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捜索

2.捜索

「どうだった?」

 半刻ほど手分けをして港にいる漁民らに聞きまわってから、落ち合う場所を決めて集合。ケンリッヒ侯爵が皆の成果を確認する。


「ボーキサイ側だと岩礁は五ケ所あると教えて頂きました……尤も……メンドー、スーバキ側だともう無数にあって……数えきれないほどだそうです。海図に書き込んでいただきましたが……こんな感じです。ちなみに……私が聞き込みする前に同様のことを聞かれたことはなかったそうです。」


 エミリアが真っ先に戻って来て海図を示すとボーキサイ側に五ケ所丸印があり、メンドー、スーバキ両国沿岸部は全て細長い楕円で囲まれていた。


「俺が聞いた漁師は沿岸部に五ケ所あるが、最も深いはずのボーキ海中央部分にもよく海難事故が起きる魔の領域があると言っていました。メンドー、スーバキ側は本当に岩礁が多くて書く気にもなれないと言っていました。ちなみに俺が聞いた漁師も……こんなこと聞いてきたのは俺が最初と言っていました。」


 ついで巧……


「私が聞いた漁師は……」「俺が聞いた奴は……」「拙者……」

 遅れて戻って来たパステルたちも、ほぼ沿岸五ケ所若しくは中央含めて六ケ所と報告。しかも誰も事前には問いかけられていなかった様子。


「ふうむ……どうせ海図にはないわけだから……直接舟を出して沿岸沿いに見ていくつもりなのかもしれないな……水位が低い今だったら海面から顔を出しているのだから、多少距離があっても視認可能だろう。


 遅れてはまずい……早速出発するとしよう……なあに……何の当てもなくやみくもに回るより、ある程度の位置を掴んで回るこっちの方が素早く辿り着けるはずだ。」

 急ぎ船を借りボーキ海へ船出することとなった。



「王都を流れるイーストリバーを下ってきた我々は、ボーキサイ国が接するボーキ海沿岸の西側……東西の中央から西へ

四分の一程進んだ地点にいるのですが、西側に岩礁は一ケ所あって……東側に中央の一ケ所含め五ケ所あります。


 西側の一ケ所はほんの数里先ですから……先に西へ進路をとり、違ったら戻って来て東側の四ケ所と中央部の一ケ所へ向かうのがよろしいかと……。」

 エミリアが確認順を示唆する。


「魔族らは人目を恐れ恐らくボーキサイ国とメンドー国国境の山脈経由でボーキ海へ達しているはずだ。だから……先に東側へ向かうべきともいえるが……すでに来ていて東側を調べつくし西へ向かっていて行き違いになってはまずい……仕方がない……俺も先に西へ向かうことに賛成です。」


 巧もエミリアを支持。


「そうだな……何事も慎重に……順にこなしていくのが結果的に早道になりやすい。まずは西へ向かって……それから東へ進路をとろう。うまくいけば……魔族の奴らと途中で鉢合わせることが出来るかもしれない。」

 侯爵も納得し、まずは西へ進路をとった。



「ああ……全然違いますね……まさに岩礁という表現が適切な……十間四方にごつごつとした真っ黒い岩の突起が一面に見える程度で……いくら水位が完全に下がっていないとはいえ……ここから五十尺も下がるとは思えませんから、ここではないようです。すみません……外れでした。」


 エミリアが船首から海から顔を出している岩の塊を見てがっくりと肩を落とす……


「謝ることはないさ……それにこんな状態なら、魔王の体のほかの部品を隠す候補にはなり得ないはずだ。一部を先にとられて地図が切り替わったとしても……ここは対象外とみていいだろう。なんせ一面岩だらけだからな……縦穴も開いていない様子だし……何かを隠すなんて到底無理だ。


 ようし……こちらが対象外と分かっただけでも成果さ……東へ進路をとろう。」

 船は引き返し、東側の座標地点へ向かった。



「ふうむ……ここは……確かに非常に狭く無人島だろうが……二十間ほどの範囲に幅半間から一間ほどの小山が五本突き出しているだけだな。高さは一番高い山で三十尺ほどか……もう少し水位が下がれば五十尺はあり得るな。

 だが羊皮紙の図とはかけ離れているからここではなさそうだ……じゃあ次……。」



「ここは?ふうむ……三十尺ほど突き出た小山が一つだけ……ボーグル……悪いがこの島の周りをぐるっと一周してみてくれ。」

「御意っ」

 侯爵の要請に従いボーグルが櫓を操って直径十五間ほどの小島の周りを一周する。



「ふうむ……海面を注視していたが、南西位置にも北東位置にも海面下に島らしき影は見られなかったし、そもそも何かを隠せそうな小さな洞窟すらなかった。ここも羊皮紙の地図とは異なるな……。


 じゃあどうする?湖中央にも座礁しやすい場所があると聞いた者もいたよな?今ここが東西の中央だが……ここから中央を目指すかもしくは東にあるあと二ケ所を目指すのがいいか……うまく立ち回らないと魔族と行き違いそうだ。」

 侯爵がここから南下するか東へ進むか問いかけてきた。


「魔族らが何の情報もなしに只海面から突き出る小島を探して回っているのなら、恐らく沿岸部をぐるりとボーキ海一周している筈です。そうして段々と沿岸部から中央へ少しずつ捜索範囲を移していくのではないですかね。そのほうが漏れなく確実ですから。どちら周りか分かりませんから……こちらが船をどう進ませようとも行き違う可能性は大です。


 ちょっと賭けにはなりますが……中央部を目指しませんか?この地図に表されている魔王の体の一部が一番重要な首なのか、あるいは隠した順に浮き出てくるのかはわかりませんが……なんにしても一番わかりにくそうな場所に隠したに違いありません。そう考えるとボーキ海中央部にも岩礁があるのであればそこは第一候補になり得ます。」


 エミリアが大胆な仮説を打ち立てる。


「まあそうだな……首と胴体……これらは絶対に必要なはずだ……なければ生き返ることはないだろうからな。


 首か胴体……重要な部分ということに賭けて……ボーキ海中央を目指すとするか……どうせ今判っている候補地は三ケ所だからな。確率は三分の一だ。やってみる価値はある。」

 侯爵もエミリアの言葉を信じ、全員頷いた。


「じゃあ悪いが……今度はこちらへ進路を変えてくれ。」

 侯爵がボーグルへ指示を出すと……


「はっ……それでは帆を上げますから……御屋形様達は船室へ……。」

 ボーグルはすぐさま長い櫓を上げ、それから高いマストへ帆を上げに上った。


 十人乗りほどの船はそれでも帆を上げるマストがあり船室もついている。小回りを利かせる時は櫓を使うことも出来、漁網を流したり回り込ませたりと……漁船としての立ち回りが可能な仕様となっているようだ。



「遥か前方に島らしき影が……」


「でっですが……そこかしこに海面から出るか出ないくらいの突起と言いますか岩礁が……波間から所々に見えます。ざっと見渡した限りでも……恐らく四半里程度の広さで……。」


 ボーキ海中央部を目指していると、前方を遠眼鏡を使って島影を探していた巧が叫ぶとともに、海面の様子を窺っていたエミリアも続く……


「確かに岩礁群の真っただ中という事のようだな……だが喫水線がさほど高くはない小型船の部類だからな……何とか注意して舵をとれば進んで行けるだろう……。」

 侯爵が海面の様子を注視しながら都度ボーグルに指示を出し、操船しながら岩礁地帯を慎重に進んで行くと……


「やはりな……右も左も分からない方向感覚が狂いそうな大海原の中にぽっかりと突き出た岩礁というか岩山……しかも細いのを合わせて三本となると……羊皮紙の地図と同じ……中央の小山は高さ三十尺ほど……ここに違いない。」


 ボーキ海へ船出して七日経過した朝……ようやく中央部の岩礁があるとされた地点へ到達……そこはまさに羊皮紙に描かれた島の図と酷似していた。


「すぐに上陸致しましょう。」

「そうだな……ボーグル……頼む島につけてくれ。」「御意っ」


 侯爵に乞われボーグルが櫓を操りゆっくりと島へ着岸する。島は……海面から露出している部分だけで直径二十間を超えるほどの広さがあるいびつな楕円形をしていた。


「うわっ……表面は……フジツボだらけでごつごつしていて、歩きづらく足の裏が痛いです……。」

 一緒に上陸したハルクが嘆く……他の皆は戦闘用の甲冑の足帯かブーツなのだが、彼だけ普通の靴なのだ。


「確かに……表面はもう乾いていてぬるぬるはしていないがごつごつしていて……歩きにくいな。」

 巧も歩きにくそうに小さな歩幅で動き回る。


「わんわんっ!「うー……」

 不意にアルルとぺリルが騒ぎ始めた……


「ちいっ……丁度奴らも来たところのようだな……間に合ったと言えば間に合ったのだが……」

「えええっ?魔族と……こんな狭い島の上で鉢合わせですか?」


「ハルクはすぐに船に戻って……櫓を扱えるか?すぐ離れて遠くで待っていてくれ。戦闘が終わったとしても、俺たちが呼ばない限りは……絶対に近づかない様……仮に魔族らが勝ったなら……すぐさま逃げ出してこの世の危機を伝えてくれ、いいね?」


「はっ……はい……分かりました。」

 巧に言われてすぐさまハルクは船へと戻り何とか櫓を操り、船は沖合へゆっくりと離れていった。



「ずいぶんと騒がしいと思ったら……お前たち……北部山脈では随分とひどい目に遭わせてくれたな……まあおかげで魔王の羊皮紙を手に入れられたのだから、会えたなら礼を言いたいぐらいと考えてはいたところだが……。


 だが……魔王の体の所在を示す地図など……書いたとしてもすぐ燃えてしまうから再現できない筈なのだが……誰か恐ろしく記憶力がいい奴でもいて……一度見ただけのそいつの頭の中の地図を頼りにここまでやってきたのかい?


 人間って奴は……つくづく恐ろしいね……。」

 三十尺ほどの高さの小山の影から姿を現したのは四本腕の魔族……ヘルムだった。


「ふんっ……実力で敗れて捕らわれたというのに……あたかも作戦であったかの如く言い繕うとは……さすが狡猾な魔族らしいと言った処か……だが何度やっても同じことだ……お前は又ここで俺たちに倒されるのさ。」

 大柄なヘルムをものともせずケンリッヒ侯爵が一歩前へ出る。


「おおっ……男爵様か……何度も同じ手が通用するとは思ってくれるなよ……今回は眷属も最強の者たちを連れて来た……さらに最強の相棒もな……。」

 ヘルムがちらりと後ろへ目をやると……大柄で浅黒い肌の色の魔族が小山の影から出て来た。


「ふうむ……ようやく隠し場所の洞穴を見つけこれから入るというところだったのに……後から出入り口を岩でふさぎ強力な結界でも施されてはかなわんからな……まずはお前たちを倒してからゆっくり入るとしよう。」

 男は腰から二刀を抜いて身構えた。


「まあ待て……お前は本当に戦闘好きだな……同じ言葉が通じる人族なのだから……まずは話し合いで解決しようとは思わないのか?向こうは六人と犬が二匹で俺一人だけだと見た目だけでも分が悪いからお前を呼んだが……すぐ刃を交えようと考えてはいない。まずは交渉だ……頼むから勝手に突っ込んで行くなよ。」


 ヘルムは四本腕のうちの一本を後から来た男の前へ伸ばし引き留めた。


「はいはい……お前は相変わらずだなあ……人間相手に名乗ったり……まあいいだろう。」

 男は抜いた刀を二本とも鞘に納めた。


「さて……俺は以前名乗ったな……それでこいつはハーケン……こんなんでも魔王親衛隊隊長だ。」

「こんなのとはなんだ……親衛隊長選抜戦でお前とやりあって勝ち残ったのは俺だからな……。」


「三本勝負が良くなかっただけだ!一本目は俺がとって後の二本をお前が決めただけではないか……真剣勝負だったら間違いなく俺の勝ちだ。」

「フンっ……負け惜しみを言いおって……。」


「まあいい……そっちは……前回名を聞いたものは四人おるが、ハーケンはどうせ名乗りもせずにすぐ斬りかかっていったのだろうな……悪いが自己紹介してくれないか?」


「黙って聞いてりゃあ仲間内の痴話げんかまで初めて時間稼ぎ……魔王の体の隠し場所の洞窟を見つけたところだったとさっき言っていたが……話し合いをするふりをして実は配下の眷属に洞窟内を探させているのではないか?狡猾なお前たち魔族がやりそうなことだ。そんな子供だましに乗るつもりはないぞ……。」


 ケンリッヒ侯爵はそういうと剣を抜き身構え、全員が戦闘態勢に移った。


「待て待て待てっ……そっちにも負けずに血の気の多いやつがいるな……洞窟らしき入り口は見つかったが岩で塞いであってまだ入ることはできておらんわ。この小高い丘を回りこんだ中腹にあるから……ちょっと全員でこちらへ来てくれ。」

 ヘルムはまた二刀を抜いたハーケンをなだめ剣を引かせると、二人して小山の向こう側へ背を向けて歩いていった。


「いきなり奇襲をかけられる可能性は十二分に考えられるからな……油断せずいつでも反撃できるよう注意しながら進んで行くぞ。」

 侯爵たちは兜をかぶり武器を携えたまま身を低くし、ゆっくりと二人の後を追った。



 二人が向かった先には眷属と思しき四人の人間と、一尺角もない程度のごつごつした突起の岩でできた丘の中腹に、そこだけ幅十尺近い底部分が扁平な岩が乗っていて確かに異質に映る……恐らくその下に洞穴があるというのは本当だろう。

 そうして四人の眷属の中には見慣れた顔も……法服さえ今は着ていないが……ベルンの姿があった。


「こんな大きな岩だとやぐらを組んで滑車を吊り、ロープで何人かで引き上げねばならんだろうと皆で相談して居ったところだ。人数がいれば手で持ちあがらんことはないだろうが……丘の中腹で傾斜があるからな……ちょっと間違えば下側の奴が潰されかねん。さすがにそんな危険なことはできんさ。


 別に時間稼ぎなどしてはおらんかっただろ?まあ……初見とは言わんがたったの一度以前に遭ったことがあるだけの……しかも敵対する魔族をたやすく信じられんというのは分かる。だが……ちょっとだけ話を聞いてくれんか?」

 ヘルムは再度、元の小山の反対側へと歩き出し、その上で話し合いを求めて来た。


「俺たちだって……魔物を見つけたら有無を言わさず討伐しているわけじゃあない。北部山脈を常に巡回して魔物の巣窟の規模を把握し、巨大化しすぎて山で採れる餌が足りなくなる危険性が出た時点で……麓の民家まで危害を及ぼす可能性がある場合のみ駆除する……それだって掃討するのではなく間引く程度でつがい等一定数は残しているつもりだ。


 魔物とはいえ生き物だからな。さすがに平野部の小高い山……いわゆる里山で発生した魔物の巣窟は小規模でも周囲の住民に対して脅威だから掃討させて頂いているが……魔物化していない獣は里山でも下りてこない限り駆除しないよ。


 魔族だって……人里離れた山の奥深く等……人間社会へ危害を加えないと判断できれば俺はそのままでいいとすら思っているほどだ……だから北部山脈中に魔族が潜んでいる疑いがある巣窟もいくつか把握してはいるが……討伐へ向かおうと考えたことはない。


 そう言った意味では……話し合いに応じないでもないのだが……お前たちは許さない。お前たちは脱走する時にあまりにも人を傷つけすぎた。しかも……冒険者組合の受付嬢らを連れ去り……生き血を飲んだな?そんな輩とは交渉の余地はない……何か言い分があれば聞いてやってもよいが……このまま放免とはならんと考えて置け。」


 侯爵もヘルムに続いて小山を回り込みながら、それでも話し合いの余地はないと言い切った。


「ふっ……確かにな……脱走の際は暴れすぎた……平和的な解決を望んだが檻へ戻れの一点張りでどうにもならなかった。しかもどいつも精鋭ぞろいでね……我としても殺したくはなかったが、殺して戦力を削いでいかなければ最終的にはこっちがやられておっただろう。強すぎて殺さぬよう手加減できる余裕などなかったということだ。


 女の子たちは……若い女の生き血は魔族の活力の元でな……なんせ首を刎ねられ手足は切り取られ運ばれた後で……牢屋の中でつなぎ直されたのだからな……再生のために活力を使い切っておった。魔力供給の奉仕をしてもせいぜい数日程度の食事を与えられるだけで……到底満腹できておらんかったからな……。


 本当なら捕えたままきれいな水だけ与えて数日間生かし、腹の中のものを全部出させてからの方がよりよいのだが、時間もなかったから一思いに殺して血を絞った。これも魔族として生きる性だからな……


 まあいい……いくらこっちの事情を並べ立てたところで、お前ら人間には理解してもらえんだろう。


 それよりも……どうしてお前たち人間は……自分たちの生活を脅かすから魔物を駆除し、そうでないなら放っておいてもいいだなどと驕った考えを持っているのだ?まさかこの世界はお前たちのもの……この星の支配者だ……などと思いあがってはいないだろうな?」


 ヘルムが言い訳めいた話を取りやめ、突然問いかけて来た。


「うん……?支配者?」


「しっ……支配者だなどと思ってはいませんっ!少なくとも私は……と言いますか恐らくは誰もが……人間が世界の支配者だなどとは考えていない筈です!」

 会話していた侯爵に代わりエミリアが答えた。


「だが……自分たちの生活を脅かさない限りは生かしておいてやるが、脅かされそうになったら魔物は間引くと先ほど言っていたではないか。どうして間引かれなければならん?魔物だって生き物だから腹が減れば食べ物をあさる。住む場所に食べ物が無くなれば近隣を探し回るさ……そうして人里へおりてきたなら……お前たちは餌を与えるか?


 餌を与えて山へ帰してやるか?違うだろう……速攻で駆除して次は冒険者に巣窟の掃討依頼だ。違うか?」


「えっ……?」

 ヘルムの問いかけにさすがのエミリアも返す言葉に詰まる……


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