魔王の体の隠し場所は?
18.魔王の体の隠し場所は?
「大変遅くなり申し訳ありません。途中サントスの冒険者組合へ寄ったところ廃棄予定の羊皮紙を大量に集めているとお聞きし、道中の宿場町も回ってあるだけかき集めてまいりました。全部で二千枚ほどはありそうです。」
一週間経過後ケンリッヒ侯爵一行が王宮へ到着した、大量の羊皮紙を抱えて……
「おおっ……すでにこちらで試した羊皮紙は七百枚を超えており、廃棄に困っておった王立図書館でさえも在庫はほぼ空となりそうだった処だ。大変にありがたい。伝書バトでは詳細は明かせなかったが実は……。」
公爵が魔王の羊皮紙再制作のいきさつを語る。
「成程……魔王に関する記述によるものか、あるいはごくわずかな確率で発生するものかはわからぬが、再度作ることが出来る可能性は高そうですな。そうであれば私は魔王に関する逸話で余り一般的ではないもの限定で書き記しましょう。
そうすれば限定的な逸話に反応するのであれば、何らかの変化を感じられるはずです。皆さんはその間も少しでも多く記述頂き、確率を少しでも上げていくことでしょうな……。」
ケンリッヒ侯爵は自分が知る限りの魔王に関する珍しい逸話を書き記すと約束した。
そうして数日……
「うわっ…………書き終えたと思って見返したら文字が全て消え去り……なんと……変な形の線が浮かび上がり始めた……。」
王立図書館分の千枚はとうに使い切り、各地から集めた廃棄予定の羊皮紙の表面を削り更になった表面に書き始めて数日……ようやくと言っていいのか……巧が書いた羊皮紙の表記がすべて消失した……燃えたのではなく消えた。
代わりに現れた蛇行する線は皆が見守る中、やがていびつな形の円としてつながった。
「おおっ……恐らく山か島か分からないが……これぞ間違いなく魔王の羊皮紙だ!」
「そっ……そうですね……あの時に見た最外周の島の形のような線が……後は等高線と川みたいな線に文字のような記述……でも恐らくその先もあるはずです。完成までにどれほど時間がかかるのか……。」
エミリアが心配そうに目を細めながらのぞき込む。
「ふうむ羊皮紙を奪われてから既に三十五日……最短だと場所を調べることを考慮してもぎりぎりか期限切れ……最長としても二週間もないのだな……確かわしがすぐに冒険者の袋にしまい込み……次に出したのは王様にお見せしたときだった……浮き出た地図を見たのはその二回だけだったから袋から取り出して直ぐ……ターメルが冒険者の袋にしまい込む前にどれほど経過していたのか……今では調べようもないな。」
「仕方がありません……ようやくと言いましょうか魔王の羊皮紙は再制作でき地図が浮かび上がったのですから……これまでの情報でやれるだけのことはやっておきましょう。
まずは島と考えこの輪郭形状の島がないか……世界地図だと縮尺的に小さな島だと記載がないでしょうから、世界の国々の地図で小さな島まで調べていくしかありませんね。」
「おお……世界の国々が発行する大地図は王立図書館の蔵書にあるはずだ。至急持ってこさせよう。山だとしても、その地図で調べられるだろうが……山となると輪郭だけでは判別が厳しいであろうな……せめて等高線が揃って山の高さまでも欲しいところじゃ。そうなるとまずは島を想定するのがいいか……すぐに取り掛かろう。」
王立図書館から全世界の詳細地図を取り寄せ羊皮紙に浮かび上がる輪郭を島と想定して、似た形の島がないか全員で調べ始めた。だが……島でも人が住む有人島以外に無人島……はては名前すらない岩礁のような小さなものまであるため、調べるといってもそれこそ砂漠で針を探すに等しいものだった。
「時間も差し迫っていることだし……この大陸周辺の島を重点的に探すことにした方がいいと俺は思っている。なぜなら魔王も魔王を仕留め身体を隠した勇者も、この大陸に住んでいた可能性が高いからだ。
魔王伝説には地名など一切含まれていないから、どこで魔王を打倒したかすら分かりはしないのだが、世界中から魔王の羊皮紙と化した羊皮紙を聖教会本部へ集めるということは恐らく不可能に近いだろう。さすがに収集漏れだって起きたはずだし集めるのに時間も相当掛かる。千年も前だと年単位でかかったかもしれないくらいだ。
収集過程を魔族に襲われる可能性だって高いし、だったら大陸ごとに拠点を作って例えばその大陸の聖教会支部へ集めたと言ったことは想定されるが……聖教会では魔王の羊皮紙で現存するものはあの一つだけと言っていたのだろ?恐らくこの大陸内だけで行われたことではないだろうか……。」
巧が持論を展開……
「成程……巧さんが書いた羊皮紙でおよそ千二百四十枚目ほどでした。一度だけなので前後するから確率的評価は難しいですが、おおよそ千回に一度の確率で魔王の羊皮紙と化すると大雑把に推定すると……。
この大陸だけで五ケ国、ボーキサイ国だけで三十六の群がありそれぞれに群都および数ケ所の城塞都市があり、城塞都市だけでも百四十ほどあります。
王都は東西南北に区切られ其々に三区ずつ区役所があり王宮含めて十の行政区が存在し、他にも大きな城塞都市……サントス、エラルド、アーミン、サレント、フーセン、フキホセ等々……二十六の政令指定都市が存在しそれぞれ四から七つの行政区を持っていますので、それだけでも百四十……城塞都市から政令指定都市を抜いて、計二百五十を越えます。
それぞれの城塞都市間街道筋の宿場町まで含めると……少なく見積もっても六百は下らないでしょう。
それぞれの都市で役場や図書館で記録に残すために最初は紙で試して無理だから羊皮紙を用いたとして……最低でももう一度は試すでしょうから……その四から六倍と見積もると千枚。宿場町の番所まで含めると千七百枚……大陸中だとその五倍で……八千五百枚となります。つまりこの大陸内だけで八から九枚の魔王の羊皮紙が出来たはずなのです。
全世界だとどうなります?その十倍とかになってしまうと……」
巧の理論をエミリアが数値的な裏付けを示し、支持した。
「成程……当時は今よりも魔王の怨念というか思念はより強かったと予想もされるから……もっと多くの魔王の羊皮紙が出来ておっても不思議ではないし……宿場町で記録まではされなかったとしても十枚程度は発生したと考えられるな。
わ……分かった。まずはこの大陸内の島々を最優先でしらみつぶしに当たるとしよう。」
公爵も納得し、すぐさま大陸外周の詳細地図が各人に分配配布され、皆羊皮紙の輪郭と島の形状比較を始めた。
「おおっ……すでに等高線は二本浮き出ておる……川や文字のような表記はまだだが……案外早く完成しそうじゃな。」
翌朝一番で公爵が羊皮紙をとり、すでに等高線が浮き出ていると喜んだ。
「おお……等高線は四本となっておるぞ……。」
三日目の朝……またもや公爵が一番に報告……順調に等高線が増えて行っている様子……
「等高線は度量衡の規則で、一番緩やかな傾斜の細線表記は十尺ごとに一本……次は百尺ごとに中太線となっていて、中太線と細線の入り混じる場合は細線の方を点線表記と定められており、魔王がいたとされるおよそ千年前から変わっていないはずです。
確か点線表記はありませんでしたから……単一の表記……ですがさらにその上では千尺ごとに太線と決められており……その際は中太線が点線表記と定められており、単に線が引かれているだけで縮尺表記がなければどれに該当するものか見た目ではわかり兼ねますね。
等高線は確か五本あったと記憶しておりますから……最も低くて五十尺級の高さ……最も高くて五千尺級の高さとなり、これがもし五十尺の高さの丘などの場合は地図で探しだすことはほぼほぼ不可能かと……。」
エミリアが悲観的な想定を打ち明ける。
「恐らくそんな低い丘に隠したということはありえないだろう……仮にも勇者が魔王の体を隠した場所だ。平地の……耕作地に代わる可能性がある場所であれば、勇者も千年先二千年先を予想して避けたはずだ。つまり山だとすると五十尺の丘は除外してもいいはずだ。」
巧がまたまた持論を展開……
「成程……山に隠したとするなら……それこそ北部山脈など人が入り込めないような高山に隠したとするのが常套で……必然的に五千尺級の山ということになりますね。五千尺だとちょっと低めなくらいですから……ふうむ……。」
エミリアが腕組みして思案し始める……
「北部山脈の奥の奥……位に位置する山と考えられ……だったら一万尺どころか二万尺級の山だってハリキルには多く存在しますからね。今ではさらに上の等高線……五千尺ごとの等高線が追加されておりますが……その表記は一点鎖線であり普通線ではないのです。
見た時点で等高線が完成していなかったということも考えられますが、さすがに密に十本以上も線が引かれるということは考えにくい……千年前だと登山技術も発達していなかったとか?……ですかね……だとしても……ううん……もしかすると山ではないのかもしれませんね。」
エミリアは山の可能性は低いと推定……
「島の場合は……五十尺の丘がある島だって十二分に考えられるが……そんな小さな島だったら恐らく無人島だろうからな……この等高線の間隔で高さが千尺変わるのであれば幅だって百間や二百間は一間隔であるはずだ。そう推察すると今は無人島でもやがて人が入り込む余地があるから……五千尺級の山がある島は避けたのではないか?」
島の場合は逆に五千尺の島はあり得ないだろうと巧……
「成程……縮尺の記載がない地図ですからいかようにも受け取れますが……それでも急斜面で数十間や百間程度の大きさの島で五千尺もの断崖絶壁で囲まれていたなら……そんな山は暴風などでも崩れてしまっているでしょうから……ある程度の傾斜は必要でしょう。そもそもそんな山……登れないでしょうし……そう考えると……ふうむ……。」
エミリアが腕組みをして考え込む……
「確かに巧さんが仰る通りに五千尺級の山がある島は除外してよさそうですね……問題は……百尺の等高線間隔の場合が……どうとでも取れるから微妙なのですが……幅が百間程度の島は無人島であり続けるだろうか?と言ったことですね……それでも大陸から大きく離れた絶海の孤島と言ったことは十分に考えられますが……。
とりあえず時間もないというか最短に見積もった期限はとうに過ぎておりますし、まずは高さ五十尺の丘を持つ島を調べてみるのがいいのではないでしょうか?」
エミリアが時間がないので暫定的な指標を提案する。
「わ……分かった……では島じゃな?この大陸周辺地図から小さな無人島を探すのじゃな?」
公爵が積み上げられた地図の中から、大陸周辺地図を振り分け始めた。
「お待ちください。小さな無人島となると……大きめの湖に浮かぶ中島などはどうされます?それこそ北部山脈に点在する山の中の湖には小さな島をもつものが多くあり、その大半が無人島です。
しかも湖の中の島に関しては標高表記ではなく、湖面からの高さ表記と度量衡では決められておるはずですから……高さ的にも小山を持つ程度が多く、この図に示す島に適合するのではないものかと……如何でしょうか?」
ようやく大陸外周に点在する小島を確認することに決まったのだが、ここでハルクが異議を申し立てた。
「なんとそうか……五千尺級の山は除外できても……山中の湖にある小島は除外できんという事か……。」
ショックを受け公爵の地図を仕分けする手が止まった。
「いや……待ってくれ……それはおかしい。その程度の大きさの島……如何に無人島とは言っても人が常時住んでいることはないといった程度であり、湖観光などで出かけ散策して回る可能性だってあるだろう。高々五十尺の小山……すぐ回り終わって隠し場所なども探り当てられそうな……恐らく洞穴とかに隠したわけだろ?
まさか……地面に穴を掘って埋めたというのは……絶対にあり得ないというつもりはないのだが……浅いと獣らに掘り返される危険性は伴うし、深く掘ったとしても地殻変動などの影響で地上へ露出してしまう可能性だってあり得る。
硬い岩盤に囲まれた奥行きが何百間もあるような洞窟などがふさわしいと考えるのだが……そうなると五百尺級の山を持つ島の方があり得そうか?だが……それこそ人が住み始める可能性は……決して否定できない……それこそ大陸から大きく離れた島であればまだしもね……。」
巧が湖の中島であれば観光で人が訪れ、隠し場所が見つかってしまうのではないかと主張。
「成程……そういえば……魔族を倒した場合は首を刎ね、胴体と四半里以上引き離して埋めるのが決まりです。
そう考えますと……五十尺級の山を持つ小島でも、五百尺級の山を持つ島でもその島には埋められませんね。」
ハルクが魔族の遺体を埋める時の取り決めを思い出す。
「ああ……そういえばそうだ……確か地図にはバツ印が一つついていたが……もしかするとそれは首か胴体かどちらかを隠した場所を指していて……手足も切って黄金の壺に入れたというのだから……もしかしたら一つ目の首とかを見つけて空気に晒せば、次の場所が浮かび上がるのかもしれないな……。
魔王の羊皮紙として切り刻んだり燃やしたりできなくなった複数枚それぞれが、魔王の体を隠した場所を表すのであれば……恐らくまとめて保管していたはずだ……いや待てよ……首さえなければ復活できないだろうと……他の部位を表す羊皮紙はどこか人外の地へ埋めに行かせ……首を隠した場所だけ封印したとも考えられるな。
まあそれでも……保存してあったのが首だと勝手に推察して……再制作できたのが都合よく首の場所を示す地図に当たるのかどうか……ふうむ……やはり前者かな?
いや……待てよ……黄金の壺に納めて封じれば同じ場所にでも安置可能なのかもしれない……そういった可能性も否定はできないだろうな……。」
ハルクも巧も、首や胴体手足など……体の一部を隠した場所であるという可能性に辿り着いたがはっきりはしない。
「ああああっ……そうでしたっ!私ともあろうものが……大変申し訳ありませんがっ……すぐに出発いたしましょう!」
エミリアが突然叫びだし、すぐ出発すると言い出した。
「なんだ……どうした?」
「詳細はおいおいお話いたします。とりあえずもう時間はないと考えたほうがよさそうで……大まかな場所の見当がつき、そこまで行くのにも日数がかかりますから、すぐに出発いたしましょう。
えーと……魔族との戦闘は十二分に想定されますから……父様たちはここにお残りください。
巧さんと……ケンリッヒ侯爵、パステルさん、ブルさん、ボーグルさん……ご同行お願いできますか?」
「ああ……勿論だ。」「構わんよ……そのために来たのだからね……みなもよいな?」「はいっ」「はっ」「御意っ」
エミリアが魔王の羊皮紙をもって立ち上がり、巧たちも続いた。
「わっ……私もご一緒致します……魔族たちを捕らえたときにできることは色々と御座いますからね。
お前たちは……相当な危険が予想されるから今回は留守番です……留守を頼みますよ。」
ハルクも立ち上がった。
すぐさま一行は王宮を出てイーストリバーへ向かい、そこから船に乗り込んだ。その間エミリアはじっと無言……
「恐らく勇者様が魔王の体を隠したのは、ボーキ海の中の小島のはずです。」
「はあ?」「どうしてそんなことが分かる?」「さすがにそこまで突飛なことを言われても……」「ううむ……」
情報漏れを気遣ったのか、一等船室に入りエミリアがようやく口を開いた……が、その場の全員が口をあんぐりと大きく開け驚いた。
「エミリア……確かに予想期限は過ぎ……と言ってもまだ結界を解除するのに時間がかかっている場合だって想定されるのだ。結界解除に手間取っていればまだ一週間は期限がある。なのに地図まで持ち出して……地図の表記が進み正確な標高やその他の表記が追記される事だってあり得ない事ではないのだぞ……今ここで動く必要性があったのか?」
巧が穏やかな口調で突然のエミリアの態度急変に対し、落ち着かせようとなだめ始めた。
「いえ……勇者様が魔王の体の一部を隠したのはボーキ海で間違いありません。私は確信しております。
なぜなら……ボーキサイ国が井戸を掘りため池を作り川の水を使用しないと定めたのはおよそ一千年前の事で……それは恐らく勇者様がお決めになったのでしょう。勇者様の言葉をかたくなに守り、以来ボーキサイ国では国内を流れる河川の水を生活用水や農業用水に使用することはありませんでした。
それはなぜかと考察いたしますと……恐らくボーキ海の水位を上げる為であったのだろうと推察できるのです。
先ほど巧さんが仰ったとおりに……地面に埋めても獣に掘り返されたり、地殻変動の影響で地上へ露出する可能性はゼロとは言えません……数年先の事であればまだしも千年二千年……いえ……三千年も先になると……あり得なくはないのです。つまり……心配すればするほどキリがなく、隠し場所など決められなかったでしょう。
そこでボーキ海です……千年前はまだ河川の水が普通に使われていて……水位が下がった状態であったのではないかと推察すると……すべてが納得できるのです。」
エミリアが真剣な表情で推察を披露する。
「ははあ……成程……ボーキ海へ注ぐ川の水使用を禁じ水量を上げ、ボーキ海の水位を上げてしまえば……五十尺程度の低い丘を持つ島は水没してしまい……誰の目にもとまらぬこととなるわけだ。しかも海の中ではさすがの魔族も息が続かないから……分かったとしても手が出せない……つまり絶対安全と言える。
だからこそ……川の水は絶対に使用しないようにと勇者直々にボーキサイ国内へ触れ回った……魔王を倒し葬った勇者の言いつけだからな……そむけば魔王復活となり兼ねんから……詳細など知らなくても誰もが従っただろう。
そうして千年経過したというわけか……内海とは言え広いボーキ海だ……島だって幾つもあるだろうし……隠すにはうってつけだっただろう。分かった……俺もエミリアの考えを支持する。」
ケンリッヒ侯爵もエミリアの主張を支持した。
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