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異世界キャバクラ王 ~酒チートと氷魔法で、夜の社交界を支配する~  作者: 阿鼻恭介
酒で死んだ黒服、異世界でビール革命を起こす

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第12話 商人への誘い

初めての執筆で読みにくいところもあると思いますが楽しんで読んで頂けましたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

バルドが去った後も、俺はしばらく応接室の椅子に座ったままだった。


窓から差し込む朝の光がテーブルを照らしている。外からは冒険者たちの笑い声や受付嬢の案内する声が聞こえてきた。


だが俺の頭の中は、先ほどの会話でいっぱいだった。


バルド・グランツ。


ルミナス最大の酒商会の会長。


そんな人物がわざわざ会いに来て、しかも商会への勧誘までしてきた。


正直に言えば驚いている。


そして少しだけ嬉しかった。


前世でもそうだった。


自分の能力を評価されるのは嬉しい。


黒服時代も、店長に褒められた時は素直に嬉しかった。


指名本数を伸ばしたキャストのサポートが成功した時。


売上イベントを成功させた時。


店舗運営のアイデアが採用された時。


評価されること自体は嫌いじゃない。


だが同時に、俺は違和感も感じていた。


「雇われる側か……」


小さく呟く。


前世なら喜んで飛びついていただろう。


衣食住付き。


教育付き。


給料付き。


それだけ聞けば破格だ。


だが今は違う。


俺には神様から貰ったチートがある。


全アルコール精製。


全氷魔法。


全鑑定。


アイテムボックス。


強靭な腎臓。


この能力を持ちながら誰かの下で働くべきなのか。


その答えはまだ出ていなかった。


◇◇◇


応接室を出ると、すぐにリリアが飛びついてきた。


「どうだった!?」


「近い近い。」


「何話したの!?」


完全に気になっていたらしい。


俺は苦笑しながら答える。


「スカウトされた。」


「え?」


リリアが固まる。


「誰に?」


「バルドさん。」


「えぇぇぇ!?」


ギルド中に響きそうな声だった。


近くの冒険者たちまで振り返る。


「ちょっ。」


「本当に!?」


「本当。」


リリアは目を丸くしたまま固まった。


どうやらかなり凄いことらしい。


◇◇◇


「レン。」


受付嬢のミレイナも驚いていた。


「断ったんですか?」


「まだ返事してません。」


「普通は即決しますよ。」


やっぱりそうなのか。


ミレイナは少し呆れたような顔をした。


「バルド酒商会はルミナス最大です。」


「そんなに?」


「商人なら誰でも入りたがります。」


なるほど。


前世で言えば大企業の内定みたいなものか。


それなら周囲の反応も理解できる。


◇◇◇


ギルドを出た後、俺は一人で街を歩いた。


考え事をする時は歩くに限る。


前世からの癖だった。


商店街。


市場。


露店。


酒場。


行き交う人々。


異世界の街並みは見ていて飽きない。


だが今日の俺は景色よりも考え事に集中していた。


バルドの誘いを受けるべきか。


それとも断るべきか。


商会に入れば学べることは多い。


流通。


物流。


仕入れ。


価格交渉。


酒商売の実務。


それらは確実に将来の糧になる。


だが自由は減る。


そして何より。


自分の店を作るまで時間がかかる。


◇◇◇


「うーん……」


悩む。


そんな時だった。


市場の一角で人だかりを見つけた。


何だろう。


興味本位で近付く。


すると小さな酒屋だった。


店主が大声を上げている。


「王都産ワインだぞ!」


「限定十本!」


「早い者勝ちだ!」


俺は少し足を止めた。


客たちはワインを見ている。


値段を見ている。


品質を見ている。


そして買うかどうかを考えている。


その光景を見た瞬間。


俺の頭の中で何かが繋がった。


◇◇◇


「そうか。」


思わず声が漏れた。


俺は勘違いしていた。


バルドの商会に入るか。


自分で商売するか。


二択で考えていた。


だが違う。


学べばいいのだ。


利用できるものは利用する。


前世の経済学教授も言っていた。


市場で成功する人間は、使える資源を最大限活用する。


意地を張る必要はない。


「全部取ればいい。」


俺は笑った。


商会から学ぶ。


人脈を作る。


金を貯める。


そして自分の店も作る。


それでいい。


◇◇◇


その日の夕方。


金獅子亭へ戻ると、マルクが難しい顔をしていた。


珍しい。


普段は豪快な笑顔ばかりの男だ。


「どうしたんです?」


俺が聞くと、マルクは腕を組んだ。


「面倒なことになった。」


「何がです?」


「酒商会だ。」


俺は立ち止まる。


バルドか?


いや違う。


マルクの表情が違う。


敵意が混じっている。


「バルドさんですか?」


「いや。」


マルクは首を振った。


そして低い声で言った。


「バルドじゃねえ。」


「その下の連中だ。」


嫌な予感がした。


◇◇◇


「昼頃にな。」


マルクが話し始める。


「酒商会の連中が来た。」


「何を?」


「昨日の酒について聞いてきた。」


予想通りだった。


だが問題はその後だった。


「最初は普通だった。」


マルクが言う。


「どこから仕入れた。」


「何の酒だ。」


「誰が作った。」


普通の質問だ。


商人なら当然聞く。


だが。


「途中から態度が変わった。」


マルクの顔が険しくなる。


「ルミナスで酒を売るなら筋を通せ。」


「勝手なことをするな。」


「そう言われた。」


なるほど。


分かりやすい。


既得権益だ。


◇◇◇


俺は静かに考える。


予想より早かった。


だが驚きはない。


市場を独占している連中は、新規参入を嫌う。


前世でも同じだった。


業界が違うだけだ。


人間は変わらない。


「名前は?」


俺が聞く。


マルクは答えた。


「カイル。」


その名前を聞いた瞬間。


鑑定スキルが反応した。


まるで危険信号のように。


直感的に理解する。


こいつは。


面倒な相手だ。


そして俺はまだ知らない。


このカイルという男が、今後しばらく俺の前に立ちはだかる最初の敵になることを。

お読みいただきありがとうございます。

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