隊商護衛
14.隊商護衛
「おお……あなたちが……誰もが手を焼いていたテルミンの森の魔物達を一掃したという冒険者ですね?
自分たちの報告を否定させない為に……引き受けて下さったのでしょうかな?なんにしても助かります。未だ街道封鎖は解けていないので、商人と言えど一般人は護衛なしでの通行は出来ないですからね。
私はボーエンと申します。出発できずに困っておりました……こちらこそよろしくお願いいたします。」
ボーエンは歯を見せるほど満面の笑みをたたえ、巧らに深々と頭を下げた。
「では……日の入りまでの時間を考えると急がねばならんので……すぐに出発でよろしいでしょうかな?」
「ああ……じゃあ……出発しよう。」
エミリアが隊列先頭の幌馬車に……巧が最後尾の幌馬車に……それぞれ御者席の隣に同乗し、ぺリルは真ん中の幌馬車の荷台に乗せられた。
全く人通りのない街道……長い隊列ではあったが車線からはみ出そうとも全くお咎めなく自由に馬車を走らせられて順調に進み……天上から日が傾きかけたころ……
「待ちな!簡単に往来できると思ってたら大間違いだぜ!」
隊列先頭車両の前に、六人ほどのフルフェイスの甲冑に身を包んだ暴漢が突如出現した。
「ボス魔物の子供を連れていたおかげで運よく魔物討伐できたからと言って……そんな幸運が何度も続きやしねえんだよ!積み荷にゃあ用はねえ。輸送中の隊列を襲ったとなりゃあ全員縛り首だからな!
ただ同行するだけの楽仕事で頂いた護衛料の前金を置いていけ……そうすりゃあ無事に通してやる!
ほらっ……銀貨十八枚で通してやるから素直においていけ!まさか……これだけの人数にたった二人で立ち向かおうなんて無謀な事……考えてねえだろうな?」
そうして先ほど組合から預かった、護衛料の前金を置いて行けと大声で要求した。
「ええっ?強盗団……でしょうか?しかも先ほど冒険者組合にいらっしゃった……さらにテルミンの森でのいきさつもご承知ということは……昨日もいらっしゃった……冒険者の方たちですね?
ですが残念ながら……仕事料の前金を私は持っていないのですよ……リーダーの巧さんは最後尾の馬車に乗っておりますから直接交渉して頂くしかありませんね……ですけど素直に応じるかどうか……甚だ疑問に感じますわ……あきらめてお帰りになったほうが身のためかと……。」
先頭馬車の御者席に座るエミリアは下方から剣を突き付けられても動じる様子もなく、車列の最後尾を指さしながらやんわりとお断りする……。
「ふっ……ふざけんな!お前が持っていなくても構わねえ、泣き叫んで命乞いすれば仲間がすっ飛んでくるはずだろ?ほれほれ……どうした?叫んで助けを呼ばねえとどうなるか分かんねえぞ……。」
ところが暴漢たちはあきらめようとはせず、長剣をエミリアの鼻先に押し付け脅し始めた。
「ぐあっ……」
その瞬間黒山がすっ飛んできて、エミリアを脅す暴漢目がけて飛び掛かった。
「ぐるわあっ……。」
「待て待てっ……俺は別に怪我させようなんて思っちゃあ……助けてっ!」
ぺリルは甲冑の弱点を熟知しているのか、首の装甲の薄い部分目がけて牙をふるい噛みついていく。
「ちいっ……仕方ねえ使いたくはなかったが……雷撃の魔道具を……てやあっ……あれっ?あっ……これも……これもだめだ。変だな……」
別の暴漢が球や筒状の遺物を振り上げたが何も起こらず、筒の中を覗き込む。
「恐らく引き当て回数を超えたんだろう……もうその魔道具は使い物にならんから廃棄だ。魔道具屋にうるさく言ったのだろ?チャージできなかったら料金は支払わないって……だからチャージできなくても知らん顔してそのまま返却して代金をとった……そんな関係だといざ使おうとしたときに困ってしまう。
冒険者は魔道具が使えないと簡単に命を失ってしまう場合もあるからな……魔道具屋とは親密でいい関係を築いておかないとな……そもそも冒険者仲間に対する魔道具使用はご法度だ、冒険者証を取り上げられるぞ。
さてどうする?五対二……いや三かな?やりあうか、それとも降参しておとなしくお縄につくか……。」
巧も隊列が止まったので最後部から駆けて来たようで、剣を抜き身構えた。
「いやっ……その……ただの出来心……というか……ちょっとした気の迷い……前金で銀十八枚だなんて破格の待遇で……それでも傷つけるつもりもなかったし、だからその……許しちゃあくれねえか?」
三人目の暴漢が一歩前に出て許しを請い始めた。
「だめだな……こいつはぺリルに雷撃を食らわせようとしたし、倒れているそいつはエミリアに剣を突き付けていたはずだ。怪我をさせるつもりはなかっただなんて言わせない。お前らは卑劣にも複数人で隊商を襲ったただの強盗団だ。冒険者とは言えない。だから……捕らえて組合に突き出す。
言い分があるならその時に好きなだけ言えばいいさ。」
巧は聞く耳持たずといった感じで、今度は三人目の暴漢に剣を向けた。
「仕方がねえな……平和裏に事を済ませたかったんだがな……まあいいさ……お前たちをぶっ倒して前金を頂戴して……そのまま隊商の護衛についてアルミナまで護送してやれば……俺たちが護衛任務を替わったってことになっちまうはずだろ?悪いが……替わってもらうぜ!」
三人目の暴漢が腰の剣を抜くと他のメンツも剣を抜き、臨戦態勢に入った。
「がうっ!」「うわっ……」
二人目の暴漢が別の魔道具を出そうとした瞬間ぺリルが飛び掛かり、戦闘開始となった。
「たりゃあっ!」
三人目の暴漢目がけて巧が向かっていくと、相手は一歩下がってから上段に振りかぶって斬りかかってきたので、巧は身を翻して左下方から剣を敵の右わき腹目がけて振り上げた。
「ぐっ……」
鎧の胴と前垂れの隙間をついた巧の剣は有効打となったが、踏み込まずにそのまま剣を抜くと相手はその場に崩れるように倒れ込んだ。わき腹辺りから地面に血が流れ落ちる……。
「どうする?お前たちもやりあうか?怪我人どころか死人が出かねないが……それでもいいか?」
そうして後方の三人に巧が問いかけると……
「わわわっ……降参します。殺さないで!」
三人共にすぐさま抜いた剣を離し、その場に跪いた。巧が振り向くと……御者席からエミリアが弓の照準を定めていたようだ。
すぐさま両手を後ろ手に縛り分散して荷台へ乗せると足も縛りあげ、それから腹を斬りつけた暴漢とぺリルが攻撃した暴漢の血止めをし、ようやく出発となった。
「いやあ……ご報告通りにテルミンの森の魔物の一掃は、されていたようですな。これまで幾度も襲われ都度全滅していた隊商も、ぶじアルミナまで到着できたことが何よりの証拠となるでしょう。組合へ礼金の後金を支払うついでに、その点を強調してご報告させていただきます。
さらに礼金目当ての暴漢……実は御同業の冒険者のようですが……六人もの一団にたった二人……と一匹で立ち向かわれ、見事制圧なされた手際の良さとその腕前は……本当に敬服いたしました。
さぞかし名うての冒険者様とお見受けいたしました。」
暴漢の襲撃以降は何事もなく順調に進み、隊商一行は日暮れぎりぎりの時間にアルミナへ到着できた。
本来ならこのまま分かれて隊商は市場へ向かうところだが、いの一番に暴漢と化した冒険者六名を引き渡す必要があり、冒険者組合へ立ち寄ることとなったのだ。
そうして組合建物入り口前で、隊商リーダーから有り余る賛辞の言葉を頂いた。
「そこで……ですな……隊商の半分はここアルミナで荷下ろしをしたのち帰途につくのですが……もう半分はこの先へ向かうのです。なにせここ数年間テルミンの森の魔物のおかげで流通が滞っておりましたのでね……王都西地域では諸物価が値上がりしておりますから今が稼ぎ時なのです。
ここへ降ろした荷も半分は仲介業者が、この先へと転売しようともくろむでしょうからな……我々がようやく運んだ荷を転売するだけで儲けさせるつもりはありません。
元から安全が確認されていたわけでは御座いませんでしたから、道中で襲撃に会い荷が奪われたり傷つけられた場合でも、せめて半分は届けられるよう需要の倍ほどの荷物を積み隊列を組んでまいりました。
この先のアルミナ近郊の森の魔物も一掃されたとお聞きしておりますから、テルミ―アルミナ間ほどの脅威は感じておりませんが引き続き護衛は必要です。
本来ならば冒険者組合へ再度依頼するところですが……先ほどの通りに正規の冒険者にも拘らず食い詰めているのか小金欲しさに悪さする輩がいないとは限りません。腕もたち信頼がおける巧様方一行に……引き続き護衛を引き受けて頂けないものでしょうかな?」
そうしてこの後も、引き続き隊商の護衛を依頼された。
「ああ……引き続き……しかも直接のご指名での依頼は大変ありがたい。
だが俺たちは正規の冒険者なので、組合を通さない直接依頼というのは受けられないのだ。もぐりでの冒険者活動が明らかになると、冒険者証没収若しくは更新不可となりかねないのでね。
申し訳ないのだが……今回の仕事の後金を納めるついでに組合へ仕事の依頼をして欲しい……その上でほかに仕事を受けたい冒険者が居れば……早い者勝ち……と言ったことになるし、俺たちが後から出向いた時にその依頼が残っているのであれば……受けることになるかも知れない。」
ありがたいご指名での仕事依頼だが、巧はやんわりと断った。
「いえいえいえ……ですから……組合には内緒で……といった依頼ではございません。勿論組合を通して正式に護衛依頼は致しますよ。その上で……あなた様方に依頼したいのです。
今仰っていただいた通りに……組合へ護衛依頼を出しますと受付カウンター後方に仕事依頼書が貼り出されますが、それを見た冒険者ら一行が申し込めば……仕事内容に見合った階級と職歴があるかどうか受付で確認され、問題なければ早い者勝ちといった形で引き受け手が指定されます。
その上で職歴等を依頼者側に開示したうえで依頼するかどうか判断……気に入らなければ依頼者は次の冒険者を集うことも可能となっておりますね……十分理解しております……その上で……。」
隊商のリーダーは……十分承知の上でのお願いと……巧と兜の面帯越しに目を合わせ言葉を続ける。
「城塞都市間の街道を通行する隊商の護衛ともなれば最低でも中級でなければなりませんな……ですが先ほども申し上げました通りに……信頼度の問題なのです。昨今流通が滞り……王都近郊ですら隊商が組まれて物資が運ばれるなんてことがごく稀となりました。
魔物の数は増加しその巣窟は各所にはびこり……ですが冒険者ですら魔物を恐れ、巣窟を踏破しようとする腕の立つお方はごく少数と聞いております。物流が順調で隊商が常に街道を往来していた時に、護衛業で稼いでいた冒険者が大半を占めていたわけですね。
その為物流が滞り護衛で稼げなくなった冒険者らは食い詰め、今回の襲撃の様に魔物に代わって隊商を襲う場合があると聞いております。
仲間を集って数の脅威で護衛の冒険者らを脅し、荷物ではなく冒険者が受け取った護衛業の前金含め有り金を奪うようですが……護衛の冒険者らも自分たちの恥となるため組合へ顛末報告できず、事件が公にならない場合が大半と聞いております。
特に王都西地域を根城にしている冒険者らは要注意との情報を得ておりましたが、さらに今回の襲撃で疑いが確信に変わりました。
かような不遜な輩が……もし護衛業務に名乗りを上げた場合どうなるか……荷物ばかりか我々の身の安全すら……道中で行方不明となっても魔物の襲撃で片付けられますからね……。
そこで……信頼置けるあなた様方に……引き続き護衛をお願いいたしたいのです。
どうか……お願いいたします。」
隊商のリーダーは深々と腰を折って頭を下げた。今回の護衛で築いた信頼をもとに、どうしても巧らに依頼したい考えのようだ。
「それならば……俺たちはこれから買い物があってね……それを済ませた後で彼女が……彼女はこの地の出身なのだが……一旦家へ帰り……ゆっくりした後で明日の朝一組合に報告がてら出向くつもりだから……その時に依頼がまだ残っていれば引き受けるかもしれない。
どうせ出発は明日の朝なのだろ?今ここで余計な時間をとられるのは避けたいのだが……よろしいか?
それと……そのように信頼置けない冒険者ばかりではないと……俺自身はそう思いたいのだがね……もう少し信用してやってほしいところだ。」
どうせ明日の出発には間に合うだろうから……と、巧は一旦お断りを……
「いえいえいえ……肉や野菜など……生もの……いわば生鮮食料品も多数積んでありますし……明日朝の市場に間に合わせるため、これから休まず出発したいのです。そうなりますといちいち職歴の吟味などは出来ず……ましてやあなた様方は明日朝清算に向かうとおっしゃる……。
でしたらあなた様方に依頼できないではないですか……それでは困るのです。
どうかどうか……お願いいたします。」
隊商のリーダーはもう一度深く頭を下げた。
「そうはいっても買い物と……せっかく彼女の地元に寄ったのだから、ゆっくりしたいだろうし……。」
それでも巧は頑なだ……
「よろしいのではございませんか……せっかくのご指名ですし……正式に依頼いただけるのであれば依頼をお受けしたほうがいいと私は考えますけれど……巧さんにお断りする明確な理由があるのであれば仕方ありませんけれど……どのようなご事情が……?」
隊商リーダーと巧とのやり取りをじっと聞いていたエミリアだったが、一言挟んできた。
「君はいいのか?家へ寄れなくても……?」
「勿論かまいませんわ……元々……こんな早くに帰れるとは思ってもみませんでしたし……それにどうせ……帰りの道中に寄ることになりますよね……巧さんの魔道具預けっぱなしですから……。」
エミリアは平然と答える。
「だとしても……だ……夜間の道中は余計に魔物らの襲撃の可能性が高まる。奴らが活動するのは日の光が差さない主に夜……夜行性の魔物が多いからな……勿論依頼料もそれにつれて上がるわけだが……危険性から言えば倍ほどの仕事料を貰っても割に合わんところだ。
特に君の場合は……組合でも指摘されたが……防具が一切ないそのような普段着で……立ち向かっていくのは無謀と思える。本来ならテルミの町で防具を揃えるつもりだったが、隊商の出発時間が間近に迫っていて叶わなかった。だから……この町で装備を整える必要性がある。
だから今すぐに出発するのは、どうしても無理としか俺には言えない。」
防具と言えるものは弓を使う時の胸当てだけというエミリアの身を案じ、巧は防具なしで依頼は引き受けられないと断りの理由を明確にした。
「そっ……それでしたら……積み荷の中に冒険者用の防具一式が……サイズ別に揃っておりますよ。まさか全ての荷物を運びこめるとまでは考えておりませんでしたので……防具類は町が近づいた時点で半分に分割したところですから、梱包は解いてあります。すぐにお引渡し可能ですよ。
防具さえそろえば引き受けて頂けるのですよね?でしたら差し上げます……と言いたいところですが……私も商売人……いくらなんでも売り物をタダで渡すわけにはまいりません。ですが……卸売価格で……格安でご提供させていただきますから……どうかお引き受け願います。
これが防具の積み荷リストです……必要なものとサイズを仰っていただければすぐご用意いたします。」
防具であれば手持ちがあると……なんとしてでも巧らに引き受けてもらいたい気持ちがありありと伺える。
「ふうむ……そういう事であれば……どうだ?まさか甲冑は必要ないだろ?重いし慣れるまでは動きがかなり制限される……俺の様に関節箇所を工夫するにしても……特注となるから時間がかかる。
手軽なところでは……鎖帷子……だな……弓を使うのだから近接戦闘向けである必要性はないから、網目の細かい線径細めのタイプで十分だろう。更に……革製防具を足せば……おおドレスタイプがあるな。
ドレスタイプなら俺の甲冑と同様……正装と目されるから王様や貴族らとの謁見の際も気づかい無用で着用できるな……ついでに革ブーツと革の帽子もあれば十分だろう……この二つが俺のおすすめだ。
薄手の鋼鉄板を入れたビスチェタイプの胴巻きや帽子にスカート……扇などもあるようだが……この辺りはお好み……ともいえるな……。」
巧は手渡された商品リストを眺めると、おすすめを指定してからエミリアに渡した。
「そうですわね……でしたら巧さんご推奨通りの……鎖帷子に革ドレスと革ブーツを所望いたしますわ。それと……お供の動物用の武具や防具もおありですのね……この……大型犬用のかぎ爪付きの靴と付け牙及び革製の胴巻きを……ぺリルが気に入るかどうかわかりませんけれど試着は可能でしょうか?
もう一頭飼っていて今はいないのですけれど……ぺリルだけだと焼きもちを焼くこともあるので二頭分……お願いいたします。」
エミリアは悩むことなくサイズを告げた。
「よしっ……至急この鎖帷子と革ドレスと―ブーツに犬用の靴と牙と胴巻きを持ってきておくれ……お供用の試着は……付け牙以外なら問題ありませんからね。」
隊商リーダーはすぐさま傍らで待つメンバーに命じると……
「ではすぐに組合に仕事完了の報告と支払い……及び次の仕事の依頼を致しますので……ご一緒願えますか?」
隊商リーダーは願いが叶い……満面の笑みを浮かべながら巧らを誘った。




