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策謀

6.策謀

 巧が剣を抜きながら立ち上がり、射かけられた数本の矢を剣で払い落としていく。


「アルっ、ペルっ……行けっ!」

 同時にエミリアが矢を射かけてきた方向目指してぺリルたちを放った……


「がうがうっ!」「があっ!」

 二匹の犬たちは街道を横切りダッシュで駆けていき藪に潜む賊たちに襲い掛かっていく。


「だありゃあっ!どおりゃあっ!」

 巧は後方から襲い掛かってきた二人の剣士と刃を合わせ、


「うわっ!」

 エミリアはさらにその後方から飛び出してきた剣士の足元を狙って矢を放つ。


「うわあっ……」「ぎゃあっ」

 数合交えた後、巧が一人の腹をけって前に倒れ込んだところを剣の柄で延髄に一撃、さらにもう一人には小手を付けた左手の拳で顔面に一撃食らわせた……二人ともすぐにその場に倒れ込む……


「剣を離しな……」

 巧はすぐさまエミリアが矢を射た三人目の剣士のところへ駆けより、剣を向け武装解除を命じる。


「ぐうっ……。」

 男はおとなしく剣と盾を手放した。男の足の甲を貫くように矢が突き刺さり、地面に正にくぎ付け状態の様子……巧は矢の真ん中あたりで折ってやり、さらに足の甲をゆっくりと持ち上げ肩を貸してやった。


「土の中には黴菌が多いからな……慎重に自分で矢を抜くんだな……すぐに治療しないと膿んで死んでしまうかも知れないぞ。」


 巧が怪我した男を木にもたれ掛けさせ、自分で矢を抜くよう告げ男も素直に従う。自分の冒険者の袋から傷薬を取り出させて自分で塗らせ、包帯も巻かせてから後ろ手に縛り上げた。


 そうして今度は先に倒した二人組を後ろ手に縛り上げる……。


「こちらは弓隊三人でした……合計六人……結構大人数でしたね。」

 エミリアがぺリルたちに襲われ観念した三人を、後ろから弓で威嚇しながら街道の向こう側から連れてきた。持っている弓はぺリルらに噛まれたのか既にボロボロで、弦のテンションで異様に折れ曲がっており使い物になりそうもない状態だ。


 剣士は全員が甲冑姿で弓使いは全員鎖帷子と革の胸当てをつけている……そうして腰には冒険者の袋……。


「お前たちは盗賊というより冒険者のように見えるが……どうして俺たちを襲ってきた?」

 三人ずつ焚火から少し離れた大木に背をもたれかけさせてからロープで縛り上げ、巧が意識のある弓使いの男に尋ねた。


「ふんっ!人の冒険者の袋を奪い取った姑息な泥棒野郎が……なにを言ってやがる……偉そうにするなっ!


 冒険者でもないのに袋を腰から下げ帯刀し、冒険者のふりをして信じ込ませ同行する冒険者から装備や袋を奪うんだろ?カス野郎だな……奪い取ってから数日間は戦利品とばかりに腰から袋を二つ下げて往来を堂々と歩いていたらしいが……今更隠しても無駄だ!この界隈ではすでにお前たちの悪行は評判になっているからな!


 騙された新人冒険者が涙ながらに俺たちにどうにか取り戻して欲しいって訴えて……ありったけの銀貨五十枚を前金で渡してくれた……取り戻してくれたら袋の中には銀貨で百枚入っているから五十枚は後金で支払うって約束してな。これは立派な冒険者としての仕事だ……人助けだな。」


 恐らく二十歳そこそこ……まだ若い冒険者は胸を張って答えた。


「その依頼者の身元は調べたのか?名前は聞いたか?その上で……冒険者証で確認したか?」


「いや……名は聞いてはいない……冒険者証も一緒に奪われたと言っていたから確認だって出来やしなかったしな。

 だが……あの涙は本物だった……俺たちは間違っていない!」

 若い男は信じて疑う気はさらさらない様子だ。


「そうか……お前たちに話を持ち込んできたのは恐らく魔族の眷属だ。俺たちは今魔族と戦っている最中だからな。


 お前たちは明日の朝にでも宿場町の番屋に引き渡されることになるのだが……冒険者だったら初級者講習で……魔族の眷属及び眷属と関係を持った者に加えその家族がどんな目に遭わせられるか……教えられただろ?


 どうする?……なんだったら今からでもお前たちの顔と手を焼いて身元を分からなくさせてから殺してやってもいいが……勿論冒険者証や身元が分かるような所持品は先にすべて出せ……全て燃やしてやるから……選べ!


 さすがに日が昇ってからだと人目があるからな……眷属の素性を隠す行為も禁じられているから……やるなら今しかないのだが……これまでも襲ってくる賊はいたが確証がなかったからな……そのまま番屋に引き渡していた。


 だが……さすがにここまで続くと……ほぼ間違いなく眷属が後ろで手を引いている……昨晩出会ったケンリッヒ男爵にも調査をお願いしたところだし……間違いなく眷属がらみの取り調べを受けることになるはずだ。


 皆で相談してかまわないから……決めてくれ。」

 巧はそういうと……焚火の前まで戻って来た。


「ええっ……引き渡さずに殺してしまうのですか?相手は人間ですよ!」

 話を聞いていたエミリアが巧を責める。


「俺だってこんなこと……提案するのも嫌だしやりたくはないさ……だがな……奴らは完全に騙されているんだ……それでも眷属と関係して行動してしまうと……眷属と同じ取り調べを受けてしまう……。


 これが嘘情報を広めて回るだけとか、俺たちに対して冒険者の袋を返すよう説得に来たとかであれば罰せられることはないかもしれないが、あからさまに俺たちの命を狙って襲ってきただろ?騙されているのではなく眷属であるという疑いは決して晴れない。


 男爵たちは俺たちを疑ってはいたが、最初はちゃんと俺たちに対しても状況確認をしようとしただろ?そうして素性を確かめた後で信じてくれた。普通はそういうものだろ?一方的な話を聞いただけで、人を殺しかねない勢いで襲って来やしない。ましてや正式な依頼でもないのに金を受け取って人を襲うなんて……冒険者としてまともな考えとは言えないさ。


 うまく言いくるめられ騙されているのだろうけれど……そうだとする確証は持てない。あくまでも判断を下すのは取り調べをする役人だろうが……恐らく他の罪人と同様の扱いはされないさ。だって……そいつらを釈放した後でまた眷属とともに行動したと発覚すれば今度は放免した役人も疑われる……役人も眷属とつながって共謀しているとね。


 そう思われたくはないから……眷属がらみはどうしても普段よりも厳しい取り調べになってしまうはずだ。


 俺にできることは……こいつらに眷属の疑いが向けられるだろうと教えてやることと、どうしたいか決めさせてやることぐらいで、他に助けようはない。」

 巧が苦しい胸の内を明かす。


「確かに……言われてみれば……ですがなにか方法はないのでしょうか?」


「ないだろう……襲い掛かって来た時点で……もはや手遅れだ。先に眷属が捕まってくれて……そいつらが嘘の情報を触れ回って食い詰め者を巻き込んだと……告白すればいいのだろうが……眷属だったら絶対にそんなことはしないさ。そう告白したところで……逆に騙されたとされる方が怪しくなってきてしまうしな……考え出したらきりがない。


 人の頭の中までは覗けないからな……。」

 巧がふうっと大きく息を吐く。


「なんだか段々と腹が立ってきました……その……嘘を言いふらしている眷属を捕まえてやりたいです!」


「ああ……急ぎの旅でなければ、そこいらじゅうの宿場町や茶屋街の居酒屋や飲み屋を回って冒険者らを誑し込んでいる奴を突き止めて捕まえてやりたいところだが……そんなことをしている余裕はない。そもそも向こうの狙いはそこにあるのかもしれないしな……こちらの足を少しでも遅らせる目的があるのだろう……。


 最初は鳥系魔族が率いる魔物の集団で襲ってきたが失敗し今度はからめ手だ……食い詰めの冒険者や盗賊らを騙してけしかけ俺たちを毎晩襲わせ、ろくに休息もとれないよう追い込もうとしている。このままでは多くの冒険者や盗賊らを眷属扱いで処刑しなければならなくなるから、俺たちが触れ回っている奴を捕まえようと動くのを待っているのかもしれない。


 うまくすれば奴らの領域で戦えるかもしれないし……足を止めればそれだけ奴らの応援も増えていくだろう。

 だから……余計なことは考えずにひたすら先を目指すしかない……こんな手は使えないと奴らに認識させるしかない。」


「はあ……そうですね……分かりました。でも……本当に腹が立ちますね!」

 エミリアは悔しそうに歯噛みをした。



「おうい……決まった……。」

 夜が明けかけたころ……賊を縛り上げた木の方から巧たちを呼ぶ声が……


「気を失っていた奴らも全員意識を取り戻し……相談して決めた。何も確かめずに一方的に言われたことだけを信じて旅する冒険者を襲ってしまったことは俺たちの落ち度だ。騙されたとはいえ……大変なことをしてしまった。


 これが眷属がらみという事であれば……仕方がない……家族や知人に迷惑をかけられないから……殺してくれ。実家から通っている奴も多いから、装備や服装でも判断はつくので顔と指紋だけではなく全身を焼いて欲しい……そうすれば冒険者証どころか装備も冒険者の袋も焼けてしまうから確実だろ?」


 巧が最初に声をかけた若い弓使いの男が殺してくれと言い出した……どうやら彼がリーダーのようだ。


「そうか……俺はお前たちのことは全く知らないから……だが……今現在魔族や眷属に追われているのは事実だから……だからお前たちを逃がしてやることはできない……何の恨みもないがやれることは多くない……。」

 巧がうつむき気味に声をかける。


「分かっているさ……俺たちだって冒険者のはしくれだからね。もし逆の立場だったら……恐らくこのまま番屋に引き渡すだろうと思うよ……そのほうが俺たちの手柄になるからね。だから……有難い申し出さ。感謝している。」

 リーダーの男は涙を流しながら……それでも口元を緩めて見せた。


「じゃあ……これから縄を解く……後ろ手にしたままで……先ほど弓を持って潜んでいた辺りへ歩いて行ってくれるか?六人で適当に数歩ずつ距離をとって立ってくれ……場所が決まったら剣と小刀を投げて渡すから縄を切ってくれ。


 そうして剣と……弓はほとんどぼろぼろだが燃えてしまえばわからないはずだ……構えて見せてくれたら俺が魔道具を使って一気に炎をまき散らす。弓使いが三人もいて近づけず、剣ではとても対抗できなかったから仕方なく魔道具を使ったと証言すれば恐らく通るだろう……眷属がらみと証明は可能だからな。


 ある程度燃えてからなら決意の自決となるから自分で胸や喉をついてもらって構わない……だが後で冒険者組合の監察官が確認するから……死んだ後で焼くことはできないから……少しは我慢してくれ。いいか?」


「みんな……手筈はわかったかい?」


『おうっ』

 リーダーの呼びかけに全員が返事をした。


「縄を切って自由になったからと言って決して逃げようなんて思わないでくれ……相棒の犬たちを街道の向こう側の野原奥に配置する……彼らのすごさをすでに味わっていると思うし……逃げ出そうとしたら追いかけて殺さなければならなくなる……いつまた襲ってくるか知れない脅威を残すことはこちらもできないからね。


 そうなると素性を分からなくさせる手当なんてできなくなる……家族にまで危害が及ぶことは覚悟してくれ。」

 巧がしつこく何度も言い聞かせる。


「分かった……もう夜が明けるから……早いところしてくれ。」

 焦れたようにリーダーが要求する。


「じゃあ……エミリア……ぺリルとアルルを配置させてくれ。」

「分かりました……アルっペルっ……道の向こうへ……走れっ。」

 エミリアが街道の向こう側を指さし指示すると、二匹の犬は一目散に駆けていった。



「じゃあ……ゆっくりと街道の向こう側へ……歩いて行ってくれ……縄を切ったらこちら側へ放り投げてくれよ……縄の焼け残りなんて残しておけないからね。」


「ああ……よろしく頼むよ……。」

 街道脇の空き地の野営地で巧が、六人がゆっくりと街道を横切り向こう側へ歩いていくのを見送る。



「じゃあ……これから剣と小刀をそちら側へ投げ入れるから素早く縄を切って切った縄をこちら側へ放り投げてくれ……すぐに火炎放射するから動かないでくれよ……もう日が昇って人が歩きだすころだ……急がないといけない……。」


「巧さんっ……やっぱりこんなこと……いけませんっ!」

 むき出しの剣と小刀をまとめて放り投げようと反動をつける巧の背にエミリアが縋りついてきたっ……だが巧は持っていた剣をその場に落とし素早く身を翻し自分の剣を抜くと……エミリアを左手で突き飛ばした。


「なっ……」

 何が起きたのかわからないエミリアが見上げると……巧の右肩に一本の矢が突き刺さっているではないか……巧は激しい痛みの為か握っていた剣を落とした。


「ちいっ!」

 巧が素早く左手で矢を真ん中から折りとろうとするが……折れないっ!


「残念だったね……それは君たちが言うところの対魔族用の鉄の細いパイプに鋼鉄の矢じりを付けた……我々の呼称では甲冑貫通弾……という代物だ。一撃で二人纏めて殺してあげようと狙ったのだが……いい勘をしている……矢羽根はお情け程度にしかついていないからほとんど飛翔音はしない筈なんだがね……やはりすごいね。」


 エミリアが態勢を立て直して地面に転がったまま振り返ると……そこにはサントスを出てすぐに捕まえた二人組のやせぎすの男が立っていた。彼はいつの間にか巧たちの野営地の奥の雑木林に潜んでいたようだ。


「どっ……どうして……。」


「どうして番屋を逃げ出せたのかってことかい?もう一人の太ったほうは……人間ポンプと言って何でも呑み込んで吐き出せるんだ……だから冒険者の袋も腰には付けずにそいつの腹の中に隠してあって……牢に入れられた後に取り出して開錠用の小道具も持っているからすぐに牢なんて出られたし、お役人たちもあっという間に片づけた。


 そのあと二組はお涙頂戴のお芝居で送り込んだが一組目はあっさり捕まえられて……二組目はなぜだかあんたたちの味方になっちまって残念だった……三組目も捕まったけど……ようやく追いついた……。」


 やせぎすの男はにやにやと薄ら笑いを浮かべながら弓を左手に下げ、ゆっくりと近づいてくる。巧は右肩の負傷が痛そうで……何とか矢を抜こうともがいている様子だ。


「無駄だって……抜けやしないって……でも毒なんて塗っていないから安心して……あんたたちはこれから人間の冒険者に対して魔道具を使おうとした罪で殺されるって寸法だからね……毒なんかじゃあ殺さない。」


「あっ」


「おっと……叫ぶの禁止っ!それから動かないでっ!僕一人だけじゃあないんだよ……向こうを見てごらんっ!」


 エミリアが相棒らを呼ぼうとしたがすぐに止められ、ゆっくり立ち上がり今度は街道の向こう側へと目を移すと……昨日の賊が街道の向こう側ですでに縄を解いてその上弓を構えているではないか……巧はまだ剣を投げていないというのに……相棒らは巧の指示に従い渋々配置したがエミリアとしては不本意だったので、巧が賊の剣や小刀の準備をしていたにも拘らず彼女は弓を構えて賊を威嚇しようとすらしていなかったことを心底後悔していた。弓は袋に納めたままだ。


「もう一人いたのを忘れちゃあいけないね……相棒がすでに向こう側に剣と弓矢を配置しておいたんだよ……ご丁寧に奴らの剣を投げてやらなくても、すぐに縄は切れたというわけ……そうして彼らが反撃して君らを殺すという筋書きさ。

 魔道具相手だったら剣を抜いてなくて殺しても正当防衛だからね……。」


 やせぎすの男は巧たちと十歩くらい手前で立ち止まり、にやにやと薄気味の悪い笑みを浮かべている。巧の間合いには入らないつもりなのだろう……。


「甘いよね……イーストリバ―で俺たちの仲間を思いやったつもりだろうが……そんな甘い考えを持っているから付け込まれるんだ……眷属がらみで騙されているかもしれない冒険者を捕まえたなら……間違いなくこうするだろうと予想し……お仲間を送り込んだというわけさ……眠り薬を仕込もうにも宿どころか飯屋にもよらず、自分で調理したもの以外は手を付けないくせに……用心深いんだか何だかわからないよね……余計な情けは禁物だよ。」


「いやあ……本当にこんなバカげた提案をされるとは思っていなかったよ……なにも言いださなかったらこっちから眷属がらみを匂わせてだったら焼き殺してくれと……懇願するつもりだったけれど……すんなり提案して頂けてよかった。」

 街道の向こう側で若いリーダーが弓を構えながら笑顔で打ち明ける。


「それで……冒険者の袋は……どちらが使用者登録してあるんだい?男の方ならダメだが……お嬢ちゃんなら腕を切り取らずに生かしておいてやってもいいよ……おとなしく中のものを取り出してくれたらね……。さあどちらかな?」

 やせぎすの男は巧は面倒でもエミリアはくみしやすいと見たのか、エミリアは生かすと言い出した。


「知りませんっ!」

「いや……彼女だ。彼女なら取り出せるから……素直に取り出すから……彼女は生かしてやってくれ。」

 巧がエミリアは生かすよう懇願する。


「いいだろう……じゃああんたはこの場で殺してもいいね……。」


「いやっ……私は……取り出しませんよっ!巧さんも無事に生かしていただかねば絶対取り出しませんよっ!」

 だがエミリアは巧も殺すなと要求……


「交渉権などない事は分かっているよね?別にお嬢ちゃんを殺しても腕を切り落とせば……中身は取り出せるんだ。この場で死ぬか、おとなしく従って生かしてもらうか……どちらかしかないよ。」


「エミリア……生きて報告だっ!それだって重要な役目だからなっ!」

 巧はエミリアに生きることを命じる。


「じゃあ……貫通弾で一撃で……いや三撃か……で仕留めてあげるよ。まあ射るのは僕じゃあないけれどね……僕が射てしまうと後々検証時に面倒だからね。僕程腕は良くはないけど三人同時に射るから……間違いなく殺してあげるよ……。」


 やせぎすの男は街道の向こうで弓を構えるリーダーたち三人を指さし、巧は観念したように炎の魔道具を手にゆっくりと立ち上がった。


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