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実務者会議

11.実務者会議

「分かった……ターメリア国はエミリア嬢の提案を全面的に支持する。」

 ターメリア国王はエミリアの提案に頷き支持を表明した。


「我が国も同様……エミリア嬢の提案を支持しますぞ。」

 すぐにメンドー国王も支持を表明。


「勿論我が国も同じく支持いたします。」「我が国も支持いたします。」「大変すばらしい提案と考えます。」

 さらにスーバキ国、ハリキル国に加えスムープ聖教会教皇も絶賛した。


「ボーキサイ王さまもエミリアの提案で問題はありませんか?」「勿論だ。」


「では……満場一致ということで、昨日決議されたとおりにボーキサイ国北東のハリキル国及びメンドー国三ケ国の国境地点及びボーキサイ国南西のターメリア国及びスーバキ国三ケ国の国境地点それぞれに魔物保護区を設ける事と致します。


 さらに追加で保護区に隣接して研究所を設け、魔物化現象の原因究明を行うとともに魔物の家畜化に関しても並行して研究していくことと致します。昨日も申し上げました通り今後の展開につきましては、各国代表者による実務者会議に委ねたいと考えております。これにて本日の会議は終了とさせていただきます。ご出席有難う御座いました。


 それでは昨晩は中断といった形にはなりましたが、今宵こそはと当ホールにて二刻後から晩さん会を開催いたしますので、ご家族連れでふるってご参加願います。それでは一旦これにて……失礼させて頂きます。」

 シュタインベック公爵が閉会の挨拶を行い二日目の会議も終了した。



「結局ダンスからは逃れられないようですね……。」


「ああ……そうだな……だがエミリアはまだいいぞ……各国王とのダンスを行ったとは言っても、皆途中退席だっただろ?俺は騒動が収まった後も引き上げようとしないご婦人方のためにオーケストラが演奏をやめようとしなかったから、結局一刻は丸々ダンスに付き合わされたぞ。それなのにまた今日もかと思うと……本当に気が重い……。


 それよりもエミリア……今日の会議での受け答えもそうだったが……どうにも自分の考えに自信を持てないというか……実力と己の評価が見合っていない様な気がするぞ。」


「えっ?どういうことですか?」


「エミリアの発案の魔物化の根本原因を探るということだが……遥か昔……魔物化現象が発生した当初はもしかすると研究もされたのかもしれないが、実際のところ魔物化の仕組みについて何ら研究記録など残ってはいないのだろ?


 それはつまるところエミリアが言っていた通りにとっかかりすら掴めない様な、暗中模索的な事なのかもしれないが、それでも俺はエミリアからその話を打ち明けられた時にどうして考えつかなかったのかと自分を疑ったぞ。


 恐らくターメリア国王様はじめ、各国王様及び元首様や教皇様だって同じだったと俺は考えている。

 もっと自分の考えに自信を持って……会議の最中もおどおどせずはっきりと応対するべきと俺は思う。」


「えーっ……ですが……あまりに荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいとすら思えるような……。」


「それでも俺には自分の考えを打ち明けてくれただろ?そうして難しい議題だから誰も名案を出せないでいるなら自分の考えを示してみようとも考えていたのだろ?確かにエミリアの中で自己完結してしまっていて……出口のない難題だから提案してもかなわないと判断したのだろうが……拙案だろうが妙案だろうが言ってみてもいいのだと俺は思っている。


 たとえその案に現実味がなくてもそこから話を膨らまして展開できるかもしれないしね……結局はターメリア国王様の提案とエミリアの提案が合体した形に落ち着いた。」


「えーっ……ですが……それはあくまでもターメリア王さまの理解力あってのことでして……。」


「うーん……どうにもエミリアは自分に自信がなさすぎるようだな……まあ普段はそれでもいいのだが、こと冒険者家業の……魔物や魔族との戦いにおいてそれはいい方向には向かないと俺は思うぞ。自信なくびくびくしていたら必然的に体の筋肉は緊張で固くなり、関節部には力が入り瞬時の状況変化に対応できなくなる。


 自分の実力以上に過大評価をして魔族とか強敵でもなんでも突進して行けと言っているのではない……当然ながら相手の力量と自分の力と技と残っている体力……これらを総合的に判断してどう戦うのか見定めないと命とりだ。


 敵わないと判断したからと言って、遮二無二逃げたらいいというものでもないからな……逃げるにしても逃げ方を上手にできなければ追いつかれて結局はやられてしまう。


 エミリアはパステルが言っていたように、十分特級への昇級試験を受けられるくらいに上達しているのだろうと俺は思っているぞ。ボーグルだってエミリアを推薦してくれたというのだからな……皆その実力を買っている。


 なのに自信なさげで中級試験から受けると言い出すし……もっと自分に自信を持った方がいいぞ。


 度胸が足りないと思うのだが……そうだ……苦手なダンスなのにさらに国賓のお相手をするという二重苦だが……これも昇級試験の為の度胸付けと考えて……ダンスの最中に一回は相手の足をヒールで踏んづけてみるというのはどうだ?


 勿論わざとらしくはだめだ……足がもつれたふりをして……ああっ……ごめんなさい、私ったらドジだから……って感じで謝るんだ……どうだ?


 俺なんて前回のダンスの時からわざと下手なふり……いや、そうでなくても下手ではあるが……それでもわざと足を絡ませてお相手をよろけさせる事を何回かしていた……あまりにへたくそだと相手が敬遠するのではないかと考えてな。


 ところがへたくそと分かると私がしっかりと教えてあげるわって……親切なご婦人方はより一層俺をダンスの特訓から解放してくれなくなると分かり取りやめはしたのだが……エミリアの場合は相手が国王様でお忙しいからさすがにそこまではやらないだろう。国王様ともなると各国の要人のご令嬢ともダンスをしなければならないだろうからな。


 度胸付けのために……やってみたらどうかな?」

 巧の口から恐ろしい提案が発せられた……しかも真顔で……


「ええっ……そ……そんな……失礼な事……とても……」

「いいのか?昇級試験……落ちても……?」

「それは困りますけれど……。」

 エミリアは少しうつむき気味に黙考し始める。


「ぜっ……各国王様全ての足を踏んだらさすがにばれて……怒られてしまいますから……そうですね……一番難しそうな、ターメリア国王様で……試してみます。


 それでもさすがにいの一番に申し込みに来るはずですから……その時に痛い思いをさせるのは気の毒で……その後も各国要人のご令嬢とダンスをなさるでしょうから……二回り目でもし誘われたなら……やってみようかなと思います。

 わざとらしくなくできるかどうか……全く自信はありませんけど……。」


「おおっ……いいいい……実際に実行できなくてもいいんだ……何事もやってみようという姿勢が大事なのだからな。


 やろうとしてみて足を踏んづけようとしたけれどうまい事避けられてしまった……とかでも十分さ。足を踏んづけることが目的ではない、度胸を付けることが目的なのだからな。」


「はいっ……分かりました。」

 エミリアは気合を込め着替えてからホールへ向かった。



 このあと……ダンスホール中にターメリア王の絶叫が響いたのは言うまでもない……



「魔物の為の保護区と魔物化研究所を設立するための実務者会議が今月末はターメリア国主催で、再来月末はメンドー国主催で行われる。巧殿とエミリアは我が国代表としてターメリア国主催の会議に出席してくれないか?

 勿論外務大臣のシュトラセン子爵も同行するから安心してくれ。」


 魔物と魔族への今後の対応を検討する国際会議が終わり、各国からの来賓たちが帰国して喧騒が収まったころ、エミリアの父であるシュタインベック公爵が二人の宿泊する宿舎へやって来た。


「ええっ?私と巧さんがボーキサイ国代表として出席するのですか?ですが……魔物化に関する学術研究を行うわけですから、学者様が出席なさるべきではありませんか?しかも再来月末と二回もなんて……。」

 エミリアは眉を寄せ顔をしかめ、学者が出席するべきと速攻で断った。


「いや……それがな……どうせエミリアが会議の席上で説明したとおりに、魔物化に至る原因をつかもうとすることはつかみどころのない非常に難しい研究なのじゃろ?成果の期待できない研究を任せられても困ると……緊縮財政の折ボーキサイ国では国立大学の教授や助教授など研究者が研究費に苦慮して国外への流出が相次ぎ、ほとんど残ってはおらん。


 今では大学の教鞭をとるのもギリギリなほどでな……細菌学もウイルス学も寄生虫学も……すべての分野で研究者から講義があるので対応できないと出席を断られてしまった。


 研究者として研究所に通って欲しいと言っているのではない……どの程度の規模から始めるのかとか、どのような工事が必要なのかとか予算はいくらくらいと見積もるかとかどの分野の学者が何人必要だろうかとか……保護区と研究所設立に当たっての基礎となる項目について話し合ってもらいたいのじゃ。


 勿論金網柵や研究所などの建築費など詳細に関しては建築士にお願いするから、必要なことは保護区の規模と研究所の仕様及び必要な人材じゃな……研究に当たって保護区から魔物を連れてこなければならないのであれば、冒険者に常駐して頂く必要性もあるじゃろ?そう言った事じゃな……。


 メンドー国主催の会議に関しては北部山脈の一部を使用することになるだろうし……ケンリッヒ侯爵たちのチームに出席して頂こうと日程を調整した。だから……出席はターメリア国主催の会議だけでよい。


 申し訳ないが……お願いする。」

 シュタインベック公爵は唇をかみしめながら、申し訳なさそうに頭を下げた。


「そんな……父様のせいではないですから……分かりました。私は出席いたします。巧さんは如何ですか?」

「うん?俺は出席で構わんよ。どうせ……冒険者活動も王都内では仕事がなさそうで暇を持て余していることだしな……。」


「そうでしたね……ウエストリバーもイーストリバーも魔物の駆除依頼の仕事……今年は両端部分の方が取り合いですぐに埋まったんでしたね。」


「ああ……両端部分だけは一度に引き受けられる区画制限を俺たちの時同様取りやめたからな……さすがに百区画なんてのはいなかったようだが、それでも初級の上の方や中級冒険者らがこぞって十区画とか二十区画を一度に引き受けたようだからな……一区画の報奨金が銀貨二枚だから十区画で銀貨二十枚となるとそこそこな収入だ。


 仕事の依頼を掲示してからわずか二日で端の区画は埋まったと言っていたから大変な人気ぶりだ。中央部分は相変わらず二区画までのようだがそれでも移動距離が短いのと初級者向けだから人気があるわな。


 おかげでエラルミント商会が請け負ったふりだけして工事をしていなかった北端と南端の鉄格子柵取り換え工事も魔物におびえることなく無事に終了したと言っていたな……まあ喜ばしい事だから文句は言えん。


 そうだ……今月末だとまだ余裕があるから行きは徒歩で向かい、途中途中の街道筋の町で仕事がないか確かめながら行くとするか……。」

 巧は冒険者活動をしながら行くと、うれしそうに表情を崩しながら答えた。


「いやいやいや……知っている通りにターメリア国王様は非常に厳格で、自分に対してもだが人に対しても規律などに厳しいお方じゃ。会議出席に当たっては最低でも四半刻は前に会議室に到着して準備するのが当たり前で……刻限に遅れるなどはもってのほかというお方じゃ。


 ましてや道中冒険者活動をこなしながらなどとは到底遅刻の理由にはならん……途中嵐に遭遇したり川の増水及び不慮の事故などに出くわしたりで遅れる場合は決してないとは言えん……その場合、運河を航行する公共の船が遅れたのであればいい訳もできるだろうが、それ以外は無理じゃ……お願いだから行きだけは馬車と船を使っておくれ。」


 シュタインベック公爵は巧の前に跪き拝むかの如く両手を合わせた。


「ああっ……わっ……分かりました。絶対に遅れぬよう、馬車と船を使いますから……立ち上がって下さい。」

 巧はすっかり恐縮して公爵の脇を掴んで立ち上がらせた。


「おおっ……そうか……悪いが……お願いするよ。」

 公爵の表情がずっと明るくなり、巧もほっとした。


「では帰りにでも……魔物を駆逐しながら……。」

「帰りは無理ですよ……すぐに帰らないと、冒険者昇級試験が受けられなくなってしまいます。」


「ああっ……そうか……ふうむ……だが困ったな……島での携帯食用の肉などの調達が……。」


「おおっ……島での食糧に関しては今回も国王様から王宮食糧庫から必要なだけ持って行ってよいとの許可を頂いておるぞ。だから……そちらは心配しなくてもよい。それでは頼んだぞ……ではな……。」

 公爵は忙しそうに早足で宿舎を後にした。



 それからの二週間、巧もエミリアも王宮の食糧庫から米や小麦に肉類及び野菜類をもらい受け、煎り米や乾パン、干し肉に乾燥野菜と携帯食の作成と、二人と二匹だけの模擬戦闘に明け暮れた。



「えー……それでは、ここターメリア南東の町ターメに置いて、スーバキ国との国境を隔てる山脈に予定されている魔物保護区及び魔物化現象研究所設立に伴う実務者会議を開催いたします。」

 会議主催国であるターメリア国外務大臣が、実務者会議開催を宣言した。


 巧たちはボーキサイ王都から大型馬車にてフーセンまで行き、運河を西へ航行したのちボキタメ川を南下……ボキタメ川は南部山脈到達時に二股に分かれるので、ターメリア側へ舵をとりターメリアの国境の町ターメへ到着した。


「まずは大陸内に二ケ所魔物及び魔族保護区を設置することになった経緯を、発案国であるターメリアとボーキサイ国の代表者からご説明願います。


 まずはターメリア側からの提案の骨子は私ターメリア国外務大臣ハルフェスからご説明させて頂きます。…………」

 ターメリア国外務大臣はいつも通りに仕立ての良いスーツに身を包み人懐っこい笑顔を時折交えながら、自国国王提案の保護区設立に関して今回は意義も含め説明した。


「それでは魔物化現象解明のための研究所設立に関しまして、ボーキサイ国代表のエミリア男爵……ご説明願います。」


 外務大臣ハルフェスが今度はエミリアを指名して来た。そういえば外務大臣の名前を教えられたのも今回が初めてであり、更に過分な褒賞ともいえる男爵位を自分が与えられていたということにも、この場でようやくエミリアは認識した。


 確かに……外務大臣との最初の接見はボーキサイ国の危機ともいえる一触即発の状態で、ボーキ海水位低下問題に関してボーキサイ国の主張をターメリア王に説明に伺った際、謁見を断られはしたが外務大臣が個人の判断で会って話を聞いてくれたのだった。


 その為自己紹介など全くなしでいきなり本題へ入ったのだったが、そういえば互いに自己紹介などその後も一切なかったことを今更ながらに気づき苦笑した。



「えー……かように魔物化に至る仕組みは原因も発症時期すらも全く分かっておりません。ですが魔物化を押さえることが出来れば大きな進展となり得ます。早急に研究機関を設立し、各方面の学者様たちに集まっていただいて研究して頂く必要性があると考えている次第です。


 また……原因系追求だけではなく、魔物の家畜化への研究……牛系、馬系、羊系、ヤギ系および鶏系など……家畜として飼われている動物が魔物化した場合、凶暴化してとても人間の手に負えなくなりますが、餌付けなどで凶暴化を押さえ家畜として扱えるかどうかの対処療法的な研究も並行して行う必要性を感じております。」


 エミリアが魔物研究に関する骨子を説明した。


「では引き続きまして……保護区の規模に関しまして……南西部山脈のターメリア側は低山が多く、高山と低山の境が国境となっているため、ターメリア側に保護区に必要とされる平野部を提供したいと考えております。


 幅四里山脈に沿って長さ六百里……合計二千四百町歩の広さの平野部を提供する予定です。


 勿論高さ二十尺ほどの金網柵を平野部境界に設置する予定ですが、ボキタメ川はターメリアとボーキサイ国国境を流れターメ付近で分岐しターメリア側は山脈に沿い外海へ流れ、ボーキサイ国側も山脈に沿ってボーキ海へと通じております。


 分岐後もターメリア側は依然大河であり魔物も渡るのが簡単ではないと考え、柵外へ流域変更工事を行うつもりでおります。勿論保護区内となる現状流域にも魔物達の水源として、一定量の水量は確保するつもりです。


 また魔物研究所もターメ近郊の保護区の外に隣接して設立予定です。」

 引き続きハルフェスがターメリア側の保護区と研究所設立に関して報告。


「ほう……大河の流域変更工事を行い更に平野部に広大な保護区を提供するとは……さすがターメリア国王様直々の発案だけに、かなりやる気が出ているな。」

 巧がハルフェスの発言を聞きながらエミリアにこっそり耳打ちをした。


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