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第二の巨大巣窟

12.第二の巨大巣窟

「いやあ……ようやく追いついていただけましたか……馬車だけで進むこの三日間は……本当に心細かったですよ……なにせ我々だけでもハリキルのエールを目指して聖教会へ伺わねばならないですからね……勿論我々だけということになりますとそれは失敗報告ということになりますけれどね……ですがまたご一緒できて本当によかった。」


 巧たちが急ぎ先を目指しハルクたちに追いついたのは、予定よりも一日遅れた二日後の夕刻……宿泊先である茶屋を兼ねた宿場町へ入ろうとする寸前だった。ハルクがほっとした様子で満面の笑顔で迎えてくれた。


「えっ?旅の目的が男爵らにバレてしまった?そうですか……魔族から伝わった……仕方がないですよね……奴らの狙いはまさにそれですから……私も男爵がご同行頂けることを知り伝書バトを王都に向けて放ったのですが……早飛脚で返信が本日届き、男爵ら御一行には旅の目的を打ち明けてもよいと王様の許可状が添えられておりました。


 ですので何ら問題ございませんよ……どのみち魔族から伝わったのであればこちらの落ち度ではありませんからね。


 ですがそうですか……男爵が魔王の伝説の研究家だったとは……存じ上げませんでした。後進の育成に熱心であることは有名なのですが……確かに魔王研究はあまり表だってやれることではありませんものね……おとぎ話と言いながら子供に読み聞かせる絵本にすらなれなかった……えっ?文章にすると燃えてしまう?ほんとですか?そんな事情が……。」


 二日ぶりに再会したハルクはいつにもまして饒舌だった。



「では我々はこの先で野営するので……。」

「はい……この先もよろしくお願いいたします。」

 ハルクらと別れて巧たちは四半里先の野営地を目指す。



「今日も又、無の境地になる修行だ……段々と慣れてくると無の境地になる前に寝てしまうから注意が必要だぞ。」

 野営して夕食後、交代で見張り番をするとき巧はゼーンの修行を行う……勿論エミリアも……



「やはり街道を離れて半里ほど先に中規模な魔物の巣窟があったのだが、今はそこへかなりの数の魔物が集結していることがボーグルとブルの斥候で分かった。今から行って退治しておかないと……後ろをとられては先行きがおぼつかない。」


 魔物らの襲撃もないまま三日後には先般同様マークしていた巣窟へ他地域から魔物らが流入している様で、斥候に行っていたボーグルが戻って来て男爵が掃討に向かうと告げ、巧たちも一緒に向かうことになった。



「キキィーキキッキキッ!」

「なっ……痛っ!」


「どうやらサル系の魔物の集団だな……ここはもう高山だから……いわばサル山……元からの中規模巣窟とはサルの集団だったのかもしれないな……。」


 今回も男爵らと別れ、周囲を囲むように分担して攻め込むように南側を割り当てられ、まずは狐系魔物と大柄な狼系魔物らの集団を駆逐……明るい場所へ出たと思ったらそこは木立が林立する……いわば林……うっそうと樹木が密に茂る街道を外れた山肌に比べたら木の密度は半分以上に薄いが……それでも二~三間程度の間隔で木々が生い茂っている。


 その樹上から石を投げつけられ避けるが、それでも躱せずに時折肩や足先などに当たりかなり痛い……。


「仕方がない……装着型の盾を貸してやるから左の腕に着けろ……弓を構える邪魔にはならないはずだし、石つぶて程度であれば十分防げる。扇のように畳めば腕よりも少し幅がある程度だが……開いていくと半開きで半円状……全部開くと丸い円形盾となる。」

 巧がエミリアに扇形の盾を手渡し、自分は円形の盾を右手に装着した。


「どうにもその……盾は苦手で……その重さで狙いが下がってしまうのは勿論ですが……盾が抵抗となりたまに吹く風の影響で狙いがずれてしまうのがどうにも許せなくて……。」

 エミリアは巧の気遣いにも渋い表情を見せる。


「仕方がないだろ……鍔が邪魔になるからと頭を保護する帽子すら嫌がるのだから、せめて装着型の盾で防がないと……麻袋の頭巾など役に立たないし怪我するぞ!幸いにも木立のおかげで風の影響も少ないだろうから……着けても大きな障害にはならないはずだ。


 何よりも身の安全が最優先だろうしね……。」

 巧は押し付けるようにしてエミリアに装着型の盾を受け取らせ、エミリアも渋々左腕に装着した。


「ですが巧さんは右肩のけがはもうよろしいのですか?」


「ああ……傷はとっくに塞がりゼーンの修行の合間に肩を動かす訓練も始めている。思い切り剣を振るうのはまだ自信がないが、盾で防ぐくらいの動きなら平気だろう。なんにしても樹上を地上と変わらず素早く動いて石や枝など投げて攻撃してくる厄介な相手のようだ……さすがに木に火を放つわけにはいかないから……山火事になってしまうとまずいからね。


 エミリア……弓で狙えないか?」


「動きが素早すぎて……その上目線より上の的を射抜くのは弓としてはあまり得意ではありません。放たれた矢の軌跡は放物線を描いていくので、狙い目が何もない空になってしまいます。止まっていればまだしも……動いているのは……。」

 エミリアは自信がなさそうに首を横に振る。


「ふうむ……そうなると……どうするかな……。」

 巧が腕組みして考え込む……アルルもぺリルも木に前足を乗せて樹上を威嚇するのだが……吠えても効果がないと分かり落ち着きなくうろうろとするばかりのようだ。


「仕方がない……魔道具を使うか……水系魔道具で水弾を飛ばせば……目にもとまらぬ速さで飛んでいくからな。しかも魔法だから矢と違い目標に当たるまで真っすぐ飛んでいく……弱だと五十間ほどで消えてしまうがね。


 前回同様この巣窟にも水場はあるはずだから水源として申し分がないし、何より細い枝は折れるかもしれないが木の幹なら当たっても平気だろう。自然破壊にもつながらないからいいと思う。しかもあらかじめ飛んでいく先を予想して枝を濡らしておけば、魔物の手が滑って落ちるかもしれないからな。落としたらアルルとぺリルに始末させよう。


 エミリアも水系魔道具を持っていたはずだろ?」


「はい……母様の魔道具の中にも、この間魔道具屋のご主人に確認いただいたところ、四回か五回分はチャージが残っているという事でしたし、巧さんに頂いた三つの中にも……こちらはチャージは満タンですよね?」


「そうか……弱だとその一回分で水弾十発撃てるからな……中だと一発で強は一発で八から十回分使うから強は一発だけだな。まあでも……弱なら百五十発撃てる計算だから……まあ十分余るくらいだろう。


 強中弱の加減は放ちながら調整するしかないが……出来るだけ木と木の間を移っている時を狙うのがいいと思う……少しの衝撃で体勢を崩して次の枝が掴めずに落ちてしまう可能性が高いからね。区分を一番左の水弾にして、出力を弱に切り替えるんだ。


 魔道具を使用するにあたって注意する点は……強中弱と書かれた突起を押すと発射するのだが、突起を押した時点で魔法効果の集約が始まる。物質系魔法なら近隣から水や石や土などを集めてくるし、炎系なら空気を圧縮して温度を上げ更に励起して発熱させ、雷撃の場合は一旦圧縮した空気を瞬間的に膨張させて雲を作り電荷を溜めると聞いた。


 雷は天空の雲の中で発生するからな……。


 そうして突起から指を離した時に発射するから魔道具をしっかりと持って狙いをずらさないのがコツだ……押して直ぐ離してしまったら少し時間をおいてから発射される場合がほとんどで……だから発射するための準備が整うまで一呼吸おいてから離すのがいい……。


 勿論魔法効果を強にすれば集めるのにそれだけ時間がかかってから発射されるからね……水系だと周囲の水源までの距離などにも左右されるので注意が必要だ。何度も使っていると……段々と離すまでの間隔が分かってくるさ。」

 巧が魔道具使用のコツをエミリアに伝授。


「はいっ……アルっ、ペルっ……しっかり見ていてね。」


 巧もエミリアも素早く樹上を動き石を投げつけてくるサル系魔物に対し、装着型の盾で防ぎながら水弾を放って攻撃し始めた。特にエミリアは弓を構えるふりをしてサルが隣の木に移ろうとする瞬間を水弾で攻撃……これがうまく決まって次々落としていく。


「キキィーッ」「キッ」

「アルっ、行けっ!」「ペルっ、行けっ!」

 都度アルルとぺリルを落下地点へ走らせ、サル系魔物を仕留めていった。



「ふうっ……五十は優に超えていた群れが……ようやく片付いたな。最後は体が一回り大きなボスザルはいたけど、結局石を投げてくるだけで特に変わった攻撃はしてこなかった。まあ樹上だからどれだけ力が強くても岩などは置いておけないからね……せいぜいこぶし大の石をいくつも溜めて置くくらいだったのだろうな……。


 ゆうに百発は撃ったけれど本来ならば水弾だって曲げて目標の死角から直撃できるから、もっと効率よく仕留められたのだろうが……まあ俺たちの今の実力から考えたら上出来だろう。


 なんせ的は小さい上にすばしっこいからな……上々と考えて……先へ進もう……」

 巧とエミリアは見通しがきかない林の中をさらに進んで行った……。



「うわっ……やはり出たか……。」


「なっ……何ですか?二本足で立って人のようでいて……体中毛むくじゃらの上に頭が大きくて目が大きいけれど鼻が低く……鼻と口までが人間よりもかなり長い……ずいぶんと面長な生き物……人ではありませんよね?」


「ああ……こいつは……サルの仲間のヒヒだ。」

 林の中でも少し木の密度が薄れたあたりで待ち構えていたのは……五匹のヒヒの群れだった。


「ヒヒ……ああそういえば……昔図書館の生き物図鑑で見たことがあります……確か南の方に生息する……。」


「ああ……そうだな……俺も獣が魔物化すると知ったので王都図書館で生き物図鑑を片っ端から読み漁り、その生き物の特徴を覚えて魔物化したときの戦い方を練った。そうしておくと初めて出会った時にも慌てず対処できるからね。


 こいつは先ほどいたサルよりももっと知能が高く……その上力も強い……背丈はおよそ五尺か……体を鍛えた成人男性の倍以上も力があるからな……捕まらないようにしないと簡単に絞殺されるぞ。


 しかも……討伐しに来た冒険者から奪い取ったのだろう……剣を持ち胴巻きを身に着け兜まで……着方は少し不格好ではあるが……動きは速いだろうし、すぐに襲い掛かってこないところを見るとこちらの動きを見て戦力分析をするつもりなのだろう……かなりの強敵だぞ……エミリアは少し後ろに下がって矢を放って援護してくれ。


 アルルとぺリルは……攻撃しなくていいから走り回って敵をかく乱させて欲しい……幸いにも木々は少なくなって平地が増えているからな……十分走り回ることは可能だろう……問題は……魔法を使うかどうかだが……使われでもしたなら俺たちだけではまあ勝ち目はないだろうな……。」


 なんと……武装したヒヒの群れ……巧は自信なさそうに身構えた。


「アルっ、ペルっ……敵……間……走る……走る……いい?」

 エミリアは相棒らにヒヒの群れの間を走り回るよう、両手を使った身振りで指示をする。


「わふっ」「わんっ」「行けっ!」

 黒い大きな塊が二つ……左右に分かれてヒヒたちの群れを両側から包みこむかの如く駆けながら突っ込んで行く……


「はっはっはっ」

 ヒヒたちが左右に注意をはらった瞬間……群れの中央部分を狙ってエミリアが矢を連射し始め……


「だりゃあっ!」

 巧が群れの前方に立つ二匹のうちの左側に斬り込んでいくと……


「ガッ!」

 ヒヒは歯をむき左手で剣を振るうが巧は装着した右腕の盾でこれを受け止め……甲高い金属音が鳴り響く中……

「グッ……」

 巧が左手に持つ剣でヒヒの胸を貫いた……


「だあっ!」

 さらに剣を抜いた反動を使って右回りに一回転……踏み込んで水平切りで腹を一閃……右側の一頭も仕留めた。


「ガアッ!」「ガッ!」「ガアアッ!」

 すぐ後ろの三頭が思い切り歯をむき出しにして吠え威嚇するが……エミリアが放つ矢と足元を駆けまわる犬たちに気をとられ、巧の方へ思い切って向かって行けない様子だ……


「どおせっ!」

 巧は勢いを殺さぬように足さばきを使い後列左端の一頭の正面へ突っ込むが、ヒヒは左手で剣を振り回しながら後方へ跳躍……助走もなくても数間は引いた……


「アルっ、喉、噛みつけっ!」「がああっ!」

 すかさずエミリアが叫びアルルが飛びのいたヒヒの喉元へ大口を開け飛び掛かった……


「だりゃあっ!」

 巧はすぐ隣の一頭に向かって踏み込んで行き、ヒヒは引こうとするがそこにはぺリルがいるので動けず……ひたすら左手で剣を振るうだけで、剣の柄に右手を添えた巧に右肩から袈裟懸けで一刀両断された。


「ガアアッ……ガアッ!」

 残されたヒヒはなおも歯をむき出しにして吠え威嚇するが……襲ってくる巧に意識をとられた瞬間……エミリアの放った矢に胸を貫かれその場に伏した。


「はああ……なんとか……勝てたな……普段の倍は速く動いた気がする……ふうう……。」

 巧が疲れ切ったといった感じでその場に膝を着く……


「勝てましたね……それにしても武装している魔物というのは……魔族と眷属以外では初めてです。やはりサルの仲間は賢いのでしょうね……。」


「ああ……そうだな……だが所詮は猿真似……俺の勝手な推測だが……恐らくサルの利き手は左手という事ではないはずだ。


 だが五頭全員が左手で剣を持っていた……それは剣や防具を奪った冒険者らが全員右利きだったからだろうな……奴らから見て左側の手で剣を持っていたからそれを真似た……鏡で見るようにね……利き手ではない方の手で剣を握っていたから、攻撃力はさほどではなかったのではないかな……振り下ろした剣を盾で受けたが簡単にさばけた。


 利き手で剣を持ち日頃から訓練して素振りでもされていたなら……振り下ろした剣を装着型の盾なんかでは受け止められずに、腕ごと持って行かれていただろうな。


 あれだったら前のサルたちの様に……もう少し大きめの石で応戦された方が手ごわかったかもしれないくらいだ。

 人間の方が知恵が回ると……威張るつもりは毛頭ないがおかげで助かった。まあ……こいつらの威嚇する動きも大いに役立ったがね……」


 人間の冒険者を見習い武装したおかげで戦力低下が生じたことで、かえって助かったのだと巧は分析をし、更にアルル達を頼もしそうに見つめた。


「先を急ぎましょう……男爵たちは恐らくはもう……。」

「ああ……そうだろうな……。」

 エミリアに促され巧はよろよろと立ち上がった。



「見逃してくれと言っても……見逃してはくれそうもないな……先の巣窟の仲間も手に掛けたようだし……その仇討も兼ねて……相手をしてやろう……。」


 巧たちがヒヒたちを相手にしている時……男爵たちは既に巣窟中央部の開けた空間に出ていた。そこは前回ほど広くはないが、それでも十町歩以上は木立のない平坦な場所であった。既に丸太で組まれたログハウス的な家はできており、隣に建てられた木の板張りの小屋からは牛や豚など家畜の鳴き声が聞こえ、開墾した畑には野菜が実っていた……


 恐らくは眷属であろう……野良着を着て畑で肥料を蒔いたり畔を組んだりしている二人の人間は男爵らの姿を見ても作業をやめず……大柄で体の色が浅黒い魔族だけがログハウスから出て来て男爵らの応対をした。


「いいのかい?こっちは四人だが……助っ人の二人はそのままでも?」

 男爵は魔族が一人だけで戦おうとすることに不満を持っているかの如く問いかけた。


「構わんさ……本当なら僕らの腕試しと行きたいところだが……万一の場合、従事者を募って従えるまでの時間が惜しいでな……こいつらにはおとなしくしておれと言い含めて置いた。わしが直々に相手をしてやろう……。」

 魔族は腰に下げた剣を……右手には片刃の長刀……左手にはこちらも片刃の小刀を持ち身構えた。


「二刀流……。」


「ああ……ヘルムの使う二刀とは違うぞ……あいつの場合は手が四本だからな……だがなあ頭の構造から言うと人族の手は通常二本で、四本あったところで二本の時ほど自在には動かせん。ヘルムとは昔馴染みで何度も模擬鍛錬を行ったが……結局のところ上側二本と下側二本の組み合わせで動かす場合が常で、四本同時には操れなんだ。


 まあそれでもあいつは馬鹿力だからな……それなりに剣の威力はあったのだが……やはりやられてしまったな。

 わしはそうはいかんぞ……手が二本だから与し易いとは決して考えぬことだ。」


 魔族はヘルムが倒されたことは当然のことのように言い放つと……低く身構えた……大柄な体に着物に袴姿……ヘルムの様に腕が四本ではないのだから甲冑だってつけられるだろうに……防具がないのは絶対の自信の表れだろうか……


「ふうむ……隙が無いね……。」

 いつもは突っ込んで行くはずの男爵も、踏み込みを躊躇っている様子だ。


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