第2話 最後の一杯
初めての執筆で読みにくいところもあると思いますが楽しんで読んで頂けましたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
本日3話投稿のうち2話目です。
3話目は20時半予定です。
よろしくお願いいたします。
「グラス持て。」
佐々木の言葉に、俺は一瞬だけ固まった。
嫌な予感しかしない。
だが黒服に拒否権はほとんど存在しない。
特に相手が店の売上上位顧客なら尚更だ。
俺は営業スマイルを崩さずグラスを手に取った。
「ありがとうございます。」
「ははっ! いい返事だ!」
佐々木は上機嫌に見えた。
だが長年この仕事をしていると分かる。
こういう客は危険だ。
上機嫌な時ほど面倒になる。
VIPルームにはキャストが二人いた。
看板嬢の美咲。
新人の愛梨。
二人とも困った顔をしている。
恐らく既にかなり絡まれているのだろう。
テーブルの上には高級焼酎。
ロックグラス。
空になったボトル。
灰皿。
散らばったタバコ。
典型的な泥酔客の席だった。
「レンくん、無理しなくていいからね。」
美咲が小声で言う。
俺は笑って返した。
「大丈夫ですよ。」
大丈夫じゃない。
全然大丈夫じゃない。
だがここでキャストに心配させるわけにもいかない。
佐々木が焼酎をなみなみと注ぐ。
氷無し。
ほぼストレート。
「飲め。」
俺は飲んだ。
喉が焼ける。
胃が熱くなる。
だがまだ平気だ。
黒服を始めてから酒はかなり強くなった。
一杯程度なら問題ない。
「おお!」
佐々木が笑う。
「いい飲みっぷりだ!」
周囲も拍手する。
最悪の流れだ。
こうなると終わらない。
案の定だった。
二杯目。
三杯目。
四杯目。
五杯目。
飲むたびに拍手。
飲むたびに笑い声。
飲むたびに頭が重くなる。
「レン、大丈夫?」
インカムから同僚の声が聞こえた。
俺は返事をしようとした。
「だ……」
ろれつが回らない。
まずい。
かなりまずい。
佐々木は完全に酔っ払っていた。
そして酔っ払いは他人の限界など気にしない。
「若いんだからもっと飲め!」
グラスが再び差し出される。
周囲は笑う。
キャストは困る。
店長は来ない。
誰も止めない。
俺は理解した。
今日は逃げられない。
◇◇◇
それからどれくらい経っただろう。
時間の感覚が曖昧だった。
店内の照明が滲む。
音楽が遠い。
身体が重い。
気持ち悪い。
猛烈に気持ち悪い。
俺は席を立った。
「失礼します。」
佐々木は笑っていた。
何か言っている。
だが聞き取れない。
足がふらつく。
壁に手をつく。
ホールを歩く。
キャストたちの顔が見える。
みんな心配そうだった。
「レン!」
誰かが呼んだ。
だが返事ができない。
胃が限界だった。
トイレへ向かう。
ドアを開ける。
個室へ飛び込む。
そして吐いた。
激しく。
何度も。
何度も。
何度も。
胃の中身が空になる。
それでも吐く。
胃液しか出ない。
涙が出る。
呼吸が苦しい。
身体が震える。
冷たい。
異常なほど冷たい。
「やば……」
自分でも分かった。
これは普通じゃない。
今まで何度も飲み過ぎたことはある。
だが今回は違う。
本能が警告している。
死ぬ。
このままだと死ぬ。
俺はポケットからスマホを取り出した。
救急車を呼ばなければ。
119。
押そうとする。
指が動かない。
画面が見えない。
焦点が合わない。
呼吸が苦しい。
胸が痛い。
身体が痺れる。
「くそ……」
助けを呼びたい。
誰か。
誰でもいい。
助けてくれ。
俺まだ二十一なんだ。
卒業もしてない。
就職もしてない。
彼女もいない。
異世界転生もしてない。
まだ何も終わってない。
まだ――
◇◇◇
意識が遠のく。
店内の音が消える。
視界が暗くなる。
何も見えない。
何も聞こえない。
身体の感覚も消える。
ただ。
不思議と恐怖はなかった。
むしろ思った。
ああ。
疲れたな。
大学。
バイト。
単位。
就活。
金。
将来。
全部。
疲れた。
本当に。
疲れた。
そして。
完全な闇が訪れた。
◇◇◇
次に目を開けた時。
俺は真っ白な世界に立っていた。
天井も無い。
床も無い。
空も無い。
ただ白だけが広がっている。
「……は?」
俺は周囲を見回した。
意味が分からない。
夢か?
病院か?
いや違う。
明らかに現実ではない。
そして。
俺の前に一人の女性が立っていた。
銀色の髪。
黄金の瞳。
白いドレス。
神話から抜け出してきたような美貌。
その姿を見た瞬間。
俺は理解した。
人間じゃない。
「ようこそ。」
女性は微笑んだ。
「死者の間へ。」
俺の人生は。
ここから大きく変わり始める。
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