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異世界キャバクラ王 ~酒チートと氷魔法で、夜の社交界を支配する~  作者: 阿鼻恭介
第4章 育つ店、広がる縁

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第62話 再び訪れる夜

五日後。


 西通りは朝から多くの人で賑わい、Club Moon Dropにもいつもの穏やかな朝が訪れていた。


 開店前の店内では、それぞれが自分の持ち場で準備を進めている。


 リリアは客席を歩きながら椅子やテーブルの位置を整え、テーブルクロスの乱れを丁寧に直していた。


 エルナとセレナはカウンターでグラスを磨き、一つひとつ光にかざしながら曇りや汚れが残っていないかを確認する。


 ミーナは客席を見回り、テーブルの上に置かれたメニューや小物の位置を整え、お客様が気持ちよく過ごせる空間を作っていた。


 ノアは店内をゆっくり歩き、入口から客席までの動線や備品の配置を確認しながら、小さな気付きを手帳へ書き留めていく。


 受付ではロイとディーノが登録帳を開き、その日の予約を確認していた。


「ディーノ。」


「はい。」


「最近は受付の流れも自然になってきましたね。」


「ありがとうございます。」


「ロイさんのおかげです。」


「いえ。」


「私も最初は同じでした。」


「慣れてきた今こそ、一つひとつの確認を大切にしましょう。」


「はい。」


 ディーノは力強く頷き、改めて登録帳へ目を落とした。


 紹介者の名前。


 正式会員と仮会員の区分。


 来店予定の時間。


 五日前には緊張しながら確認していた内容も、今では自然と頭へ入るようになっている。


 一方、厨房ではルークが金獅子亭から運ばれてきた料理や甘い菓子を確認していた。


 料理の温度を確かめ、一皿ずつ丁寧に盛り付けを整える。


 甘い菓子も崩れや向きを確認し、最も美しく見える状態へ仕上げていく。


 料理を作るのは金獅子亭。


 その料理を最も良い状態でお客様へ届けることが、今のルークの役目だった。


 そこへレンが厨房へ顔を出す。


「ルーク。」


「はい。」


「準備はどうだ。」


「順調です。」


 ルークは料理へ視線を向けながら答えた。


「料理も甘い菓子も、一番良い状態でお出しできるよう確認しています。」


 レンは満足そうに頷く。


「少し余裕も出てきたみたいだな。」


 ルークは照れたように笑う。


「皆さんが支えてくださるので、周りを見る余裕も出てきました。」


「料理だけじゃなく、お店全体の流れも見ながら動きたいと思っています。」


「その気持ちを忘れなければ大丈夫だ。」


 レンは優しく微笑んだ。


 店内を見回す。


 五日前。


 新しい体制が始まったばかりの頃は、それぞれが自分の仕事を覚えることで精一杯だった。


 しかし今では違う。


 リリアたちは互いの動きを見ながら自然にフォローし合い、ロイとディーノは言葉を交わさなくても役割を分けられるようになっていた。


 ルークも厨房だけではなく、客席の流れまで意識するようになっている。


(いい流れだ。)


 レンは小さく頷く。


 この店は、キャストとお客様がいい空気で過ごせる店でありたい。


 その空気を作るのは、豪華な内装でも、高価な酒でもない。


 一人ひとりが相手を思いやり、自然に支え合うこと。


 その積み重ねが、Club Moon Dropらしさになっていく。


「みんな。」


 レンが声を掛ける。


 その一言で、それぞれが手を止めた。


 リリアは客席から。


 エルナとセレナはカウンターから。


 ミーナは客席中央から。


 ロイとディーノは受付台を離れ、ノアは手帳を閉じる。


 ルークも厨房から出てきて、全員がレンの前へ集まった。


 レンは一人ひとりの顔を見渡し、穏やかに口を開く。


「新しい体制になって五日。」


「みんなのおかげで、大きな問題もなく営業を続けることができた。」


 リリアが嬉しそうに笑う。


「二人とも、もうすっかり馴染んできたね。」


 エルナも頷いた。


「連携も取りやすくなりました。」


 セレナは穏やかに微笑む。


「以前より店全体に余裕が生まれたように感じます。」


 その時、ノアが手帳を開いた。


「レンさん。」


「何か気付いたことがあったか。」


「はい。」


 ノアは静かに頷く。


「皆さんがお互いを見ながら動かれることが増えています。」


「ロイさんが受付をされている時は、ディーノさんが自然と店内へ目を向けられています。」


「ディーノさんがお客様をご案内される時は、ロイさんが受付へ戻られています。」


 ロイとディーノは顔を見合わせ、小さく笑った。


「特別に意識していたわけではありません。」


 ディーノが答える。


「自然と身体が動くようになっていました。」


 ノアは続ける。


「ルークさんは料理や甘い菓子を整えながら、客席の様子も見られています。」


「リリアさんが受け取りやすいタイミングで準備を終えられていました。」


 リリアは嬉しそうに頷いた。


「本当に助かってる。」


「最近は声を掛ける前に準備してくれてるんだよ。」


 ルークは少し照れながら微笑む。


「営業を重ねて、お客様の流れが少しずつ分かるようになりました。」


 レンは満足そうに頷いた。


「それが一番大切だ。」


「自分の仕事だけじゃない。」


「仲間の動きを見て、お客様の様子を見る。」


「そうすれば、自然と次に何をするべきかが見えてくる。」


 全員が真剣な表情で頷いた。


「この調子で、一歩ずつ成長していこう。」


「はい!」


 全員の返事が店内へ響く。


 その後、昼営業が始まった。


 正式会員や仮会員が来店し、店内には穏やかな時間が流れていく。


 ロイとディーノは落ち着いて受付を行い、リリア、エルナ、セレナ、ミーナはそれぞれの持ち味を生かした接客で客を迎える。


 ルークは厨房で料理や甘い菓子を最も良い状態へ整え、注文に合わせて一皿一皿送り出していった。


 五日前には見られた緊張や戸惑いは、もうほとんどない。


 Club Moon Dropは、新しい仲間とともに確かな歩みを続けていた。


 そしてその日の夜。


 店の扉が静かに開き、一人の男が穏やかな笑みを浮かべながら店内へ足を踏み入れようとしていた。


 昼営業を終えたClub Moon Dropでは、夜営業の準備が進められていた。


 リリアたちは客席のテーブルを整え、昼営業で使用したグラスを一つひとつ確認していく。


 エルナとセレナは椅子の位置やテーブルの間隔を整え、ミーナは客席を見回りながら、お客様が心地よく過ごせる空間になっているかを確認していた。


 ノアは入口から客席まで歩き、備品の位置や動線に変化がないかを手帳へ書き留めていく。


 受付ではロイとディーノが登録帳を開き、夜営業の予約を確認していた。


 厨房ではルークが金獅子亭から運ばれてきた料理や甘い菓子を確認し、一皿一皿丁寧に盛り付けを整えている。


 レンは店内をゆっくり見回し、小さく頷いた。


 新しい体制になって六日。


 誰かが慌てて動くことはない。


 それぞれが自分の役割を理解し、自然に準備を進めていた。


「それじゃあ、夜営業を始めよう。」


 レンの言葉に全員が頷く。


 リリアが営業中の札を表へ返した。


 Club Moon Dropの夜が始まる。


 最初に訪れたのは正式会員の商人だった。


「こんばんは。」


「いらっしゃいませ。」


 ロイが会員証を確認し、ディーノが静かに扉を支える。


「こちらへどうぞ。」


 リリアが笑顔で席へ案内し、エルナが注文を伺う。


 ルークは注文に合わせて酒に合う軽食を整え、ロイが客席へ運んだ。


 続いて若い夫婦、常連の女性客、冒険者二人組と、正式会員が次々に来店する。


 セレナは上品な笑顔で客と言葉を交わし、ミーナは静かに相槌を打ちながら、お客様が話しやすい空気を作っていた。


 ロイとディーノは受付と店内巡回を自然に分担し、必要な時だけ料理や酒を運ぶ。


 キャストたちは安心してお客様との時間を過ごしていた。


 レンはカウンターで酒を作りながら、その様子を静かに見守る。


(いい空気だ。)


 キャストがお客様との時間を大切にし、その時間を黒服が支える。


 厨房ではルークが料理でその時間に彩りを添える。


 六日前には、まだ形になり始めたばかりだったこの流れも、今ではClub Moon Dropらしい空気として店全体へ広がっていた。


 その時だった。


 入口の扉が静かに開く。


「こんばんは。」


 落ち着いた声が響く。


 ロイが顔を上げ、笑顔で迎えた。


「こんばんは。レオナルド様、いらっしゃいませ。」


 店へ入ってきたのはレオナルド・バレンティだった。


「こんばんは。」


 レオナルドは穏やかな笑みを浮かべる。


「また伺いました。」


「ありがとうございます。」


 会員証の確認を終えると、ディーノが店内へ案内する。


 レンもカウンターから歩み寄った。


「こんばんは、レオナルドさん。」


「こんばんは、レンさん。」


 レオナルドは微笑みながら頷いた。


「前回、とても心地よい時間を過ごせましたので、また来たくなりました。」


「ありがとうございます。」


 レンはカウンター席へ案内する。


「どうぞ、こちらへ。」


 レオナルドが席へ腰を下ろすと、レンは店内へ視線を向けた。


「リリア。」


「はい。」


 リリアは笑顔で歩み寄り、レオナルドへ丁寧に一礼する。


「本日は私が担当させていただきます。リリアと申します。よろしくお願いいたします。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


 レオナルドも穏やかに微笑み返した。


 リリアは自然な笑顔で席へ着く。


「今日はお一人でいらっしゃったんですね。」


「ええ。」


 レオナルドは頷く。


「少しゆっくり飲みたくなりまして。」


「ありがとうございます。」


「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。」


 レンがカウンター越しに尋ねる。


「本日はどのようなお酒になさいますか。」


「今日もレンさんにお任せしてもよろしいでしょうか。」


「もちろんです。」


 レンはグラスへ氷を入れ、一杯の酒を丁寧に仕上げていく。


 一方、厨房ではルークが酒に合う軽食を美しく盛り付けていた。


 料理が整うと、ディーノが厨房へ向かう。


「ルーク。」


「はい。」


「こちらをお願いします。」


「お願いします。」


 ディーノは皿を受け取り、レオナルドの席へ運んだ。


「お待たせいたしました。」


「ありがとうございます。」


 レオナルドは酒を一口味わい、続いて軽食を口へ運ぶ。


 ゆっくりと咀嚼し、小さく頷いた。


「やはり美味しいですね。」


 その言葉を聞いたリリアが嬉しそうに微笑む。


「ルークさんが最後まで丁寧に仕上げてくださっているんです。」


「なるほど。」


 レオナルドは厨房へ目を向ける。


 その頃、厨房では別の席から注文の入った甘い菓子が用意されていた。


 ルークは彩りや盛り付けを丁寧に整え、出来栄えを確認するとロイへ手渡す。


「お願いします。」


「承知しました。」


 ロイは甘い菓子を受け取り、奥の席で談笑していた女性客のもとへ運ぶ。


「お待たせいたしました。」


「わあ、すごく綺麗。」


 女性客は嬉しそうに笑顔を見せた。


 ロイは静かに一礼し、再び受付近くの持ち場へ戻っていく。


 レオナルドはその一連の流れを静かに見つめていた。


 キャストはお客様との会話に集中し、黒服は必要な場面だけ自然に動く。


 厨房ではルークが料理や甘い菓子を最も良い状態で送り出している。


 誰も慌てず、それぞれが自分の役割を果たしていた。


「なるほど。」


 レオナルドは静かに頷く。


「キャストの皆さんがお客様との時間を作り、その時間を黒服の皆さんが支えている。」


「役割がとても明確ですね。」


 レンは穏やかに微笑んだ。


「黒服は、お客様とキャストが安心して過ごせるよう支える仕事です。」


「目立たないことも、大切な役割なんです。」


 レオナルドは納得したように頷く。


「だから、この店へ来ると自然と落ち着くのですね。」


「皆さんが安心して動かれている理由が分かりました。」


 リリアも嬉しそうに微笑んだ。


「そう言っていただけて嬉しいです。」


 穏やかな時間は、その後もしばらく続いた。


 夜も更け、レオナルドは静かに席を立つ。


「ごちそうさまでした。」


「ありがとうございました。」


 レン、ロイ、ディーノが入口まで見送る。


 店を出る前、レオナルドは振り返った。


「また近いうちに伺います。」


「いつでもお待ちしております。」


 レンが笑顔で答える。


 レオナルドは小さく頷き、夜の西通りへ歩き出した。


 その背中を見送りながら、レンは静かに微笑む。


 キャストがお客様との時間を大切にし、黒服がその時間を支え、ルークの料理が彩りを添える。


 Club Moon Dropは今日もまた、一人ひとりのお客様へ心地よい時間を届けていた。

お読みいただきありがとうございます。

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