アーミンへ
15.アーミンへ
「ご苦労様です。先ほど引き渡されました暴漢と化した冒険者たちは……冒険者証はく奪の上で軍へ引き渡しました。恐らく他にも色々と引き起こしているでしょうから……今後余罪が追及されることでしょう。懲役刑は免れないものと考えます。
それで……没収した武器や防具に関しては、そんなにいいものではないのでこちらで引き取らせていただきますが……魔道具を持っている者がおりまして……恐らく強盗まがいの行為をしていた時に他の冒険者から奪ったものでしょうが……冒険者同士の決闘の場合は負けた方の武器防具に魔道具まで、勝ったほうの総取りと相場は決まっておおりますので……はいこれ……。」
そう言いながら受付嬢は、金属製の筒ひとつと光輝く球二つを差し出した。
「ああ……だが魔道具は引き当て回数を超えていると見え……使えなかった。」
「いえいえいえ……あんな食い詰めた輩……まっとうな魔道具屋にチャージ依頼なんてするはずはありません。
恐らくもぐりの……ちょっと怪しげな魔道具屋に……しかも値切りに値切って依頼していたはずです。ですから……正規の魔道具屋にいま一度確認してみると……あら不思議……使えたわなんてことになる場合も多いようですから……確認してみたほうがいいですよ……これは戦利品ですからね。」
「ああそうか……じゃあ……エミリアが持っていてくれ。」
「いえいえいえ……使わなくても……巧さんが持っていてください。私は魔道具など扱えませんからね。」
魔道具を所持している巧はエミリアに頂いた分を持たせようとしたがエミリアは断り、結局巧が持つことになった。
「さらに今回テルミからの隊商通行に際し、魔物らの襲撃が一切なかったと隊商リーダーからの報告もありましたから……テルミンの森での魔物掃討は真実であったことが証明されました。
今朝がた送られて来たテルミンの森の現状確認の監察官報告では、別途隊商が街道を通行している為、魔物の気配は皆無だがそちらに出向いている可能性高く、到底魔物を一掃したという報告は信じるに値するものではないと否定的内容でしたが、これにて裏付けが取れました。
アルミナ―テルミ間の一般人の通行禁止令は、解除されることとなります。
テルミンの森での魔物一掃の仕事依頼は完遂ということで……報奨金……手数料を引いて金一枚が授与されます。加えて……今回の護衛業務の後金が銀貨二十枚ですね……メンバーはお二人だけのようですが……分配割合はいかほどでしょうか?」
組合受付へ隊商リーダーに続いて向かうと、受付嬢から引き渡した暴漢らの処遇を聞かされ、更にテルミンの森での魔物駆逐が正式依頼と判断され報奨金が渡されることとなった。
「ああ……折半で構わない。」
「そうですか……では報奨金分は銀貨五十枚ずつと、この度の護衛料後金は手数料引いて銀貨九枚ずつ……お二人の口座へ振り込んでおきます。その上で……これから先……アーミンまでの隊商の護衛に……引き続き就かれるということで間違いないでしょうか?」
さらに……これから先の護衛も引き受けたことは、隊商のリーダーから伝わっているようだ。
「ああ……間違いはない。引き受けた……。」
「そうですか……夜間での通行の護衛ですので……通常の三倍……銀貨十二枚……今回は通常通りに前金なしで業務完遂後での支払いとなりますが。よろしいでしょうか?」
「ああ……それで構わない。」
「では……こちらの依頼書にリーダー様のお名前と冒険者証No.記入及びサインを願います。」
巧は提示された書類に必要事項を記入しサインした。
「では引き続き……お願いいたします。」
受付嬢が目礼し、護衛業務が始まった。
「では……鎖帷子と革のドレスに革ブーツ……併せて銀貨一枚と銅貨五十枚となります。それと犬用の靴と付け牙に革製胴巻きは……申し訳ありませんが流通量が極少の為お高く……銀貨一枚、二匹分で銀貨二枚となります。」
組合事務所の入り口を出たところで、隊商のリーダーが大きな布袋を持って待ち構えていた。
「お支払いはここまでの護衛業務の清算を終えたところですから現金払いで構いませんが……宜しいですの?私はさほど武器や防具の価格に詳しいわけではありませんが……ぺリルの分はともかく一般的な衣服の値段から考えても少し……いえ……ずいぶんとお安いような気が致しますが……。」
大きな布袋を渡されたエミリアは眉を顰め困惑気味だ……。
「いえいえいえ……これが手前どもの卸売価格なので……冒険者用具などは四月や十月の期初には売れるものですけど……学校卒業して冒険者になる若者がそこそこおりますからね……ですがまだ時期ではありませんので、今は市場価格が最低な時期なのです。
その上卸売価格ですから……恐らく市場の特売価格の半値以下……でしょうが、それでも手前どもにはそれなりの利益が御座いますので、ご遠慮なさらずに……。」
「ですがあまりにお安いのはそれなりの理由がおありなのでは……?」
無理してでも巧らに護衛を引き受けてもらいたい目論見があるのだろう……平然と言い切る隊商リーダーに対し、安物買いの銭失いとの格言もあり……エミリアは対応に苦慮している様子だ。
「どれ……ちょっと見せてみろ……。」
笑顔を見せて受け答えする隊商リーダーを尻目に、巧はエミリアが持つ布袋の中身を確認し始めた。
「成程……鎖帷子も革製ドレスもどれも一級品……鎖帷子はステンレス製細チェーン仕様で革ドレスは肩や胴回りには鰐皮を使用している……極上品と言ってもいい。市場店舗ではなく冒険者組合の購買部に卸すような品物のようだ。これがこの値段であれば本当にお得だ。気が変わらぬうちに代金を支払ったほうがいい。
ぺリル用の武器と防具は……革はやはり鰐皮を使用していて極上品だな、靴もステンレス製の爪がついているし付け牙もステンレス製のようだ……どれもいい品物のようだが……どうする?」
そうして間違いのない品物であることをエミリアに告げる。
「そうでしたら……はいっ……銀貨三枚と……銅貨五十枚……本当によろしいですよね?でしたら……これから急ぎ組合の御化粧室に舞い戻って……着替えてまいりますわ……。」
エミリアは懐から財布を取り出し代価を支払うと、急いでぺリルと共に組合建物へ引き返していった。
「いかがでしょうか?」
十分ほどで戻って来たエミリアは、あつらえたかのように体型にぴったりの革ドレスを着てブーツを履いていた。そうしてぺリルも革製の胴巻きを着ている……。
「おお……いいんじゃあないか?皮をなめして赤く染めているようだが……色合いもどぎつくなくやわらかでちょうどいい。中に鎖帷子を着込んでいるのだろ?きつくないか?ぺリルの靴と牙は戦闘時以外は周りを傷つけることもあるから外しておくことになるな……。」
新品の衣装を見せびらかすかのごとく一回転して見せるエミリアに対し、巧は満足げに頷いて見せた。
「ええ……全く……鎖帷子を着込むので一サイズ大きめに致しましたからね……それでも着心地は良いので選択は間違っておりませんでしたね。ぺリルも満足そうですわ……。」
エミリアが袖や襟足などつまんで見せ、ぺリルも嬉しそうに尻尾を大きく振り巧は満足そうに笑顔で応えた。
「それでは……そろそろ出発したいのですが……よろしいでしょうかな?アーミンへ向かう分の幌馬車は市場へ向かわずに……組合事務所の駐車場にそのまま駐車しておりますので……お願いいたします。」
ようやく出発できることとなり安堵の表情を見せる隊商リーダーは、巧らを促し駐車場へ向かった。
「ではしゅっぱーつ!」
駐車場には六台の大型幌馬車が停車していて、来た時同様先頭馬車の御者席にエミリアが、中央馬車の荷台にぺリルが……最後尾の馬車の御者席に巧が同乗し隊商は出発した。
「うん……どうした?」
アルミナの町を出発し夜間行進……隊商は順調に進んでいるかに思われたが、半刻も経たないうちに前方馬車との車間が詰まり停車……。
「どうやら前方馬車が突然停車した様子ですね……。」
巧の隣に座る御者が、御者席で立ち上がり前方の様子をうかがいながら話す。
「何か不具合があったのかもしれないな……いつでも馬車を動かせるようにそのまま待機していてくれ……俺は前の様子を確認してくる……。」
「了解いたしました……お気をつけて……。」
御者をそのまま残し巧一人だけ下車し、駆け足で前の車列を次々に追い抜いていく……すると……
「ぺリルが突然吠え出したので、真ん中の馬車が急停車したようですわ……後続が停まったので私も駆けつけました……。」
「うー……。」
すでにぺリルは馬車を降り、エミリアの横で隊商右手側の草原を唸りながら身を低くして臨戦態勢に入っているようだ。
夜間のせいもあるだろうが、王都からの物流が滞っていた影響もあるのだろう……片側二車線の大きな街道は荷馬車の往来どころか人の往来すらなく、隊商の各馬車先頭に灯された松明の灯り以外真っ暗で見通しは全くきかないが、ぺリルだけは感じている様子だ。
「魔物か?」
「そのようですわ……ですがこの辺り……アルミナ郊外の森が巣窟と化している時期ならともかく……巧さんに一掃されて魔物などもういないはずなのに……。」
エミリアも警戒を怠らずぺリルに付け牙装着し靴を履かせ、自分は弓を左手に持ち右手には矢を持ちながら緊張の面持ちで話す。
「恐らく大きな群れには属さない、はぐれ魔物らの一団だろう……魔物らは半径一里圏内を縄張りとすると聞くからな……アルミナ郊外の森のような強力なボスに率いられた集団が壊滅したことで、この辺りにまで勢力を伸ばそうとする一団が現れたということだ。
夜間は魔物らの活動が活発になるからな……日中でも日が入らない森などの巣窟とは離れていても……夜なら街道筋を徘徊していてもおかしくはない。
こんな奴らが人間の肉の味を覚え集まり……大きな巣窟を作り上げる前に叩いておく必要性があるな……ようし……ぺリル、いつものように魔物らを追い立ててくれ!」
街道脇の茂みに身を潜め隙を窺っているであろう魔物らの一団を、追い立てるよう巧はぺリルに命じた。
「わふっ!」
真っ黒い塊が一瞬で闇の中に消えていった。
「がうっ、わうっ!」
すぐさま街道脇の茂みの中が慌ただしくなり……
「ガアッ!」「キャンッ!」「グッ」
茂みから飛び出してくる三つの影を、エミリアは動じることなく冷静に射かけていく……
「ガアッ!」「だありゃあっ!」
そうして最後に一段と大きな灰色の塊が草むらから飛び掛かって来て、巧は剣を一振り……魔物の右肩口から袈裟懸けに一刀両断して見せた。
「灰色オオカミ系魔物か……どうやらこいつが一団のボスという事かな……。」
巧が足元に横たわる灰色の塊を見下ろしながら呟いた。
「こちらは鴨とアヒルに狐系魔物のようですわ……」
エミリアが仕留めた獲物を自慢げに茂みの中から持ち上げると……
「……………………」
ぺリルが二匹のウサギ系魔物を口に咥えて戻って来た。
「ここでいちいち捌いている暇はないが……ウサギや鴨にアヒルは……そのままでも冒険者の袋に入るだろう。オオカミは……毛皮を剥ぎたいところだが……そんな暇はなさそうだな……仕方ない狐と一緒に穴掘って埋めるか……。」
巧は冒険者の袋からスコップを二本だし、エミリアとともに穴を掘って魔物の死骸を埋めた。
「アーミン近郊には……北側に大きな森があり、南側には低い山ですけれど奥まで続く長い洞穴があると聞きました。恐らくどちらも今では魔物達の巣窟と化しているでしょう……アーミンの民はお困りでしょうから……いかが致します?それらも駆除しながら参りましょうか?」
エミリアがスコップで穴を埋めながら巧に問いかける。
「いや……さすがに隊商を長い間放って魔物討伐なんてできないだろう……襲い掛かってくる分だけを排除していくだけで手いっぱいだし……仕方がない……。
それに勝手に巣窟に入って魔物討伐は……仕事の横取りと目されて組合の懲罰を食らいかねない。だから魔物討伐するならやはり組合へ寄って、正式依頼を受けてからにした方がいい。」
エミリアの申し出に巧は小さく首を横に振った。
「ようし……じゃあ出発だ……。」
四半刻ほどの停車ののち……再び隊商は動き出した。
その後も数回にわたり小さな襲撃は受け続けたが、ぺリルの魔物感知能力のおかげで事前対処でき、隊商は時々停車することはあったがそれでも順調に進み、何とか夜明け寸前にアーミンの町へと到着できた。
「ありがとうございました……やはり私の見立ては間違っていなかった。あなたたちに隊商の護衛を依頼して正解でした。私も永いこと隊商を率いておりますが……今回のように積み荷どころか荷馬車の一台も被害を受けずに目的地まで到着できたことは一度もありませんでした。
長い長い車列ですからどうしてもどこかしかにスキが出来、護衛が数十人いようとも守り切れずに被害を受けることが常でして……仕方がないので車列最後尾におとりとして肉類を冷凍せずに積んでいるのです。
勿論無事に到着すれば市場へ格安で卸すつもりで……魔物らの襲撃を受けて守り切れないとなったなら幌を外して……血の滴る肉類の匂いに魔物らが惹かれて群がっている最中に前方の荷馬車から順に全速力で逃げるのです。そのやり方で少なくとも荷の半分は目的地へ到着させることが出来ます。
尤も……これまで依頼していた護衛は一般人の傭兵でして……いわゆる元軍人で……こちらの方が身元確認も容易で信頼できますからね……ですがテルミ―アルミナ間は一般人だけの通行は禁じられておりましたから、今回初めて冒険者による護衛の依頼をお願いしたのです。
その最初の冒険者があなたたちで本当に運が良かったと、つくづく感じております。
改めてお礼を申し上げます。」
アーミンの町の冒険者組合建物前で、隊商リーダーは巧らに対し深々と頭を下げた。
「いやいやいや……これも仕事の一環だから……礼など無用です。数回の魔物らの襲撃にも拘らず、勝手に逃走する荷馬車も存在せず、統率されていて本当に対応しやすくてこちらとしても助かった。
また……縁があれば、ご一緒致しましょう。」
そう言って巧も一礼した。
「そこで……ですな……一つ相談なのですが……。」
隊商リーダーが、いつもの通りにいわくありげに切り出す……




