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異世界キャバクラ王 ~酒チートと氷魔法で、夜の社交界を支配する~  作者: 阿鼻恭介
第4章 育つ店、広がる縁

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第61話 それぞれの役割

翌朝。


 柔らかな陽射しが西通りを照らし、Club Moon Dropにも新しい一日が訪れていた。


 開店前の店内では、それぞれがいつもの持ち場で準備を進めている。


 リリアは客席を歩きながら椅子の位置を整え、テーブルクロスの乱れを直していた。


 エルナとセレナはカウンターでグラスを一つひとつ丁寧に磨いている。


 ミーナは客席へ運ぶ食器を確認し、不足がないかを確かめていた。


 ノアは店内をゆっくり歩きながら、椅子の位置や通路の広さ、備品の置き方などを確認し、気付いたことを手帳へ書き留めている。


 受付ではロイとディーノが登録帳を開き、会員証を並べながら開店準備を進めていた。


「昨日はお疲れさまでした。」


 ロイが穏やかに声を掛ける。


「ありがとうございます。」


 ディーノは少し照れながら笑った。


「まだ覚えることばかりですが、とても勉強になりました。」


「焦る必要はありません。」


 ロイは微笑む。


「私も最初は同じでした。」


「一つずつ覚えていけば大丈夫ですよ。」


「はい。」


 ディーノは力強く頷いた。


 一方、厨房ではルークが酒に合う軽食の仕込みを確認していた。


 昨日初めて実際の営業へ立ったことで、料理を作るだけではなく、お客様へ届ける最後の瞬間まで意識するようになっている。


 皿を並べ、器を確認し、提供する順番を頭の中で整理する。


 レンはそんな店内を静かに見回し、小さく頷いた。


 新しい体制となって二日目。


 誰も指示を待ってはいない。


 それぞれが自分の役割を理解し、自然と動いていた。


「みんな。」


 レンが声を掛ける。


 その一言で、それぞれが手を止めた。


 リリアは客席から。


 エルナとセレナはグラスを置き、ミーナは食器を元の場所へ戻す。


 ロイとディーノは受付台を離れ、ノアは手帳を閉じた。


 ルークも厨房から出てきて、全員が自然とレンの前へ集まる。


 レンは全員の顔を見渡し、穏やかに口を開いた。


「昨日はお疲れさま。」


「ルークとディーノにとって初めての昼営業、そして初めての夜営業だった。」


「大きな問題もなく終えることができたのは、みんなが支えてくれたおかげだ。」


 リリアが笑顔になる。


「二人とも本当に頑張ってたよ。」


 エルナも頷いた。


「初日とは思えませんでした。」


 セレナも穏やかに微笑む。


「お客様も安心されていたと思います。」


 レンは小さく頷いた。


「その前に、ルーク。」


「はい。」


「昨日、お客様から好評だった軽食を、もう一度見せてもらえるか。」


「承知しました。」


 ルークは厨房へ戻ると、酒に合う軽食を手際よく盛り付け始めた。


 料理を皿へ盛り付け、彩りを整える。


 最後に皿を少しだけ回し、料理の向きを調整した。


「こちらの向きの方がお客様からきれいに見えます。」


 リリアが感心したように笑う。


「昨日も思ったけど、そこまで考えて盛り付けてるんだね。」


 エルナも料理を見つめた。


「同じ料理でも、印象が全然違います。」


 セレナは穏やかに頷く。


「細かなところまで気を配られているんですね。」


 ミーナも嬉しそうに微笑んだ。


「私も昨日、お客様が料理をご覧になった時の表情がすごく印象に残っています。」


 ロイも静かに口を開く。


「料理が運ばれた瞬間の印象も、お店全体のおもてなしにつながりますね。」


 ディーノも頷いた。


「料理だけじゃなく、提供の仕方まで含めて接客なんですね。」


 ルークは少し照れながら笑う。


「料理は味だけではありません。」


「お客様の前へ届いた瞬間も料理の一部だと思っています。」


 レンは満足そうに頷いた。


「その意識を、これからも大切にしてほしい。」


「はい。」


 ルークは真剣に返事をした。


 その時、ノアが手帳を開く。


「レンさん。」


「何か気付いたことがあったか。」


「はい。」


 ノアは頷いた。


「昨日の営業で気付いたことがあります。」


「ディーノさんは、お客様が通りやすいように入口付近を何度も確認されていました。」


「ルークさんは、毎回お皿の向きを確認されていました。」


「それから、ロイさんが受付をしながら、キャストの皆さんが動きやすいように自然と店内を見られていたことも印象に残っています。」


 レンは嬉しそうに微笑む。


「ありがとう。」


「そういう気付きが、この店をもっと良くしてくれる。」


 ノアは少し照れながら手帳を閉じた。


 レンは改めて全員を見渡す。


「昨日、新しい体制でも問題なく営業できることが分かった。」


「だから今日から、それぞれの役割を改めて確認しておこう。」


 全員の表情が引き締まる。


「まず俺。」


 レンは静かに話し始めた。


「店全体の管理をしながら酒を作る。」


「接客はカウンターのお客様を中心に担当する。」


 全員が頷いた。


「リリア。」


「はい。」


「キャスト主任として、ホール全体をまとめてほしい。」


「任せて。」


 リリアは笑顔で答える。


「エルナ、セレナ、ミーナ。」


「はい。」


 三人の声が重なる。


「キャストとして、ホール全体の接客を担当してもらう。」


「お客様一人ひとりが心地よく過ごせる時間を作ってほしい。」


「はい。」


 三人は力強く頷いた。


 レンはロイへ視線を向ける。


「ロイ。」


「はい。」


「黒服として受付を重点的に担当してもらう。」


「受付だけでなく、店内巡回、お客様対応もこれまで通り頼む。」


「キャストが接客中はウエイターとしても動いてほしい。」


「承知しました。」


 ロイは落ち着いた表情で答えた。


 レンは続いてディーノを見る。


「ディーノ。」


「はい。」


「黒服としてロイを支えてほしい。」


「受付補助、店内巡回、お客様対応。」


「そして必要に応じてウエイターも担当する。」


「分かりました。」


 ディーノは力強く頷いた。


 レンは厨房へ目を向ける。


「ルーク。」


「はい。」


「厨房を任せる。」


「今は酒に合う軽食が中心だ。」


「将来的には、この店の厨房責任者として店内調理も任せたいと思っている。」


 ルークは姿勢を正した。


「期待に応えられるよう頑張ります。」


 最後にレンはノアを見る。


「ノア。」


「はい。」


「これまで通り、店内改善をお願いする。」


「備品管理、営業記録、動線の確認。」


「そして気付いたことがあれば遠慮なく伝えてほしい。」


「はい。」


 ノアは大切そうに手帳を胸に抱えた。


 レンは全員を見渡し、穏やかに微笑む。


「役割は決まった。」


「でも、一人で仕事をするわけじゃない。」


「困った時は支え合う。」


「助けが必要なら声を掛ける。」


「それがClub Moon Dropだ。」


「はい!」


 全員の返事が店内に響いた。


 新しい仲間を迎え、新しい体制で歩み始めたClub Moon Drop。


 一人ひとりが自分の役割を理解し、互いを支え合いながら進んでいく。


 その積み重ねが、この店をさらに温かく、安心できる場所へ育てていくのだった。


役割を改めて確認した後、それぞれが持ち場へ戻っていった。


 店内には開店前ならではの穏やかな空気が流れている。


 リリアは客席を見回りながら、テーブルや椅子の位置を最後に確認する。


 エルナとセレナはグラスを所定の位置へ並べ、ミーナはルークが準備した軽食を運びやすいよう配膳用の皿を整えていた。


 受付ではロイとディーノが登録帳を閉じ、開店の準備を終える。


 ノアは店内をゆっくり歩きながら、今日も気付いたことを手帳へ書き込んでいた。


 その様子を見ていたレンは、小さく頷く。


 誰かに言われて動いている者はいない。


 それぞれが自分の役割を理解し、自分から動いている。


 それこそが、今のClub Moon Dropだった。


「レンさん。」


 リリアが近付いてきた。


「どうした?」


「昨日のレオナルドさん。」


「ああ。」


「すごく落ち着いた方だったね。」


 レンは静かに頷く。


「そうだな。」


「店へ入られた時から、この店の空気を大切にしてくださっているのが伝わってきた。」


 エルナも会話へ加わる。


「ガイルさんが、あそこまで信頼されている方なんですね。」


「私も少し驚きました。」


 セレナも穏やかに微笑んだ。


「とても礼儀正しい方でした。」


「初めて来られたとは思えないくらい自然に店へ馴染まれていました。」


 ミーナも頷く。


「料理を召し上がった時の笑顔が印象に残っています。」


「すごく嬉しそうでした。」


 厨房のルークも静かに口を開く。


「『美味しいですね』と言っていただけて安心しました。」


「まだ昨日が初めてだったので。」


 レンは笑みを浮かべる。


「お客様のその一言は、料理人にとって一番嬉しい言葉だからな。」


 ルークは少し照れながら頷いた。


 一方、ロイは受付台へ目を向けながら話す。


「受付でも、とても丁寧な方でした。」


「紹介者の確認や登録も落ち着いて受けてくださいました。」


 ディーノも思い出すように言った。


「ガイルさんが『昔世話になった人』と言われた時の表情が印象に残っています。」


「とても尊敬されている方なんですね。」


 レンは穏やかに頷いた。


「ああ。」


「大切な人だからこそ、この店へ紹介してくださったんだろう。」


「その信頼に応えられる店であり続けたい。」


 全員が静かに頷いた。


 その時だった。


「レンさん。」


 ノアが手帳を抱えながら近付いてくる。


「何か気付いたことがあったか。」


「はい。」


 ノアは手帳を開いた。


「昨日、レオナルドさんは店内へ入られてから、お店全体をゆっくりご覧になっていました。」


「客席だけではなく、受付や厨房の方まで。」


 ロイが頷く。


「確かに、店の様子を見ておられましたね。」


 ノアは続ける。


「でも、不安そうではありませんでした。」


「安心されているように見えました。」


 レンは優しく微笑む。


「紹介制の店だからな。」


「初めて来られる方は、最初は少し緊張されることが多い。」


「でも、安心して過ごしていただけたなら、それが一番嬉しい。」


 ノアも嬉しそうに頷いた。


 そこへリリアが明るく笑う。


「また来てくれるといいね。」


「私もそう思います。」


 エルナが答える。


「ガイルさんが紹介してくださるくらいですから。」


 セレナも微笑んだ。


「またお会いできる日が楽しみです。」


 ミーナも元気よく頷く。


「今度はもっと喜んでいただけるよう頑張ります。」


 ルークも静かに口を開いた。


「次に来られた時には、昨日よりもっと美味しいと思っていただける軽食をお出ししたいですね。」


 レンはその言葉に満足そうに笑う。


「その気持ちが大切だ。」


「昨日より今日。」


「今日より明日。」


「少しずつでも成長していけばいい。」


 全員が力強く頷いた。


 それぞれが自分の役割を持ち、それぞれが昨日より良い店を目指している。


 その積み重ねがClub Moon Dropという店を作っていた。


 やがて開店時間が近づく。


 リリアが営業中の札を手に取る。


 ロイとディーノは受付台へ戻り、ルークは厨房へ入る。


 エルナ、セレナ、ミーナもそれぞれの持ち場へ向かった。


 レンは店内をゆっくり見回す。


 誰も慌てていない。


 それぞれが自分の役割を理解し、自信を持って動いている。


 新しい仲間を迎えたClub Moon Drop。


 その歩みは決して速くはない。


 だが、一歩一歩を大切に積み重ねながら、確実に前へ進んでいた。


 そして今日もまた、新しい一日が始まろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます。

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