↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/95

疑問

14.疑問

「ではこちらの……一番奥の部屋へ魔族を入れてください。」


 受付嬢の指示を受け、ハルクが結界処理を施した長い廊下の片側に並ぶ、鉄柵が施された小さな監視用窓がついているドアの列の最奥の……分厚いドアが開け放たれた部屋に、まずは巧が二本腕の魔族の胴体を冒険者の袋から取り出し、エミリア達が続いて腕や足を取り出し置いていく……。


「じゃあ……首を取り出すぞ……首を所定位置へ置いたらすぐに再生が始まるから……俺が出たらすぐに扉を閉めて施錠してくれ……いいね?」


「はいっ!」

 男爵の指示のもと……男爵が部屋を出たらすぐにボーグルがドアを閉め受付嬢が施錠する。


「ふうっ……これで一安心だ。」

「ご苦労様でした。」

 全員で長い上り階段を上がっていく……



「では清算金を振り込む配分はいかが致しますか?」


「魔物肉と毛皮の清算金は男爵たちの組とうちの組で折半して……魔族の分は全額男爵たちの組へつけてくれ。」

 魔物肉や魔族収監の礼金に関して受付嬢に巧が配分を打ち明ける……


「待て待て待て……魔物肉や毛皮に関しても……巧殿たちにかなり大きな負担をかけたから折半はまずい上に、魔族の礼金は折半ではないか?」


「いえ……魔族を相手にして倒されたのは男爵たちですし、我らの旅に同行頂いているにも関わらず礼金は折半できていないのですから……しかもこちらは二人だけ……魔族収監の礼金はそちらで受け取ってください。お願いいたします。」

 巧がせめて魔族分だけでも受け取って欲しいと頭を下げる。


「いやあ……前にも言ったが巧殿たちの旅に付き合うのはどちらかというとこちら側の都合だから……しかも事情が分かった今では、よりこちら側でお願いしてでも同行したい気持ちが強いのだ。だから……そうだな……全て折半ということで手を打とうではないか……それで……いいだろ?」


 男爵が優しいまなざしで巧を説き伏せる……


「分かりました……ではうちの組の配分はエミリアと俺で折半ですので人数割りということでお願いいたします。」

 仕方なさそうに巧は折れた。


「うちも……四人均等配分だから……では六等分でお願いする。」

「承知いたしました……。」

 受付嬢が笑顔で頷いた。


「うちも……以前は俺が半分貰って、その代わりに全員分の宿泊費や食費に飲み代などは全て俺持ちだったのだが……パステルが加入して……宿代など別部屋……こっちは三人一部屋でパステルだけ一人部屋だと気まずいということで……すべて均等割りにした。パステルは宿で女性の雑居部屋をとったりして宿泊している。」


 男爵が巧にこっそり耳打ちした。



「はあ……久しぶりの宿での宿泊……しかもパステル様と相部屋だなんて……本当に光栄です……。」

 城塞都市エラルドで宿をとり、巧は男爵らと四人相部屋で、エミリアはパステルと二人部屋に宿泊することとなった。勿論いつも通りにハルクによる、魔物と魔族には認識できなくなる特殊な結界を宿全体に施してある。


「宿に泊まれたからと言ってのんびりはできないわよ……魔道具を使うための修行も……心を無にする初期段階はほぼ終了ね……私の時はこの修行を終えるまで半年ほどもかかったのに……本当に優秀だわ。」

 パステルがエミリアを笑顔で称賛する。


「母様が……矢を放つときに色々な雑念があると決して的を射ることはできないからって……精神を集中させるための訓練方法を教えてくれました。水面に小さな石を投げ込むと、そこから小さな波紋がだんだん大きくなって全方向へ広がっていくように……自分を中心に全方向へ意識を向けなさいって……。


 あたかも自分がこの世界の中心に一人でいるかの如く……するとはるか遠くでの小動物が木の上を走る音や風の梵などが感じとれるようになってきて……その上でそう言った周囲の情報一切を遮断して的に向かって集中する……すると的に狙った獣や魔物の呼吸音すら聞こえてくるような……そんな不思議な感覚になるのです。


 そうして筋肉の動きから次の動きを予測して……矢を放つ……そういった修行を幼い頃から続けてまいりました。

 無の境地というのはそのような場合ではないかと思い……試してみたところ……案外うまく行きました。


 ですが……私が思うには……私はパステル様や男爵が扱う魔道具のすごい魔法効果……炎や雷撃がまるで生き物のように動いて相手に襲い掛かるという……あのような場面を目の当たりにして……精神修行で自分も操れるようになれるのだと信じ、必死で修行しております。


 決してパステル様たちの修行に真剣さがなかったとか、本気でなかったとか申し上げているのではなくてですね……ですがパステル様たちの場合はあくまでも、こうすればいいのでは?のような、疑問符が付いた形で修行されていたであろうと私は推測しております。


 それまでは魔道具の正しい使い方などどなたもご存じなく……つまり師匠と呼べるお方がいない状態で手探りで修行を始められた……遥か東方からゼーンの修行僧を招いたとはいえ、それで自在に魔道具を操れるかどうかまでは分かっていなかったはずです。しかも……修行の成果が途上では目には見えない……。


 私はある程度は無の境地に近いところまで達していたと自負しておりますが……それでも魔法効果を操ることはできません……先日の魔物の巣窟の時にサル系魔物相手に水弾を用いましたが……直進だけで曲げることなど全くできませんでした……つまり……無の境地だけでは……修行の終わりではないのですよね?」


 エミリアがパステルたちの場合は修行に長い時がかかったことに関して自分なりの考察を展開する。


「そうね……確かに……疑心暗鬼とまでは言わないけど……本当にこんな修行で魔法効果を自在に操れるのかしらと……少しは心の中にあったかもしれないわね……。


 でも確かに無の境地に近づくことで弓矢の精度も格段に向上したのは間違いないわね……やっていることは無駄じゃないと思えてから無の境地に達するまでは短かったわね。


 お師匠様の言葉を信じて修行に励んでいたつもりだったけど……やっぱり信じ切れてはいなかった……おかげで修行に時間がかかった……まあ仕方がないわね……周りに魔道具を自在に扱える方がいなかったのだから……。


 まあいいわ……それでは第二段階に入るわね……命題よ……いい?まずは無の境地に入るためのゼーンの修行の姿勢をしてください。」


「はいっ!」

 エミリアが部屋の畳の上で胡坐の姿勢をとる。


「呼吸を整えて……無の境地に入ってから……そうして命題をこなすのです。そうですね……まずは簡単なところから……ハルク殿たちが乗っている二頭立ての馬車……それをエミリアさんの掌の上にのせてください。」


「えっ?」

 エミリアが驚いて瞑想を解きパステルの顔をまじまじと見つめる……が、パステルは真顔だ。


「ええと……一見無茶な事のように思えるかもしれませんが……このような命題を真剣に……しかも通常の物理法則に則って……つまりは魔道具や冒険者の袋の使用は禁止ということで……理論立ててこうすればできる……という案を報告して頂きます。


 よろしいですか?注意して頂きたいのは……考えるのはあくまでも修行の時だけにして頂く……少しでも早く命題を解きたくて旅の最中に歩いている時などに考えてしまうと……魔物相手の戦闘時にも頭に浮かんできたりして大変危険です。戦闘時の集中が切れてしまわぬよう……修行中にだけ思案するよう心掛けてください。


 それと……答えは一つだけとは限りませんし、こうでなければいけないという正答例もありませんから、自分ならどうするといった形で答えを導き出してください。毎週一回……どこまでできたのか……報告して頂きます。」

 パステルが注意事項と共に説明する。


「は……あ……分かりました。」

 エミリアは小さく首をかしげながらも頷いた。

 


「巧さんっ……如何ですか?ゼーンの修行は……?」

 翌朝、旅館を旅立ち国境までの道中でエミリアが巧のもとへと寄ってきて声をかける。


「ああ……昨日から無の境地の修行は終わって命題を解く修行に入った。」


「わっ……私も昨日から命題です……私の場合は母様から弓矢の訓練で無の境地に近い形の修行を受けていたので、すぐに取得できたのですが……巧さんもさすがに呑み込みが早いですね。」


「ああ……俺の場合は……記憶がないので剣技の修行のことなどまるっきり覚えていなくて……それでも体に染みついた動きで魔物を駆逐するのだが……その時にこう来たらこう避けてこう斬りかかる……なんて考えていたら逆に動きが硬くなってまともに動けない。何も考えずに反射的な動きに従って身を任せるんだ……すなわち無の境地だな。


 訓練初日にはすぐに無の境地に入って……呼びかけても気づかないから男爵に殺気を向けられ、すぐに飛びのいて身構えたが……その時は焚火を反射する光に吸い寄せられたのだろう……俺の兜の上には大量の蛾が群がっていた。甲冑はすでに俺の体の一部だから普段だったら気付くのだが……無の境地に入ると殺気以外には反応しないようだな。


 初日で達成していたのだが、俺一人先へと進むとエミリアの修行が滞るからと……以前の修行で男爵とパステル殿だけが先に無の境地に達し次の命題へと進んだそうだが、一緒に修行を始めたボーグル殿とブル殿は焦りから無の境地にはどうしても達せられず、しまいに投げ出してしまったらしい。


 エミリアは優秀ですぐに達成できそうだからとパステル殿の報告もあったので、エミリアが無の境地に入るのを待っていて昨日から次へ進んだようだな。」


「そっ……そうでしたか……私のために修行を遅らせてしまい申し訳ありませんでした。」

 エミリアが歩きながら恐縮気味に深く頭を下げる。


「いやいやいや……俺の場合はたまたま……特別な事情があったせいだからね。普通に考えればエミリアだって格段に早いはずだ……だがまあ……その……命題が……。」

 巧は兜をかぶったまま俯き気味に何度も首を左右に振った……


「私もなんですが……なんとハルク様達が乗った馬車を……私の掌に乗せるという……どうやればできるのか……。」


「そうか……俺は……王都のイーストリバーの河川敷……やはりあそこは新人冒険者の登竜門らしく、男爵がボーグル殿とパステル殿を見出したのもあの場所だったそうだが……なんとイーストリバーにかかる橋を……堤防に縄梯子と共に設置してある荷物を河川敷へ上げたり下ろしたりするための籠……あのステンレス製の籠に入れるのだそうだ。


 そんなこと……どうすればできるのだ?しかも……魔法など使ってはいけないのだそうだ。」


 巧も歩きながら腕を組み……またもや首を横に振った。まじめで頭の固い巧はそんなこと到底不可能だとすぐさま答えたのだが、何とかして達成させるのだと……それが修行なのだと男爵に諭されたのだそうだ。


「はあ……お互い大変そうですね……」

「そうだな……ふうっ……」

 巧が深く息を吐いた。



「ふう……国境へ到着したな……今日はもう夕刻で通関も閉まっているからこの辺りで野宿して、明日の朝一番で国境を超えるとしよう。夜明け前から出発して刻限前に国境を超えることも出来たが、国境を越えてもすぐには町はなく、結局野営しなければならないからね。だから……今日くらい朝ゆっくり出てくるのが案外正解なんだ。」


 男爵が国境前の馬車用の駐車場から少し離れた空き地で、野営の支度をしながら笑顔を見せる。


 エラルドを出発してまたまた山道を進み、山の斜面を上ったり下ったりしながら一日進み、ようやく山間の僅かな窪地に造った国境の建物へ到着したがすでに関所は閉まっていた。


 自然の要害ともいえる国境線は、それでも関所には大きな木製の両開きの門が設置されており、その前面には通行を審査する役所の建物があり、門の左右には二十尺ほどの高さの鉄パイプの枠に鉄製の目の細かい網が張られた壁が……山肌に沿って見通せる限り延々と続いていた。


「巧殿とエミリアには……今日も見張り番の時には修行の命題の解を考えてもらうからね。まあまずは……食事の支度をするか。」

 ボーグルとブルと三人でテントを張り終えた男爵は、火を熾し始めた。


「そういえば……昨日魔族を収監したエラルドの冒険者組合では、もう何十年間もの長い間魔族を収監していないと仰っていました。魔族が居なくても魔道具にチャージするための魔力の供給は、国境を越えた先にあるハリキルの町へ行けば魔族が収監されているはずだから大丈夫と仰っておりましたけど……。」


 自立式テントで袋から取り出しカバーを外して置けばそれで完了のエミリアは、早々に男爵の前に座り問いかける。


「ああ……恐らくその推測で間違いはないと思うが……何か疑問点があるのかね?」

 男爵が辺りに転がっていた石を積んで簡易竈を作りながら、目線をエミリアへ向けた。


「そう言えば……サントスでもここ数年間は魔族を収監していないと、鳥系魔族を運び入れた際に仰ってましたし、王都中央の冒険者組合も魔族を収監してなく、運び入れた際に喜ばれました。


 サントスは王都にほど近いですし、王都の場合は中央のほかに東西南北に冒険者組合があるということで……恐らく魔力供給に支障は出なかったと考えますが、それでも王都では魔力チャージに数週間から数ケ月待ちということで……待ち時間を嫌う冒険者らはテルミやアルミナの魔道具屋へ入り浸っていたほどです。


 アーミンの冒険者組合に魔族を運び入れた際も、十数年間も魔族収監がなかったからと……ハルク様が結界を施術されてから収監となりました……ですがここで大きな疑問が生じます……。」


「うん?疑問とは何だね?」

 エミリアの問いかけに男爵は手を止めずに、竈に薪を配置しながら受け答えた。


「はい……魔族は寿命が長くしかも殺そうとしてもなかなか死なないと聞きました。中には数千年も長生きの魔族もいるという事でしたが……そうなりますとおかしいですよね?一度収監しさえすれば千年や二千年は生きてずっと収監されている筈なのに……どうして魔族不在の組合が多いのでしょう?折角捕えて収監しても脱走してしまうのでしょうか?」


 長寿のはずの魔族が居ない組合が多いことから、エミリアは脱走する魔族が多いと推察している様子。


「ああ……脱走を考えているのか……確かに……魔王が出現して魔族は人間とは袂を分かち対立するようになってから、魔族の比類なき力に対抗する勢力として冒険者が職業として成り立つようになり、やがて冒険者組合が発足した。


 当時は冒険者組合建物は木造で……それでも魔族を収監する牢は鉄格子で遮られていたのだが……それでも焼き討ちにあったりして……捕らえても捕らえても魔族はすぐに脱走していたそうだ。


 そこで城壁や城並みに堅牢な……石造りの冒険者組合建築に切り替わった。魔族を収監する牢も地下深くに設置され、しかもそこまでの通路も全て鉄の棒で接合した堅牢な石積みで造られた。それでも建設当初は仲間の魔族に襲撃され脱走する場合もあったようだが、魔族の魔法に対抗する結界術が編み出され、より強固に守られるように変わっていった。


 現在の組合の魔族収監用の牢は、脱走不可能と魔族にも恐れられているようだね。


 そうなると……魔族は今度は敵である人間には協力しない……自分たちに対抗する武器である魔道具をチャージするための魔力供給は行わないという態度をとり始めた。そこで……非協力的な魔族には食事を与えない……という、現在のような魔力供給に対する褒美として食事を供給する形となったわけだな。


 当時はまだ協力的で魔力を供給してくれる魔族もそこかしこに存在していて……協力を拒む魔族を収監している牢では食事時だけ結界を緩め……協力的な魔族の食事の匂いや音などを他の魔族に嗅がせたり聞かせたりもしていた。


 魔族は目もいいが耳や鼻も犬並みによいと言われているからな……他の魔族が食事するのをただ見守っているのは相当な苦痛なはずだ。長寿であるにも関わらず、魔族収監用の牢が幾部屋もあるのは協力しない魔族を食事で釣るためだ。」


「ええっ?以前魔力供給のお礼として魔道具屋のご主人が、牛一頭分の肉を差し入れるとお聞きしましたが……協力しない魔族にはその食事をただ見せていたという事ですか?だって……何日間も……十分に食べていないんですよね?そんな残酷な……。」

 男爵の言葉にエミリアが絶句……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。