魔道具の競り市
7.魔道具の競り市
「私の知り合いに十を超える魔道具をお持ちの冒険者がいらっしゃるのですけれど……彼がうらやましくて……ですが普通の魔道具店を訪ね歩いてみても魔道具の在庫を抱えているお店を見たことが御座いません。
現在魔道具というものを製造する技術は失われ、古から伝わる魔道具を何とか修復し魔族の力を借りてチャージして使っているということで、今は冒険者を廃業する先輩たちが買い取りに出したものを手に入れるしか術はなく、それでも恐らく数年先まで予約で埋まっているとお聞きいたしました。
一体どうやって彼は高価でしかも希少性の高い魔道具を大量に揃えられたのか、知りたいと常々考えているのです。どこかから大量入手する秘策などおありでしょうか?」
エミリアは一計を案じ、巧が一体どうやって大量の魔道具を所持しているのか、入手ルートを探ることで過去にさかのぼれるのではと考え店主に尋ねてみた。
「ほ……お……十を超える魔道具……か……もしかすると……常に兜の面帯を外さねえ……食事時も面帯したままで……しかも同行する仲間と食堂へ行っても自分は一切注文をしねえで……飲みもんすら自分でこさえたもんで済ませるっちゅう……そいつのことかい?」
すると店主が巧らしい人物に心当たりがありそうな示唆を……
「うーん……私が存じ上げるお方と確かに特徴は似ているかもしれませんが……同一人物かどうかまでは判断しかねます……そのお方も多くの魔道具をお持ちなのですね?いかようにして手に入れられたのか……お聞きになったことはございますか?お店としても……そのお方の入手ルートには興味がおありで……尋ねられたことはおありでしょう?」
エミリアの胸の鼓動が高まり顔が上気し始めたことは彼女自身が分かっていた……だが努めて平静さを装い、できるだけ彼のことをそ知らぬふりを徹底したつもりで、目的の言葉を引き出そうと努めた。
「そりゃあやっぱり……ケチっていうか……常に節約を心掛け外食なんざぁ一切しねえで……泊まるのも安宿どころか空き地にテントって聞いたからな。金は使えばなくなるが……使わないで節約を続ければ少しずつだが貯まっていく。
そいつは貯めた金を全て魔道具につぎ込んでいる訳だろ?金に糸目をつけないでさえいれば……年に何度か魔道具の競り市が開催されるようだから……そこで競り落としたんじゃあねえのかってのが我々業界筋で出した結論だ。
勿論そいつにじかに聞いたわけじゃあねえ……そもそもそいつに直接会ったことはねえ……噂で聞いたことがあるっちゅうだけで……そいつは表通りの大手にしか出入りしねえらしいからな……まあ裏通りで看板も出してねえこんな胡散臭せえ店じゃあ……馴染み以外はぼられることが多いから敬遠するんだろ。
だがなあ一度だけ……そいつのもんじゃあねえかってえ魔道具が、うちで扱えねえかって問い合わせが大手から来たことがある。勿論発注者の名前は伏せられていたが……物を見りゃあ使っている奴の人となりがある程度分かるからな……恐らくそいつだ。
退避豪っちゅう魔道具でな……バカでかい魔物の巣窟で活動している際……何日もかかるとさすがに眠らねえで続けることはできねえ……かといってこれから出口まで戻るとなると歩くだけで何日もかかっちまうから……大勢いれば交代で見張り番ってできるが少数で……しかも相方がやられて怪我したなんて時とか……緊急時に使うらしい。
最大火力の火炎魔法を終日浴びても焼け焦げ一つできねえよう、強力な結界が施されている代物で……わしも魔道具修復の講習会で聞いたことがあるだけで見たのはそん時が初めてだった。解体手順もうろ覚えだが知っちゃあいるからやってやれねえことはなかったんだが……それでも退避豪自体の修復はかなり手間で時間をとられるから断った。
外観見ただけで丁寧に扱われていることはすぐに分かったが、そんなの受けると一日中針仕事で割かれちまいかねねえからな……恐らく王都界隈じゃあ誰もやりたがらなかっただろうな。」
店主が思い出話と共に入手ルートの推察を披露してくれた。
「は……あ……魔道具の……競り市……ですか?それはこの……王都でも開かれるときが御座いますか?いつでしょうか?いつなら競りに参加できますか?」
雲を掴むかのような巧の過去を探る旅で……唯一ともいえる有力な手掛かり……エミリアは紅潮した頬を隠そうともせずに店主に詰め寄った。
「いやいやまさか……ほぼ負け戦ともいえる戦いで疲弊した国で、莫大な金が動く魔道具の競り市が開催されることはねえよ。武器や防具……道具類に関しては、年に一度この王都でも業者間での物品転売を行う競りが開かれるがね。
先達らの遺物ともいえる魔道具に関しては……大規模に扱えるのは宗教国家である隣国ハリキルの……聖教会総本山がある都市国家エールで年に一度か二度開催される。行きてえのか?」
「えっ?」
「ハリキルへ行って……魔道具を競り落としてきてえのかい?」
「は……あ……まあ……そうですけれど……。」
詳細情報を引き出したいエミリアに対し、事情を知らない店主はあくまでも魔道具購入にこだわる。
「すごい金がかかるぞ……わしも五百年ほど前に魔道具修繕講習会でエールに行ったが……当時は宿代も安宿だったら銅貨数十枚ほどだったが、最近じゃあ物価高騰で……安宿でも銀貨十枚って聞いたぜ。金持ちしか泊まれねえ。
エールは都市国家で別国扱いだからハリキルから出入りする際にもいちいち通関手続きがあってな……その際の手数料が以前行った時は穴あき銅貨数枚だったはずだが今は銀貨一枚……それでもいちいち外に出てハリキル首都の安宿に泊まったほうが少しは安上がりとは聞いたな。
それでも……旅費を含めたらどれだけ節約しても……金貨数枚は持って行かにゃあなんねえな。競りの開催日程は決まっちゃあいるが……太客の動向次第で流動的のようでな……前回までの大口顧客がちょっと遅れて到着なんて連絡が来たらすぐに日程変更されるって聞いた。だから半月滞在ぐらいは覚悟で行かにゃあなんねえ。
加えて……当たり前だが高価な魔道具を競り落とすだけの現ナマ……冒険者だったら口座の残高があればそれでもいいがね……昔は冒険者しか購入しねえ魔道具だったが……希少性で見直され……歴史的価値もあるんじゃあねえかって金持ちの蒐集家が目をつけやがった。
それこそ金に糸目をつけねえ……なんせそれを使って魔物退治……なんて金輪際考えてねえ奴らが、ただ自宅の居間に飾って客に自慢するだけのために……希少な魔道具を買い漁っているんだからな。
そんなのにはびこられちまったら……うちみてえな魔道具の修復とチャージで食っているような店はおしめえだ……ここ十年程前から特にそんな傾向が目立つようになって……俺は早々と前線から撤退したんだ。」
店主は昨今の魔道具流通事情を説明し、同時に自分の店の状況も伝えた。
「そうですか……競りに参加するだけでもかなりお金が必要なのですね?私は……そんなお金持ちではありませんから……ですがそうですね……冒険者として仕事を受け、少し稼ぐことが出来ましたら一度見に行ってみたいですわね……。」
エミリアが興味はある様子は見せるが手の内は明かさないでいると……
「もし行くのなら……ハリキル国と我が国ボーキサイ国は友好国ではあるが……それでも別の国家だからな……外国へ行くには通行手形が必要で……あれっ?でも……冒険者は基本的にどの国家にも属さねえで活動するから……通関は自由だったかな?
まあ通関手数料は取られるが……一般人は身分証のほかに訪れる国へ申請して通行手形を発行してもらう必要があるからな。冒険者組合が支給する冒険者証が身分証と通行手形代わりといった感じだな。
わしが出向いた当時は国境すらあやふやで……自由に行き来できたもんだがな……。まあ興味があるなら行ってみるといい。都市国家エールは……五百年前から賑わっていた……華やかな街だからな。
だがそうか……今でも年に二回の開催とは思うのだが……半分隠居みたいな小遣い稼ぎだけの商売だからな……競り市の情報なんざあこれっきしも来やがらねえ……どこか大手の魔道具屋にでも行って、いつ頃開催か聞いてから旅立った方がいいぜ。下手すりゃあ開催後で半年待ち……なんてなったら悲惨だからな。」
ハリキルに行くには通常は通行手形が必要となるものの冒険者は冒険者証提示で済みそうだが、いつ開催されるかはここではわからないようだ。
「そうですか……色々と貴重な情報を……母の若い時のこともお話を聞かせて頂いて……本当にありがとうございました。また近くへ来たなら寄らせていただきます。」
そこそこ有力な情報を得られたエミリアは、満足して満面の笑顔で別れを告げる。
「おお……またいつでも……御覧の通りに昼間は客もおらんし暇だからな……寄ってくれ……ターメルのことで何か思い出す事もあるかも知れねえからな……じゃあな……達者でな……。」
店主も笑顔で珍客を送り出してくれた。
「お連れ様が到着しておりますよ……お隣のお部屋でご休憩中です。」
魔道具屋を後にして宿へと戻ると……どうやら巧が宿へきた様子だ。相方が遠方へ寄ってからあとで来るから隣同士の部屋がいいと、宿にお願いしていたのだ。
「巧さん……エミリアです……。」
早速巧の部屋へ向かいドアをノック……
「おお……どうだい……十分に休めたかい?」
すぐに出てきたところを見ると、寝ていたわけではなさそうで……テルミとの往復で使う時間を考慮すると、昨晩遅くに到着しテルミで宿泊したとしても……今朝早くに発ったはずで……ほとんど寝ていないはずなのに……元気そうだ。
「本日昼近くまで寝ていて、ペルたちに起こされましたわ……それで……ペルたちの散歩がてら母様が昔通っていた魔道具屋さんへ行ってみましたの。
そこで母様の若い時の話が聞けたのですが……やはり母様は五年前の五月に失踪した際、冒険者活動を始めるつもりでそこのお店にも寄ったようです。しかも七月の再来店時には魔道具のチャージまで急ぎでお願いして……どうやら決戦の地へ向かうまでには王都で活動していたのだろうと推察されます。
ついでに……巧さんの名前を出さずに友人に魔道具をたくさん持っている人が居るので、うらやましいから私もほしい旨……嘘ではありますが試しに聞いてみたところ……」
エミリアが魔道具屋で聞いた情報を巧に教えた……
「ほ……お……魔道具の競り市……多くの魔道具を手に入れるには競り市で競り落とすのが一番という事か?確かにな……王都の大手魔道具屋に何度も通っているが……魔道具の店頭販売など見たことも聞いたこともない。必要とあらば予約して……下手をすれば半年や一年以上も順番待ちして……それでようやく手に入る希少品と聞いた。
だから俺が十一もの魔道具を持っていたことに対し疑問は感じていたのだが……それでも細かく詮索はしなかった……他人から奪い取った……とは考えたくはなかったが……アーミンへ向かう道中のようなことが……以前も起こったと考えられなくもなかったし……今じゃあ十四個の魔道具を俺は持っていることになるからな。
隊商の護衛を続けていて、輸送時を襲ってきた暴漢らからせしめたと考える方が……普通じゃあないのか?」
エミリアの想定に反して、巧は暴漢から奪い取ったものではないかと推察している様子だ。
「ところがですよ……巧さん……避難壕っていう魔道具をお持ちですよね?魔物の巣窟でどうしても休まねばならない時に使うと……灼熱の業火の中でも終日いられるという優れもののようですけど……。」
「おお……持っているぞ……エミリア達を救出した時にも一時的に使ったではないか……
だが……あの時で上限日数迄使い切ってチャージ切れで……残日数が少ないと巨大巣窟攻略時に困るから、残っていてもチャージしようと頼んだことは何度もあったのだがどの魔道具屋でも断られ……テルミの魔道具屋にようやく引き受けてもらったから、もう少し待てば引き取りに行って……今後は上限いっぱいまで使えそうだが……それがどうかしたのか?」
エミリアの問いかけに巧はうんうんとうなずきながら……そうして問い返す……
「その魔道具……私が本日訪ねた魔道具屋さんに以前大手業者から扱えるか問い合わせが来たことがあるそうで……修繕に手間がかかるのは分かっているから断ったそうなのですけど……五百年と言う長きにわたる魔道具屋のベテラン店主さんでも……見たのはたったの一度だとおっしゃっていました。
そんな希少中の希少な魔道具……食い詰めた元冒険者の暴漢が持っているはずもない……襲った冒険者から奪い取ったにしても所持せず売ってしまったはずです……魔物ひしめく奥深い巣窟で使うものですから……暴漢が持っていても仕方がないものですからね……ですから暴漢から奪い取ったという推定は、私的には却下です。」
エミリアは理論立てて巧の推察をきっぱりと否定した。
「成程な……俺が持っている魔道具の中には確かに……一般冒険者では存在すら知らないような希少品があるようだからな……命を狙われたときも……それらを狙っている不遜な輩の存在も推察された。今では魔道具も金持ちの蒐集家によって高値で取引されると聞いたこともあるからな。
だが冒険者の袋の特性から言って俺を殺してしまえば……袋に入れてある希少な魔道具類は永遠に誰の手にも渡らなくなってしまうのだ。記憶を失った俺には家族や親せき縁者どころか友人すらいなかったからな。俺の手元にあった冒険者の袋は俺が使えたから俺の所持品と判明したが、俺の素性は不明だったために副使用者設定は破棄された。
俺を生かしたまま捕縛して、喉元にナイフを突きつけながら冒険者の袋から魔道具を一つずつ取り出させるのならともかく……毒殺を仕掛けたりいきなり急所を狙って刺客に襲わせたりするのはおかしい。
実際に不意を突かれて捕らえられ、魔道具を取り出させようとされたことはあったからな……。」
「えっ?実際に魔道具がらみで襲われたことはあったのですか?」
「ああ……俺が記憶を失い長い治療期間の後すぐだったな……俺の素性を探ろうと、俺の個人情報を晒して冒険者たちに問い合わせていたものだから……その中には俺が所持していた数々の高価な魔道具の情報も当然あった。
食い詰め冒険者たちが目をつけ、リハビリ中でまだ万全ではなかった俺が遠間の河川敷魔物の掃討から戻る時を狙って背後から襲われ拉致され、両手を後ろ手に縛られ手首から先だけ自由にした上で冒険者の袋から一つずつ魔道具を取り出せと、廃工場跡地の狭い空間で監禁され喉元にナイフを突きつけられ命じられた。
当然なす術もなく応じたのだが……すべて取り出させたら訴えられないために殺してしまおうとか、奴らが囁いている言葉が聞こえたものでな……どうせ死ぬのならばと……最初に取り出した火炎魔道具を指先だけの感覚で最大出力で発火させ、冒険者の袋を俺の背後で保持していた奴ごと炎に包ませ、それから一回転した。
俺は捕らえられた時のままの恰好……河川敷で魔物を駆除して帰る途中だったから当然防具は装着したままで縛り上げられ……奴らは顔に覆面はしていたが装備はなく、普段着というか身元を分からなくさせる為の黒い作業着姿で……恐らく食い詰め元冒険者らが食べるために装備など全て売り払った後でどうしようもなくなって犯行に及んだのだろう。
どのみち甲冑にはそれぞれ特徴があるから購入来歴から身元判明を恐れ、持っていたとしても装着できなかっただろうがね……だから勢いよく吹き出した火炎には耐えられず瞬く間に辺り一面火の海になった。
甲冑で守られていたから短時間なら業火も耐えられ……ロープは消失して自由になってすぐに俺はその場から逃げ出したが、周囲にいた賊は全員焼け死んだ。全身火だるまになっていたから……助け出そうとすると火が燃え広がるだけで……どうしようもなかったし、逃げるだけで手いっぱいで水撃魔道具で消火することも咄嗟には思いつかなかった。
すぐに冒険者組合に届けて現場検証し、付近住民らの証言から俺が拉致監禁されていたことはおおよそ事実と認定され、現場に残った黒焦げ死体の身元は一年がかりで判明したようだ。」
巧は恐怖の体験を淡々と告げた。
「そんな恐ろしいことが……あったのですね?」
「ああ……今ならもう少しうまくやれて……奴らも死なさずに済んだのではないかと……悔やんでいるのだがまああの時は仕方がなかった……記憶を失い全くの素人同然だったからな……そう思い込むことにしている。
すぐに冒険者組合は俺の個人情報を公開するのを取りやめ情報検索した冒険者や関係者ら全て再調査し、所得や就業状況から犯行に及ぶ危険性の有無を確認したうえで全員に他言無用を通達したようだ。どのみち魔道具を取り出させる必要性があるわけでその時に操作されてしまうのだからな……魔道具目的で拉致監禁されることはなくなったのだがね……。
そのようなことがあったから魔道具関連の調査はしてこなかったのだが……だがそうか……俺が魔道具を手に入れた背景が競り市にあるとすると……俺の過去を探るための手掛かりがつかめる可能性がないとは言えないな。
これまで大量の魔道具を競り落とした冒険者の情報がつかめたなら……記憶を失う前の俺のことも分かるかも知れないし、希少で高価な魔道具を取得できたとなると……どこか大きな組織に所属していた可能性も高い。
分かった……ハリキル国の首都近郊にある都市国家エールを目指してみるか……そこなら俺のことを知っているものも見つかるかもしれない。」
エミリアの推察に納得し、エールを目指すことを決めたようだ。
「ですが……都市国家エールでは宿泊するのにも相当な費用が掛かるようですので……もう暫くはここ王都にて……仕事を請け負って稼いでおく必要性がありそうですわ。」
「そうか……まあ金のことはともかく、エミリアは魔物であふれかえりそうな河川敷を放置して他所へ出向くつもりはないのだろ?だったらイーストリバーも含めて、河川敷の魔物どもは一掃してすっきりしてからエールを目指そう。
俺の過去を知ることに関して、特に緊急性もないのだからな。
そうしてエールまでの道中も……周辺住民を悩ませている魔物どもが居たら、都度駆逐しながら進めばいいさ。そうすればエールでの滞在費も工面できるだろうし、一挙両得だ。」
「はいっ……そうですね。」
エミリアのことも気遣ってくれる巧の気持ちがうれしかった。




