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異世界キャバクラ王 ~酒チートと氷魔法で、夜の社交界を支配する~  作者: 阿鼻恭介
第4章 育つ店、広がる縁

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第54話 私らしい居場所

正式開店から数日。


Club Moon Dropにも、少しずつ落ち着いた日常が流れるようになっていた。


昼営業。


店内には女性客たちの穏やかな笑い声が響いている。


「そのお洋服、とても素敵ですね。」


リリアが笑顔で話しかけると、向かいに座る女性が嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。最近仕立ててもらったばかりなの。」


「すごくお似合いです。」


自然と会話が弾む。


初めて来店した時は緊張していた女性も、今ではすっかり笑顔になっていた。


そんな姿を見るたび、リリアの胸も温かくなる。


(やっぱり接客って楽しい。)


お客様の笑顔を見ること。


話を聞くこと。


楽しい時間を一緒に過ごすこと。


それがリリアの一番好きな仕事だった。


「リリア。」


その時、入口近くからロイの声が聞こえた。


「お客様です。」


「あっ、うん!」


リリアは席の女性へ申し訳なさそうに笑う。


「ごめんなさい。また後で来るね。」


「大丈夫よ。」


女性は優しく頷いてくれた。


リリアは受付へ向かう。


入口には紹介者と共に訪れた女性が立っていた。


「いらっしゃいませ。」


紹介者の名前を確認し、登録帳へ記入する。


仮会員の説明。


店内の案内。


すべて終える頃には十分ほど経っていた。


「こちらへどうぞ。」


席まで案内し、ようやく最初の女性客の元へ戻る。


「お待たせしました。」


「あら。」


女性は少し笑って言った。


「ちょうど昔話で盛り上がっちゃってたの。」


「そうだったんですね。」


リリアも笑顔で返した。


けれど、さっきまで話していた話題はもう終わっていた。


(もう少し話したかったな……。)


そんな思いが胸をよぎる。


営業はそのまま続いた。


リリアは接客へ戻るたびに、また受付へ呼ばれる。


新しい来店。


紹介の確認。


登録。


案内。


大切な仕事だ。


それはよく分かっている。


だから嫌だと思ったことは一度もない。


それでも、お客様との会話が少しずつ途切れてしまうことだけは、どうしても気になっていた。


昼営業が終わり、片付けが始まる。


リリアが受付台を整えていると、ロイが声を掛けてきた。


「今日もありがとうございました。」


「ううん。ロイさんもお疲れさま。」


ロイは少し照れたように笑う。


「最近は受付も少し慣れてきました。」


その言葉に、リリアは思わず微笑んだ。


「本当だね。」


最初の頃は紹介者の確認だけでも緊張していた。


登録帳を開く手もぎこちなかった。


それが今では違う。


紹介者の確認。


会員証の確認。


案内。


どれも落ち着いてできるようになっている。


(ロイさん、本当に慣れてきたな。)


そう思った時だった。


胸の奥に、小さな思いが浮かぶ。


(もしロイさんが受付をしてくれたら……。)


その瞬間、自分でも驚いた。


受付を任せたい。


そう思ったわけではない。


ただ。


もう少しだけ、お客様と話す時間があったら。


もう少しだけ、一人ひとりと向き合えたら。


そんなことを考えてしまったのだ。


「どうした?」


レンの声に我へ返る。


「あっ、ううん!」


慌てて笑顔を作る。


「何でもないよ。」


「そうか?」


レンは少し不思議そうな表情をしたが、それ以上は何も言わなかった。


夜営業の準備が始まる。


照明を少し落とし、昼とは違う落ち着いた空気へ変えていく。


リリアは受付へ立ちながら、店内を見渡した。


ロイは入口付近で周囲へ目を配っている。


以前より自然な立ち姿だった。


紹介者が来れば、すぐ確認できる位置。


客席の様子も見渡せる位置。


もう受付を安心して任せられる場面も増えてきている。


そんなロイを見ながら、リリアは小さく息をつく。


(私……。)


受付も好き。


この店の最初にお客様を迎える大切な仕事だから。


でも。


(もっと接客したい。)


その気持ちは日に日に大きくなっていた。


夜営業も順調に進み、紹介客を含めた数組の商人たちが穏やかな時間を過ごしていた。


リリアも何度か客席へ向かい、お客様と笑顔で話す。


「また来ますね。」


そう言ってもらえた時は、本当に嬉しかった。


だが、その直後。


「リリア。」


入口からロイの声が聞こえる。


新しい来店客だった。


「ごめんね。また後で。」


席を立ち、受付へ向かう。


案内を終えて戻ると、さっきまで笑っていた商人たちは別の話題で盛り上がっていた。


「……。」


リリアは笑顔を浮かべながら席へ加わる。


それでも心のどこかで、小さな寂しさを感じていた。


営業終了後。


最後の客を見送り、店内には静けさが戻る。


リリアは受付台を片付けながら、小さく息を吐いた。


(このままでいいのかな。)


受付も頑張りたい。


でも、接客ももっと頑張りたい。


二つの気持ちが胸の中で揺れ続けていた。


その答えを見つけるため、リリアは営業を終えて帳簿を片付けているレンの姿を静かに見つめていた。


営業を終えたClub Moon Dropには、静かな時間が流れていた。

最後の客を見送り、ロイが入口へ鍵を掛ける。

エルナたちは店内の片付けを始め、ノアは制服を確認しながら布類を整えていた。

リリアは受付台の前に立ったまま、小さく息を吐く。

胸の中にある思いは、営業中よりも大きくなっていた。

(やっぱり、このままじゃ駄目だ。)

今日も何度もお客様との会話を途中で切り上げた。

受付の仕事が嫌なわけではない。

大切な仕事だと分かっている。

それでも、お客様が笑顔になり始めた時に席を離れなければならないことが、どうしても心に引っ掛かっていた。

意を決したリリアは、帳簿を閉じようとしていたレンへ歩み寄る。

「レン。」

レンは顔を上げ、優しく微笑んだ。

「どうした?」

「少しだけ話せる?」

「もちろん。」

レンは立ち上がる。

「二階へ行こう。」

「うん。」

二人は静かに階段を上がり、二階の事務所へ入った。

レンは椅子を勧める。

「座って。」

「ありがとう。」

リリアは腰を下ろし、ゆっくりと口を開いた。

「私ね、受付の仕事が嫌なわけじゃないの。」

「うん。」

「お店へ来てくれたお客様を最初に迎える仕事だし、大事なのも分かってる。」

「でも、お客様と話してる途中で受付へ戻ることが増えたでしょ。」

「今日もすごく話が盛り上がってたのに、戻った頃には話が終わってた。」

「もう少し、お客様と話したかったなって思っちゃって。」

レンは最後まで黙って聞いていた。

「もっと接客を頑張りたい。」

「もっと、お客様と向き合いたい。」

リリアの言葉に、レンは静かに頷く。

「実は俺も同じことを考えてた。」

「え?」

「リリアは接客してる時が一番楽しそうだ。」

「お客様も楽しそうに笑ってる。」

「その時間をもっと増やしたいと思ってた。」

その時だった。

コンコン。

事務所の扉が控えめに叩かれる。

「失礼します。」

ロイが顔を覗かせた。

「あっ……お話中でしたか。」

「いや、大丈夫だ。」

レンが笑って手招きする。

「どうした?」

ロイは部屋へ入り、一礼した。

「夜営業のことで、一つ相談があります。」

「聞こう。」

「今日、紹介のお客様が続けて来店されました。」

「はい。」

「私は入口で最初のお客様をご案内していましたが、その間、受付はリリアさんにお願いする形になりました。」

レンは頷く。

「そうだったな。」

「もし今後、お客様がさらに増えた時も、このやり方で問題ないでしょうか。」

「受付と入口、どちらを優先するべきか迷いました。」

レンは小さく笑った。

「そのことなら、ちょうど今話していたところだ。」

ロイは不思議そうな表情になる。

レンは二人を見ながら話し始めた。

「ロイ。」

「はい。」

「最近、受付にも慣れてきたな。」

「ありがとうございます。」

「紹介者の確認も、会員証の確認も、案内も落ち着いてできるようになった。」

「はい。」

「だから、これからは受付を基本的にロイへ任せたい。」

ロイは目を見開く。

「私が、ですか。」

「ああ。」

「ロイが受付へ入れる時は、そのまま任せる。」

「ロイが受付へ入れない時だけ、臨時でリリアが受付へ入る。」

「リリアは基本的に接客へ出てほしい。」

部屋が静かになる。

最初に口を開いたのはリリアだった。

「本当にいいの?」

「ああ。」

「リリアの一番の強みは接客だ。」

「その力をもっと生かしてほしい。」

続いてレンはロイを見る。

「ロイは入口も受付も落ち着いて見られるようになった。」

「だから安心して任せられる。」

ロイは真剣な表情で頷いた。

「承知しました。」

「期待に応えられるよう努力します。」

リリアも嬉しそうに笑う。

「ありがとう。」

「私ももっと頑張る。」

三人は顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。

一階へ戻ると、エルナたちも片付けを終えて待っていた。

「話は終わった?」

エルナが尋ねる。

リリアは晴れやかな笑顔で頷いた。

「うん。」

「明日から、もっとお客様とお話しできそう。」

その笑顔を見たエルナたちも嬉しそうに微笑んだ。

レンは仲間たちを見回し、小さく頷く。

誰もが同じ役割を担う必要はない。

それぞれの得意なことを生かし、支え合うこと。

それこそがClub Moon Dropの強さになっていくのだった。

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