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異世界キャバクラ王 ~酒チートと氷魔法で、夜の社交界を支配する~  作者: 阿鼻恭介
第4章 育つ店、広がる縁

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第64話 新しい住まい

Club Moon Dropの定休日。


 いつもより静かな朝が、街を優しく照らしていた。


 レンは小さな部屋で目を覚ます。


 窓から差し込む朝日を眺めながら、ゆっくりと体を起こした。


「今日で最後か。」


 静かに呟き、部屋の中を見渡す。


 ここは冒険者ギルドへ登録した新人だけが、数日間だけ格安で借りることのできる部屋だった。


 本来なら、とっくに退去していなければならない。


 だが、Club Moon Dropの開業準備から営業開始まで慌ただしい日々が続き、新しく住む場所を探す時間がなかった。


 レンはギルドへ事情を説明し、無理を言って今日まで住まわせてもらっていた。


「さすがに、これ以上は迷惑を掛けられないな。」


 レンは苦笑する。


 荷物は多くない。


 異世界へ来た時は何も持っていなかった。


 今では必要な物も少しずつ増えたが、そのほとんどはアイテムボックスへ収納できる。


 部屋に残っていた荷物を片付けると、室内は借りた時と変わらない姿へ戻った。


 レンは最後にもう一度部屋を見渡す。


 異世界へ来て初めて眠った部屋。


 冒険者として最初の一歩を踏み出した場所。


 ガイルと出会い、マルクと出会い、多くの人との縁が生まれた。


 そして今では、Club Moon Dropという大切な店と、信頼できる仲間たちがいる。


「お世話になりました。」


 誰もいない部屋へ小さく頭を下げ、レンは扉を閉めた。


 冒険者ギルドへ着くと、朝から多くの冒険者たちが依頼書を眺めていた。


 受付では職員たちが忙しそうに対応している。


 レンが受付へ向かうと、見慣れた女性が穏やかな笑顔を向けた。


「おはようございます、レンさん。」


「おはようございます、ミレイナさん。」


 冒険者ギルドの受付嬢、ミレイナだった。


 レンが冒険者登録をした時から担当してくれている受付嬢であり、これまで何度も相談に乗ってくれた、レンにとって信頼できる存在でもある。


「今日はお部屋の返却ですね。」


「はい。」


 レンは部屋の鍵を差し出した。


「長い間、ご迷惑をお掛けしました。」


 ミレイナは優しく微笑みながら首を横へ振る。


「お気になさらないでください。」


「お店を開かれたばかりで、お忙しいことは分かっていましたから。」


「ギルド長もご理解されていましたし、無事に落ち着かれたようで安心しました。」


 レンは安堵したように笑う。


「ありがとうございます。」


「本来の期間を過ぎても住まわせていただいて、本当に助かりました。」


 ミレイナは鍵を受け取りながら頷いた。


「レンさんは『住む場所が決まったら必ず退去します』と約束してくださいました。」


「その約束を守ってくださると信じていましたから。」


 レンは少し照れくさそうに笑った。


「信用していただけて嬉しいです。」


「もちろんです。」


 ミレイナも微笑む。


「それに最近は、Club Moon Dropのお話を耳にすることが本当に増えました。」


「冒険者の皆さんも『落ち着いて飲める』『安心して過ごせる』と話されていますよ。」


 レンは自然と笑顔になった。


「そう言っていただけると励みになります。」


「まだ始まったばかりですが、もっと良い店にしていきたいと思っています。」


 返却手続きが終わり、ミレイナは帳簿を閉じた。


「これで手続きは完了です。」


「今までご利用いただき、ありがとうございました。」


 レンは深く頭を下げる。


「こちらこそ、本当にお世話になりました。」


 少し間を置き、レンは穏やかに微笑んだ。


「ミレイナさん。」


「はい。」


「いつもギルドではお世話になっています。」


「もしお休みの日がありましたら、ぜひ一度Club Moon Dropへいらしてください。」


 ミレイナは少し驚いたように目を瞬かせた。


「私が、お店へですか?」


「はい。」


 レンは笑顔で頷く。


「受付のお仕事は大変だと思います。」


「だからこそ、お休みの日くらいは、ゆっくりした時間を過ごしていただけたら嬉しいです。」


 ミレイナは柔らかな笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。」


「そのお誘い、とても嬉しいです。」


「お休みが合いましたら、ぜひ伺わせていただきます。」


「お待ちしています。」


 二人は笑顔で一礼を交わした。


 レンは冒険者ギルドを後にする。


 外へ出ると、爽やかな朝の風が頬を撫でた。


 今日から、あの部屋へ帰ることはない。


 少しだけ名残惜しさはあった。


 だが、それ以上に新しい生活への期待が胸を満たしていた。


 レンはその足でClub Moon Dropへ向かう。


 今日は定休日。


 営業中の札は掛かっておらず、静かな店が朝日に照らされていた。


 レンは店の前で足を止める。


 この店には、自分と一緒に歩んでくれる仲間がいる。


 リリア。


 エルナ。


 セレナ。


 ミーナ。


 ノア。


 ロイ。


 ディーノ。


 ルーク。


 一人では作れなかった場所を、今は皆で支えている。


 レンは静かに微笑み、再び歩き始めた。


 向かった先は金獅子亭だった。


 開店準備をしていたマルクは、店先へ現れたレンを見ると笑った。


「おう、レン。」


「今日は定休日だったな。」


「はい。」


 レンも笑顔で頷く。


「少し相談がありまして。」


「相談?」


 マルクは腕を組む。


「実は今、ギルドの部屋を返してきました。」


「ようやくだな。」


 マルクは笑う。


「本当ならもっと早く出る予定だったんですが、店の準備や営業で住む場所を探す時間がなくて。」


「ギルドへお願いして、今日まで住まわせてもらっていました。」


 マルクは納得したように頷いた。


「まあ、お前らしい。」


「店のことになると、自分のことは後回しだからな。」


 レンは苦笑する。


「否定できません。」


「それで、これから住む部屋を探そうと思っています。」


 その言葉を聞いたマルクは迷うことなく言った。


「なら、一緒に行くか。」


 レンは少し驚く。


「いいんですか?」


「もちろんだ。」


 マルクは胸を張った。


「長くこの街で店をやってるからな。」


「顔なじみの不動産屋くらいいる。」


「一人で探すより早いぞ。」


 レンは嬉しそうに頭を下げた。


「ありがとうございます。」


 マルクは店へ鍵を掛ける。


「今日は店のことは忘れろ。」


「まずは住む場所を決める。」


「はい。」


 二人は並んで街を歩き始めた。


 レンにとって、新しい生活の土台を築く一日が、静かに始まろうとしていた。


レンにとって、新しい生活の土台を築く一日が、静かに始まろうとしていた。


 マルクと並んで歩きながら、レンは街並みを眺める。


「住む場所なんて、しばらく考えてもいませんでした。」


 レンが苦笑すると、マルクは豪快に笑った。


「お前らしいな。」


「店を開くことばかり考えてたんだろ。」


「はい。」


 レンは素直に頷く。


「店が落ち着くまでは、それしか考えられませんでした。」


「まあ、そのおかげで今のClub Moon Dropがある。」


 マルクはそう言いながら、一軒の店の前で足を止めた。


「ここだ。」


 落ち着いた造りの不動産屋だった。


 店へ入ると、初老の男性が笑顔で二人を迎える。


「いらっしゃいませ……おや、マルクさん。」


「久しぶりだな。」


 マルクは笑いながらレンを紹介する。


「こいつがレンだ。」


「Club Moon Dropをやってる。」


 店主は驚いたように目を丸くした。


「あなたがレンさんでしたか。」


「最近、お店の評判をよく耳にします。」


 レンは丁寧に頭を下げる。


「ありがとうございます。」


「今日は住む部屋を探したくて伺いました。」


 店主は席を勧めながら尋ねた。


「ご希望はありますか。」


 レンは少し考えて答える。


「店から近いこと。」


「夜遅くなることもありますので、歩いて帰れる距離が理想です。」


「一人で暮らしますので、広すぎなくても構いません。」


「治安が良く、静かな場所をお願いしたいです。」


「分かりました。」


 店主は地図を広げ、数件の物件を紹介した。


 最初の部屋は家賃も手頃だったが、店まで少し距離がある。


 二件目は広く立派だったが、一人で住むには大きすぎた。


「ここまで広くなくても十分ですね。」


 レンが苦笑すると、店主も笑った。


「では、最後の一件をご案内しましょう。」


 三人は店を出て住宅街へ向かった。


 案内された家は、西通りから歩いて数分の場所に建っていた。


 周囲は静かで、人通りもほどよくある。


 玄関を開けると、落ち着いた雰囲気の居間が広がっていた。


 奥には寝室が一部屋。


 収納も十分にあり、一人で暮らすには申し分ない広さだった。


 レンはゆっくり部屋の中を見渡す。


「……ここなら。」


 自然と言葉が漏れる。


 マルクも満足そうに頷いた。


「店へも近い。」


「営業が終わって帰るにも楽だ。」


「何かあってもすぐ店へ行ける。」


 レンも静かに頷く。


「ここにします。」


 迷いはなかった。


 店主は嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます。」


 契約手続きはすぐに終わった。


 店主から鍵を受け取ったレンは深く頭を下げる。


「よろしくお願いいたします。」


「こちらこそ。」


 店主も笑顔で答えた。


 店を出ると、マルクが笑う。


「これで一安心だな。」


「はい。」


「本当にありがとうございました。」


「礼ならまだ早い。」


 マルクは笑いながら歩き始める。


「そうだ。」


 レンが思い出したように口を開いた。


「オーウェンさんの工房へ寄ってもいいですか。」


「ああ。」


 マルクは頷く。


「今週追加でお願いしていた正式会員証だな。」


「はい。」


「受け取りに行こうと思っています。」


 二人はそのまま工房へ向かった。


 木を削る音が響く中、オーウェンがレンに気付いて顔を上げる。


「レン。」


「こんにちは、オーウェンさん。」


「こんにちは。」


 オーウェンは作業台の上から小さな木箱を持ってきた。


「頼まれていた今週分の追加だ。」


「確認してくれ。」


「ありがとうございます。」


 レンは木箱を開ける。


 中には、美しく仕上げられた正式会員証が整然と並んでいた。


 一枚一枚が丁寧に磨かれ、木目も美しい。


「今週も素晴らしい仕上がりです。」


 レンは自然と笑みを浮かべる。


 オーウェンも静かに頷いた。


「正式会員証は店の信用にも関わる。」


「だから毎回、気持ちを込めて作っている。」


 レンは木箱を閉じ、大切そうに抱えた。


「ありがとうございます。」


「オーウェンさんには、受付台や店内の家具、VIPルームの家具まで作っていただきました。」


「それだけではなく、こうして毎週、正式会員証まで作っていただいています。」


「いつも本当にありがとうございます。」


 オーウェンは少し照れくさそうに笑う。


「急に改まるな。」


「俺は自分の仕事をしているだけだ。」


「それでも、その仕事がClub Moon Dropを支えてくれています。」


 レンは真っ直ぐオーウェンを見つめた。


「お客様が最初に手にする正式会員証も、この店の大切な一部です。」


「だからこそ、感謝をお伝えしたかったんです。」


 オーウェンは静かに頷いた。


「そう言ってもらえるなら十分だ。」


「これからも追加が必要になったら、遠慮なく言ってこい。」


「店が大きくなっても、責任を持って作り続けよう。」


 レンは深く頭を下げる。


「ありがとうございます。」


「これからもよろしくお願いします。」


「ああ、任せておけ。」


 工房を出ると、夕暮れの街を心地よい風が吹き抜けた。


 新しい住まいが決まり、今週分の正式会員証も受け取ることができた。


 店を支えてくれる仲間だけではない。


 多くの人の支えがあって、Club Moon Dropは少しずつ成長している。


 レンは木箱を抱えながら、小さく微笑んだ。


「また明日から頑張ろう。」


 その言葉とともに、レンはマルクと並んで夕暮れの街を歩いていった。

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