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決戦

10.決戦

「なんだ……この戦いは……」

 ようやく男爵たちの戦場へ到達した巧たちはその戦いぶりを見て唖然……


 甲冑姿の眷属目がけてパステルは弓を連射……眷属は巧みな足さばきで矢を避け乍ら距離を詰めようとするが、今度は火炎放射を浴びせられ後ろへ飛びのく……が、火炎はまるで蛇のごとく眷属の動きに沿って追っていく……


 負傷し動きの鈍い眷属目がけブルが大ハンマーを振り回して襲い掛かっていくが、ものすごい勢いの水流がブルが身を躱して避けても避けても前後左右から追われ、ついには後方へと吹き飛ばされた……眷属が発する水流攻撃も直進だけではなく曲がって相手に達するようだ……。


 仕方なくブルは目標を変えパステルが狙う甲冑眷属に切り替え大ハンマーを振るい、パステルは動きを止めた眷属二人に矢を射かけ始めた。


 長槍を使う甲冑眷属だったがブルの渾身の一振りを難なくかわし懐に入るとブルの腹部目がけて槍を突く……ブルは後方へ跳ね飛び危うく難を逃れた。


 太ももを射抜かれ動きが制限された二人の眷属は……パステルが放つ矢を今度は強烈な水流で弾け飛ばそうとし、パステルは雷撃攻撃に切り替えまるで生き物のように地面を伝い眷属に襲い掛かる雷撃を放つが、眷属はすぐさま土系魔法で防壁をせり出し雷撃の進路を断つ。


「す……すごい……剣術に弓術、大鎚を振るう腕もすごいが何より魔道具の使い方が……まるで異次元だ。俺のように魔道具についている魔法効果と強中弱の区分を押して目標へ向けるだけの戦い方とは全く異なる……」

 巧は目の前で繰り広げられる桁違いにレベルの違う戦い方を見て呆然自失……立ち止まってただ戦況を眺めている。


「巧さんっ!しっかりしてください、まだ戦いは終わっていないのですよっ!」

 エミリアが巧の左肩を掴んで揺らしながら、まだ終わっていないと告げる。


「あっ……ああ……そうだったな……ようしっ……。」

 巧はエミリアの叱咤に呼応し……両手で兜の面帯越しに頬の部分を叩いで自分を奮起させる。


「エミリア……パステルが対峙している二人の剣士のうち、魔道具を操っている手前側の眷属を狙えるか?首や胸など急所を狙っても簡単に避けられるだろうが……案外魔道具を持っている右手は避けにくいものだ……下手すると魔道具を落としてしまうからな……パステルが魔法攻撃を仕掛けて対処しようと眷属が魔道具を操ろうとした時が狙い目だ。」


「はいっ、やってみます。」

「よしっ……アルルを借りるぞ……アルルっ……来いっ!」

 そうして巧はブルたちが戦っている方へとアルルと共に駆けていった。



「ほっほう……ずいぶんと手ごわい……さすがこんな山奥まで攻め込んでくるだけはあるようだな……だがそんな余裕もここまでだ……ここからは本気を出させていただくぞ……。」


 四本腕の魔族が睨み付けると白熱化した幾つもの球体が高速で男爵とボーグル目がけて飛んでいく……だが……それらは全て男爵が放つ水撃で無効化され中空で泡沫と化した……


「遅いっ!」

 だが次の瞬間……一蹴りで間を詰めてきた魔族は二本の腕を思い切り振りあげ男爵の左肩口を狙う……


「はっ」「おりゃ」

 男爵とボーグルが何とか剣と槍で振り下ろされた剣をぎりぎりで両手で止めた……巨体のボーグルは男爵と魔族の間に挟まれ膝を曲げ体を縮めているためか辛そうに顔をゆがめる……


「どりゃあっ!」

 すぐさま魔族が左手を横に振り盾を使ってボーグルを体ごと押しのけると、七尺の巨体が軽々と吹き飛び数間先の地面を転がった。


「だりゃあっだっだっ!」

 魔族はなおも右の二本の腕で剣を振るい、男爵は何とか一本の剣でそれを受け止め防戦一方となった……すぐさまボーグルが立ち上がり、槍を構え二人の間に割って入っていく……


「おうおうおうっ!」

 ブルが長槍使い相手に大ハンマーを振り回すが、低く構えた槍使いは足さばきだけでハンマーを躱し、


「だっ!」

 距離を詰めては槍で一突き……慌ててブルは後ろへ飛びのく……射程の長い長槍が優位に戦いを進めていた……。

 だが二人の間合いが広く空いた瞬間……


「アルルっ、頭、噛みつけっ!」


 甲冑だけで兜をかぶっていない眷属目がけ、巧はアルルを突っ込ませる……だが眷属は慌てず長槍を振って飛び掛かってくるアルルを振り払おうとするが……アルルは空中でひらりと身をよじって槍の柄を小さく蹴って向こう側へ着地。


「だりゃあっ!」

 次の瞬間間を詰めていた巧が踏み込んで左手だけで剣を振るい、眷属は今度は槍の柄部分で巧の剣を受けた。


「おうあっ!」

 だがその時水平に大きく振り回された大ハンマーが眷属の右肩を直撃……眷属の体は横っ飛びに吹っ飛んだ……すぐさま巧は駆け寄り眷属の顔と両手を魔道具の炎で焼き、


「ブルさんは男爵のもとへ!ここは俺たちがっ」

「おおっ!」

 ブルは急ぎ足で男爵と魔族のもとへと向かう。


「うぎゃああ……」

 吹き飛んでいた意識が顔面を焼かれて戻ったのか、もだえ苦しむ眷属の喉を小刀で突きとどめを刺した。


 小さな段差を飛び越え足を引きずりながらもパステルとの距離を詰めようとする二人の眷属……パステルがもう一度地面を張っていく雷撃を放ち眷属が魔道具を操作しようとした瞬間……エミリアが放った矢が右手首に突き刺さり……


「うぎゃああっ」「ぎゃあっ」

 雷撃は水魔法で濡れた地面を伝って二人の眷属は感電……


 パステルとエミリアはすぐさま駆けよりエミリアが矢をつがえて警戒する中、パステルが二人の眷属の顔と両手を炎系魔道具で焼き、更に小刀でとどめを刺した。


「ありがとう……彼らも魔道具の使い手で苦戦させられたわ……。」

 パステルがエミリアに対して頭を下げる。


「いえいえいえ……滅相もない……ですがすごいですねえ……魔道具の使い方……。」

「今度教えてあげるわ。」

「ホントですか?」


「勿論よ……男爵も言っていたでしょ……あなたたちを育てるって……それよりも男爵たちが心配だわっ」

「そうですね……行きましょう。」

 二人連れだって男爵らの戦場へ向かう……



「おうおうおうっ」


 駆けこんできたブルが魔族の左わきから大ハンマーを水平にふるうが、二本の手に持つ盾で容易に弾かれてしまう……魔族は右手の二本の剣を振るい男爵へ斬りかかっていきボーグルと男爵が剣と槍で受けるが、ブルのハンマーを弾いたためか踏み込みが浅くボーグルが槍で剣をはねのけた……


「どりゃあっ!」

 すかさず男爵が手首を返して剣を水平切りに……堪らず魔族は後方へ数間ほど飛びのいた。


「ふうむ……集まってきたところを見ると我が眷属は仕留められたようだな……だがそれで勝ったとは思ってくれるな……まだまだこれからだ。」

 魔族は不敵な笑みを浮かべ臆することはない。


「勿論そのつもりだ。」

 男爵も真顔で応じた。


「ふんぬっ!」

 魔族が気合を入れると……その全身に青白い雷光が走り回る……髪の毛は総毛立ち鬣を連想させ、青白かった魔族の毛むくじゃらの肌は真っ赤に変わっていった……


「おりゃあああぁ!」

 全身に雷をまとった魔族はその状態で二本の剣を振り上げ男爵目がけて突進していく……


「ちいっ!」

 男爵も応じようと低く身構えるが、魔族に触れるだけで危険な状態だ……


「はっはっはっ!」

 パステルが堪らず矢を連射するが。

「でりゃあっ」

 魔族は駆けながら左の盾で簡単に叩き落した。


「エミリアっ、足元を狙え!駆けて行く先を予想して、着地するときを狙って射かけるんだっ!」

「はいっ。」

 巧の指示を受けエミリアは慎重に魔族の行先を見定めながら弦を引き絞り……矢を放った……


「ちいっ!」

 これには堪らず魔族も踏み込むのをやめて後方へ飛びのいた……エミリアの矢は丁度踏み込もうとしていた足の甲部分を狙っていたようだ。


「どっせっ!」

 すかさずボーグルが長槍で魔族を突いていくが、盾で簡単に払いのけ……


「おらおらおらっ」

 ブルが水平に振り回すハンマーは、華麗な足さばきで躱していく。

 いつの間にかボーグルもブルも両手に黒いゴム手袋をつけて戦っていた……雷撃対策のようだ。


「どおりゃあっ……だあっ!」

 ゴム手袋を装着した男爵も剣で斬り込んでいき、魔族は堪らず後ずさりして押され気味に……


 ところが魔族の背後から巨大な火炎が……巧の火炎魔道具による攻撃だ……直線的な攻撃だが後ろには目がないので右へと大きく飛びのいたが魔族の後頭部の髪の毛がちりちりに焼け焦げた。


「だらあっ!」

 すかさず男爵が回りこんで斬りつけていき、バランスを崩した魔族は防戦一方……


「おらおらっ」

 ブルのハンマーを何とか盾で受け流したが……


「どっせいっ」

 ボーグルが思い切り体を伸ばして放った渾身の突きを胸に食らい……ゆっくりと膝を着いてその場に坐した……


「ふうっ……結局六人がかりか……とんでもない強敵だったな。危うくこっちがやられるところだ……。」

 男爵がほとほと疲れ果てた様子で、その場に尻から座り込んだ。ブルもボーグルも立ってはいるが其々槍とハンマーを支え代わりに、ようやくと言った有様のようだ。


「復活したら厄介だから、首だけ落としておきますよ。」

「おおっ……悪いが……頼む……」

 巧の問いかけに男爵は力なく答えた。



「ふあー……じき日が暮れるな……予想よりもはるかに時間がかかってしまった。今夜はここで野宿だな……後始末もあるし、まだまだ魔物が集まってくる可能性はありそうだからな……。」


 四半刻ほどしてから男爵はよろよろと立ち上がり、倒した獲物を捌いている巧たちを眺めながら呟いた。

 既に日は傾き始めブルもボーグルも動き出し、ようやく全員で仕留めた魔物達の処理が始まった。



「眷属は顔と両手を焼きましたが、魔族はどうします?」


 巧とエミリアは自分たちが仕留めた十二頭の大型牛系魔物らの肉と巨大狼系魔物とヤギ系魔物らの肉と毛皮を剥ぎ冒険者の袋に収容し終えた後で、男爵に問いかけた。


「ああ……両手足を切り落とし、それぞれを布でくるんで冒険者の袋に分担で持ち運ぶしかないだろうな……国境前でなければ魔族を収容できる城塞都市はもうないからね。巧殿の袋は外国製の特注品だろ?口元も広くでかいから胴体だって入るよな?」


「はあ……腕は肩ごと切り落とし足も腰の付け根から切り落とせば何とか入ることは入るでしょうが……。」


「簡単には死なない魔族の胴体を冒険者の袋に入れるのは抵抗があるだろうが……まさかこんなでかいのを担いで運ぶわけにもいかんだろ?ハルク司祭らの馬車だって山道では荷物はそれほど積むことはできないだろうからね。」


「そうですか……仕方がありませんね。」

 巧が両手足を切り落とした胴体を、男爵が頭でボーグルとブルが腕を二本ずつ、エミリアとパステルが足を一本ずつ収容して持ち運ぶこととなった。



「すまなかった……大型の牛系魔物四頭逃して巧たちの方へ……」

「俺も……牛系魔物四頭逃した……。」

 焚火を囲んでの遅い夕餉の際に、ブルが切り出しボーグルも頭を下げる……


「こっちは見上げるほどの巨体の狼系魔物を逃して巧殿たちの方へ追いやってしまった……悪かった……。」

 さらに男爵まで……


「仕方がなかったのよ……追い詰められた魔物達は逃げ道を模索して……勢いがさほど強くない巧さんたちの方へ集中しようとしたのね。すぐに追えばよかったのだけれど眷属を引き連れた魔族が残っていたから……私たちが魔物のボスらを追ってしまうと魔族は反対方向へ逃げ出しただろうから魔族を包囲するしかなかったの。」


 パステルが代表して当時の状況を語る。


「そうでしたか……牛系魔物ボス級の群れの突進だなんて味わったことなかったのですが何とか倒せましたし、巨大狼系魔物は魔法も使いましたがそれでも倒せましたからね……大丈夫ですよ、あんな大物魔族相手じゃあ仕方がない。


 なあエミリア……眷属引き連れた魔族相手に比べたなら……。」

「はいっ、その通りです。」

 巧は仕方ないと答えエミリアも笑顔で頷いた。


「それで……ヘルムとかいう魔族が言っていたのだが……魔王直轄の部隊長と言っていたからかなりの大物だろう……恐らく魔王が存在した時代から生きていたはずだから……強いはずだ。


 奴の狙いは魔王の羊皮紙と言っていたのだが……巧殿たちの口外できない理由というのはそこにあるのかな?」

 男爵が巧達の旅の目的について核心に触れてきた……


「でっですが……それにしても凄かったですよねえ……そんな大物魔族相手に……しかも魔道具を使った魔法がこう生き物のように曲がったりして……。」

 すぐさまエミリアが話題を切り替えようと戦闘時の魔道具の使い方を褒め讃え始めた。


「あれは……魔道具本来の使い方なのよ……。」

「魔道具本来の使い方……ですか?」


「そうだ……魔道具というのは本来魔族らの魔力を貯めておく箱……容器でしかなかったらしい。


 古代魔族がまだ人族として人間や亜人らと共に生活していたころ……魔族が使う魔法は便利でろくな武器がないころだったから、特に獣や魔物らを自分たちの居住区域から追い払うときに有効だった。だが魔族は長寿ゆえに数は少なく各地で引っ張りだこで……そのうちに自分達の魔力を貯めて置ける容器を作り出した。


 その容器に溜めた魔力を人間や亜人が使って魔法を生み出し、魔物らと対抗するわけだ……ところがただの容器だから扱いが難しく、炎魔法を繰り出そうとして本人が全身火だるまになったり、水流で撃退しようとして自分が放った水にとり囲まれて溺れたりと……逆に被害が出るようになってしまった。


 魔族は魔道具使用に関して修行をして正しく魔法を使えるようになってから使えと言っていたようだが、無精な人間は簡単に扱える道具を求めたので、仕方なく魔族は魔道具に魔法効果と強弱の切り替えを設けたと言われている……それが今に伝わる魔道具だ。だから本来魔道具とは容器についている切り替えを使うのではなく、使用者が念じて使うものだ。」


 詳細説明は男爵が代わって行った。


「念じるとは……どのようなことですか?」


「魔道具を扱うには本来厳しい修行をしてからでないと使えず、その厳しい手順があったという事のようだが……今現在魔道具の扱い方として古来から伝わっている教本などは一切存在しない。元々遥かなる太古のことで……紙や印刷技術もなかった時代だから……竹簡に写し書きしていたのだろうが余りに修行とやらが厳しすぎて廃れてしまったようだ。」


「では……魔道具の本来の使い方は現代には伝わっていないのですね?」

 エミリアが残念そうに俯いた。


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