は人数が少ないため、様々な職種同士で対戦頂くのが基本ですが、ご期待に沿えない場合が御座いますのでご容赦ください。


 また……対戦時間には時間制限が御座います。ここにある蝋燭を灯し消えるまで……二本先勝の三本勝負ですが……消えた時点でどちらか一本でも取っていればそちらの勝利。一対一やどちらも一本もとれていない場合は引き分けとなります。


 最初の模擬戦は同時に二試合……二枠の剣士と四枠の剣士及び五枠の弓使いと六枠の剣士にて行います。全員が補助武器として魔道具を使用するようですので、模擬戦闘に先立ち結界術師の方に耐魔法結界と物理結界をそれぞれの防具に施して頂きます。


 模擬戦闘時は木刀使用及び矢じりのない木の棒だけの矢で、魔道具の種別は問いませんが最小出力で行って頂きます。獣使いの獣には防具使用は認めますが、付け爪付け牙は禁止とさせていただきます。


 三本勝負で二本先取で勝ちとなりますが、急所への一撃以外は一本となりません。一本取ったかどうかの判定は立ち合いの特級冒険者の審判が行います。では……結界術師さん……お願いいたします。」


 審査員に呼ばれて出てきたのは、禿げあがった頭に真っ白い口髭と顎髭を蓄えた老人だった。細身でローブを羽織っているがローブから出ている肘から先は、骨と皮しかないのではと思えるほど筋肉など一切感じられないほど細い。


「おやおやあんたの防具はよく使いこまれているね……手入れもきちんとされていてへこみも直され、稽古も頻繁に行っているようだ……それでもいい結界術師に巡り合えたようだな……物理結界も耐魔法結界も最高級のものが施されておる。ふうむ……このところ結構激しくやりあったようだな……その分だけ修復しておいてやろう。」


 どう見ても高齢の結界術師は巧の甲冑をしげしげと見た後、何事か呟きながら両手を至る所に翳し始めた。


「ようし……お次はあんただな……おやおや……そこそこ使い込まれたいい防具に……それでも結界はあまりいいものは施されてはいないようだな……まあいい……今日の分くらいはきちんとした結界を施しておいてやろう。」

 そうしてから今度は巧の対戦相手に移った。


「ようし……こんなもんじゃろ。ではその次のものに移ろうかの……。」

 結界術師の老人は五枠の弓使いの方へと歩いていった。



「では……お二人ずつ模擬戦場へ向かってください。また……事前に対戦相手の模擬戦を見ないように、試合のない三枠の受験者と七枠の受験者は控室へお戻り願います。先ほども申し上げましたが魔道具は最小出力で、甲冑のある部位のみを狙ってください。よろしいですね?では……向かい合ってください……。」


 通路には反対側の対戦が見えないように先ほどドッグラン障害の壁となっていた衝立が置かれ隔てられ、エミリアと体が大きな七枠の槍使いの受験者は控室へ戻っていった。


「そのままでもいいのか?」

 巧は既に甲冑の兜と面帯も付けて臨戦態勢だが、相手の剣士は甲冑の胴巻きはつけてはいるものの、兜も手甲も足帯すらつけてはいないようす……つまり胴部分以外は防具がない状態だ。


「ああ……俺は閉塞された空間が大嫌いでね……だから実戦でも兜も面帯も付けていないし、窮屈だから手甲や足帯も付けない。それでも凶暴な魔物相手に怪我せず戦えているから心配ご無用だ。」


 短髪で精悍な印象を受ける巧と同世代に見える対戦相手は、太い両腕の筋肉を隆起させながら自慢げに答えた。


「魔道具攻撃はあくまでも防具のある部分へ……と限定されているが、この場合はどうなるのだ?相手も動くからな……顔面へ火弾が当たっても……それは俺のせいではないのだろうね?」

 巧が審査員の方へ振り向いて問いかけてみる。


「はっ……はあ……初級冒険者試験などは胴巻きすら持っていない冒険者も数多くおりますし……防具に関してどれだけ揃えなければいけないといった規定は冒険者組合にはないのです。ですので……安全上ご配慮をお願いするとしか申し上げようがないのですが……。」


 審査員が何度も頭を下げながら、申し訳なさそうに仕方がないのだと答える。


「分かった……だがまあ……特級試験に出てくるほどの冒険者だ……避けると信じて本気でやるか……。」

 巧はきっぱりと大声で宣言。そうして相手とおおよそ五間ほどの間合いで正対した。


「開始っ!」

 全身甲冑に身を包んだ大柄な特級冒険者の審判が、模擬戦開始を告げる……


 構えずにゆっくりと一歩目を大股で踏み出す巧……だが次の瞬間……巧は一瞬で間合いを詰め対戦相手の目の前に出現するとそのまま左肩上から振りかぶり水平切り……木刀は対戦相手の首筋ぎりぎりで止まった……勿論対戦相手は身じろぎ一つできないありさま……


「い……一本っ!」

 審判が右手を高く上げ巧の一本先取を告げても巧は何ら反応を示さずに踵を返し、先程の立ち位置へ戻っていった。


「なっ……なんだあ?今のは……」

 四枠の対戦相手の剣士は大きく目を見開いて巧の様子をじっと見つめていたが、はっと気を取り直してこのままではまずいと感じたのか大きく後方へと下がって構えた。その距離十五間ほど……


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