真相
6.真相
「おおそうですか……ハリベルらを捕まえて、冒険者組合へ引き渡したのですね?ではメリアさんが貯めたお金も取り戻せたのですね?よかったよかった……。」
「ああ……店には貯めた金が置いてあったからな……その中からだまし取られた銀貨五十枚と、借金を押し付けられた銀貨二十五枚と一年間の利息分としてさらに銀貨五枚……合計銀貨八十枚を……勿論冒険者組合の了承を得てから差し引いた。
残りは働いて得た金だからハリベルたちの金ということになるが……どうやら罰金も科せられるようでほとんど残らないそうだ。騙して得た金で開いた店だからな……まさに悪銭身に付かずと言った処だな。」
巧が王宮に戻った時には既に夜も更けていたが……すぐに聖教会へ向かいハルクに結果報告。ハルクも自分のことのように喜んだ。
「おうおうおうっ……伸ばしてやった返済期限が来たぞ!さあっ……銀貨四十枚、耳を揃えて返してもらおうかっ!」
翌日日の出前に王宮を出発した巧は北区の壁際へ向かう……開店後は客が行列を作っているので迷惑をかけぬよう、開店前にメリアに話をするつもりで……ところが着いてみると美容室はまだ準備も始めて居らず、代わりに数人の男が美容室の女の子らを取り囲み凄んでいた。
「でっ……ですが……その……お金は……まだ工面できていません……申し訳ございませんが……もうしばらくの猶予をお願いいたします……。」
女の子たちの最前面に立ちメリアが、申し訳なさそうに深々と頭を下げ期限の延長を乞う。
「期限を延ばすのはやぶさかじゃあねえんだが……だがさすがに手ぶらじゃあ帰れねえんだよっ!利息分だけでも払ってもらわねえとな……銀貨二十枚の一年間の利息分……銀貨二十枚!すぐに払って頂こうか!稼ぎが少なくて払えねえってんなら……手早く稼げる口も紹介してやるから……さっ……ほれ……こっちへ来いっ!」
「いっ……いやですっ、放してくださいっ!」
胸をはだけ着物の裾を持ち上げ帯に挟み込みステテコ姿の男たちは、凄みを利かせるとメリアの腕をつかんで連れて行こうとする。メリアは必死に抵抗するが、男の力には敵わず引きづられていく……
「待ってくれ……銀貨二十枚の一年間の利息が銀貨二十枚は高すぎるな……違法だろ?ボーキサイ国の法律では利息は最高で年二割までと決められている。更に支払いを強制するためにいかがわしい店に客を働かせようとするなど言語道断。
暴力による取り立ても禁じられている……このままあんたたちを捕らえて冒険者組合へ突き出しても構わないんだが……どうする?」
巧は腰を低くし油断なく身構えながら男たちに告げた。
「ちいっ……あんた……若い女の子らにいい恰好を見せようと考えているんなら……やめた方が身のためだぞ。」
それでも先頭の男はひるむこともなく、メリアを引く手をほどこうともしない。
「昨日交渉時に揉めるかもしれないと思い……持って行った木刀がまだ袋に入っているから丁度いい……向こうは甲冑を装備していたから使えなかったが……これなら余程当たり所が悪くなければ死にはしないだろう……だが骨は折れるかもしれないし、一生不自由な体になるかも知れんが……それでも構わないのならかかってこい。」
巧は早々に説得をあきらめ、冒険者の袋から木刀を取り出した。
「馬鹿が……こっちの人数……見て分からんのか?」
「お前を入れて六人だろ?それがどうした?こっちはいつも何十もの魔物相手に戦っているんだ。時には魔法を使う魔族とだってな……お前らなんか……武器を持ったところでなんとも思わん……。」
巧は木刀を持ち身を低く構えた。
「ちっ……現役の冒険者か……わしらの持つダンビラなど光もんは只の見せかけ……こけおどしってぇ奴で……なんせ正当な理由もなしに刃傷沙汰を起こしたら、刃物を持っていた手首から先をバッサリ……てなことになっちまうからな。分かったよ……あんちゃん強そうだしな……だが……正規の利息分はきちんと支払っていただくぜ……。」
男はようやくメリアの腕をつかむ手を離した。
「勿論だ……ほれ……一年分の利息が銀貨四枚で……合計銀貨二十四枚……数えてくれ。」
巧は懐から銀貨を取り出し、男に手渡した。
「確かに受け取った……じゃあな……。」
「まてまてっ……おいっ、証文はどうした?」
「ちいっ……ほれっ、これだ……じゃあな……。」
すたすたと立ち去ろうとしていた男は一枚の薄紙を悔しそうに放り投げると、いっそう早足で歩き去った。すぐにメリアが証文を拾い上げ確認する。
「これで……借金はチャラだな。よかったな……。」
巧が兜を脱ぎながらメリアを見下ろす。
「どっ……どうしただ?」
「ああ……これは俺の金じゃあないぞ……メリアの稼いだ金……いや……騙されて借金を背負わされた分を取り戻してきた。勿論利息も付けてな……ほれ……騙し取られた銀貨五十枚に借金背負わされた残り銀貨五枚とそっちの一年分の利息一枚付けて合計六枚だ。」
巧が六枚の銀貨を掌を広げて見せた。
「とっ……取り返してくれたの?」
呆然と事態を見守っていた女の子の一人が驚いた様子で叫ぶ。巧が振り返ると、ハリベルらのもとの住所を教えてくれた女の子のようだ。
「ああ……ハリベルは騙し盗った金で自分だけ店を借りて、一年間も営業を続けていた。話し合いでだまし取った金と借金分と利息……これだけ返してもらうつもりで昨日訪ねてみた。だが……雇っていた用心棒をけしかけて来て……全く反省の色も見せなかったから捕まえて冒険者組合へ引き渡してきた。
ハリベルも罪を認め、組合の了承を得て店の稼ぎの中から騙し取られた分を取り返してきた。だから……メリアの金だ。」
巧が昨晩の様子を語る。
「どっ……どうしてだ?わちは頼んでねえべ?余計な事ばしてっ……あの子の兄弟家族がこまるべっ!そんなことされてもちいっともうれしかねえっ!けえってくれっ!」
ところがメリアは喜ぶどころか怒り出し、顔を真っ赤にして巧を睨み付けながら帰れと叫ぶ。
「ふうっ……仕方がないな……また来るぞ。」
巧はメリアの気持ちが収まるまで待とうと考え、この場は引くことにした。
「ハルクさんに聞きましたよ……お世話になった村から王都に出て行方不明になっていた女の子の居所を探し当て、そのうえ更に騙し取られたお金まで取り返してあげたんですって?やりましたねえ……喜ばれたでしょう。」
王宮へ戻り外務大臣執務室へ向かうと、未だにメンドー、スーバキ両国対応を検討中のようで、それでもエミリアがうれしそうに笑顔で巧に声をかけて来た。
「ああ……だが……ちっとも喜ばれなかったよ……。」
巧が肩を落とし残念そうに呟くように答える。
「ええっ……どうしてですか?」
「ああ……実は……。」
巧が事の詳細とメリアの様子を逐一語る……
「うーん……難しいですねえ……気持ちはわからなくもないですけど……でも喜ぶくらいはして欲しい……うーん。」
エミリアが腕を組み、眉を寄せながら暫し黙考する……
「それで……ちょっとお願いが……」
巧は巧で子爵に願い事があるようだ。
「ああっ……そういえば……ハルクさん……司教に昇格したらしいですよ。昨日ようやくスムープの聖教会本部から昇進の連絡が届き、正式に決まりました。同行していた三人のお弟子さんたちも夫々位が上がったようです。今朝、王様のところに連絡が来ました。
私たちと共にハリキルまで羊皮紙を届けた仲間の中で、ハルクさんたちだけ何ら恩賞もありませんでしたからね。王様もそのことを気にかけていらっしゃったし……まずは良かったです。」
エミリアが突然思い出したかの如く、甲高い声で叫んだ。
「そうか……それは良かった。彼にはずいぶん助けられたからな。いや……未だに色々と世話になっているのだが……昇格という形で功績が認められるのは喜ばしい。あとで祝福しに行ってやらねば……。」
巧も満足そうに笑顔で頷いた。
「まあた来ただか……わちはもう巧と話すことなどねえだ、けえってくれ!」
それから二日後……またまた早朝の北区の壁の近くへ巧がやって来た。丁度店を開けるためのテントの設営に取り掛かり始めたところのようだ。だが……巧の姿を認めるなり、メリアは不機嫌そうに背を向けて大声で怒鳴った。
「この店は……完全無休なのかい?王都の美容組合では毎週火曜日は定休日とする取り決めがあると聞いて、休みと思い来てみたのだが……。」
巧は商工会議所会長を兼ねる子爵にお願いして、美容室の定休日を確認してきた様子だ。
「……………………」
「この店は移動美容室で……しかも研修生とか見習いばかりで技能実習を兼ねて行っている店だから定休日などないよ。その代わりに働きすぎて疲れたら、個人ごとに休むことも自由なんだ。」
巧の問いかけに何も答えないメリアに代わり、ハリベルの住所を教えてくれた子が代わりに答えた。
「だったら丁度いい……メリアを今日一日借りるぞ……。」
「なっ……」
巧はメリアの意向を無視して、無理やり右腕の手首をつかみぐいぐい引っ張って連れ出そうとする。
「ああ……メリアは働き過ぎだから丁度いい……今日一日お願い。」
「ばっ……馬鹿言うなっ、わちは働くっ!」
頑として踏みとどまろうとするメリアを、仕方なく巧は肩に担ぎ上げて悠々歩いて行く。そうして広い通りには、馬車を待たせてあった。
「ど……どこば行くだっ!」
「うん?お前の友達のとこさ……行ってくれ。」
巧はメリアを客車の座席に無理やり座らせると、御者に指示して馬車を発車させた。」
「ここは……おおっ……王宮?おっ……王宮なんかに用はねえぞ!知り合いなんかいねえっ!」
ひたすら走る馬車はやがて、城塞都市王都の中央部でさらに高い壁に囲まれた場所へやって来た。
「残念ながら王宮ではない……王様に会いたいかもしれないがね……今日はその隣だ。」
馬車は延々と続く高い塀の横を走り、そうしてその高い塀が終わる角部分手前に急ごしらえで作られた、頑丈そうな鉄扉がおもむろに開けられ、そこへ入っていった。
「ここは?なんだべ?王宮……にしては……殺風景だ……。」
入った先は石畳の駐車スペースのようで、その先はまた高い壁となっていて、またまた鉄扉の通用門があった。メリアが言うとおりに芝生もなく草木も一切生えておらず、外壁内側の白い壁と内側に新たに作られた真新しい鉄製の壁のほかには何もない。ただただ無機質の……殺風景な空間だった。
「ここは元はエラルミント伯爵のお屋敷でね……分けあって引退されたのだが丁度王宮のすぐ隣に位置していて、しかも非常に頑丈な高い壁に囲まれているから、本宅の建物は閣僚の社宅として利用されている。そうして頑丈な壁の利点を生かして、端に軽犯罪者用の刑務所を作った。ここはその……刑務所受刑者の面会用の通用門だ。」
巧が今いる場所の説明をする。本当はより強固な壁に囲まれているこちらを新王宮とする話もあったのだが、王宮再築などに血税は使えないと、ボーキサイ王が断ったとも聞いていた。
「なっ……わちはなんも悪いことしてねえぞっ!巧を追い返すからって……刑務所ば入れることねえべ!」
だが説明を聞いてメリアは慌てて逃げようとするが、巧がシャツの襟もとをつかみ逃がさない。
「待て待て……受刑者の面会用の通用門だといっただろ?ただの面会だ……何も悪いことをしていないメリアを刑務所に収監するはずないだろ?
半年ほど前に生まれ変わったが以前の冒険者組合では訴状を提出しても、届出人が払う礼金と罰金の合計額で金貨一枚以上にならない案件はその場でもみ消され、届け出人には調査したが犯人は見つけ出せなかったと嘘の報告をしていた。
だから王都には軽犯罪者用の刑務所はなく、新体制に切り替わって厳密に犯罪が取り締まられるようになって刑務所がない事が問題となり、急ごしらえで造られたものでメリアを捕らえるために連れてきたわけじゃあないから安心しろ。」
巧がメリアを何とか落ち着かせようとなだめる。
「ああ……ハリベルだか?」
「そうだ……今日は面会に来た。実は捕まえて引き渡してから俺も会うのは初めてだ。ほれっ……行くぞ。」
巧はメリアの背中を両手で押して通用門の方へと押しやり、メリアは渋々歩き始めた。
真っ白い無機質なコンクリート製ビルの中の、白い壁に囲まれた面会室……向こう側には密な鉄格子で仕切られ受刑者が座るパイプ椅子が置いてある。こちら側には木製テーブルと木製椅子があり荷物を置いたり飲み食いもできるのだろうが……向こう側にはパイプ椅子以外何もないし、鉄格子の隙間では恐らく女性や子供の手すら通せないように見える。
その代わりに検閲が入るが着替えや菓子など、受刑者に差し入れすることは可能だと面会室に入る前に女性刑務官が教えてくれた。
「ハリベル、入室しますっ!」
奥から大声で告げられおもむろに奥の鉄扉が明けられ、横ボーダーラインが入った囚人服姿の女が入って来た……ハリベルだ。前回会った時のような濃い化粧もなく素顔で……ようやくメリアと同世代と確認が出来た。
「ちっ……メリアを連れてきやがって……騙してとった金は……全部返したんだろ?だったらいいじゃねえかっ。今更こいつの顔なんて見たくもねえっ!それとも……俺様が捕まえましたって……メリアに自慢したくて連れて来たのか?あるいはメリアが自分を騙した女の面見たいからって……お前にねだったのかいっ?」
ハリベルはメリアの顔を見た途端直ぐに入ってきたドアから出ていこうと踵を返し、一緒に入って来た女刑務官に腕をつかまれ引き留められる。
「わちも無理やり……連れてこられただ。ここへ来ることも知らんかった……ハリベル……やつれたな……こげなとこ入れられ……仕送りば止まって……親兄弟は……大丈夫か?」
メリアが格子に両手でしがみつくようにして、向こう側のハリベルに声をかける。
「ハリベルには兄弟はいない。親もいない……天涯孤独の身の上だ。メリアと一緒に金を貯めようとしていた時……仕送りが多くて金を貯められなかったのではなく、男に貢いでいただけだ。」
巧がハリベルには親も兄弟もいないと本当のことを教える。
「ハリベル……ほっ……ほんとけ?」
「ああ……そうだよっ!田舎で……親も兄弟も飢えや疫病で失い……頼る当ても何にもなくて……それでも必死に体を売ってでも金を貯めて王都の美容学校に入った。美容師になろうとしてな……それでも寂しくて……男にはまった。
そいつが美容学校出ても店で使われているんじゃあ稼げねえっていうから……それでも一人で学校出たばっかで店なんて出せる訳もねえから……だったら適当な同僚騙せって言われてメリアに目を付けた。同じく田舎の出身で……王都育ちのほかの同僚と違ってあまり人を疑わねえからな。
卒業したら田舎に店出すって言っていたのを……王都に店出した方が確実に稼げて親兄弟を楽にすることが出来るからって……儲けてから田舎に二号店を出せばいいって話を持ち掛けた。そしたらなんと……一年もかからずに店借りる手付金の半分を貯めて、これで店を出せるねって言いやがった。こっちはその半分しか貯めていねえってのに……。
それでも男が……こいつは運がいいって……足りない分は借りるから保証人になってくれって言えばいいからと……あたしはさすがにそこまで騙すのはまずいだろうって最初は断ったんだ……だけど折角貯めた銀二十五枚……騙すための見せ金だからと男にも使わせねえでいたのを……すぐ必要でないならと男が散財するのを恐れた。
借金の保証人にまでなってもらってさすがに胸は傷んだが……どのみち銀五十枚騙し取るつもりだったからついでと割り切り……契約に行くふりしてドロンさ……すぐに見つかって金返せって怒鳴り込まれるのを恐れ用心棒なんかも雇ったけど……この一年……安心して眠れた夜はなかった。捕まって刑務所に入れられてようやく寝られるようにはなったさ。」
ハリベルがしみじみと……メリアとは決して目線を合わせずうつむきながら本当のことをメリアに打ち明けた。
「そっ……そうだったか……辛かったな……。」
メリアは格子にしがみついたまま、呟くように発した。




