千年前の真実
3.千年前の真実
「そそっ……それは……里へ降りてきた魔物に下手に餌を与えるなと学校等で教わっていて……里へ降りていけば簡単に餌が貰えると学習した魔物は山を散策して餌を求めなくなり、今度は仲間を連れて餌を貰いに里へ降りてくるようになるからです。山に木の実など豊富にあっても里へ降りて簡単に食事にありつけば……今度は山へも帰らなくなります。
そのうちに里の周辺は魔物だらけになり……今度は人間が食べる食事を欠くことになり兼ねません。餌を与えなくなると勝手に田畑を荒らし、人に危害を加えるようになる魔物とは共存が難しいので最終的には駆除せざるを得なくなります。」
エミリアが何とか知恵を絞り問いかけに対する答えを導き出す。
「つまり……魔物の命など……どうでもいいのだろ?自分たちが一番で……他の命を軽んじている……つまりは人間がこの世界の支配者だと……そう考えている証だ。」
ヘルムがバッサリと斬り捨てた。
「いえ……私は人間ですから……当たり前ですが人間の立場で……人間が一番に考えます。
ヘルムさんは魔族ですから……魔族の立場で魔族を一番に考えるのは仕方がない事ではないでしょうか?」
それでもエミリアは食らいつく……
「ふふんっ……魔族に対しいちいちさん付けするとは……大したお嬢さんだ。」
「前回お会いしましたが戦いも終盤で……名乗っていませんでしたね。私はエミリア……こちらは巧さんです。」
エミリアが自己紹介し、次いで巧も紹介した
「おおっ……巧?……ふうむ……まあよかろう、話の続きだ。
お前たちは魔物は危険だというが……魔物に……人間を襲うなとか山に食べ物が豊富なうちは山で食事し、食べ物が無くなってから初めて里へ降りてこいなどと……基本的なことを教え込んだか?その上で……共生のための心得を破ったからやむを得ず駆除しようとしているか?どうだ?」
ヘルムは巧に対して一瞬反応したが、すぐに話題を戻した。
「それは……魔物とは言葉が通じませんから、何度も言い聞かせて躾けろという事でしょうか?山に潜む魔物全てを躾けろと……そんなこと到底不可能です。そもそも犬猫と違い……躾けられるかどうかも……。」
「だが俺たちはそうしているぞ……人間社会を追われたということもあるがな……俺たち魔族は魔物達と共に棲み、魔物達がむやみに人里へ降りていかぬよう教育するし、田畑を耕し豊富な作物で魔物達を飢えさせないようにしている。
俺たちの目標は共生だ……この世界の全ての生き物らによる共生……勿論食物連鎖があるから、食べられる側と食べる側は存在するがね……それでも無闇やたらな殺生は禁じ可能な限り一緒に歩んで行きたいと考えている。
当然ながらその生き物たちの中には人間だって含まれていて……人間と魔物達との共生を我々は望んでいる。
そもそも人間の中にだって人を騙して金品を奪ったり、人を傷つけたり殺してしまうやつだっているだろう?そいつらは法によって裁かれ牢屋に入れられたりするのに、どうして魔物や俺たち魔族が同じことをした場合は駆除されるのだ?
もともと人族として人間社会の中で生きていた魔族だったが……人間と袂を分かって魔物側についたように言われているようだが……実際に分かれたのは人間たちの方だからな。増え続ける人間たちが住みやすい平野部を独占し、魔物達を遠くへ遠くへと追いやりやがて山奥にしか住めないようになったのは人間たちのせいだ。
その横暴ぶりがさすがに目に余り……魔物達の権利を唱え始めたのが魔王だった。元々魔物などと言った生き物は存在せず、増え続け地上を席巻しつつある人族に対抗するため地上の生き物たちが互いに協力し合うように手を結んだ集合体……それが魔物なのだとな。人族も魔物の仲間になって獣らと共存生活を始めるべきと唱えたのだ。
そうして世界は二分された……当時はそれでも魔王と意見が合わない魔族も多くて、約半数は人間や亜人たちと共に生きることを決めた為、魔王側は強く争わずひっそりと山奥で生活することを決めた。
どうだ……お前たちの歴史には正確に当時のいきさつは伝わっておるか?まあ……魔王に関する詳細を当時は書き記そうとすれば紙片だと燃え尽きてしまったからな……口伝だとうまく伝わってはおらぬか。」
ヘルムはここで侯爵らの顔を順に見まわしたが、誰も反論しようとするものはいなかった。
「それから人間たちの横暴はどんどん加速していった……平地の大半は耕作地か宅地に、山は木材採集のために伐採され植林され……そうして国有地若しくは誰か個人の私有地……つまり人間らが勝手に所有権を主張し始めた。
そうして魔王を支持する派閥が人間たちと袂を分かってから十年ほど経ったのち……それ迄人間社会の中で魔道具制作や魔力供給などに貢献し共同生活していた魔族らが突然各地の王宮へ呼び出され晩さん会が催された。
だがそれは人間らの謀略でな……魔族らの中でも魔力が強く腕っぷしも強い有力魔族らは全員食事に毒を盛られ、仮死状態にさせられてから首を刎ねられ別々の地に埋められた。なんと世界中で数万もの魔族の首が刎ねられたのだ。
さらに残った数万のまだ若い魔族らを人質として……ボーキサイ国内に潜伏していた魔王を呼び出した。出頭しなければ捕らえた魔族全員殺すと脅してな……俺たちは必死に止めたが魔王はたった一人で出頭し、勇者ら含めた百人以上の冒険者らに取り囲まれて無抵抗のまま首を刎ねられた。
魔王の人間たちを恨む気持ちは如何程だったか……分かるだろ?魔王の体は燃やすことも出来ず埋めても腐ることなく、不安に思った勇者は金の壺に体の部位ごとを納めこの地へ封印したということだ。
そうして……生かされた魔族らは世界中の冒険者組合の強固な牢獄に繋がれ、食事と引き換えに魔力供給のために協力することを強制させられたというわけだ……当初はまだ牢と言っても魔族であれば破壊が可能で……協力するふりをして機会を待っていた者もおったようだが、そのうちに結界術とやらで魔族の力でも破ることが叶わない堅固な牢へと変わっていった。
そうなると……魔王の最期を聞いた魔族らの大半が食事を拒否し、長く辛い飢餓を耐えて死を選んだ。
どうだ……お前たちに伝わっている魔王の逸話と同じだったか?仮に書面で残せたとしてもこんな人間側に都合の悪い黒歴史は決して記録されてはいないだろう……いいように改ざんされているはずだが口伝だともっとすごいだろうな。」
ヘルムはもう一度侯爵らの反応を確かめるがごとく、順に顔を見回していった。
「さすがに残った俺たち魔族の戦力でこの大陸内だけでも数千万人はいる人間らと戦えるとは思ってやしない……魔物らが加わるといっても武器が持てるわけではなく、魔法が使えるようになるまで成長するには年月がかかりすぎ、数十年も長生きの魔物なんて早々出ることはないからな……全体として大きな戦力にはなりそうもない。
魔王のことだってすっかり諦めていたさ……さすがに首を刎ねられて身体を切り刻まれてから千年も経過しているんだ……だが魔王の羊皮紙のことは知っていたから俺たちはずっと探していた。せめてもの魔王との思い出の品としてだ。
ところがいざ羊皮紙を手に入れて見ると……羊皮紙に描かれていた地図が書き足され……つまり魔王の思念はまだ途絶えてはいない……完全には死んでおらず……生き返る可能性があると分かった。
そうして地図の特徴を辿り……ボーキ海に隠したということは当時の人間たちの動きの中でそれとなく察してはいたからな……本日ようやくこの場所へ到達したということだ。
どうだ……魔王が気の毒だと少しでも感じているなら……このまま見逃してくれないか?俺たちは無益な争いは最初から望んではいない。凶悪なのは俺たちに言わせれば人間たちの方だ。だまし討ちや人質をとるなんて卑劣なことを平気で行った。魔王の体を取り戻せたとしても魔王が元通りに復活するとは思えないし、さほど危険性はないはずだろ?」
ヘルムはそうしてじっとエミリアと視線を合わせた。
「えっ?でっ……でも……。」
「騙されるなエミリア……こいつらは千年以上も生きているが俺たちは千年前のことなど一切知らない。こいつらが都合よく言い繕っていたとしても何ら反論できないのをいいことに、俺たちを動揺させているだけだ。
万一言っていることが真実だとしたなら尚更魔王の体を渡すことなどできるはずないだろ?復活した魔王は人間社会へ報復に走るに決まっている。お前たちは今日この場で滅びる……魔王の体は渡さない!」
すぐさま巧が割って入った。
「そうだ……俺たちは千年前にその場に居合わせたが、百年も生きられないお前たち人間の中でそのことを知っている奴など一人もいない……自分たちに都合の悪いことは隠そうとしただろうからな。だがその証拠に……勇者が魔王を呼び出した時の全国版の新聞広告を俺は大切に保管してあるぞ……魔王一人だけで来いとしっかり書いてある。
見たいなら見せてやる……ほれっ!」
ヘルムはそう言うと懐から革製の長財布を取り出し、エミリアの目の前へ放り投げた。
「拾うなっ、エミリアっ!こいつの口車に乗るなっ!」
屈んで手を伸ばそうとするエミリアを巧が大声で叫び止める。
「ふんっ……人間風情が偉そうに……ヘルムが下手に出ているからって調子に乗っていると……」
ハーケンが巧を睨み付け剣の柄に手をかける。
「まあ待て……この場でこいつらとやりあったなら双方にどれだけ犠牲者が出ることか……犠牲者だけならまだいいがこいつらの中にはなかなかの魔道具の使い手が二人居ったからな……強力な魔法の打ち合いとなって魔王の体を保管している洞窟が崩れても敵わんし、こんな狭い島……破壊されて水没なんてことになったら最悪だ。
やりあうなら全員が舟で港へ戻ってから……広い場所で……だ。
どうだ……どうしてもやりあいたいというならお相手仕るが……悪いが場所を変えてくれ。」
ヘルムは今一度一本の腕を伸ばしハーケンを止めながら場所の変更を提案した。
「ダメだな……お前たちに都合が悪い場所が俺たちは好みなんだ……お強い魔族たちの力が制限されるからな。やりあうならこの場でだし……お前たちをこの場から逃がすつもりもない。」
侯爵はゆっくりと剣を鞘から引き抜いた。
「こっ……こんな小さな島……しかも周りは見渡す限り島影一つない絶海だ……島が崩れ水没でもしたら乗ってきた船も巻き込まれ沈没し……甲冑なんて重い装備を付けていたら泳ぐことも出来ず……広いボーキ海のど真ん中で……まあどうせ救助なんて期待できぬから溺れ死ぬだけだが……それでも構わぬのか?」
ヘルムが侯爵たちも死ぬつもりかと問いかける
「もとより魔族が二人と眷属が四人もいて、俺たちに勝ち目があるとは考えていない。魔族が協力し合うことなどこれまで決してなかったからな。たった一人だけの魔族相手でも辛いのに……二人も……しかも魔王直属の強者相手に互角以上にやりあえると思える程うぬぼれてはいない。若い仲間たちもいて申し訳ないが……頑張って相打ち覚悟だ。」
侯爵は相打ち覚悟と宣言。
「ふうっ……これだから人間は……自分の命を犠牲にしてまでも何かを守るなんてことを平気で言いだす……。
巧と言ったか?六年ほど前にハーケンとやりあった凄腕剣士……滅多に人間を褒めたことがないハーケンが、凄い奴とやり合い俺を真似て名乗りあったと自慢して居った……どうしてこいつを見ても何も反応しないのか不思議だが……。」
ヘルムがまじまじと巧を見つめ直す……
「そうそう……確か名は巧だった……俺は人間などさほど興味はなかったが、やりあって初めて強敵と思えた相手だったから名乗ってみた。だが……連れている相棒の女が違うし髪の色も違ったから……確かに甲冑は同じようだが俺を見ても何も反応しないし……似たような甲冑を着ている冒険者などいくらでもいるからな……勘違いと思っていたのだが……。
美玲とか言っていたな……魔道具使いの巫女だったよな。俺たちは魔王の匂いを頼りに五年間近くも羊皮紙を探し求めていたのだが……なんと巫女による天からの啓示の方がより正確だったようで……俺たちよりも先に奥深い山中の盗賊たちが利用した小さな小屋に捨てられていた羊皮紙を見つけられてしまった。
だが匂いが動けば後を追うのは簡単で……俺たちもボーキサイ国中に総動員した眷属を送り込み追い続け……それでも返り討ちに遭いそうなところをようやく俺が間に合って、二人と対峙したわけだ。
二人ともにすごい使い手で、行方を追わせていた眷属らも既に半数以上は倒されており……仕方なく眷属は下げ俺だけで相手をすることにして……あの時初めて強い人間とやりあったなあ……。
ところが状況が不利と悟ると男の方は女を逃がし死に物狂いで俺に斬りかかって来たから、配下の眷属に絶対に戦おうとはするなと指示して後を追わせ、俺は巧と名乗る剣士だけを相手にし、半日以上の死闘の末にようやく倒した。最終奥義を使って一瞬で回り込み……甲冑越しだったが背中から一刀のもとに斬り捨てたはず……。
それから女を追って王都の西側で遭遇して……この時は弓使いの女が加勢に入り……この時もまた激闘だった。巧とやりあった時の傷の回復もまだだったし……なんせ普通の魔族だったらとっくに致命傷ともいえるような深手をいくつも負わされておった……途中で若い女の生き血を啜るなんて目立つことはできなかったから体力回復は困難だった。
更にその上当時はまだ王都近郊の周辺都市には国軍の小隊が常に巡回していたからな……何とか二人を倒したが深手の上にさらに深手を負わされ……人目につく平地に長くはいられないから、魔王の匂いを頼りに美玲という女の腕を切り取り所持していた冒険者の袋を奪って急いで山へ逃げたが……冒険者の袋に羊皮紙は入っていなかった。
弓使いの女は冒険者の袋は所持してなく、しかも冒険者のバッジも付けてなかったから、相当な手練れではあったが冒険者ではなかったのであろう……そうして、まだほかにも美玲に味方する仲間がいたのであろうな……。
そこから羊皮紙の軌跡は途絶えた……あの時巧と名乗った剣士は倒した筈だから……こいつのはずはない……。
いや……そういえばあの後……王都を捜索させていた眷属の一人が髪の色は異なるが巧に似た奴を見つけたから近づき、配下に襲わせたところ返り討ちに遭いそうになり何とか逃げ帰って来た……仕方なく食事に毒を仕込んだが食べずに見抜かれたと報告してきおったな……。
そいつは毒の使い手で……人間に察知できない毒を使った筈だから無事でいられる筈もなく、一年余り何ら報告すべき進展がない為無理やりでっち上げたと思っていたが……やはり生きていたのか?
あの後どうして男の方は腕と袋を持ち帰らなかったのかとヘルムから叱られてな……そうは言っても俺だって深手を負わされ一杯一杯だったし、女の方もすぐさま追わねばならなかったから俺は女が持っていたから逃がしたのだろうと反論したのだが、人間たちは時として意表を突く謀をするものだと怒鳴られてしまった。
巧と名乗った男の冒険者の袋に羊皮紙が入っていた可能性も考慮し……俺は殺したつもりでいたからな……袋の行方を追っていたら出物があったということで……眷属を使ってハリキルの魔道具競り市を行うカジノから、同じ形の袋を競り落とした金持ちの情報を聞き出して襲わせ、俺の冒険者の袋で保管していた美玲の右腕で試してみたが何も取り出せなんだ。
相棒だろうから副使用者には指定しているものと考えていたのだがね……。
三年半ほど前のことだ……美玲の右腕はもう用済みと考え、その時に川へ捨ててしまったなあ。」
ハーケンは剣の柄に手を置き身構えたまま中空を見つめ、六年前から三年前の思い出を語る……
「う……うおおおおおおおおおおっ!」
突然巧が両手を握りしめ天を仰ぎ大声で雄たけびを上げた。驚いて全員が振り向き……この時巧の体が甲冑の中で輝いたように見えた……そうしてそのきらめきはすぐに消え……瞬きした次の瞬間……巧の体はハーケンの目の前にあり、抜く手を見せぬ斬り返しで一瞬のうちにハーケンの両腕を切り落とし、次の斬り返しで首を刎ね……首は刎ねられた勢いで四、五間先まで飛んでいってごつごつとした岩場に転がった。
「ちいっ……さすが不意打ちが得意な人間だ……いや……やはりお前があの時の巧なのか?昔の相棒を殺された怒りで……相手の気持ちがわからないあいつの容赦ない語り癖も確かに悪かったしな……だったらまあ許してやるが……今倒せたからと言ってハーケンより強いだなどと決して思わんことだ。
こいつはのほほんとした性格をしているから掛かりが遅く初手が苦手でな……俺と親衛隊長を争った時も俺は捨て身で初撃に賭けたから一本は取れた。だが落ち着いて体捌きをされるとまるでついていけずに……残り二本とられた。本来ならこいつは、お前なんかに簡単に倒せるような腕じゃあないとだけ言っておく。
ここでやりあいたいというならいいさ……だがこの前と同じと思うなよ……。」
丁度侯爵と巧に前後に挟まれた形のヘルムはそれでも慌てず、四本の腕全てに……右が長刀左が小刀を抜いて身構えた。
「盾で攻撃を防ぎながら剣で攻め立てるやり方も好みではあるのだが……盾を持たず剣さばきだけで防御も攻撃も行うこの形が我本来の姿だ。いわば四刀流……我は不意打ちは好かん。準備はいいのか?」
ヘルムはハーケンが瞬殺されたことに動揺の色を一切見せず、不敵な笑みを見せ身構える。
「こいつは俺と巧で引き受けるからパステルたちは四人の眷属を頼む!」「はいっ!」「はい」「はっ!」「御意っ!」
侯爵は短く指示を出すと、注意深く身構えた。
「行くぞっ!」「はっ……速いっ」
ヘルムが呟いた瞬間……陽光が剣戟に反応し煌めく……瞬時に間を詰めてきたヘルムの初撃に対し、侯爵は両手で剣を持ち何とか受け止めたが……残り三本の腕で二撃が……
「だりゃっ!」
すぐさま後方から巧が飛び込んできて斬りつけるが、ヘルムは振り向きもせず気配だけで左に持つ小刀二本をクロスして簡単に受け止め体を九十度回転させ二人と向き合った……。
「残念です……」
「仕方がないのですよ……家が代々……眷属の家系でしてね……。」
エミリアは反対側から小山を回りこみ馴染みの顔……ベルンと対峙していた。
「だりゃっ!」
エミリアが弓を構えるよりも先に一人の甲冑姿の眷属がベルンの前に回り込みこぶし大の火弾を発射して来た……が、エミリアの胸元に吊るされた魔道具から水弾が発射され、火弾の軌跡の先へと回りこみ打ち消した……。
「ほっ……ほう……すごいですねえ……魔道具をそんな簡単に扱うだなんて……主である魔族様にご指導いただく眷属でも……そこまで使いこなせるものは少数ですよ。尤も我らが主であるヘルム様は武闘派ですから……ご自身は魔法も駆使されますが教えるのはさほどうまくはなく……魔道具の扱いは下手ですねえ……兄さん?」
ベルンは魔法攻撃をいとも簡単に打ち消されたことに全く動揺せず、前に立つ甲冑姿の眷属に話しかけた。
「お前は結界術の修行に専念しすぎ……武術の鍛錬もせず、魔道具すら扱えんからな……仕方なく俺が扱うよう努力はしているが……実際は魔道具よりこちらが本職だ。」
甲冑姿の眷属が首だけを回してちらりと後ろを窺いながら答えた。
「お兄さん……ご兄弟で眷属……眷属一家なのだから当然なのでしょうが……ご両親は如何されたのです?ベルンさんが眷属であったということは……すでに広く知れ渡っておりますけど?」
「両親は健在でしたがヘルム様救出のために私と兄が御奉仕せねばならず……そこそこいい歳でしたので二人ともに家で小刀にて喉を突いて自害いたしました。捕まって拷問じみた……苦痛を与えるだけの尋問は遠慮したいと言っておりましたからね。それを見届けてから行動を起こしたのです。」
ベルンが淡々と答えた。
「どうしてそこまでして……。」
エミリアが悲し気に目を伏せる。




