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中央区経由で東区へ

9.中央区経由で東区へ

「はあ……大きな宮殿ですね……塀が高くて王宮自体は全く見えませんけれど……行けども行けども塀が途切れません……どれくらいの長さがおありなのでしょうかね?」

 中央区に差し掛かると無機質な白色の壁が延々と左手に続いていた……王宮の外塀……いわゆる城壁のようだ。


「これは王宮を取り囲む堀の外側に設けられた城壁で、一辺の長さが半里と言われている。内側に幅三十間の水を張った堀があり、さらにその内側にもう一つ城壁があり、その内側に前庭があって中央部に王宮が建っているそうだ。


 俺も人から聞いただけで実際に見たことはないがな。敷地の広大さから言って……王宮自体も四半里角くらいは大きさがあるのではないか?と俺は考えている。」

 しげしげと二十尺はありそうな高い塀の天辺を眺めながら歩くエミリアに対し、巧は興味なさげに前を向いたまま答えた。


「は……あ……では速足で歩いたとしても……四半刻はずっとこの塀が左手にあると言うことですね?……どうせ白い塀なのですから……ここに美しい絵を描いて道行く人を楽しませる……とか考えないのでしょうかね。いくら何でも……ずっと同じ景色が延々と続くのでは……退屈ですわ。」


 エミリアが不満げにほほを膨らませながらポロリと本音を漏らす。


「この壁は強力な物理結界が施されていると聞いた……だから絵なんて……絵の具が乗らないから無理だな。元々は堀と内側の城壁だけで外塀はなかったのが、今の王の時代になってから国力増強を宣言して外塀を構築し、完成とともに隣国へ宣戦布告した。ボーキサイ国南東に広がるボーキ海の領有権争いでな……。」


「ええ……内海戦争ですね……社会科の授業で習いましたから知っておりますわ。


 元は三国共同領有ということで、内海ではありますが外海同様沿岸一里までの領海設定だけだったのを、湖と同様ボーキ海自体の所有権を主張し始め。海岸線が最も長く他の二国の倍ほどもある我が国がボーキ海の半分の領有権があると主張し、中央部までが領海であるとして他国の漁船を拿捕し始めたのですね……一方的な横暴と他国が反発したのをきっかけに宣戦布告したと習いました。


 おかげで隣国との国交も途絶え、友好国と言えば北方のハリキル国だけとなり国家は疲弊しているにも拘らず、未だ兵力増強と称して軍備強化を図っていると聞きました。今戦争をやめてしまうと莫大な賠償金を他国へ支払わねばならず、ボーキサイ国の経済は破綻してしまうとも聞かされました。だからこれは必要な戦争なのだと……。」


「おかげで未だに百人を超える結界術師を擁し毎年外塀の物理結界を更新していると聞いた……毎年春になると王都周辺の街道は馬車の渋滞が発生し、歩道も歩きにくかった覚えがある。


 確かに今の国軍の兵力では、いつ王都にまで他国の軍が攻め込まれるか分からないだろうからな……それにしても国力が落ちているにも拘らず莫大な軍事費をつぎ込み続けていては一向に国力は回復しないだろう。」

 巧は他人事のように、あくまでも傍観主義を貫くような発言をした。


「国家がつぶれてしまったり他国に占領され属国扱いされたりするのは困りものですが……どうにかして平和裏に話し合いで紛争の決着をつけ、早期に国交を回復させて欲しいものですわね……どうして現王は他国との諍いをやめようとしないのか……授業でも先生に質問したのですが、明確な回答は得られませんでしたわ……。」


 対するエミリアは自分の生まれ育った国であり、平和的に早期解決を望んでいる口調だ。


「難しいと思うぞ……ハリキル以外の隣接国三国は堅い同盟を結び、この国を取り囲んでいる状態だからな。ハリキル国だけ友好的と言っても……宗教国家であるハリキルはどの国とも友好的であり、勿論ボーキサイの敵国三国とも友好的だ。決して味方してくれるという事ではないのだからな。そもそも目論見が甘すぎたのだと俺は考えている。」


「目論見……ですか?」


「そうだ……同じくボーキ海に面しているスーバキ国とメンドー国は過去に国境設定でもめていた時があったようだからな……どちらか片側だけでも主張を認めてくれるのではないかと、勝手に期待していたのだろう。


 更にボーキ海とは面していないターメリア国だけは主張を認めてくれると、こちらも勝手に解釈していたはずだ。直接的な利害関係はないのだから、古くから友好国であるボーキサイ国の味方であると想定していたようだな。


 だが……ふたを開けてみたらどこもかしこも皆ボーキサイ国の主張を退けてしまった……そもそも突然民間の漁船を軍艦使って拿捕するなど……あまりにも乱暴すぎたためにターメリアの顰蹙を買ってしまったのだな。」


「授業では……拿捕する半年前からボーキ海での領有権を隣国四か国へ通達し、半分の漁業権はボーキサイ国にあるとして、沿岸以外での操業の際は中間線を越えない旨通達してあったそうですけれどね……。


 それと……ここ王都を流れるウエストリバーとイーストリバーもそうですけれど……ボーキ海は外海へ流れ出る川は一切なく流入分だけで完全に独立した環境です。


 それでも表面積が大きく夏場には表面からの水の蒸発量も多いのですがその分雨量も多く、冬は表面からの蒸発量は減少しますがその分乾燥していて雨量が少なく釣りあっていて、大きな水位変動もなく溢れることも干上がることもない安定した状態が千年以上も続いていると言われております。


 ボーキ海へ流入する河川の大半はボーキサイ国にあり、孤立した内海であるがために川に廃棄物を流すと溜まっていき、環境汚染となり魚介類が死滅してしまう恐れが高いため、ボーキサイ国では河川への排水基準は他国のものよりも数倍厳しく管理しているそうです。


 つまり……ボーキサイ国のおかげでボーキ海の漁獲は守られているのだと……そう主張しているようですね。


 農業用の用水もそうですわ……水田すらもボーキ海へ流入する川の水は使わず、河川流域でもため池を作って雨水をためて使っているそうです。それもこれもボーキ海へ流れ込む川の水質と水量を確保するための努力ですわね。」


「そうだな……しかも外海に面していないボーキサイ国と違い、他の四か国は皆長い海岸線を持っている。小さな内海の漁業権半分くらいボーキサイ国に持たせてくれ……と言った気持ちもあったのだろうな……。


 だが……ボーキ海で獲れる他の魚を捕食しないで海藻のみを主食とするサメの仲間……この魚卵が高級珍味として高値で取引されるようで……どの国もボーキ海での漁業権を主張しているようだな……。」


「遥か太古では大きな海とつながっていたのが、スーバキ国とメンドー国との国境辺りが地殻変動で隆起し、二万尺から三万尺級の高い山脈が出来たとともに孤立した内海になったと習いました。


 おかげで外海に多くいるサメやシャチなど肉食の魚類や哺乳類が存在いたしません。それでプランクトンを主食とするサメの仲間が増えることが出来て、その卵が珍味として珍重されるのですね。こんな小さな魚卵の塩漬けの缶詰が……銀貨一枚もするのですから驚きですわ……。」


 エミリアが親指と人差し指を使って二寸ほどの直径の円を作って呟くように打ち明ける。


「世界的な珍味として有名なようだな……ボーキ海でしか獲れないサメの種類で特産品のようだ。ボーキ海に面していないハリキル国では銀貨四から五枚程度で流通していると聞いた。宗教国家として聖教会本部があるエールという都市国家を内在し、世界中から訪れる人が多くいて潤っている国のようだからな……物価が高いせいもあるだろうがな。


 それでもこの利権にあやかろうと画策する奴が、恐らくこの国の王をけしかけたのだろうと俺は推察している。国王にとってはボーキ海の領有権よりも隣国との友好関係と国交の方が遥かに重要なはずだからな。恐らくうまいこと言って……スーバキとメンドーは国境問題で仲が悪いし、最悪でもターメリアは味方してくれると吹き込んだのだろう。


 十代以上も続く王家で現王が即位したばかりで、何か王として国のために大きなことをやってのけ歴史に名を残したいと……考えていたところをつけこまれたのではないだろうかな……三十歳半ばで前王が大病で急逝して突然王になったのだからな……大学に残って研究し政治学の博士号を取得したばかりだったと聞いた。


 十歳前後の年端も行かないうちは宰相などの補佐役が付くだろうし、五十過ぎていれば落ち着いてきていて急激な改革などやろうとはしないだろうし……一番危うい時期だったな……思想的にも……自分が先導して国民を豊かに……なんて思い込む時期だったと言えるのではないだろうかな。」


「そうですね……即位後三年経ってから突然の領有権主張で、半年後には二国に対する宣戦布告……それから七年間も延々と……周辺三国と戦争が続いております。幸いだったのは……ボーキ海以外の国境は全て高い山脈ですので大規模な軍勢で直接攻め込まれなかったことですわね。


 ボーキサイ国も海軍を強化して沿岸を守っているのと、希少なサメを保護するためにボーキ海での大規模な海戦は三国共に避けたいがために、ボーキ海は不戦領域として協定されたことが戦争を長引かせているともいえますが。ボーキサイ国が早々と他国に占領され敗戦国となることを免れているともいえますね。


 戦線は山間部に限定され、ゲリラ戦のように小規模紛争があちらこちらで発生していると聞きます。それでもボーキサイ国は劣勢で、国境部の高い山岳地帯の大半は敵対する隣国の支配下となってしまったといわれておりますね。

 このままではいずれ地上部隊が平野部の各都市まで攻め込んでくる恐れがあると……。」


「人間同士の争いの際は魔道具使用は国際法で禁止されているからな……だから国力の差はありありなのに一気にけりが付くことなく膠着状態でますます戦争が長引いている。


 使用可能なものは一般的な剣や弓矢に槍……斧や鉈などの刃物のほかに火縄銃と大砲だが……最近連射の利く鉄砲が発明されスーバキ国もメンドー国も大量発注したと聞いている。このままいけば……ボーキサイ国は敗色濃厚だ。


 だから……まあ……恐らくボーキサイ国の国民ですら誰もが心の中では感じていることだろうが……主張通りにボーキ海半分の領有権など……認められるはずはないだろうな。


 こんな理論がまかり通れば……この星の外洋に面する国々全てが他国との中間点までの領海を主張しかねない……そうなると公海なんてなくなるし、外海にある島国の国家も大陸との中間地点までの領海を主張しだしかねない。


 島というのは周辺全てが海に囲まれているから周囲どこもかしこもが……どこかの国とぶつかるまでの中間地点が領海だからね……大陸の大国に対しその何百分の一くらいしか面積のない国が、遥かに多くの領海を保有することになりかねないような……そのような主張は通らないはずだ。」


 常識的に考えて、ボーキサイ国の主張は通るはずはないと巧は一蹴……


「そうですけれど……では一体どうすれば……ボーキサイ国には莫大な賠償金を支払う事なんてできないでしょうから……そんなことしたなら国家として破産……軍備どころか国としての一般会計予算すらなくなり公的機関は全てマヒして、国として存続できなくなってしまいますわ。


 通貨だって……金貨にしても銀貨にしても銅貨ですら……他国に比べて半分ほどの重さすらなく……国家として通貨価値保証と宣言しているから何とか通用しておりますが、外国へ行くと半分の価値しかないとも聞きますからね。


 冒険者組合の口座明細でも……ボ金貨ボ銀貨と……他国の金貨はただ単に金貨何枚と記載するのに対し、明確に区分してあるとテルミで冒険者組合の受付嬢をしているパルマが教えてくれましたわ。


 この上敗戦なんてことにでもなったなら……かといってこのまま戦火が長引くことはよりいけない事でしょうし……困りものですわね……。それにしても……本当に長いですわね……王宮の壁……永遠に続いているかと思えるほど……先が見えてきませんわ。」


 エミリアが愚痴っぽく呟き、ふうっとため息を漏らす。


「いや……実をいうととっくに王宮の壁は終わって次の建物の壁になっているようだな……先ほど迄右手側に高い建物が軒を連ねていたが、今はなく住宅が続いているだろ?王宮周りに役場や税務署など官庁や裁判所などが固まって配置されているからな……だがここからは住宅地だからすでに王宮ではない。


 確か……どこぞの大金持ちの伯爵が王宮に負けないほどの大豪邸を建てたと聞いたぞ……その外塀だな。」

 巧が左手を見ずに右手側の景色だけを指し示しながら解説する。


「はあ……長く続く戦乱で疲弊した国でも、王様に負けないようなお金持ちの貴族の方がいらっしゃるのですね……。」

 エミリアは左手の延々と続く白壁をじっと見つめながら歩き続けた。



「おっ……このすぐ先が東部冒険者組合の建物だぞ……」

 道中ボーキサイ国の現況を嘆いていたら、いつの間にか目的地へ到着した様子だ……巧が前方の曲がり角方向を指さす。


「結構かかりましたね……馬車を使ったほうがよかったような……」

 息を弾ませている様子も見られない巧に対し、夏の強い日差しで滴り落ちる汗を手の甲で拭いながらエミリアが呟く。


「いや……御者によってはペットの同乗を嫌がるからな……愛玩用の小型犬はともかく大型犬は特にな……客車が獣臭くなると次の乗客が文句を言いかねないとかでな……そんな嫌な思いしたくはないだろ?


 それに……歩いたほうが慣れない街でも道を覚えやすい……王宮の外塀の延々と続く長さも味わえただろ?」

 三刻休みなく歩き続けようやく到着した東区までの遠さも苦ではないと、巧が明るく励ました。



「いらっしゃいませ……お仕事の申し込みでしょうか?それともご精算でしょうか?」

 冒険者組合の重厚そうな厚い木製のドアを開けて中に入ると、すぐさまカウンターの受付嬢が声をかけてきた。金色になびく長い髪のスレンダー美女の受付嬢のようだ。


「ああ……イーストリバー河川敷の魔物討伐依頼だが……まだ残っている区画はあるか?」


 巧はそのまま受付カウンターへ進み、何も見ずに受付嬢に声をかけた。受付カウンター背面に仕事依頼書が貼りだされているが、背面壁いっぱいに貼り出され中には重ね貼りして後ろの依頼書が見えなくなっている箇所さえも……あまりの仕事依頼の多さと冒険者不足で、業務が停滞しているのだろうか?


「えっ……ええ……御座いますとも……イーストリバー北部エリア百区画及び南部百区画……どちらも両岸共に残っております。しかもここ二年ほどこの地区は引き受け手がおらず、そのまま放置されておりますので……一区画銀貨二枚の礼金のところ、今なら倍額の銀貨四枚となっております。大変お得ですがいかがでしょうか?」


 やはり東区でも遠方の百区画は手つかずに残っているようだ。確かに実質稼働時間より移動の方が長いのでは効率が悪すぎる。受付嬢は振り返って仕事依頼書の残件を確認しようともせずにすぐさま答えたところを見ると、やはりこの地区でも滞留案件として課題となっているのであろう。


「ああ……それは有り難いのだが……この受付作業台の上に大きく書かれている通り、一度に引き受けられるのが二区画までだと……半日以上かけて往復してたったの銀貨八枚の収入では効率が悪すぎる。


 そこで……だが……二年も放置されていてこれ以上の停滞は望まないだろ?かといって今現行の規則では効率が悪すぎる。そこで……だ……一度に引き受けられる上限を上げてもらえないか?北端の両岸百区画を一度に引き受けさせて欲しい。無茶を言っているつもりはない……ウエストリバーも同様だったが向こうでは認めてくれたが如何か?」


 巧は東区でも一気に二百区画分の一括引き受けを提案した。


「ウエストリバーの滞留案件の一掃に関しましては、こちらでも報告書の写しが回ってきて拝読させて頂きましたので承知しております。東区組合でも特例措置として……二年以上停滞した区画に関しましては上限を設けないとしました。


 ですがこれを明文化してしまいますと……通常の引き受け区画も二区画だけではなくもっと多く引き受けさせてほしい旨、訴え出る冒険者が頻発することが懸念され……文書化は見送られました。


 森や洞窟などの魔物の巣窟と異なり、高い堤防で外界と断絶されているとはいえ解放された多区画を一度に多数の冒険者らで短期間に魔物討伐を行う河川敷での仕事は、他区画の冒険者らの擁護も見込まれ比較的安全に魔物と対峙できる場とされ、新人冒険者らの実地訓練の場とも目されており、広く多数の冒険者に参加して頂きたいと願っておりますので……。


 あくまでも特例措置として……しかも礼金の繰り越しはせずに一区画銀貨四枚となりますけど……宜しいでしょうか?」

 事前に報告書が回ってきてすでに検討済みだったようで、受付嬢は事務所へと引っ込まずに即答した。


「ああ……それで構わない。それで……現地入りは明日の朝からとなりそうだが……期限設定はどうなっている?」

「はい……西区と同様受付後一ケ月間となっております。」


「そうか……じゃあそれで構わないから……北側の二百区画を申し込ませていただく。」

「かしこまりました……それでは冒険者証をご提示頂いて……この申込書に必要事項記入とサインを願います。」

 受付嬢は事務的に申請書を取り出し、カウンターの上で記入を促した。



「それではお気をつけて……ご健闘をお祈りしております。」

 受付嬢に見送られて早々に事務所を後にする。


「もっと長くかかるかと思いましたが、驚くほどあっさりと特例措置が通りましたね。」

「ああ……そうだな……助かった……。」


 通常では考えられないような特例中の特例とも思える引き受け方なのだが、やはり実績があるためかなんともあっさりと認められ、拍子抜けした格好だ。


「どうする?本来ならば今日は組合近くに宿をとって寝て、明日の朝から移動して午後着でそこから戻って二区画……と言った段取りのつもりだったが……まだ日が高いから今日のうちに川沿いまで行って宿をとり明日朝……いや……それで二区画だけだと時間が余って仕方がないからゆっくりと午後起きでもして、そこからにするか?」


 すでに午後の時間ではあるがまだ日差しは強め……ここで宿をとる必要性もなさそうだ。


「今日は移動してなるべく川近くで宿を探すとして……明日は早朝から初めて……二区画戻って始めるにしてもそこから十区画進めばよろしいのでは?最終日に十区画で終わるか二区画で終わるかですけれど……収穫の量から考えましても少ない区画の方がいいと思いませんか?前回は私の分も巧さんに手伝って捌いていただいたくらいですので……。」


 エミリアは本日移動だけでいいとして、明日は朝から十区画分進めばいいと主張……


「ああ……そうか……確かにな……俺の頭は固いというか……融通が利かないのだな……初日は春の駆逐から日が経過しているから二区画戻って初めて……それが手始めで初日終了……としか発想がないのだな……十区画十日で百区画終了……と逆算しているから尚更だ。分かった……じゃあ最終日が早仕舞いできるよう、明日から十区画だ。」


 巧は笑みを浮かべながら恥ずかしそうに、兜の上から後頭部を掻く形だけ行い答えた。


「では……少し急ぎで……目的地の川沿いまで向かうとするか……。」

「はいっ……。」

 一行は急ぎ足で三里弱先のスタート地点までまずは行き、そこで近くの安宿を探して急ぎ就寝した。



「さて……今日から河川敷魔物駆除開始だ……前回同様東岸側と西岸側とあるが……エミリアはどちらがいい?」

 橋へと続く街道が堤防へと向かい道がカーブしながら上がっていく手前で、前回同様巧がエミリアに問いかける。


「そうですね……前回私が西岸をとりましたから……今回は私が東岸を担当したいですけど……宜しいでしょうか?」

「ああ……構わないぞ……どちらでも同じはずだからな……。」


「それは……以前巧さんが河川敷で仕事をした際に、橋げたから河川敷へ設置されていた鉄の格子柵が痛んではいなかったという事でしょうか?だからどちらでも同じことであるはずだとお考えで?」


 ウエストリバーの担当分けの際、巧は橋下部の侵入防止用の鉄格子柵が東側は腐食が激しく痛んでいることを知っていた。だからエミリアが西岸をとることをすぐに認めたのだろう……そうエミリアは考えている様子。


「いや……ウエストリバーの鉄格子柵は確かに俺が担当していた時分から痛んでいたが、両岸共に劣化状態に変わりはなかった。今回西岸側だけ更新され……しかも太い鉄材の鉄格子柵に代わっているのを見て驚いたほどだ。更新工事を行うなどと言った予定も……冒険者である俺には関係ないから知らなかった。


 結果的に更新されていた西岸側は小動物系で東岸側は大型魔物が巣食っていたから俺が東岸側が適していると判断したが、最初から意図していたわけではないぞ。


 イーストリバーは俺が二年前まで担当していて放置期間も短いからな……劣化が進んでいたとしても大型魔物の侵入に関しては……ウエストリバーほどひどくはないものと推定しているのだが……。」


 ところが巧は前回の区分けも意図したものではなかったと答える。言われてみればその通りで……鉄格子柵の更新時期など知らないはずだし、大型魔物の侵入が予測できたかと問われたら……確かに難しいだろう。


「そうでしたか……ちなみにその時分で鉄柵の傷み具合は如何でしたか?どちらも正常でした?」


「いや……逆だな……イーストリバーは両岸共に鉄柵の腐食が激しかった……見た目だけだがウエストリバーの方が当時の状態は良かったくらいだ。ちょっと触るとぼろぼろ崩れ落ちそうで、怖くて確認のために触ることもできないくらいにね……だからイーストリバーも報告時に指摘はしておいたのだが……期待はしないほうがいいと思うぞ……。


 いや……こちらももしかすると片側だけ更新されているかもしれないがね……だが更新するのであれば両岸一度に行ったほうが、魔物の侵入を防ぐ目的を鑑みると良いように感じるのだがな……行政の考え方は……理解できんね。」

 イーストリバーの方は侵入防止用の鉄格子柵の腐食は両岸とも激しかったと答える。


「そうですか……どちらも同じような状態……でしたらやはり今回は東岸側を担当させてください。」


「分かった……じゃあ気をつけてな……前回同様危険を感じたならすぐに照明弾を上げてくれ。また……順調でペースを上げたい場合と抑えたい場合の照明弾の色も前回同様だ……いいかな?」


「はいっ……了解いたしました。」

 エミリアは元気に大声で返事をすると、そのまま二匹のペットと共に橋の歩道を駆けていった。


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