第8話 異世界初のビール革命
初めての執筆で読みにくいところもあると思いますが楽しんで読んで頂けましたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
本日3話投稿のうち2話目です。
異世界へ転生して三日目。
俺は冒険者ギルドの二階にある簡易宿泊室のベッドで目を覚ました。
ギルド登録時、新人向けに数日間だけ格安で借りられる部屋だ。
広さは六畳程度。
木製ベッド。
小さな机。
椅子一脚。
窓一つ。
豪華さはないが、野宿に比べれば天国だった。
「さて……」
起き上がりながら昨日の出来事を整理する。
所持金は銅貨八枚。
冒険者登録済み。
商人とのコネ一件獲得。
酒場事情の調査完了。
そして何より重要なのは――
「この世界の酒は不味い。」
これだった。
昨日飲んだエールを思い出す。
発酵管理が甘い。
温度管理も雑。
雑味が強い。
泡も荒い。
正直、前世なら安居酒屋でもクレームが来るレベルだ。
もちろん異世界人は慣れている。
だから不満はない。
だが逆に言えば。
もっと美味い酒を知れば驚く。
絶対に。
◇◇◇
俺はベッドから降りると窓を開けた。
朝のルミナスが見える。
商人たちが店を開き始めている。
パン屋。
肉屋。
雑貨屋。
武器屋。
そして酒屋。
人の流れを見ながら、自然と経済学部時代の癖が出る。
市場を見る。
客層を見る。
価格を見る。
需要を見る。
商売人の基本だ。
「まずは実験だな。」
俺は机に向かって座った。
そして意識を集中する。
【全アルコール精製】
すると。
目の前に一本の缶が現れた。
キンキンに冷えたビール。
前世で何度も飲んだ銘柄。
朝から飲むのはどうかと思うが、今は検証が先だ。
プシュッ。
缶を開ける。
香りが広がる。
ホップの爽やかな香り。
麦の香り。
完璧だ。
一口飲む。
やはり美味い。
「革命だな……」
異世界人が飲んだらどうなるだろう。
試してみたい。
◇◇◇
その日の昼。
俺は昨日世話になった金獅子亭へ向かった。
昼時ということもあり店内は賑わっている。
ガイルたちの姿も見えた。
「おう、レン。」
「もう依頼終わったのか?」
「今日は休みです。」
ガイルが笑う。
「新人のくせに余裕だな。」
「考え事してたんですよ。」
「また酒か?」
「酒です。」
完全に見抜かれていた。
◇◇◇
俺は店主の前へ向かった。
金獅子亭の店主はマルクという名前だった。
四十代後半。
大柄。
気の良いおっさん。
商売人としても悪くない。
昨日の酒樽納品の時に少し話した。
「坊主じゃねえか。」
「こんにちは。」
「飯か?」
「違います。」
「酒か?」
「酒です。」
マルクが笑った。
「お前本当に酒好きだな。」
「仕事の話です。」
そう言うとマルクの目が少し鋭くなった。
商売人の顔だ。
◇◇◇
俺は周囲を確認した。
客は多い。
だが聞かれたくない。
「少し試して欲しい物があります。」
「なんだ?」
「酒です。」
「酒?」
「はい。」
マルクは興味を持ったようだった。
裏手の倉庫へ案内される。
樽が積まれている。
誰もいない。
ちょうどいい。
俺は意識を集中した。
【全アルコール精製】
手の中に缶ビールが現れる。
マルクの目が丸くなった。
「収納魔法か?」
「似たようなものです。」
嘘ではない。
◇◇◇
マルクは缶を眺める。
「なんだこの容器。」
「金属です。」
「見たことねえな。」
「試しに飲んでください。」
俺は缶を開けた。
プシュッ。
マルクが飛び上がる。
「なんだ今の音!?」
「気にしないでください。」
説明が面倒だった。
◇◇◇
ジョッキへ注ぐ。
黄金色。
きめ細かい泡。
冷気が立ち上る。
マルクが固まった。
「冷えてる……?」
「はい。」
「どうやって?」
「企業秘密です。」
前世知識と神様チートです。
とは言えない。
マルクは恐る恐るジョッキを持った。
一口。
飲む。
その瞬間だった。
◇◇◇
「なっ……」
目が見開く。
もう一口。
さらにもう一口。
止まらない。
ゴクゴク飲む。
数秒後。
ジョッキは空になった。
「なんだこれ。」
マルクが呟く。
「ビールです。」
「ビール?」
「俺の故郷の酒です。」
異世界日本県出身ということで。
◇◇◇
マルクは震えていた。
「うめえ。」
率直だった。
商売人の反応ではない。
純粋な酒飲みの反応だ。
だから信用できる。
「今まで飲んだ酒で一番うめえ。」
「そうですか。」
内心ガッツポーズだった。
やはり。
現代ビールは通用する。
それどころではない。
圧倒的だった。
◇◇◇
マルクはジョッキを見つめる。
そして真顔になった。
「レン。」
「はい。」
「これ売れるぞ。」
「でしょうね。」
「いや、売れるなんてもんじゃねえ。」
マルクは断言した。
「爆発する。」
その言葉に俺は少し笑った。
爆発。
まさにその通りだ。
酒好きが飲めば驚く。
商人が飲めば金の匂いを嗅ぐ。
貴族が飲めば独占したがる。
間違いない。
◇◇◇
しかし。
俺は冷静だった。
「いきなり売りません。」
「なぜだ?」
「目立ちすぎる。」
商売には順番がある。
前世でもそうだった。
良い商品を持っていても、売り方を間違えれば潰される。
特に異世界だ。
酒商会。
既存勢力。
貴族。
色々いるだろう。
慎重にいくべきだ。
◇◇◇
マルクは腕を組む。
「じゃあどうする?」
俺は笑った。
黒服時代に何度も考えた戦略。
客を増やす方法。
常連を作る方法。
口コミを広げる方法。
全部知っている。
「まず限定販売です。」
「限定?」
「一日十杯。」
マルクが目を細めた。
「ほう。」
「価格は高め。」
「ほう。」
「飲めるのは常連だけ。」
マルクが笑った。
完全に理解した顔だった。
希少性。
特別感。
優越感。
酒より先に売るべきものだ。
◇◇◇
異世界転生三日目。
まだ店もない。
資金もない。
だが。
初めて確信した。
この世界で俺は成功できる。
酒で。
商売で。
そしていつか。
異世界初のキャバクラを作る。
その第一歩となるビール革命が、静かに始まった。
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