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テルミ

11.テルミ

「またまたお騒がせですか?先日は無類の強さの冒険者に救われ無事生還できたということでよかったでしょうが……さすがに二度も組合規則をお破りになられると……冒険者資格はく奪となりかねませんよ!」


 手持ちの路銀がないわけではなかったが、冒険者の袋は冒険者もエミリアもパンパンで……さらに森で駆除した魔物肉や毛皮が手持ちの分も多く、宿へ行く前に売りさばいてしまおうと冒険者組合へいの一番によったのだが、収穫の納品前に厳しい面持ちの受付嬢からのエミリアの非の追及は延々と続く……。


「待ってくれ……ぱっと見たところ……この冒険者組合の掲示板には……テルミンの森の魔物討伐依頼はないようだが?そもそも……受付背面に張り出されている依頼は……ほとんど全てが城塞都市内部のもめごとに関することばかりのようだぞ?


 城壁の下部に小さな穴が出来ていて、そこから小型魔物が都市内へ侵入する恐れがあるのですぐに塞いでくださいとか……こんなのは左官屋の仕事であって、冒険者に依頼する事項ではないのではないか?


 さらに……逃げ出したペットの猫を探してくださいとか、屋根の雨漏り修理とかまで……まあ……他都市との通行が妨げられ流通も滞り、それでも逆に魔物と接する機会もなくなっていたという事なのだろうが……冒険依頼は直近の組合が取り扱うという規則が第二条一項にあるな?


 つまり……この組合にテルミンの森での魔物討伐依頼がないということは……正規の討伐依頼を受けた冒険者は存在しないということになる。二番目に近いアルミナの組合が担当する場合もないとは言えないが……そちらの組合の依頼状況も見てきたが、そのような依頼は存在しなかった。


 冒険依頼がない場所は危険地域という扱いではなく、街道と同じく一般人でも出入りできるはずだ。


 だから……俺たちが行った行為は、組合規則第一条十項目に抵触することはない。しかも……魔物討伐を終え、こうして無事に組合まで結果報告に来ているのだから……捜索隊など必要がないということになる。


 俺たちは別に……本来あったはずの依頼に対する報奨金を寄こせと要求している訳ではない。


 たまたまテルミンの森に入ったら予期せぬことに多数の魔物が生息していて襲ってきたから、それらを全て駆除し安全になったということを報告に来ただけだ……。


 収穫した魔物肉と毛皮を引き取ってもらいたいとは思うがね……組合からの依頼がない地域で収穫した肉類は受け付けないなどとの組合規則は……見た記憶がないが……存在するのか?何条の何項だ?」

 いい加減焦れたのか、冒険者が受付嬢の指摘に対しいちいち反論を述べ始めた。


 安全であるはずの城塞都市内の……しかも屈強な冒険者らが集う冒険者組合の建物の中では、誰もが兜を脱ぎ手甲を外すのだが……一人重い兜をかぶり手甲もそのままの冒険者は、周囲から異質の目で見られていたが、さらにこの反論で注目が集まった。


「えっ?いえ……あっ……あの……ええーと……ですね……そうはおっしゃられましても……」


「私からも一言……よろしいでしょうか?


 確かに……アルミナ郊外の森では一緒に入った友人らとともに魔物に捕らえられ命の危機を感じましたが……そちらも魔物討伐依頼は掲示されていない普通の地域扱いでした。というより……討伐隊編成困難という組合判断で、町民からの討伐依頼は全て却下されていた為ですが……。


 しかも決して魔物討伐目的ではなく薬草摘みに行っただけです。つまり……通常の生活のための活動であり、そのこと自体が冒険者規則に抵触するものではないはずですけど……いかがでしょうか?」


 甲高い声で延々と論客ぶっていた受付嬢だったが思わぬ反撃にあい言葉に詰まると……追い打ちをかけるかの如くエミリアも詰め寄っていく……


「はーいはいはい……ちょっとすいませんね……この子は最近ここへ配属になったばかりでして……元は王都の大きな組合事務所で受付嬢をしていたのですがね……そのせいか規則規則ってのが口癖で……地方のこんな小さな組合事務にはまだ……慣れていないために失礼があったなら申し訳ありません。


 私からもお詫び申し上げます……。」

 するとそこへ……別の受付嬢が事務所奥のドアから飛び出してきて、最初の受付嬢の後頭部を抑えて無理やり頭を下げさせると同時に、自分も深く頭を下げた。


「パルマ……。」


「はーい、エミリア……久しぶり……ごめんねえ……はいっ……ここは私が引き継ぐから……主任は奥で書類整理をしていてください……。」


 エミリアにパルマと呼ばれた受付嬢は最初の受付嬢を奥へと追いやり笑顔で引き継ぎ、自信満々で高圧的な態度をとっていた論客はすごすごと退場となった。


「よかった……一時はどうなるかと……冒険者証まではく奪されてしまうかとドキドキいたしました。」

 エミリアもほっと一息笑顔を見せる。


「最近王都冒険者組合から転属になってきたのだけど……あんなのが主任でこっちも大迷惑……。


 王都近郊の冒険者組合の中で……テルミだけがここ一年以上も冒険依頼の取り扱いが一件もないって問題になってしまい……無理もないわよねえ……アルミナとの街道はほぼ封鎖状態だったし……王都との流通はあったけど、依頼は全て王都側の組合に提出されてしまう……向こうの方が依頼を受ける冒険者も多いし質も上だから、当たり前よね。


 そのテコ入れという名目で……受付主任として配属されたのだけど……そうして始まった改革というのが……どのような依頼でも馬鹿にせず真摯に受け付けようなんて……馬鹿な掛け声のもと……ご近所を回ってお年寄りなどに困りごとなど聞きまわった挙句……自信満々で張り出した依頼がこれよ……。」


 そう言いながらパルマが先ほど冒険者が指摘した、本来冒険者に依頼すべきとは思えない依頼類を指さした。


「こんなのでも一件は一件だからって……しかも依頼受付金としてそこそこの金額をお年寄りたちから無理やり……奪うようにして徴収しているって苦情まで……今もその苦情対応に追われていたのだけど……本当にどうしようもないやつなのよ……自分は業績を伸ばしているって鼻高々のようだけど……。」


 パルマはほとほと困り果てているといった風で、口をへの字に曲げた後でふっと息を吐いた。


「大変そうですね……以前は活気があった組合でしたのに……。」

 エミリアも知り合いを気遣うように言葉をかける。


「以前はね……ここも王都との行き来は今もそこそこあるけれど……何よりアルミナ含めた西側都市へ続く街道の入り口として、かなり賑わっていたわよね。


 でももう今は見る影もない……組合に集う冒険者なんて……仕事の依頼を受けるというよりも……王都で延々と順番待ちをするのが億劫だからって魔道具の再チャージ目的か、もしくは掘り出し物の魔道具に出会えるかもと小売屋を漁りに来て、その待ち時間に退屈しのぎに寄るくらい。


 だから……仕事依頼なんてなくても全然構わないの……どうせ魔道具頼りの冒険者が多いから、チャージ中は只の人で使えないから……それでもグロッサリーとカフェ併用のレストランは繁盛しているのよ。


 王都には地方出身の冒険者も多いけど物価が高いから……ここのグロッサリーには国中の地方の名産品が揃っているし、食事メニューも地方料理が多くて量が多いのに格安だから人気なのよ。組合支部としての売上的には十分黒字で、赤字で本部に迷惑をかけているということは決してないはずなのにね……。


 それで?……テルミンの森で駆除した魔物肉と毛皮の売却ね?このところずっと新鮮な肉の入荷が滞っていたから……シェフも喜ぶわ。」


 パルマの登場で、ようやく本来の目的が果たせそうで……冒険者もエミリアも揃って両手に抱えていた肉類を受付嬢の前のカウンターに並べ、ついで冒険者の袋から次々と取り出し始めた。


「待って待って……ずいぶんと大収穫ね……まあ無理もないか……これまで幾度か王都から魔物討伐に出向いたのに、その都度大打撃を受けて命からがら逃げ帰る冒険者パーティが続出で、しまいに軍隊まで派遣されたというのに一個小隊でも歯が立たなかった超S級と言われたダンジョンだったはずなのよ……。


 だから討伐不可能と評され依頼掲示は取りやめに……本当に二人だけで……制覇できたの?ボス魔物が寿命を迎えて死んでいたとか……なの?」


 栗色の髪の毛に青い瞳……鼻筋もきれいに通っていて細面の輪郭に、小さめで形のいい唇の受付嬢はあまりの肉類の多さに驚き、その大きな目をさらに見開いて問いかける。


「ああ……たまたま……たまたまうまくいったが……確かに強力な相手だったのは間違いがない。魔物達の連携攻撃も統率が取れて素晴らしいものだったし……何よりボス魔物が強かった。


 だがまあ……二人だけではなく……二人と一匹だな……こいつのおかげで勝てたようなものだ。」

 冒険者がエミリアの横に行儀よく座る黒犬の頭を撫でながら、しみじみ呟くように答えた。


「恐らく……ペル……ぺリルの母犬か……そうでなくても兄弟犬なのかがボスだったようです。そっくりの外見でしたから……そのため連れていたペルに気をとられ……ボス魔物が存分に戦えなかったようですわ。おかげで何とか倒すことが出来ました。不憫に感じましたので、ボス魔物は丁重に弔っておきました。」


 エミリアも冒険者に続き、顛末を簡潔に説明する。


「へえ……成程……そう言った事なら……今聞いたこと……報告書に記載してもいい?そうじゃなければ恐らくテルミンの森の魔物が駆除できたことなんて……絶対に本部に信じてもらえないだろうから、事後確認も行われないかもしれないの。」


 パルマが何度も頷きながら確認する。


「ああ……構わないが……だがテルミンの森の魔物駆除依頼は……すでに破棄されていたわけだろ?報告書など……作成する必要はないのではないか?」

 パルマの問いかけに冒険者が首をかしげて確認……


「いえいえいえ……先ほども申し上げました通り……あの森はS級案件として一旦棚上げにされただけでして……受付に掲示してはおりませんが、実はまだ依頼は生きているのです。


 ですがまあ……ことが事ですから……正式に本部から護衛をつけた調査員が派遣され、現場確認を行ってから……その上で調査員が認めたならば……報奨金は支払われるはずです。


 ですので……報告書は……上げさせていただきます。そうしなければ……アルミナとの往来禁止令が解除できませんのでね……。」


 パルマはそう言ってぺこりと頭を下げた。確かに……安全を公的に宣言しない限り、誰も魔物が襲い掛かってくるかもしれない街道を歩くことはしないだろう。この言葉に冒険者も納得して大きく頷いた。



「えーと……金貨六枚に銀貨七十枚と銅貨六十枚となります。


 アルミナからは何度も食肉の輸送の依頼が来ておりまして……食肉の供給のみならず街道も安全となり、ようやく流通が回復しそうです。代表してお礼申し上げます。本当にありがとうございました。」

 清算金額が決まったところで、パルマが深々と頭を下げた。


「いやいや……こちらこそ……高値で引き取ってもらい大感謝だ。相場の五割り増しくらいだろ?」

 そう……いくら何でもこんなに……と……巧の隣のエミリアも驚くほどの高額に……


「いえいえいえ……本当に流通が滞っていてですね……実際の市場相場は以前の倍なのです……さすがに冒険者組合としましても困り果てていたところでして……本当に助かりました。」

 またもやパルマが頭を下げた。


「そうか……だったらいいのだが……分かったありがとう。清算金は半分ずつ俺とエミリアの口座に振り込んでおいてくれ。」


「かしこまりました。」

 受付嬢が笑顔で答える。


「お待ちください、通常冒険者パーティではリーダーが報奨金の半分を受け取り、残りを複数人で山分けするというのが決まりと聞いております。リーダーはダンジョン攻略の際に作戦を練り、皆を統率し勝利に導く役割を負い、さらに依頼を受けた際のパーティ活動費はリーダー負担と決まっておりますからね。


 ところが今回はたった二人だけのパーティですから……リーダー報酬が少なすぎませんか?七割か八割程度……所望なさっても構いませんよ。」


 するとここでエミリアから清算金額の取り分で苦情が……しかも通常とは真逆の自らの取り分を減らすような訴えだ……。


「待て待て待てっ……どうしてそうなる?山分けでいいではないか?」


「そうは参りません……ボスを倒したのは巧様お一人でしたし……私もペルも……雑魚魔物を駆除し続けただけで、ダンジョン攻略には大したお役に立てておりませんわ。


 私たちはその……せめて銀貨の分だけでもおすそ分けいただければ十分です。」

 冒険者が山分けでいいと言っても、エミリアは頑なに首を横に振る。


「そうではないだろう? ……あれは君も言っていた通りに……君の飼い犬のおかげで勝てたようなものだ。


 つまり……十分活躍しているし……しかも二人だけではなく二人と一匹のパーティと考えれば、リーダー……実際どちらがなるか決めたわけではないが年長者として俺がなるとして……俺が半分受け取り、残りを君と飼い犬が受け取るということで取り決め通りなはずだろ?


 これを違えるわけにはいかん……他のパーティから苦情がきかねないからな。飼い犬は口座を持っていないから、飼い主である君が受け取って管理してあげなさい。それでいいだろ?」

 ところが冒険者側も理論武装し、山分けでいいとして譲らない。


「でっ……ですが……」


「はーいはいはい……ええと……譲り合いの精神はご立派ですけど……このままでは業務が滞って……私は報告書作成もできません。とりあえずは折半ということで、お二人の口座に半分ずつ振り込ませていただきますので……あとで十分にご相談して取り分をお決めください。」


 果てなき論戦につながりそうなところで、パルマから水入り宣言となった。


「分かりました……とりあえずはそのままで願います。」

 エミリアはまだ不服そうに頬を膨らませているが、これ以上カウンター前での論戦は出来ないとあきらめた。



「もう夜も更けたのに悪いが……君が知っているという魔道具の管理業者の店へ案内してもらえないか?どうせ……順番待ちとなるだろうから……少しでも早めに申し込みたい。


 代わりに明日は防具屋に付き合ってやるから……君の防具を買いそろえる際には助言ができるぞ。」

 組合事務所を後にしてすぐ、冒険者はエミリアに店の案内を願い出た。


「ああ……それでしたら……冒険者組合近くのお店は混んで順番待ちでしょうから……ちょっと離れた場所にある……地元の人間しか知らないようなお店を紹介しますわ。


 偏屈なおじいさんがやっているお店ですけど……腕は確かですのよ。私の母も何度も足を運んだお店のようで……母のことを聞きたくて何度も訪れて、昔話を聞いたものですわ。


 腕は確かで人気もあって……多くの冒険者が依頼に訪れていたはずですけど……気に入った冒険者からの依頼しか受け付けない……ちょっと頑固で気難しいのですが……巧様だったらきっと気に入っていただけますわ。ちょうど……宿屋街の近くですから……宿を探すのにも最適ですよ。」


 エミリアは頷くと笑顔で歩き出した。


「それからその……俺の名前なんだが……様付けはよしてくれ……なんだかくすぐったくて適わん。

 巧と呼び捨てでいい。対等な冒険者同士なわけだからな。」


「でしたらその……私のことは如何でしょうか?君……ではなくてエミリアという名前が御座いますのよ。」

 するとすぐさまエミリアも反発する……


「あっ……そうだったか……すまん……じゃあエミリア……こう呼ばせていただく。それでこいつは……ぺリルでいいか?」「わふっ」


「では私は……さすがに目上の方を呼び捨ては出来かねますので……巧さんで……お願いいたします。」


「分かった……じゃあそれでお願いする……。」

 ようやく互いの呼び方が定まった……。


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