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冒険者パーティ誕生

6.冒険者パーティ誕生

「だが……お前が同行するのは巧殿のご迷惑にはならないのか?いつものような公務だと移動の際は軍隊が警護に当たってくれるから街道筋での危険は皆無だ。だが……二人だけの移動となると、昼間でも魔物の群れが襲い掛かってくるような状況なのだぞ。あの森の中での恐怖が、また襲ってくるのだぞ。


 分かっているのか?巧殿一人だけであれば難なく片づけられる魔物でも、足手まといのお前が一緒では戦闘に集中できなくなって、かえってご迷惑をお掛けしかねないから、やめておいた方が無難じゃ。」


 魔物の群れに捕らわれ、あわや命を落としかねない目に会ったばかりだというのに懲りない娘に対し、町長は半ばあきれ気味に諭そうとする。


「そんなことはありません。私だって戦えますわ。これでも初級冒険者なのですからね。」

 そんな父親に対し、娘は胸を張って答える。


「初級って言っても……町の外へ薬草採取に出かけるためにどうしても必要だというから……取らせてやった資格ではないか……冒険者としての実績など全くないじゃろ?


 ペーパーなお前が……どうやって戦うというのじゃ?」

 冒険者を名乗る娘に対し、町長はあくまでも疑い深いまなざしを向ける。


「組合の試験に受かったのですから、十分魔物相手に戦えるのですよ!こう見えても弓の名手なのですからね。連射も得意ですし、視界内の的なら漏らさず当てる自信があります。」

 娘は左手を水平に伸ばし、左肩辺りから右手を引き寄せるような仕草をして見せる。


「ああ……そう言えば……冒険者試験合格祝いとして、母さんの弓を継がせたのじゃったな。


 母さんはわしの幼馴染だったが幼いころからお転婆で、冒険者にあこがれてしょっちゅう近隣に旅に出ていたんじゃったな。じゃが腕利きの冒険者の知り合いもあらず、碌なパーティも組めないと嘆いて居った。


 冒険者になるという夢を断念し、わしと結婚してからも森へ行ってシカやウサギに狸など……狩っていたものじゃった。あの頃はまだ森も完全には魔物に支配されておらず、平和だったからな……。


 じゃが母さんの弓を持っているからと言って、冒険者とは言えんのじゃぞ。」

 形から入るタイプなのであろう……そんな娘に対し町長はあくまでも冷静に諭そうとする。


「まあ……俺としてはどちらでもいいのだが……娘さんの名誉のために一言言っておく。


 町長の娘さん……エミリアは、凄腕の弓使いだと思っている。囚われた他の娘たちは武器など持ったこともないであろう柔らかく女の子らしい手指をしていたが、エミリアだけは弓ダコが出来ていた。

 戦利品として持ち帰った魔物肉は、恐らくエミリア一人だけで仕留めたものだろう。


 魔族ともいえる上級魔物に襲われたときにでも、恐らくエミリア一人だけであれば戦って逃げおおせていたのではないだろうかな……だが……それこそ足手まといの娘たちが4人もいて……戦えば一人ずつその場で襲われ息の根を止められていっただろう。


 奴らは集団戦を得意としているからな……遠巻きに囲まれ脱出できないようにされ、エミリアの背後から一人ずつ仕留められてはいけないと判断し、すぐに武装解除して降伏したのだ。


 だからこそ……生け捕りにして生き血を啜るために全員巣へ連れていかれ……俺が救出するのが間に合ったと言える。その判断がなければ……恐らくエミリアは助かっても他の4人は殺されていただろうな……。


 救助が来るかどうかも分からないような状況で、それでも他の娘たちを生き永らえさせる為の僅かな希望に自らの命を懸けたのだ……なかなかできることではないと俺は思っている。


 エミリアの腕前から判断すると……一緒に旅に出たとしても足手まといになるようなことは決してないはずだ。だからと言って俺が一緒に連れて行くとは、一言も言ってはいないがね……。」

 じっと親子の会話を聞くでもなしにおとなしく携帯食をつまんでいた冒険者は、おもむろに口を開いた。


「ええっ?そそっ……そうなのですか?

 おいおい……弓の練習など……いつの間にしていたのだ?」

 町長はその言葉に驚き、振り返ってから目をむいて娘の顔を眺めた。


「弓は……冒険者試験を受けるずっと前から……母様に習っていましたよ。父様は元々家にほとんどお金を入れず、当時は頂いていた爵位の手当ての大半を近隣の困っている人たちに分け与えていたではないですか。仕方なく母様が森へ出向いて獲物をしとめては市場に卸し……そうして稼いで生活していたのですよ。


 私も幼いころからよく母様と一緒に狩りに出かけていました。知りませんでしたか?そうでなければ……冒険者試験の実技に受かるはずもありませんわ……。」

 エミリアは至極当然と言った口調で胸を張る。


「ま……まあ……お前の弓の腕前が、母さん並みに達者であることは理解した。だがそのことと、お前が巧殿と一緒に国中を旅してまわることは関係がないぞ。お前はまだ高校生なのじゃからな……来春卒業したとしても、まだまだ学ぶべきことは多い。実社会の経験を積むことも大事じゃ……。


 就職先の内定を断られたのであれば丁度いい……町役場に経理事務の空きがあるから、お前を採用できないか聞いてやろう。高校は商業科で簿記は履修していたのだったな?緊縮財政の折……出せるだけの薄給では、募集しても一人の応募もなかったんじゃ。きっと大歓迎されるぞ。


 もしもっと学びたいのであれば一年だけ続けて、大学受験の願書を出して来春からやり直せばいいさ。」

 十二分に実力があると自負する娘に対し父は、だからと言って冒険者とともに旅してまわることは適切ではないと力説する。


「ああ……経理事務の空きでしたら……サリーヌが狙っていますよ。サリーヌも今回の騒動で期末試験が受けられず内定を取り消された身の上ですからね。ショックで黄昏ていたら、役場の助役さんから簿記を習得しているならどうかと打診があったと先ほど報告にいらしゃいました。ですから……残念でしたね……。」


 ところがそんな父親に対し、既に候補者は決まっていると娘が口角を緩ませながら告げた。


「サリーヌちゃんって……商工会頭と冒険者組合会長兼務の娘の……お前の友人で……同級生で今回一緒に魔物にさらわれた娘の一人だったな?そっ……そうか……助役が……ししし……仕方がないな……ううむ……。」


 その言葉を聞き、町長は腕を組んでうなり始めた。


「ですので……きっとお役に立つと思いますわ……よろしくお願いいたします。」

 そう言ってエミリアは冒険者に対し、起立して頭を下げた。


「いや……先ほども言ったが、エミリアを連れて行くとは俺は一言も言っていない。国内の貴族や役人など……町長殿のお知り合いに関しては、町長殿から直筆の紹介状を書いていただければ事足りるから、なにもエミリアが同行する必要性はないはずだ。道中危険が伴うのでね……安全なこの町に居たほうがいい。」


 ところが冒険者は意外にも、エミリアの願いを一刀両断にした。


「でっでも……父様の紹介状だけでは……各地の有力者の人柄や影響力までは分かりませんよね?ただ単にご自分を存じ上げる方がいらっしゃらないかお尋ねになられたとしても、どこまでお調べいただけるか分かりませんよ。その方の懐へ飛び込まなければ、親身になって調べていただけるはずもありません。


 そもそも有力者の方と言っても……巧さんは冒険者なのですから冒険者がらみの調査をすべきでしょう?そうなると母様のつてを頼ることが出来ますわよ……母様は冒険者で……この近辺の道具屋さんや魔道具屋さんは馴染みでしたから……かといってその娘である私の文だけで信用して頂けるとは思えません。


 非常に難しく……秘匿性も高くて手間暇がかかるご依頼ですからね……私なら……色々と存じ上げておりますから……直接お会いして口説いて……必ずお力になれると思っておりますよ。」

 そんな冒険者に対し、エミリアは必死で自分が役立つことを主張しようと並びたてる。


「いや……エミリアが役立たずなどとは、決して思っていない。だが……旅の道中には危険が伴うのだ。街道筋で魔物に襲われる程度ならまだいい……魔物相手なら俺も守ってやれるし、第一君は相当強そうだからな。


 だが……危険なことは街中でも起こりうる。特に若いご令嬢を連れているとな……その辺のゴロツキどもが襲ってくることは十分考えられるし、なにより……これまでも各地を回っていたのだろ?


 恐らくエミリアの美貌に夢中になっている貴族や有力商人の御曹司など……大勢いるはずだ。普段の訪問時は公式のもので、しかも軍隊の警護付きだから手出しできなかったのだろうが、今回は完全な私事……しかも俺に同行する限りはどちらかというと隠密的な行動になりかねない。


 そうなると敵の思うつぼだ……ゴロツキどもを雇うこともあるだろうし、中には私設軍隊を持っている有力豪族だって存在するだろう……魔物相手ならともかく人相手では……流石の俺も苦戦する。


 何せ下手に大怪我させたり殺してしまったりしたなら……逆に捕まりかねないからな。相手はその土地の有力者なのだろ?……警察だって丸め込まれてしまう筈だ。


 更に街中を歩いている時なら守れても、流石に一緒の部屋に泊まるわけにはいかないから、宿での宿泊が一番危険だ。いくら何でも狭い部屋の中では弓なんて、まともには使えそうもないからな。エミリア一人だけでは戦えないだろ?だから……連れては行かない……それとも……同じ布団で寝るか?」


 冒険者は真に危険なのは魔物ではないと……とくとくと説いて言い聞かせようとする。


「まま……お待ちください。確かに娘は巧様に命を救われた身……どのような要求をされたとしても、こちらからお断り申し上げることは叶わぬでしょう。


 ですが……娘はまだ子供……嫁入り前ですので、どうか……ご容赦願います。」

 父は最後の一言に反応し、素早く立ち上がると床にひれ伏すようにして冒険者に考え直すよう願い出た。


「お顔をお上げくだされ……今のは……同じ布団で……と言ったのは、同行をお断りするための言いつくろいで……俺にはそんなつもりは毛頭……。」


「巧様にそのつもりがなくても……人の口に戸は建てられません。若い男女が一つの部屋で寝泊まりするなど……尾ひれがついた噂が流れ、娘は嫁に行けなく……どうかご容赦を……。」

 慌てて冒険者が町長の体を起こそうとするが、なおも町長は膝に縋り付くようにして涙目で懇願する。


「私の添い寝の相手は……決まっておりますのよ……アル、ペル……いらっしゃい……。」

 その時エミリアがすっくと立ちあがり、大声で呼びかけた。


「わふっ!」

「わぉん!」

 すると居間の奥で黒山が動いたかと思ったら……勢いよくエミリアめがけて突進してきた。


「大丈夫!危険性はないですわ!」

 冒険者は素早く立ち上がり警戒するように身構えるが、すぐにエミリアにたしなめられた。


「よーしよし……はいはーい……いい子たちねえ……。」

 エミリアは二つの小山を両手で受け止めると、その頭を片手ずつで均等に撫で始めた。


「い……犬……なの……か?」

 初めて見る光景に冒険者は驚きを隠せない様子で、その二つの真っ黒い物体をしげしげと眺め始めた。


「大型犬ですが……恐らく狼の血を色濃く残しているものと思われます。


 私の妻が無くなった時……妻の亡骸に縋りついて離れなかった子犬が二匹……保護されたのです。恐らく妻を襲った魔物と格闘し、親犬も命を失ったのでしょう……それ以来ずっとうちで暮らしています。」

 愛犬をあやすことに必死なエミリアに代わり、町長が答えた。


「ひゃはは……こらっ……そんなになめたら……顔がべたべたに……。」

 全身を真っ黒く硬そうな剛毛で覆われた、子牛ほどもありそうな大きさの犬達は、目を細めながら愛しいものの顔を尻尾を振りながら交互に嘗め回していた。


「たっ……戦える……のか?」


「うぷっ……忍犬としての訓練はしております。ですから……クナイを咥えて敵に斬りつけることもできますし、そのままでも戦えますが、両前足に刃爪を装着することにより攻撃力は倍増します。


 破廉恥な考えを持って部屋に侵入してくるような賊であれば、あっという間に噛み殺してしまうでしょう。いくら手を回したとしても女性の部屋に侵入して番犬に噛み殺されたのでは、流石に冤罪を仕組むこともできないはずです。ですから……うぷっ、宿での心配はご無用です。」


 二頭の大型犬を交互に眺めながら問いかける冒険者に対し、エミリアが答える。


「にっ……ばっ……散歩と言って連れ出すついでに……そんなことしていたのか?」


「当たり前ですわ……私はいずれ冒険者となって大陸中を回るつもりでしたから。母様が果たせなかった夢を、私が叶えるのです。」

 娘の答えにあきれ返る町長に対し、エミリアは二頭の犬を静めてから平然と夢を語った。


「母さんの?そ……そりゃあ確かに……お前が生まれてから母さんは旅をやめてしまったが……だが母さんは、この地に留まることに何ら不満を……。」


「母様は父様を愛していらしたから……一緒にこの地で暮らすことに満足していたと思いますよ。でも……たまに私だけには打ち明けてくださいました。大平原で一人ポツンと野宿している時の星空の美しさ……とか……旅の途中で触れ合う人たちの温かさとか……色々と……懐かしそうに……。」


 怪訝そうな父に対し、娘は宙を見つめるようにして打ち明ける。


「はぁー……そんな事……露も知らなんだ……母さんがなあ……。」

 町長は感慨深げに宙を仰いだ。


「これで私がご一緒することに、ご不満はございませんわよね?」

 エミリアは胸を張り、堂々と冒険者に告げる。


「ああ……だが……戦えると言ったって……こいつらの実践訓練はまだなんだろ?今回だって森には連れて行っていないし……。」


「それは……ご一緒した娘の中に犬嫌いが二人もいたものですから……しかも一人は獣の毛にひどいアレルギーを持っていたので連れていけなくて……もし連れていけたのなら……この二頭が一緒にいたなら、囚われることもなかったかも知れませんわ。


 父様……アルは置いて、ペルだけ連れて行きますわ。朝晩の散歩を忘れずにお願いしますわね。」

 エミリアはひどく神妙な顔つきで事情を説明した後、父に後を頼んだ。


「うん?一頭だけ連れて行くのか?」


「はい……皆で行ってしまうと父様が一人ぼっちになってしまいますからね……かといって二頭とも残したなら散歩に連れて行っても二頭一緒だと力が強くて、父様お一人では辛いとおっしゃっていたではありませんか……一頭はこちらで引き受けますわ。」


 エミリアは不敵な笑みを浮かべた。


「お前は……最早巧殿とご一緒することが前提のような口ぶりだな……巧殿……よろしいので?娘は甘やかして育てたため、料理はしますが後片付けはほとんどできないやりっぱなしの箱入りですぞ……高校卒業して就職を機に家のことを色々と、花嫁修業をさせるつもりでおりましたからな……。」


 頑としていう事を聞かない娘の説得をあきらめたのか、町長は冒険者に委ねることにしたようだ。


「父様!私はまだお嫁に行くつもりなど、毛頭御座いませんよ!それに……花嫁修業で家事を習うなどと……一体いつの時代ですか?断固として抗議いたします!」


 父親の時代錯誤的な言葉に娘は怒り心頭の様子で立ち上がり、目をむいて町長を睨みつけた。途端に町長は肩をすくめてソファに座ったまま小さくなっていった。


「まあまあ落ち着いて……町長殿のお許しを頂けるのであれば……エミリアを連れて行くことにやぶさかではない……こちらとしても見知らぬ街で、見ず知らずの人たちの中から信頼のおける人を探すのは容易ではないと常々感じているのでね……顔の広い同行者がいるというのは非常にありがたい。


 それもこれも……彼女に危険が及ばないと……確実に判っているのであればなのだが……」

 冒険者は前提条件を設定しながらも、同行を検討し始めたようだ。


「確かに……こいつらなら……この犬種の成犬は訓練次第では魔物化した成獣の熊とも互角に戦えるような強さと言われておりますからな……しかも飼い主以外には決して懐かない……とも評されております。巧殿も不用意に近づかないよう、くれぐれもお気をつけて……。」


 しまいにあきらめたのか、町長は大きく息を吐くと椅子に座り直し天井を仰ぎ見た。


「うぅ……」


 冒険者がエミリアの方へ近づこうと踏み込もうとした瞬間、二頭は低い唸り声をあげ、ほぼ黒目だけの目を細め、唇の合わせ目から鋭い牙をのぞかせ威嚇する。確かに不用意に近づくのは危険と、冒険者が下がって椅子に腰かけると二頭も警戒を解いた。


「やったぁーっ!じゃあ決まりですね?二人と一頭の冒険者パーティ結成ですね?いつ出発なさいます?」


「ああ……この町もまだほとんど回っていないから、二から三日はこの町をまず案内してもらい、知り合いが見つからなければ、次の町へ向かいたいのだが……いいかな?」

 冒険者は椅子に腰かけたまま、横目で二つの黒山を眺めながら答えた。


「はいっ!じゃあ、すぐに支度にとりかかります。ペルっおいでっ!」

 エミリアは一つの黒山を連れ、居間から駆け足で出て行った。



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