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救援隊

7.救援隊

「なっ……」

 やせぎすの男が言葉を失う……放たれた矢が巧の胸を貫くどころか……若いリーダーはじめ三人共に首筋に矢が突き刺さりその場に崩れ落ちるように倒れた。


「ちいっ……新手か!」

 やせぎすの男はすぐさま小刀を抜き駆けだそうとするが……


「うわっ!」

 すぐ目の前に大きな飛翔音を響かせながら巨大な黒い影が降って来た……思わず立ち止まり後方へ跳ねのくと……そこには太く長いやりが地中深く突き刺さっていた……。


「はっ・はっ・はっ……」

 さらに街道に蹄の音が響き渡る……巧は痛みをこらえながら左手で剣を持ち身構え……エミリアも袋から弓と矢を取り出し矢をつがえ身構える……


「うわっ……」「ぎゃあっ……」「げふっ!」

 街道の向こう側の草むらからは男たちの断末魔の叫び声が聞こえてきた……


「ふうっ……間に合ったようだな……。」

 馬を駆って街道を駆けてきたのは……ケンリッヒ男爵とパステルの二人だった……。


「ケンリッヒ男爵……どうして?」

 エミリアが目を見開いて驚嘆の表情を見せる……


「サントスまで戻る途中で、サントス手前の宿場町に収容された眷属がらみの疑いがある囚人が脱走したと知り……エミリア達が関わった囚人と判ったから馬を借り、夜通しで駆け追って来た……間に合ってよかった。


 新人冒険者君……まさか君が最初にエミリア達を襲った冒険者試験の落第者だったとはね……袋をだまし取られた新人冒険者役と言い……うまい芝居だったよ……まんまと騙され信じ込まされた。」

 男爵が街道の馬上からやせぎすの男を見下ろしながら告げる……


「いやっ……あっ……あの……僕たちは本当にこいつらに冒険者証や袋を奪われて……別の冒険者チームに協力してもらってようやく追い詰めてこれから袋を取り返そうとしていたところなんですっ!袋さえ取り返せればよかっただけなんですっ……なのにこいつはあろうことか人間相手に魔道具を使おうとして……。」


 やせぎすの男は両眼から涙を流しながら跪き訴える……さきほどとは違い声色も高く変わった。


「無駄だよっ……サントス在住のレキトだな?相棒はアムラ。さすがに番屋に収容されるときに身元不詳じゃあそれこそ眷属として取り調べを受けかねないから……あっさりと身元を明かしたようだね。どうせ指紋照合に掛けられるから偽造の身分証も使えないし……実名を出すしかなかった。


 実はこの春合格したばかりの新人冒険者だけどあまりにあっさりと捕まってしまったので、試験に落ちた落ちこぼれのふりをしたと……そう証言したみたいだね。


 そうして巧みな話術に騙されてエミリア達のことを悪い冒険者だと信じてしまったと……まさか泣きついてきた奴が眷属だなんて夢にも思わなかったと……涙ながらに言い訳した。


 本当に何から何まで……うまいこと話を作れるものだ。お役人たちはあっさり信じて眷属がらみの取り調べもせずに二人を一般房に収容した……おかげで脱走も簡単だったろ?


 一緒に逃げたコソ泥は既に捕まったみたいだが……開錠の手際は自分より遥かに手慣れていたと感心していたと聞いた。


 交代要員含めて番屋の役人全員を殺してしまって取り調べの書類も始末してしまえば足がつかないと考えていたのだろうが……番屋というのは取り調べごとに報告書をまとめ、特に眷属がらみの案件は昼でも夜でも飛脚便で最寄りの城塞都市本部へ送る手はずになっているから……お前たちの報告書はサントスへあがっていた。


 次の報告がないのを不審に思いサントスから確認の役人が派遣されて発覚するまで丸一日遅れたが……お前たちがやったことは既に明るみに出ているさ。今頃お前たちの実家にも捜索に向かっている。」

 男爵は涙ながらの訴えをあっさりと棄却した。


「なっ……。」

 レキトは立ち上がり……後ずさりを始めた。


「おっと……動かないでくれよ……パステルが狙っていることを忘れないでくれ……。」

 男爵の言葉にレキトは直立のまま動けなくなった……馬上からパステルが矢をつがえ弓を構えているのだ。


「こいつはどうする?他の奴らと違い抵抗せず武器も持っていないから殺さなかった……。」

 巨漢のブルが右手にハンマーを持ち左手で小太りの男……アムラの首筋を掴んで街道へあがって来た。後ろにはさらにもう一回り大きなボーグルが続く。


「かっ……顔を焼いて殺してくれっ!お願いだっ!家族には迷惑をかけたくないっ!」

 すぐにレキトが両手を合わせ拝むように叫びだす。


「だから……無駄だって……もうすでに身元が割れているから……俺たちと出会った時に気を落ち着かせようと居酒屋へ誘ってミカンジュースを飲ませてやっただろ?最初のうちはグラスが冷たいとか言い訳して紙を巻いて飲もうとしていたが、俺がその紙を使ってグラスの水滴をきれいに拭きとってやったら仕方なく手で持った。


 あまり怪しげな動きをするわけにはいかなかったものな……あれは別に励まそうとしたわけではなくて予想通りに君たちの指紋をとって照合しようとしたわけで……そうしたら番屋からの脱走班と一致したと連絡があった。


 実家への捜索時に三親等以内は全員捕らえられるさ……お前たちは俺が知っている眷属の中では一番と言えるほどたちが悪いから……恐らく六親等まで捜査の手が伸びるんじゃあないかな……勿論友人関係も詳しく調べられるだろう。


 その若さですでにいっぱしの眷属ということは恐らく草と称される代々続く……眷属家系なのだろ?幼い時分から魔族の間者として働けるよう仕込まれた……そういう家系もあると噂では聞いていたが実際に目にするとはな……驚きだ。


 あっちのお仲間も……恐らくどちらかの兄弟だろうな……いや、両方の兄弟か。」

 男爵は抑揚のない口調で淡々と告げる。


「そちらの小太りの人……アムラ……ですか?お腹の中に色々としまい込めるようで……捕らえたとしてもまた簡単に脱走してしまいそうですよ……。」

 エミリアが先ほど聞いた人間ポンプの話を打ち明ける。


「ああ……大丈夫だ、心配ない……こいつらは誅殺指令が出ている、だからこの場で殺す。」

 男爵はゆっくりと馬から降りると腰の剣を抜いた。


「ぐわっ!」

 そうして剣も持たずただ立っていたアムラを振りかぶる気配も見せずに一瞬で袈裟懸けに一刀両断……肩口から大量の血しぶきを上げながらアムラは沈んだ……


「そっちも逃げるなよ……パステルは腕はいいが……さすがに走り回っていたら確実に急所を狙えるとはいえない……あっさり殺して欲しいだろ?」


「ぐうっ……。」

 レキトは観念したのかその場から動かず手に持つ小刀を捨て……無言のまま男爵に斬られその場に倒れた。



「巧さんっ、大丈夫ですか?」

 脅威が去ったのでエミリアが巧のもとへ駆けよっていく。


「くう……矢が抜けんっ!」

 巧はなおも矢を抜こうと左手で頑張る。


「これは……鋸で斬らねば抜けませんね……ちょっと待ってください。鉄矢用の鋸を出しますから……。」

 パステルも馬を降りて駆け寄り、冒険者の袋から小型の鋸を取り出した。



「これでいいでしょう……うまいこと避けたようで……骨には異常はなく筋も傷つかず筋肉だけ貫かれたようですから……二週間ほどで動かせるようにはなるでしょうが……剣を振るうには一月はかかりますよ。」

 矢羽根部分を切り落とし矢を抜き、甲冑を脱がせ治療して包帯を巻き終わってパステルが診断結果を告げる。


「ええっ?どうしましょう……それでは旅を続けられませんわ……。」


「さすがにエミリア一人では荷が重すぎるだろうな……一旦サントスまで戻って王都の指示を仰ぐか?」

 この事態にエミリアも巧も困惑気味だ……


「もしよければ……我々の同行を許可して頂けないか?巧殿の傷が癒えるまで……事情は聞かない約束で……。」


「それは有り難いが……あまり高額の礼金は払えないのですが……我々もその……路銀程度の礼金だけで……金貨一枚を山分けで銀貨五十枚しか払えないので……全額お渡ししてもいいのですが、それでは冒険者の仕事として成り立たなくなってしまうので。」


「いやいや礼金など一切いらんよ。ボーキサイ国の現状は理解しているからね。君たちのような若くて優秀な冒険者は我が国の宝だからね……失うわけにはいかない。我々の次の世代を担うべく貴重な存在だ。我々だっていつまでも若くはないからいずれ引退する……その時にこの国を一体誰が守ってくれるのか……優秀な若者は一人でも多く残って欲しい訳だ。


 危険な旅であるなら付き添わせて頂きたい……言ってしまえばこちら側の都合だからね……これは仕事ではなく……言うなれば……そう……趣味だ、趣味……趣味として勝手に付き添うわけだから礼金など不要だ。」

 男爵はあくまでも自分たちの都合だから礼金など不要と笑顔で言い切った。


「ありがたい申し出……感謝いたします。でしたらその……腕を動かせるようになるまでの二週間だけ……お願いできますか?利き腕が動かせるようにさえなれば……魔道具を使えるので魔物や魔族相手ならどうとでもなります。

 それまでの同道をお願いいたします……エミリアも……いいかな?」


「はいっ……勿論です。我が国最強と言われるケンリッヒ男爵のパーティとご一緒できるなんて……本当に夢のようですわ。帰ったら母の墓前で自慢できますわ。」

 エミリアも快諾……これで頼もしい仲間が加わることとなった。


「おや……これはこれはケンリッヒ男爵……このところよくお会い致しますね……。」

 ちょうどその時……ハルクがやって来て、馬車から降りて異様な光景に目を丸くする。



「そうでしたか……サントスの次の宿場町に引き渡した若い二人組が眷属……驚きですね!それで巧殿が怪我をされて剣を握れなくなり……ケンリッヒ男爵一行が同行して頂けることになった?それもまた驚き!


 いやあ……朝宿場町で待っていても巧殿たちがいつまでも姿を現さないので何かあったのかと思い……巧殿たちの馬車も引いて出発したのですが……昨晩は大変でしたね。ですがお二人ともご無事でよかった……。」


 巧がかいつまんで昨晩の様子を説明するとハルクは何度も大げさに驚いたり頷いたり……いつも通り大きな動作で感情を表した。そうして恩人ともいえる男爵らに深々と頭を下げた。

 誰も気づいていなかったがすでに日は昇り街道を行き交う人たちも見え始めていたようだ。


「じゃあ……急ぎの旅でしょうから出発いたしますかな?」

「ですが……ここをそのままにはしておけないから、一旦宿場町まで戻って番屋に報告して役人を派遣して頂かねば……。」

 男爵が出発を急ごうとするが巧はこの場をそのままにはしておけないと……


「ああ……それだったら構わない。


 ブルっ……ブルはこの場に残って通行人らが街道を降りて賊の死体へ近づかない様誘導してくれ。ボーグルは急ぎ前の宿場町へ戻って昨晩の事情を番屋に説明して役人を派遣してもらってくれ。

 俺とパステルは巧殿たちとともに先を急ぐから……役人がこの場へ到着することを確認してから後を追ってきてくれ。」


「了解っ」「御意っ……」

 男爵の指示に従い長槍を持った大男が馬に飛び乗り街道を戻っていき、大ハンマーを抱えた四角い顔の大柄な男は街道脇の昨晩の戦場へゆっくりと降りていった。


「では……出発しましょうか……エミリア……大丈夫かい?」

「はいっ……アルっ、ペルっ……乗って……。」

 巧に促され、ハルクたちが引いてきてくれた馬車へエミリアは愛犬を誘導して乗せた。


「はいよーっ!」

 そうして二台の馬車と二人の冒険者が騎乗する馬がゆっくりと街道を北上し始めた。



 途中、茶屋を過ぎたあたりで番屋へ届けに行っていた二人が合流し、交代で馬車内で仮眠しながら北上し野営地点へ……


「明日からはいよいよ山岳地帯ですから……ここまでも上り傾斜ではありましたがさらに急になり、道幅も狭くなっていきます。馬車ですれ違うのも困難で途中退避所が幾つも設けられております。」

 野営地点の焚火の前で、エミリアがさらに上り傾斜が急になっていくと説明。


「どうでしょうか……馬を替えて進むのも大変ですし……元々徒歩で進むつもりがあまりに連夜の夜襲が続き、昼間の移動中に仮眠をとるため馬車を借りたのですが、六人もいれば交代の見張り番で十分睡眠はとれるでしょう。


 明日からは徒歩で進みませんか?」

 巧が明日から馬車をやめると提案……


「ああ……我々も急遽馬を手配して夜駆したが馬ももう限界のようだ。さすがに宿場ごとに七頭も馬を替えて進むのは容易ではない。飛脚便用で用意しているのを除くと……何頭もいないだろうからね。ハルク司祭たちは旅慣れておらぬから馬車は必須だろうから……我々は徒歩で進むとしますかな……。」


 男爵も巧の提案に賛成した。



「昨晩も襲ってきませんでしたね……いい事なのでしょうけれど……逆に不安です。」


 急な斜面に沿った山道を上ったり下ったりしながら山間をひたすら北へ進んで行く……途中平坦な盆地に出くわすと茶屋が存在し休憩が出来るが、人が行きかう街道以外は木々が生い茂り下草が伸び放題で腰を下ろす場などどこにもない。季節的にはそろそろ秋も中盤ではあるが、低山では紅葉も始まりかけた頃合いだ。


 宿場町を兼ねた茶屋を過ぎた辺りでなんとか僅かな隙間を見つけ、三人ずつ交代で見張り番をして各自テントで就寝……王都出発以来あれほどほぼ毎日襲ってきていた魔族や眷属らの襲撃はぴたりと止み既に五日……日は高く正午を過ぎたあたりでエミリアが歩きながらぽつりとつぶやく。


 このところはずっと交代時間を合わせてもらい同じ女性でしかも弓使いという共通点が多いパステルと楽しそうに談笑していたエミリアだったが、やはり魔族らの襲撃の脅威は頭から離れないのだろう。


「サントス以降、元冒険者らをたぶらかし誘導していた眷属を倒したせいもあるだろうが、こちら側の人数が格段に増えたから……しかも強力な助っ人参加で容易には襲えないと考えているのではないだろうかな。


 だが向こう側も兵力を整え襲ってくる可能性は否めないから油断は禁物だ。俺がバカな行動をとったせいでエミリアまで危険な目に遭わせてしまって済まなかった……本当に申し訳ない。今後は下手な情けはかけないことにするよ。」


 これまでずっと眷属らに騙されて危うかった晩のことには触れずふさぎ込んでいた巧だったが、ようやくここにきてエミリアに対し深く頭を下げてわびた。


「いえいえいえ……巧さんは全く悪くありませんよ。あれは……あいつらが卑怯だっただけです。巧さんの優しさに付け込むだなんて……私は捕まった眷属の扱いに詳しくはないので目の前で殺す……しかも顔と手を焼いて殺すという行為が嫌で止めようとはしましたが……私は自分の手を汚したくなかっただけで……自分がかわいかっただけです。


 私のために巧さんが怪我をしてしまい……私こそ……本当に申し訳ありませんでした。」

 今度はエミリアが立ち止まり巧に対して深々と頭を下げた。互いに自分の行動を反省しているようだ。


「君たちは悪くないさ……これまでの旅の様子を聞いて思ったが……よくぞここまで頑張ってきたと思うよ。


 今回さすがに大人数で……しかも裏をかかれて負傷してしまったが、だけどそれは人の優しい気持ちを利用するような卑劣な行為で……いかにも眷属らしいというか……奴らは草として教育を受けてきたはずだから……人の心に付け込む話術に長けていたのだろうな……誰もが騙され……我々も信じかけた……だから俺も偉そうなことは言えない。


 眷属として捕まった際のその家族の処遇は皆知っているし、眷属になるような輩は大抵の場合ははみ出し者で……世の中どころか家族にも馴染めず独りよがりの考えを持ち、魔王が治める世界で自分だけは満たされた生活をするのだという……自ら努力して頑張って地位や金を得ようとせず、ひたすら他力本願で夢を実現しようとする愚か者だ。


 だから……我々だって眷属を捕らえたらそのまま役所や冒険者組合には渡さずに、その場で顔と手を焼いて殺してやることにしている。官憲の調査でその家族親類縁者にまで手が及ぶようなことになったなら、我々もやるせないからね。


 大きな声では言えないが、多くの冒険者はそうしているはずだ……だから巧殿の行動は間違ってはいないと思うし、これからもそうしてやって欲しい。多くの場合悪いのは世を恨んで魔族の使い走りになった当人だけだからね。」

 エミリアに続き男爵も巧を支持した。


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