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ボス戦

15.ボス戦

「少し広くなってきたな……ようやく剣が思い切り振れそうだ。」

 奥へ進むと少しずつ洞窟内は広がっていき、ついには高さ十尺を越え幅も三間ほどの広さとなった。だが……広いということは大型魔物の脅威が余計に感じられ……


「うー……」「ぎゅるぎゅるぎゅる……」「なにかいますっ!」

 アルルとぺリルが低くうなりエミリアが叫ぶ。


「だりゃあっ!」「ガアッ!」「がうっ」「ガッ」「わぅっ!」

 掛け声と雄たけび吠え声が同時に響き渡り、瞬時に戦闘開始となった……


 巧は飛び掛かってくる影目がけて右上段から斜めに切りつけたが、うまく洞窟の壁を使って体を躱され、アルルとぺリルは別の大きな影に突進していく……


「どりゃあっ……だりゃあっ!」「ガウアッ!」

 巧が左右に切り返すが敵は器用に身を翻したり、壁を使って向きをかけたりしながら執拗に突っ込んでくる……


「はっはっはっはっ……」

 エミリアはというと……洞窟壁際からすきを窺っている様子の狐系やイタチ系魔物を、松明の灯りを反射して光る両目を目標に次々と仕留めて行っているようだ。


「だりゃっ……どおりゃあっ!」


 洞窟の壁を使われない様中央付近で身構えた巧は、大跳躍で頭上から襲い掛かってくる魔物相手に正眼の構えから剣先を上に立てて持ち、一旦膝を曲げてから蛙飛びのように体を伸ばし跳躍して頭から突っ込んで行き、交わる瞬間に勢い良く剣を突き出し魔物目がけて深く突き刺した。


「ガアッ……」

 魔物は喉を貫かれ一撃で絶命しその場に倒れた……


「ふうっ……何とか倒せたな……でかい体の割に動きが軽くてすばしっこくて倒すのが大変だった。」

 ふと顔を上げると……アルルとぺリルが飛び掛かっていった魔物も、既に息絶えていた……アルルとぺリルが喉元に噛みついて動きを止め、エミリアが矢で仕留めたようで……魔物の眉間には一本の矢が刺さっていた。


「さっきのよりもまた一回り大きいですね。」

 エミリアが言う通り、門番の様に守っていた狼親子よりも大きな体高六尺を越える大型の狼系魔物二頭だった。


「こいつがボスかな……しまった……魔道具……あまりに切迫した戦いだったから……使い忘れていた……。」

「そういえば私もです……。」

 巧もエミリアもがっくりと肩を落とす……だが……


「うー……」「うぅぅ……」

 アルルとぺリルが身を引くく構え洞窟奥をじっと見つめている……何かがいるっ!


「んがああああぁぁぁっ!」

 闇の中から飛び出してきたのは……立ち上がると十尺の天井にも届きそうな巨体の毛むくじゃらの塊だった……


「なななっ……なんでしょうか?」

 ごつごつした岩だらけの地面にばらまかれた松明の灯りに照らされ、毛むくじゃらの下半身だけ浮き上がった魔物の姿は、驚異そのものだった……


「ちいっ!熊だっ、しかもでかいっ。だりゃああっ!」

 巧が大上段に剣を振りかぶって突っ込むが……金属音を発し熊の前足で弾かれた……長い爪部分で巧く刃をはらったようだ……


「だりゃっどっせっでえいっどりゃああっ!」

 思い切り突っ込まれたら到底止められないのは明らかな体格差……巧は少しでも圧を緩めようと息継ぎもほどほどに必死で剣を振るい巨大熊を押し戻そうと試みる……が、巧が振るう剣はことごとく両前足で払いのけられた。


「だりゃっどりゃどうりゃあだあっだあっ!」

 それでも巧は打ち込む剣を止めない……止めた瞬間に、思い切り踏み込んだ一撃を食らうことは分かっているので、やめられないのだ……こうなったらこちらの息が切れて倒れるのが早いか、向こうの馬力が切れるかの勝負だ。


「目を閉じてくださいっ!」

 エミリアの声が聞こえ、足元に球体が転がる……すぐに巧は剣を振るいながらも思い切り目をつぶった……瞬間、まばゆいばかりの閃光が洞窟内を昼間の如く明るく照らした……閃光弾だ!


「ガアッ!」「ぐおっ!」

 目をつぶされた巨大熊はがむしゃらに両前足を振り回し暴れ、一撃が巧の胴を突き向こう側の壁まで飛ばされる……


「大丈夫ですか?巧さんっ!」

「あっああ……甲冑の胴の前部と背面部分はハルクが物理結界も施してくれていたからね……衝撃はかなり和らいだ。

 まあ体重差で吹き飛ばされはしたが、甲冑と共にほぼ無傷だ。」


 巧が立ち上がり巨大熊を見ると、閃光時にはエミリアが両手で目を塞いでいたアルルとぺリルが左右から巨大熊の肩口付近に噛みついてぶら下がっているではないか……巨大熊は声も上げられずに、上半身を左右に大きく振り何とか二匹を振りほどこうとしていた。


「だりゃあああっ!」

 巧はすかさずダッシュで巨大熊に駆け寄り、剣を逆手に持ちかえ頭上に振りかぶると全体重をかけてその喉元に突き刺す……大きな地響きをたて巨大熊はそのまま仰向けに倒れ動かなくなった。


「ふうっ……何とか倒せたな……こんなのがボスとは……というか……ボス級が幾つもいたな……狭いから戦いにくいし……大変な巣窟だった。」


 巧は未だに首に噛みついたままのアルルとぺリルの肩を軽く叩いて、戦いは終結したことを教えてあげてから魔物の喉元から剣を抜いた。


「じゃあ……毛皮でも剥ぐとするか……熊もこれだけでかいと高値で売れるぞ……肉も売れるだろうしな。」

 巧は嬉しそうに巨大熊の解体に取り掛かり、エミリアは巨大狼系魔物の皮を剥ぎ始めた。


「そういえば……またまた魔道具……使い忘れていたな……。」

 巧が悔しそうにつぶやく……


「私は使いましたけど……あれではゼーンの修行は全く関係ありませんでした。」

 エミリアもため息交じりに呟いた。



「ふあーあ……入った時はまだ日が高かったけど……これは夕日……な訳はないからもう翌朝のようだ。深夜まで戦い詰めだったようだな……。」


 洞窟内で仕留めた魔物の皮を剥ぎ肉を切り分けてから残りは土のところを何とか探して穴を掘って埋め、始末を終えてから洞窟を出たときには日が昇り始めていた。


「まだやることがありますよ……。」

「ああ、そうだな……。」

 昨日倒した四頭の狼系魔物の皮を剥ぎ、残りは穴を掘って埋めてからようやく下山を開始した。



「ご苦労さまでした……サレント山中腹の魔物の巣窟は、毎年秋口になると冬眠前に栄養を蓄えるためと、冬眠明けの春先には空腹を満たすためと……年に二回麓まで魔物らが下りて来て田畑を荒らし時には人的被害まで出るということで住民らを悩ませておりました。


 地元の中級冒険者が幾度か駆除に向かったのですが都度巣窟入り口辺りで追い返される始末でして……これはもう上級冒険者を雇うか、あるいは中級冒険者複数チームでパーティを組んで駆除に向かうしかないと言われておりました。ですがその……緊縮財政の折……国からの報奨金は期待できず地元民からの礼金程度。


 なのにそんな大変な巣窟を……たったお二人だけで掃討されたとは……本当に驚きです。」

 サレントの冒険者組合に戻り報告したら、受付嬢が驚嘆の表情を見せた。


「いや……俺たちは人間は二人だけだが頼もしい相棒がいるからな……四人組の冒険者たちと何らそん色はないと自負しているさ。」

 巧が受付カウンター前に座り尻尾を振っているアルル達を受付嬢に紹介してやる。


「そ……そうですか……それにしましても……初級の冒険者証を付けたままのお二人が、この快挙というのは素晴らしいと考えます。昇級試験は……どうしてお受けにならないのでしょうか?上級にだって受かると思いますよ。」


 次々とカウンターの上に並べられる巨大熊系や巨大狼系魔物らの毛皮や魔物肉らを眺めながら、受付嬢が未だに初級冒険者であることを不思議がる。


「ああ……まあ俺はその……ちょっとした事情があってね……エミリアはどうだ?昇級試験受けてみてもいいのではないか?」


「わっ……私は……巧さんに助けられてばかりですから……私が受けても中級も受かりませんよ。アルとペルと三人でなら……中級なら受かるかも知れませんけれどね……。」

 エミリアが謙遜気味に打ち明ける。


「それでしたら大丈夫ですよ。冒険者の職種の中には獣使いという役割も御座いますからね。相棒の犬たちとコンビ……いやトリオか……で登録することは可能と考えますよ。」

 受付嬢が笑顔を振りまく。


「そっ……そうですか……ちょっと考えておきます。」

「はいっ……是非っ!」

 エミリアの応答に受付嬢はさわやかな笑顔で返した。



「ありがとうございました……ご苦労様でした。」


「まあ……今はボーキサイ国が疲弊していて碌な報奨金も出せない状態だから……どんなに巨大な魔物の巣窟であってもせいぜい地元民が出し合う礼金程度で、初級冒険者でも請け負うことが出来る。だが……ようやく終戦に至り、ボーキ海のサメの缶詰で外貨を稼ぐことが可能となれば……その上夏場の飢餓まで解消できそうだ。


 すぐに……遅くとも二、三年もあれば復興するだろうから……そうなると巣窟規模に応じた報奨金が設定され、初級冒険者だけでは請け負えない場合も出てくるだろうな。昇級試験……まじめに考えておいた方がいいかもしれん。


 俺は記憶を失い身元どころか国籍すら確認できていないから……それでも冒険者であろうことだけは確認できたため、初級試験だけは受けることが出来た。だがあくまでも特例だから……昇級試験は受けられないだろう。

 そうなると……エミリア頼みということになるな。」


 清算を終え冒険者組合を後にするところで巧がしみじみ呟く。


「ええっ?そんなことはありませんよ。今の組合受付さんも仰っていたではありませんか……上級だって受かるだろうって……巧さんだったら昇級試験を受けたら上級どころか特級だって受かるはずと私は確信しておりますよ。


 冒険者組合の会長はシュトラセン小父様ですからお願いして……これまでのボーキサイ国の危機を何度も救ってきたのですから特例というよりも当然という扱いで……昇級試験の受験資格を頂きましょう。」

 エミリアはそう言いながら右こぶしをぎゅっと握りしめた。


「いや……さすがにそこまでしなくても……。」

「大丈夫ですっ!小父様は決して嫌な顔一つせずに認めて下さるはずです。必ずですっ!」

 エミリアは何度も力強く頷いた。



 当日は徹夜疲れもありサレントで宿をとり翌朝から山裾沿いに沿って東西へのびる街道を東進……途中小規模な魔物の巣窟を二つ掃討しながら尚も進み、一行は国境があるボーキサイ国東端の山脈まで到達した。


「国境山脈では軍の兵士らが常駐していたはずだから、魔物の巣窟は期待できないだろう。このまま山脈に沿って南下し、王都からドルトン経由で国境に通じる本街道は兵士らの行き来があって魔物が近づかなかったと言っていたから……本街道を越えて南部まで……ボーキ海へ達するまで行ってみるのもいいかもしれんな。


 まあ……少しは西へ向かってから南下しないと……山脈沿いは魔物の巣窟は全く期待できそうにないからな……海を見たことはないのだろ?まあ……俺も……というか……記憶を失う前はともかく失ってからは見たことがない。」

 巧は少し西へ向かってからの南下を提案した。



「ここまで寄った先にはやはり……魔物関連の仕事は一件もありませんでしたね。」

 山脈からサレントとの中間地点まで一旦戻り、そこから南下を始めた巧達だったが、途中に寄った宿場町及び城塞都市にも魔物関連の仕事依頼は一件もなかった。


「ふあーあ……でもなんだかんだ言って……もう春というか……年度も変わって高校も……はっ……きゃあー………………たっ……大変ですわ。」

 突然エミリアが立ち止まり大きな悲鳴を上げた。


「どっ……どうした?」「くわんっ?」「くーん?」

 悲鳴に驚く巧達……


「そそそそのっ……私っ……高校生であることを忘れておりましたっ。


 そもそも最初は……命を救って頂いたお礼に一学期の期末試験休み明けから夏休み期間を利用して巧さんに付き合うつもりで……勿論期末試験に代わるレポートはきちんと飛脚便で学校宛に送付いたしました。


 ですがその後魔王の羊皮紙が見つかり、ハリキルまで届ける旅に出て……戻ってきたら今度はボーキ海の水位問題でメンドー、スーバキ両国に責められて戦争再開を防ぐためにターメリア国まで往復し支援を約束頂きました。


 その後両国との交渉会議も無事終了し……学業に戻るどころか、そのまま巧さんのお供をすることに何ら疑問も抱きませんでした。まあ実際会議終了時点で三年の三学期は終わって卒業式でしたからね……誰も変に感じなかったでしょう。


 ですが……三年は一学期だけの出席でしたから出席日数が全く足りておりません。恐らく卒業できず留年で……もう一度三年生をやり直すために四月から通う必要性がありましたのに、手続きすら行わずそのまま旅に出てしまいました。


 アルミナの高校でしたが父様も閣僚に戻りずっと王都に詰めておりましたから……学校からの問い合わせなどアルミナの自宅へ届いていたとしても誰も気づかず……そのまま放置されていたはずです。


 父様は高校だけはどんなことがあっても卒業するようにと仰っておりましたが……このままでは父様との約束が果たせそうにありません。どうしましょう……。」


 エミリアの顔はすっかり青ざめ、おろおろとひたすら落ち着かず動き回るだけで、目の焦点も合っていない様子だ。アルルもぺリルも動揺しまくるご主人の変貌にどうしていいのかわからず、じっとその様子を目で追っているだけだ。


「すっ……すぐに王都まで戻ろうっ。今からだって手続きをすれば、三年生をやり直せる可能性はあるはずだ。一学期末までは高校へ通っていたのだろ?それなら今の時間は授業を受けていなくてもその時の出席日数で充当可能なはずだ。


 なんだったら夏休み明けから復学したっていいはずだ。ギリギリ夏休み明けに戻って手続きでは心証が悪いが、今から戻って誠意を尽くして説明すれば認めてもらえるだろう。ともかく戻ろう。このまま南下して、王都から東へのびる本街道に交差したらそこから西へ行けばいい。大きめの宿場町を見つけたら大型馬車を雇って昼夜走らせればそれだけ早く着く。


 絶対間に合うっ!心配するな……大丈夫だ。」

 巧は何とかエミリアを励まし、その背中を押して南へ歩き始めた。



「とっ……父様っ……申し訳ありませんっ。学業をおろそかにしてしまい本当に申し訳ございませんっ。すぐにアルミナへ戻り高校へ復学手続きを行い、三年生からもう一度やり直す所存ですっ!


 巧さん……このようなわけですからお供できなくなってしまい……大変申し訳ございません。ですが一年……一年だけご容赦くださいっ、必ず一年で高校は卒業し、その後は巧さんと全国を回るつもりでおります。」

 急いで本街道経由で王都へ戻り、王宮の父の執務室を訪ねエミリアは父に深く頭を下げ謝り、さらに巧にも謝った。


「こっ……高校?おおそうであったな……えーと……どこにしまったかな……エミリアが戻ったら渡すつもりで……ふうむ……年のせいか物忘れが……おおっ……そうだった……確かこの棚の真ん中……ターメルの冒険者の袋と共にしまっておいたはず……あったあった……ほうれ……卒業証書じゃ……高校卒業おめでとう。」


 父はエミリアに縦一尺横二尺の大きな用紙を広げエミリアに手渡そうとする。


「えっ?ええっ?卒業っって……どういうことですか?私は三年生の一学期しか学校へ行っておりませんから出席日数が足りず、卒業などできなかったはずです。」


「ああ……そうじゃろうな……一番に気づいたのはサリーヌだった。彼女はアルミナで二学期まで過ごし、冬休み中にシュトラセン子爵のもとへ母と共に越してきて王都の高校へ編入したのだが、とっくにこちらへ編入していると思っていたエミリアがいないと騒ぎだしてな……わしもそこでようやく気が付いた。


 エミリアの高校の出席日数が足りないが公務ともいえる魔王の羊皮紙やボーキ海の水位低下問題で、エミリアには大変な負担を強いて居ったからの……さすがにアルミナの高校では無理がきかない為、形だけ二学期始業時点から王都の高校へ編入したことにして……それから王命で重要な公務に就労中ということで就学日数に充てた。


 だから恥じることはない……これはエミリアが頑張って高校を卒業した証じゃ。」


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