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襲い来る強敵たち

9.襲い来る強敵たち

 その後六尺を超える巨大な猪系魔物のボスが突進してくるのをエミリアが左目を射抜き、勢いが弱まったところを巧が左手だけで剣を振るい喉笛を一突き……。


 群れの勢いが弱まったところへ突撃し一気に十数匹を駆逐し、体高七尺はありそうな見上げるほどの大きさのヤギ系魔物のボスを巧が前足を切断してから首を落とし駆逐……勢いのまま三十頭近い群れを駆除したのち更に進んで行くと……


「おおっ……なんだここは……。」


 樹木の隙間から茂みをかき分け進むとふいに視界が開けた……そこは山間部の中では比較的平坦な……そうして樹木がほとんど生えていない広い空間だった。日の光を遮る高い木々がないので薄暗い中から出てきた二人には眩しいくらいに明るい。


「へえー……こんなところがあるなんて……。」

 エミリアも久しぶりの開放的な空間に伸びをする。


「油断するなっ、来るぞっ!」

 左後方の樹上から滑空してくる影を巧がジャンプ一番……左手首だけの返しで左右に剣を振るい払い落とす……地べたにはムササビ系魔物が二匹血まみれで落ちた。


「こんなのでも顔に張り付かれたら息が出来なくなるぞ。」


「ガアッ!」「ガウッ!」「アルっ、ペルっ、行けっ!」

 さらに追い打ちをかけるように襲い掛かってくる獣系魔物らにアルルとぺリルを向かわせ、エミリアは自分でも矢をつがえて射かけ始める。


「確かに……油断できませんわね……すいませんでした。」


「いや……俺もまさか人里離れた山奥にこんな空間があるとは思っていなかった。優に百町歩以上はありそうだな。

 それにしてもさすが男爵たちだ……俺たちとほとんど変わらずにここまで達しているとは……やはり特級冒険者はすごいな。」


 木立は少ないとはいえ傾斜もあり姿は見えないが、はるか遠くで剣戟の音や魔物達の断末魔の叫び声が響いてくる……しかも三方から……男爵たちがこの広い空間にやってきているのは間違いがなさそうだ。


「そうですわね……ですがまだまだこれからです。」


「そうだな……まあ俺たちは俺たちの戦いをするだけだ……そうして少しでも男爵らの戦い方を見て学ぶ……」


「了解しました……ですがどう攻めていけばいいのでしょうか?このまま中央突破では……魔物達の数が多すぎるので打ち漏らしてしまい……回り込まれてしまいますわ。」


「ああ……そうだな……ゆっくりじわじわと……魔物どもを追いやっていくしかないだろうね……。」


「分かりました……アルっ、ペルっ……そこに並びなさい。ゆっくり歩いていくのよ。」

 エミリアは巧を右端に隣に自分が立って左側にぺリルを配置し、さらにその左にアルルを配置……つまり二人と二匹が横一列になって進んで行く……これは王都での河川敷ダンジョン掃討を行った時にエミリアが選択した戦法だ。


 しかも今回は間隔がおよそ二間……前回より広めなのは自分たちが成長していることと巧ならばこのくらいの間隔をものともせずに危ない時は守ってもらえるという安心感からだろうか……正面には油断していたところを突いたはずの初撃を一瞬で粉砕され、身構え唸り声をあげている多くの魔物達が待ち構えている中を、ゆっくりと進んでいく……



「ウガウアーッ!」


 油断なく身構えながら近づいてくるエミリア達に対し、魔物側は多少引き気味に……それでも己が陣を守ろうと逃げずに立ち向かおうと構えていたが……やがて耐え切れなかったのか狼系魔物がエミリアに向かって、助走も付けずにその場だけの跳躍で飛び掛かっていく。


「だりゃあっ!」

 だが一歩左に踏み込んだ巧の剣が一閃……体の回転を利用し時計回りにぶん回して遠心力を付けた切っ先が魔物の左肩口にヒット……一撃だけで首の骨まで叩き斬り血の海に沈んだ……


「ガアアッ!」「ガウッ」「ギャウアッ」

 そこからは堰を切ったかの如く魔物達の一斉攻撃が始まった……が


「キャインッ」「キャンッ」「キュンッ」

 エミリアが冷静に狙いを定めて一匹ずつ撃ち殺していき……


「だりゃあっ!おりゃっ、とうっ!」

 巧が巧みな足さばきで身を躱しながら次々と魔物を一刀両断にしていく……


「わっおおーんっ」「わんわんわんわんわんっ」

 ところが突然、それまで小型魔物らを相手にしていたアルル達の様子が一変……エミリアを守るかの如く二歩ほど前に立ち、正面に向かって一斉に身構え吠え立て始めた。同時に地響きともいえるような重低音と共に地面が揺れる……


「牛系魔物の群れの突進だっ!十頭はいる、エミリアっ……逃げるぞっ!」

 慌てて逃げようと振り返るが先ほど入って来た空間入り口までは既に百間以上……左右に十数間以上の幅で押し寄せてくる土煙に……逃げ場はなさそうだ……


「わんわんわんわんっ!」「わんわんわんっ」「ちいっ!」

 アルル達が威嚇で吠え立てる中、魔物たちの突進は緩むことなく、巧はすぐさま右手で冒険者の袋をまさぐり球状の魔道具を取り出した。


「エミリアっ、中央三頭っ眉間を狙うんだっ!」

「はっはいっ」

 エミリアは息を大きく吸って気を落ち着かせると、突進してくる先頭中央三頭の牛系魔物の眉間を狙って矢を連射するが、小さな首の動きだけであっさりと角に弾かれてしまった。


“ボウアッ”次の瞬間……巧が一歩前へ踏み出すと魔道具から巨大な火炎が噴出……

「ンモモッモモーッ!」

 中央の牛系魔物二頭は炎を鼻先に食らい急ブレーキっ!エミリア達のすぐ横を土煙を巻き上げながら牛系魔物の群れが勢いよく通り過ぎていく。


「エミリアっ……また眉間だっ!」

「はいっ」


 すぐさまエミリアは今度は止まった二頭の牛魔物の眉間を狙って矢を射かける……だがそれも小さな首の動きだけで角に弾かれ……「だありゃあっ、どおりゃっ」


 それでもすかさず二頭の間に踏み込んだ巧が左の牛系魔物の喉元を下から斬りつけ……飛び上がって大きく振りかぶって全体重をかけた返す刀は右の牛系魔物の首の真ん中近くまで深く斬りつけた……


「まだ終わっていないぞっ!」

「アルっ、ペルっ……行けっ!」

 エミリア達の両脇を通り過ぎた牛の群れが方向転換して戻ってくる前に、アルルとぺリルが勢いよく駆けだしていった。


「奴らが最高速で走り出す前に……集まろうとする前に動きを止めるんだ……集団で突進されたらとても止められない。」

「はいっ!」

 エミリアもUターンしようとしている群れに向け矢の連射を始め、矢を避けようとして少しずつ集団がばらけ始めた。


「わんわんわんっ」「「だりゃあっ!……おいやっ!」「わんっわんっわんっ」

 倒した魔物の首から剣を引き抜き巧が駆けて行き、ばらけた牛魔物を一頭ずつ突き殺していく……アルルとぺリルが牧羊犬よろしく牛たちを混乱させながら固まらないようにうまく制御しているようだ。



「ふうっ……十二頭の大型牛系魔物の群れか……こんなのに出くわしたのは初めてだ……一頭だけでもボス級だぞ。」

 巨大な群れによる突進を撃破し、巧が仕留めた獲物を眺めながら呟く


「さすが巧さん……魔道具の火炎放射を使うとは……凄まじい勢いの突進も止まってしまいましたわね。大型魔物を一撃で仕留めていって……左手だけなのに……すごいです。」

 エミリアが巧の戦い方を称賛する。


「いや……一撃で仕留めなければ数が多いから仕方がなかった……それでも何とか急所を狙ってほとんど突き殺しただけだ……エミリアだって二頭の牛の首筋を狙い、延髄に打ち込んで一撃ずつで仕留めたじゃあないか。」


「あれは巧さんが追い込んでアルル達が動きを止めていたから、一射ずつ慎重に狙って打ち込めたから……突進してきたときも一射ずつ慎重に狙えばよかったですわ……連射しようとするとどうしても狙いも引きも甘くなって……。」

 エミリアがそんなことはないと首を横に振る。


「いや……俺が簡単に倒せたのはエミリアの援護射撃があってこそだよ……眉間を狙った正確な射撃は見事だった。


 牛系魔物もあれだけ成長すると戦い慣れて来て、矢を急所に射かけられても小さな動きだけで角で弾けることを知っている。だがその動きで頭が上がり……鼻先に火炎放射されるとさすがにそこで動きが止まる……頭を下げたまま突進されてきたら火炎の効果も薄かっただろう。


 動きが止まった後も第二射に気をとられ……弾かなければ急所に矢を食らってしまうから仕方がない……おかげでこっちは踏み込んで一刀両断できた。俺一人だったらああはいかない……エミリアの射撃があってこそだ。


 さあまだまだ行くぞ……いや、その前に……さすがに斬り過ぎた……刃先を研ぎたいが仕方がない、先日購入した予備の剣を使うか……。」

 巧は急ぎ冒険者の袋から予備の剣を取り出し鞘ごと交換し、


「はいっ!アルっ、ペルっ……行くわよっ!」

 自分も連携攻撃に役立っているという巧の言葉に気をよくして、エミリアも胸を張って前進し始めた。


 度重なる襲撃が予想されたため、サントスの町でテントの他に予備の剣を購入したのだ。記憶を失う前から持っていた剣に固執していた巧だったが、困難な旅であることを自覚し我儘を言ってはいられないと、渋々剣を購入したのであった。



「なっ……なんだ……これは……化け物……!!!」

 その後巧たちが狐系魔物や狼系魔物併せて十数匹ほど倒して進んだ先には巨大な黒い影が……そいつは体高八尺を優に超える……見上げるほどの大きさの狼系魔物だった。


「うーっ……」「ぎゅるぎゅるぎゅる……」

 巨大な脅威に対し臆することなくアルルもぺリルも低く身構えて唸り今にも飛び掛かっていきそうだ……

 だが巨大な影は助走もなくすっと宙へと舞い上がった……


「があっ」「ぎゃうっ」

 すぐさまアルルとぺリルがジャンプして魔物の喉笛を狙う……が……次の瞬間……なんと魔物の体から炎が……


「きゃんっ」「くーっ」

 アルルもぺリルもなんとか空中で身をひねって方向転換し、ようやく着地……黒い影は巧たちの頭上を悠々飛び越えようとしていたが……巧はジャンプ一閃……魔道具を持ち換え魔物の喉元目がけて下から雷撃を発した……


「ガッアッ!」


 予想もしていなかっただろう……いきなりの雷撃にさすがの魔物も着地をしくじり地面に顎から激突……すかさず巧が追いかけ魔物の体中を包み込む火炎をものともせずに頭から突っ込み至近距離から首筋に雷撃を食らわせた……すると魔物の体を包んでいた炎は勢いが弱まっていき……くすぶり始めてやがて消えた。


「ふうっ……炎系魔法を使えることに安心しきっていて、ろくな戦法をとってこなかったのが幸いした……この体躯を生かして距離をとり回り込みながら脚力を生かして飛び掛かられていたら……危なかったな。


 それにしても……ハルク様様だ……普通の防具の魔法耐性ではとてもできない芸当だった……目を覚まされたら厄介だから……とどめを刺しておこう。」

 巧は巨大な狼の体に馬乗りになり、小刀で首を突いてとどめを刺した。


「さて……だいぶん喧騒が薄れてきたようだが……。」

「まだこの先の方で戦っているようですよ……。」

 エミリアが遥か前方を指さす……



「俺たちは人里離れた山奥で静かに暮らしているんだ……人に迷惑をかけることはない。だから……引いてくれないか?」

 巧たちがまだ牛系魔物の群れを相手にしていたころ……すでに男爵らは中央部に達し、ボスである魔族に対峙していた。


 四本腕の魔族は三人の眷属を従え……それでも男爵らを襲おうとはせずに引き下がるよう要求する。


 九尺を越えそうな巨体の魔族は着られるシャツがないのか毛むくじゃらの上半身に吊りベルトで布製ズボンを吊り……そのズボンも半ズボンでしかないように見えるが……三人の眷属はそれぞれ白銀色の甲冑を身にまとっていたが、誰も剣を抜いておらず戦意はない事をアピールしているようだ。


「ダメだな……お前……ここをねぐらにしてはいなかっただろ?魔族が眷属を従えて暮らしているならば、間違いなく住みかとなる家を建てているはずだ……何年も住んでいたなら立派なお屋敷があっても不思議ではないくらいだが……ここにはそれがない……小屋すらもないところを見ると……お前たちは到着したばかりと見受けられる……。


 だから指示系統が確立されておらず、大型魔物も多かったが統率が取れてなく動きがバラバラだった。


 急いで各地から群れを呼び寄せている最中だったんだろ?おかげで群れ単位でしか動けていなかったから……これだけの数の魔物がいても小規模巣窟を討伐している感触しかなかった……まあボス魔物はそれなりに強力だったがね。


 狙いは俺たちのチームなんだろうが……残念だったな……戦力を整えて襲い掛かる前に攻め込まれてしまったな。」

 男爵は油断せずに剣を抜いたまま身構え、きっぱりと断った。


「なんだ……魔王の羊皮紙を持っている一行というのはお前たちだったか……男女の二人組と聞いていたのだが……そうか……さすがに何度も襲撃に遭い……戦力を増強したという事か。だが……我らは運が良い……そちらからやってきてくれるとは……飛んで火にいる夏の虫とは……このことだな。」


 魔族はすぐさま右側二本の腕で剣を抜き、左側二本の腕には盾を構え、三人の眷属も二人は長剣を抜き、残った一人は冒険者の袋から槍を取り出し構え、臨戦態勢をとった。


「さあ……果たして運がいいのはどちらだろうかね……。」

 男爵が剣を正眼に持ち低く身構えると……パステルがすかさず矢を連射する……


「がっ!」「あっ!」

 三人の眷属が放たれた矢を剣で薙ぎ払おうとするが弾き切れずに、矢は二人の眷属の太ももに突き刺さった……先が鋼鉄の矢じりの鉄パイプ製の矢のようだ……


「だありゃあっ!」「とうりゃあっ!」

 二人の眷属の足が止まるのを見て、すかさず男爵とボーグルが勢い良く魔族目がけて突っ込んで行く。


「フンっ!」

 突進に臆することなく魔族は右二本の腕を大きく振り上げ、突進してくる男爵ら目がけて振り下ろすが甲高い響きの剣戟音を発し、ボーグルがその長槍で二撃共を頭上で止めた。


「どりゃっ!」

 すかさず男爵が魔族の左脇から懐へ斬り込んでいくが魔族は冷静に左手に持つ盾で防ぎ、身を躱すと後方へ飛びのき二人と距離をとった……


「なかなかの使い手ぞろいのようだな……我は魔王直轄部隊長ヘルムと申す……名を名乗っては頂けぬか?」

 最初は不機嫌そうに仏頂面だった魔族の表情が緩み、男爵らに名乗るよう求めてきた。


「俺はハーシェル・ケンリッヒ……ボーキサイ国男爵だ。」

「筆頭弟子のボーグルっ!」


「ごつい顔をしたのがブルで俺の仲間……女性の弓使いは弟子のパステルだ。」


「ふうむ……その名も高き北の勇者殿御一行とはな……道理で強いはずだ……。

 どうせ倒さねばならなかった相手だし……ここで決めさせてもらうぞ……。」

 ヘルムは低く身構えた……


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