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副使用者

8.副使用者

「そういえば……冒険者の袋の副使用者ですが……私の袋は恐らく支給されてから何も設定しておりませんので……私の袋も未設定のはずです。どのようにして設定すればいいのでしょうか?簡単であれば今度実家に帰った時にでも……父を副使用者として設定しようと思うのですけど……。」


 エミリアが冒険者の袋を手に持ちぶらぶらさせながら、設定方法について巧に問いかける。只の大きめのがま口財布と勘違いし、母の遺品同様ペットの首輪代わりにそれぞれ付けさせていたのだ、何ら設定など施していない。


「冒険者の袋は見た通り……何か設定できるような入力装置はついていない。使用者設定も副使用者設定も全ては冒険者組合でしかできない。担当者が在籍していたら設定するのはさほど時間はかからない筈だが……いない場合は預かりとなってしまうようだ。冒険者組合間を巡回している担当者がいると聞いたから……恐らく数日はかかってしまうだろうな。


 どうせ明日には河川敷の魔物掃討の申し込みに組合へ行くのだから、その時に確認してみたらいいだろう。

 この国の住民で戸籍がある対象者であれば、住所と名前を届け出れば副使用者として登録可能だ。


 俺の袋も以前設定したはずの副使用者情報を残したかったのだが……その方が俺の身元確認に役立つだろうからな……だが名前も出身地も分からなくて……冒険者として俺の身分証を再発行する必要性があったのでな……袋の中身を全て取り出し巧と言う名で再設定時に過去情報は全て破棄されてしまった。


 そもそも使用者や副使用者と言った設定は袋に文字など記してあるわけではなく、結界術の術者が念を込めるようで……以前書き込んだ念を別の術者が読み取れるかというと……人物像などの大まかな映像が頭の中にぼんやりと浮かぶそうだが、詳細情報は取り出せないのだそうだ。だから冒険者の袋からは俺に関する情報は何ら得られなかった。


 袋の使用者や副使用者は、実際に取り出せるかどうかで判断する以外方法はないそうで……しかも所有者が分からなくなった袋を別の冒険者に割り当てた場合……以前入っていたであろう袋の中身は新使用者には取り出せないのだそうだ。


 恐らくこの袋はそれぞれ独立した異次元空間と繋がっていて……設定量までなら袋の外観の何十倍もの物を入れられるのだが……その空間は使用者と副使用者だけが使用でき、別の使用者に変更してしまうと……別の異次元空間に繋がってしまうのだろうと俺は考えている。


 使用者か副使用者が生きているうちに中身を取り出さないと……永久に取り出せなくなってしまうようだな。」

 巧が冒険者の袋に関してのうんちくを述べる。恐らく自分の過去を探る情報源の一端として当初考え調べたのであろう……巧の説明に何度も深くうなずくエミリアだった。


「分かりました……それでは明日にでも副使用者設定をお願いしてみますわ……。」

「ああ……それがいい……。」



「ウエストリバー南端東西側夫々百区画の魔物駆除依頼のお仕事ですね……承りました。少々お待ち願います……」

 翌朝早朝……今度は南端側の河川敷駆除を申し込みに巧たちは冒険者組合へ……申請書を提出するとすぐに受付嬢がカウンター奥の部屋へと引っ込んで行った。


「運よく担当者が御在籍でしたようで……思ったより簡単でしたわ……。」

 するとそこへエミリアが二匹の黒犬を引き連れやって来た。


「副使用者設定申請書に父様の名前と住所を記入して冒険者証を提示して袋を預けただけで……四半刻もかかりませんでしたわ。」

 エミリアが満面の笑顔で、大きめのがま口財布につけた紐を手に持ち掲げて見せる。


「ああ……そうだな……ふうむ……そうだ……俺の袋の副使用者設定を、エミリアにしてもいいか?」

「えっ?どういうことですの?」

 突然の巧の言葉に、エミリアの心臓が高鳴る……


「エミリアの副使用者は御父上でいいとして……俺の副使用者は未設定だから……魔物駆除中に俺が死んでしまった場合は袋の中身は永遠に取り出せなくなってしまう。希少な魔道具類が入っているので勿体ないし、何より魔物の巣窟で俺に万一があった場合……エミリアも魔道具を取り出せた方が何かと便利かもしれないからな。


 俺が死んだ場合だけではなく瀕死状態で意識がなくなっていれば何も取り出せはしないが、エミリアが使えるなら退避豪を取り出し使用することで……もしかしたら二人とも助かる場合があるかも知れないと考えた。担当者が在籍しているのであれば尚更今しか設定の機会はないと思っているのだが……どうかな?」


 ははあ……成程……自分のことを家族の如く深く信頼して……と言った理由ではなく互いの延命のためという目的で……とは少しがっかりしたが、エミリアにも巧の言っていることは理解できた。


「ですが私は……魔道具など触ったこともありませんけど?」


「ああ……問題ない……退避豪とちょっとした丈夫なテントを思い浮かべて手を突っ込んで取り出すだけだ。太い帯で閉じられているから外して、広い空間に向けて放り投げるだけで勝手に開いて設置できる。上が丸いから逆向きに投げても自然と転がって正常に設置できる。急いで中に入って入り口を閉じさえすればチャージ切れまで粘ることが出来る。


 それ以外の魔道具に関しては……使えるに越したことはないから……おいおい使用方法説明と試し打ちなどやってみよう……エミリアの御母上も魔道具を扱っていたのだろ?」

 とりあえず退避豪だけ簡単な使用方法の説明があった……あとはおいおいと巧は告げる……


「は……あ……まあ設定自体は別に構いませんけど……」


 設定を拒む理由は特にはないが……エミリアの気持ちは複雑だった……男女二人だけのチーム……普通なら夫婦であることが当たり前のような関係であるはずだ……エミリアはペットとして大型犬に引き連れているし、極力野宿は避けて宿をとり別部屋か、もしくは男女それぞれの雑居部屋で宿泊するように気をつけてはいる。


 その上で巧の副使用者にエミリアがなるということは……二人の関係が親密なものであると、傍から受け止められかねない。かといって断るというのも変に意識している風に巧に受け止められかねないので言いだしにくい。仕方なく了解しては見たものの……エミリアは気が重かった。


「ウエストリバー南端二百区画の魔物駆除依頼の件ですが、上司に確認したところ前回同様特例として一括申請を許可いたします。ですが報奨金に関しましても前回同様三年半という放置期間に対する繰越はせず、一区画当たり銀貨四枚となりますけどよろしいでしょうか?」


 ちょうどそこへ奥に引っ込んで相談していた受付嬢が戻って来て、前回同様特例措置と告げる。


「そうか……報奨金もそれで結構だから受付願う。それとついでだが……俺の冒険者の袋だが知り合いの一人もいないので設定できなかったのだが……副使用者なしのまま袋を使い続けることは、使用者死亡の際の処置に困るので早期に設定せよといわれ続け、それでももう五年も経ってしまったが、ようやく相棒が出来て一緒に仕事が出来ている。


 だからエミリアを副使用者として設定をお願いしたい。そのほうが魔物駆除時に俺の身に何かあった場合、彼女に補助してもらうことが可能となるからね……。」

 仕事の受付願いと共に、巧は冒険者の袋の設定も申し込んだ。


「ああっ……そうですね……ようやく……ようやくですか……副使用者設定なしで使い続けることは、組合規定違反となり冒険者の袋使用禁止となるところでしたからね……そういえばもう五年で……そうか……それで王都を逃げ出して地方へ行っていたのですか?地方だとそこまで規定規則とうるさく言われないでしょうからね……。


 でもよかったですね……良き相棒が出来て……たった一人だけだったのが一気に賑やかになりましたからね。」

 受付嬢が巧とエミリアにアルル達を順に眺め、しみじみとした口調で巧に応対する。


「ああ……そうだったか?五年で使用禁止だったか?そうか……それは危ないところだったな。」

 慣れ親しんだ関係らしき口ぶりの受付嬢に、巧も同様に親しみを込めて答える。そんな二人を見てエミリアは、はたと気が付き思わず俯いた……。


 そうだ……巧は記憶を失ってから五年間もここ王都で活動をしていて……自分との関係なんてほんの僅かな期間でしかなく、男女の関係を疑われるようなことは決してないのだ……ということに改めて気づかされた思いであった。



「はいっ……副使用者として、お仲間のエミリアさんを設定しておきました。

 それでは河川敷魔物駆除のお仕事……よろしくお願いいたします。お気をつけて……。」


 一旦奥へと引っ込んだ受付嬢はすぐに戻って来て買い物袋並みに広口の巧専用冒険者の袋を返却し、エミリア達は軽く一礼して事務所を後にし河川敷へと向かった。



「さて……また川の両側の河川敷ごとに分かれて別々に最下流まで魔物どもを追い込んでいき、最終的に一掃したいと考えているが大丈夫か?それとも二人一緒に片側ずつ攻略していくか?


 どうせ普段の河川敷魔物の駆除だって……区画申し込み申請は依頼書貼り出し日に行列ができるほど冒険者が殺到してすぐになくなってしまうが、実際に駆除に向かう日は冒険者らの都合によってまちまちだ。だから隣の区画の駆除が行われていなければ魔物達は隣の区画へ逃げ込み、後で戻っていってしまうから完全駆除なんてできてやしない。


 そんなことは事務局だって百も承知の上で……それでも放置して魔物が増え続け堤防を越えて外の民家へ押し寄せなければ十分対策できていると考えている。だから……完全駆除など考える必要性はないのだぞ。」


 一刻半ほど歩いてそろそろ目的地である下流二里と四半里地点の橋が見えてきたタイミングで、巧がエミリアに確認してきた。前回何とかこなしたとはいえ……大きな負担と感じているのであれば、魔物が川に逃げる不都合はあっても二人で片側ずつ駆除していくこともやむを得ないと考えているのであろう。


「いえ……前回同様二手に分かれて完全駆除を目指すのが最善と考えますので、今回もそう致しましょう。ですが……今回は私に東岸側を担当させていただきたいと考えますが……よろしいでしょうか?」


 前回の仕事でかなり苦労し疲労困憊したはずのエミリアは、それでも強気に二手に分かれての駆除に賛成する。しかも今度は担当区分を逆にすると言い出した。


「ううむ……もしかすると前回精算時の収量の差を気にしているのか?あの時に言った通り、同時に活動して得られた獲物なんだから均等割りが妥当だ。だから今回大型獣系魔物が多い方をエミリアが担当して、大収穫で前回分を解消するといったことは必要ない。


 逆に……だな……西岸側は小動物系魔物がそれこそ大量に繁殖していて……小さくて動きが速い魔物は俺の剣だけでは対応に苦慮してしまう。足元をちょろちょろと素早く動き回られると、下手すりゃあ自分の足の甲を剣で突き刺してしまいかねないからな……対して牛やイノシシ系や熊系魔物だと……矢を何本射かけても瞬殺は難しいだろ?


 それぞれの武器と戦法で対する相手の相性があるという事であり、一緒に行動している時でも互いに相棒の不利な点を補い合っている筈だ。


 だから……恐らく今回も東岸側は鉄格子が壊れていて外部から大型魔物が入ってきている可能性が高いから……剣を使いしかも冒険者の袋の口が大きくて容量も多い俺が担当する。小型の動きが素早い魔物が多いと想定される西岸側は弓矢と忍犬で駆除するエミリア達が担当してくれ。これは適材適所なんだから……従ってもらうしかない。いいか?」


 仕留めた獲物の量の少なさを気にしていたエミリアに対し、巧は特性に合った魔物への対処であり、仕方がないのだと説明。今回も前回同様の配置で行くときっぱりと断り……


「はあ……分かりました。」

 巧の強い語調からも、これにはエミリアも従わざるを得ないと感じた。



「よしっ……じゃあ今回も前回同様……一日最大十区画まで。初日は前回の一斉駆除から期間が開いているため魔物が流入している可能性が高いから申請区画より二区画分戻って本日分とする。実質開始は明日からだ、いいね?」


「はいっ……分かりました。」


 前回同様、橋へと堤防高さ分の上り坂を登ったところで巧と別れ、エミリアは橋の歩道を相棒の犬とともに駆けて対岸へ渡っていった。また今日から延々と十一日間にも及ぶ過酷で孤独な魔物との戦いが待っているのだと……エミリアの体には武者震いとも思える小刻みな震えが……起こっていた。


 それでも意を決して……やってやると強い思いで自分を奮い立たせ、重かった足取りを少しずつ軽やかに変えていく……



「さあ……行くわよっ!」

 橋げた脇に設置されていた金具に滑車を設置し、ロープを通して金属製の籠に相棒である犬を乗せ下へ降ろし、自分も縄梯子を使って堤防下の河川敷へと降りていき、二区画分戻ってから元気いっぱいの掛け声で自分を鼓舞して、さあ……魔物駆除開始だ……



「はあ……やはり下流側城壁部分の魔物流入防止用鉄格子柵は……東岸側のみ腐食して大型魔物が流入していましたか……報告書にはご指摘があったこと記入しておきます。」


 十二日後……何とか両岸側百区画ずつの魔物を掃討し終え冒険者組合へ報告に出向いたが、受付嬢の反応は前回同様そっけないものだった。


「よろしく頼むよ……今回も牛系魔物に猪系および狼系魔物が多数流入していて……狼系魔物がボスのようで動きも速くて結構てこずった。跳躍力もすごくて成長すると容易に堤防高さ程度は飛び越えて、街中へ進出する可能性だってあった。

 これが仕留めた獲物の毛皮と肉だ……。」


 巧が人よりも二回りは大きそうな巨大狼系魔物の毛皮と、牛や猪系魔物の皮と肉をカウンターに並べていく。


「こちらが西岸側の小動物系魔物……イタチに狐に狸にウサギ……雉やハトに今回はボス魔物と思しきはフクロウでした……大型でしたが矢で射止めましたのではく製用にと持ち帰りましたわ……。」

 エミリアは百を大きく超える小動物の毛皮と少量の肉に大きなフクロウ系魔物の死骸をカウンターに並べた。


「承知いたしました……これから計量させて頂きますね……ああそれと……前回のウエストリバー北岸二百区画分の魔物駆除に関してですが……組合側での検分が終わり報奨金振り込み……銀貨七百二十枚……金貨で七枚と銀貨二十枚ですが……それぞれ金貨三枚銀貨六十枚ずつ口座へ振り込ませて頂いておりますので、そちらの方もご確認願います。」


 受付嬢は大量に並べられた肉と毛皮の計量を始め、前回分の仕事の報奨金がようやく振り込まれたと教えてくれた。片側二里と四半里ほどの長さで幅も広いところでは四十間もの広い区画……打ち漏らした魔物がいないとは限らず慎重に進むと確認だけでも相当日数かかってしまったのだろう。


「さて……どうする?今回も二、三日休養してからイーストリバーの魔物駆除に向かうか?」


「いえ……今回は堤防の上での野営でもそれなりに休息できましたから、長期間ではありましたが体力的には問題ありません。昨日宿をとって湯も使えましたし……どうせ東区までは八里以上も距離がありますでしょ?本日このまま王都東へ向かって宿をとるのは如何でしょうか?」


 エミリアの体力を心配し前回同様休養日を設けるか尋ねる巧に対し、エミリアは十分休めているので問題ない旨答える。


「そうだな……王都は百万都市だ……人口が多いということはそれだけ規模が大きい……つまり広いからな……西区から中央区を抜けて東区へ行くだけで数刻は必要だ。今日は移動だけで宿をとり、明日早朝から東区の組合へ向かうとするか……分かった……そうしよう。」


 巧も頷きながら答えた。


「えー……本日お持ち込みいただきました収穫の計量が終了いたしました。毛皮及び肉とさらにはく製用の鳥類が三羽分で……合計で金貨四枚と銀貨四十六枚となります。前回同様折半で、金貨二枚と銀貨二十三枚ずつお二人の口座へ振り込ませていただきました。ご確認ください。


 加えまして今回の仕事の報奨金ですが……前回同様組合のものが現地へ赴き状況確認してからということになりますので……今回も恐らく来週以降の払い込みとなる予定です。いかんせん人手が足りない上に範囲が広大なもので……あいすみませんがご理解願います。」


 計量を終えた受付嬢が今回収穫分の振込金額を伝え、報奨金は払い込みまで日数がかかる旨伝え謝った。


「いや……仕事の結果を確認してから完遂とするのが当たり前だ。報奨金はそれからで構わない。世話になったな……それでは。」


「お気をつけて……またのご来所願っております。」

 巧は受付嬢をねぎらい別れを告げ、組合事務所を後にした。


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