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異世界キャバクラ王 ~酒チートと氷魔法で、夜の社交界を支配する~  作者: 阿鼻恭介
第4章 育つ店、広がる縁

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第55話 新たな役割

正式開店から数日。


Club Moon Dropでは、新しい体制での営業が始まっていた。


リリアはこれまでより接客へ出る時間が増え、ロイは受付へ立つ時間が多くなった。


その変化は、店の空気にも少しずつ表れている。


朝の準備を終えたロイは、受付台の前へ立った。


紹介者の確認。


登録帳。


会員証。


受付で必要になるものを一つずつ確認していく。


「準備はできたか?」


レンが声を掛ける。


「はい。」


ロイは落ち着いた表情で頷いた。


「いつでも大丈夫です。」


レンは受付台へ目を向け、小さく笑う。


「ずいぶん慣れてきたな。」


「ありがとうございます。」


最初の頃は、登録帳を開くだけでも緊張していた。


紹介者の名前を間違えないよう何度も確認し、案内するだけで精一杯だった。


だが今は違う。


流れを理解し、落ち着いて対応できるようになっていた。


「それじゃあ、今日も頼む。」


「はい。」


営業開始の札が表へ返される。


最初に訪れたのは、正式会員の女性だった。


「おはようございます。」


ロイは自然に一礼する。


「いらっしゃいませ。」


女性も笑顔で頷いた。


「今日は友人を連れてきたの。」


「ありがとうございます。」


紹介者を確認し、登録帳へ記入する。


初めて訪れた女性は少し緊張した様子だった。


ロイは穏やかな声で説明する。


「本日はご紹介でのご来店ですね。」


「どうぞごゆっくりお過ごしください。」


その落ち着いた口調に、女性の表情も少し和らいだ。


案内を終えたロイは、すぐに入口へ戻る。


その様子をレンは少し離れた場所から見ていた。


(大丈夫そうだな。)


以前ならリリアが対応していた流れを、今はロイが自然にこなしている。


そのおかげで――。


「こちらのお茶菓子、とても人気なんですよ。」


リリアは客席で女性客たちと笑顔で話していた。


途中で受付へ戻ることもなく、一人ひとりの話をゆっくり聞いている。


「本当に居心地のいいお店ね。」


「ありがとうございます。」


自然な笑顔が広がる。


レンはその光景を見て、小さく頷いた。


(やっぱり、この形で良かった。)


昼営業は穏やかに進んでいく。


紹介客も数名訪れ、新たに仮会員として登録された女性もいた。


さらに、以前仮会員として利用していた女性が正式会員登録を希望し、会費を納めて登録帳へ名前を書き加える。


「これからもよろしくお願いします。」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


受付で交わされるそのやり取りを見ながら、レンは静かに喜びを感じていた。


信頼が少しずつ積み重なっている。


それが数字だけではない形で伝わってくる。


昼営業が終わる頃。


ロイは受付台を整えながら、小さく息を吐いた。


「お疲れさま。」


リリアが笑顔で声を掛ける。


「ありがとうございます。」


「今日は全部任せちゃったね。」


ロイは少し照れたように笑う。


「でも、そのおかげでリリアさんがお客様とゆっくりお話しされているのを見て、これで良かったんだと思いました。」


その言葉にリリアも嬉しそうに笑う。


「ありがとう。」


「でも、ロイさんが落ち着いて受付をしてくれたからだよ。」


「私、一度も慌てずに済んだもん。」


ロイは少し照れながら頭を下げた。


「まだまだです。」


「もっと頑張ります。」


そのやり取りを聞いていたレンも笑みを浮かべる。


ロイは確実に成長していた。


受付を任せられる安心感。


それは店にとって大きな力になっている。


昼営業を終え、夜営業までの準備が始まる。


照明を落とし、店内は昼とは違う落ち着いた雰囲気へ変わっていく。


ロイは入口付近から店内全体を見渡した。


受付に立ち、お客様を迎え、案内する。


その役割には、少しずつ自信が持てるようになっていた。


しかしその一方で、ふと気になることがあった。


昼営業中、荷物を運ぶ時も。


お客様に呼ばれた時も。


店内全体へ目を配る時も。


そのたびにレンが動いていた。


(レンさんが動く場面が増えた……。)


以前は自分が行っていた仕事だ。


受付へ立つようになったことで、黒服として店内を動き回る時間は確かに減っている。


ロイはそのことを胸の中へ留めたまま、夜営業の準備を進めていった。


夜営業の準備が整い、Club Moon Dropには落ち着いた空気が流れていた。


受付にはロイ。


リリアは客席へ出て、女性客たちとの会話を楽しんでいる。


レンは店内全体へ目を配りながら、それぞれの動きを静かに見守っていた。


営業が始まると、最初に正式会員のガイルが姿を見せた。


「今日も頼むぞ。」


「いらっしゃいませ。」


ロイは落ち着いて一礼し、ガイルをカウンター席へ案内する。


その直後、以前紹介を受けて来店した二人組の女性が姿を見せた。


「こんばんは。」


「いらっしゃいませ。」


ロイは笑顔で迎える。


二人はすでに仮会員として登録されているため、会員証を確認し、登録帳へ来店記録を記入する。


「どうぞごゆっくりお過ごしください。」


「ありがとう。」


二人は笑顔で客席へ向かっていった。


以前なら少しぎこちなかった案内も、今では自然にできるようになっていた。


レンはその様子を見て、小さく頷く。


(安心して任せられるな。)


その頃、リリアは女性客の席で笑顔を見せていた。


「この前おすすめしてもらったお店、行ってみたんです。」


「本当?」


「すごく素敵なお店でした。」


「それはよかった。」


会話が弾み、客席には穏やかな笑い声が広がる。


途中で受付へ戻ることもなく、一人ひとりのお客様と向き合えている。


以前よりも店全体の空気が柔らかい。


「また来るわ。」


「お待ちしています。」


リリアは最後まで笑顔で見送ることができた。


その姿を見ながら、レンは店内を歩く。


空いたグラスを下げる。


料理を運ぶ。


客席全体へ目を配る。


ロイが受付を離れられない分、その役目は自然とレンへ集まっていた。


営業は大きな問題もなく終わり、最後の客を見送る。


ロイが入口へ鍵を掛け、リリアが看板を裏返した。


エルナたちは片付けを始め、ノアは制服やテーブルクロスを確認している。


ロイは受付台を整えながら、昼から感じていたことを改めて考えていた。


営業自体は順調だった。


受付も落ち着いて対応できた。


リリアも接客へ集中できていた。


それでも、一つだけ気になることがある。


片付けがひと段落した頃、ロイはレンへ声を掛けた。


「レンさん。」


「どうした?」


「少しお話があります。」


「いいぞ。」


レンはロイと並んで店内を見渡した。


ロイは真剣な表情で話し始める。


「今日一日受付へ立っていて気付いたことがあります。」


「何だ?」


「私が受付へ入るようになってから、レンさんが店内を動く場面がかなり増えました。」


レンは苦笑した。


「やっぱり気付いたか。」


「はい。」


「以前は私がしていたことを、今日はほとんどレンさんがされていました。」


「料理を運んで。」


「客席を回って。」


「入口の様子も見て。」


「お客様へ声を掛けて。」


「このままでは、レンさんの負担が大きくなってしまいます。」


レンは腕を組み、小さく頷いた。


「俺も同じことを考えていた。」


「ロイが受付へ入ったことで店全体は良くなった。」


「リリアは接客へ集中できるようになったし、お客様も以前よりゆっくり過ごせるようになった。」


「でも、その代わり黒服が一人足りなくなった。」


ロイも営業中を思い返す。


受付を離れられない。


だから客席全体を見回る者がいない時間ができる。


その役目を、今日はずっとレンが担っていた。


「今は何とか回っています。」


ロイは静かに言う。


「ですが、この先さらに正式会員や仮会員が増えれば、今の体制では厳しくなると思います。」


「ああ。」


レンも迷わず頷いた。


「今のうちに考えておく必要はあるな。」


少しの沈黙が流れる。


やがてロイが口を開いた。


「やはり……ルークさんとディーノさんでしょうか。」


レンは少し笑った。


「考えることは同じか。」


「はい。」


「以前から、お二人のことは考えておられましたから。」


レンは静かに店内を見回す。


「ルークなら厨房を任せられる。」


「店内で料理を仕上げられるようになれば、できることも増える。」


「ディーノなら黒服として店全体を任せられる。」


「入口も客席も安心して見てもらえる。」


ロイも頷いた。


「お二人とも、この店には必要な人材だと思います。」


「ただ。」


レンは穏やかに続ける。


「腕があるだけじゃ駄目だ。」


「Club Moon Dropの空気を守れる人じゃないと意味がない。」


ロイは力強く頷いた。


「安心して過ごせる店。」


「ああ。」


「それがこの店で一番大切なことだ。」


ロイは少し微笑んだ。


「ルークさんもディーノさんも、そのことはきっと分かってくださると思います。」


レンも静かに笑う。


「俺もそう思ってる。」


「そろそろ、もう一度二人と話をしてみるか。」


その言葉を聞き、ロイは嬉しそうに頷いた。


Club Moon Dropは少しずつ形になってきた。


受付。


接客。


裏方。


それぞれの役割が固まり始めた今、新しい仲間を迎える準備も必要になってきている。


レンは静かに店内を見渡す。


次の一歩は、店をさらに成長させるための一歩になる。


そんな確かな予感を胸に、Club Moon Dropの新しい明日が、ゆっくりと近づいていた。

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