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【第九話】最初の襲撃

 店の中の空気は、重かった。


 ドリューの視線は、ずっと鍵に向いたまま。


 ロッジーニも、軽口を叩く様子はない。


「……それ」


 ドリューが、低く言う。


「どこで拾った」


「……井戸の横」


 ハルが答える。


「落ちてた」


「……そうか」


 短く頷く。


 だが、その目は納得していなかった。


「知ってんのか」


「……似たものはな」


 ドリューは、壁に立てかけてあった剣を手に取る。


 動きに無駄がない。


「だが、それは——」


 言いかけて、止まる。


 その瞬間。


 ——ガンッ!!


 店の扉が、内側に吹き飛んだ。


「っ!?」


 破片が散る。


 風が、流れ込む。


 そして。


「……見つけた」


 低い声。


 扉の向こうに、立っていた。


 黒い服の男。


 門前で見た、あの男だった。


「……早ぇな」


 ロッジーニが舌打ちする。


「……面倒だ」


 男が一歩、踏み出す。


 その瞬間。


 空気が、削られる。


「……くるぞ!」


 ドリューの声。


 同時に、床を蹴る。


 鈍い音。


 男との距離を、一気に詰める。


 振り下ろされる剣。


 だが——


 止まる。


 刃が、途中で止まった。


「……なに」


 ドリューの眉がわずかに動く。


 目に見えない“何か”が、剣を止めている。


「……邪魔だ」


 男が呟く。


 次の瞬間。


 ドリューの体が、吹き飛んだ。


「ぐっ……!」


 壁に叩きつけられる。


 重い音。


 だが、すぐに立ち上がる。


「……やるじゃねぇか」


 口元を拭う。


 血が滲んでいた。


「……あいつ、魔力を削ってやがる」


 ロッジーニが低く言う。


「削る?」


「防御ごと消してる」


 理解が追いつかない。


 ただ一つ。


 ヤバい、ということだけは分かる。


「……それ、寄越せ」


 男の視線が、ハルに向く。


 鍵。


 明確に、それを見ていた。


「……断る」


 自然と、口が動いた。


 怖い。


 でも。


 渡す気はなかった。


「……そうか」


 男が、少しだけ笑った。


 次の瞬間。


 目の前にいた。


「っ!?」


 速い。


 いや、違う。


 距離が消えた。


 手が伸びる。


 掴まれる——


 その直前。


 ——カチッ。


 音が鳴った。


 ハルは反射的に、鍵を振る。


 ぶつかる。


 “削る力”と、“止める力”。


 空気が、軋む。


「……ほう」


 男の目が、細くなる。


 興味。


 明確なそれが、宿っていた。


「やはり、それか」


 押し込まれる。


 力が強い。


 息が詰まる。


 でも。


「……っ、退け!」


 踏み込む。


 鍵を、ねじ込むように突き出す。


 ——カチッ。


 今までより、強い音。


 一瞬。


 男の動きが、止まる。


「……なるほど」


 すぐに、引く。


 距離を取る。


 余裕のある動き。


「面白い」


 同じ言葉。


 門前で聞いた、それ。


「……なんなんだよ、お前」


 ハルが吐き出す。


 男は答えない。


 ただ。


「……いずれ分かる」


 それだけ言って。


 次の瞬間、姿を消した。


 完全に。


「……逃げたか」


 ロッジーニが息を吐く。


 ドリューも剣を下ろす。


「……ちっ」


 短く舌打ち。


 店の中は、めちゃくちゃだった。


 扉は壊れ、壁にはヒビが入っている。


「……今の」


 ハルが呟く。


 呼吸が荒い。


 手が、少し震えている。


「……あれが、“面倒な連中”だ」


 ドリューが言う。


「……知ってんのか」


「……噂だけだ」


 短く答える。


「だが、確定したな」


 視線が、鍵に向く。


「お前、それ」


 低い声。


「完全に狙われてる」


 言い切った。


 ハルは鍵を見る。


 何も変わらない。


 ただの鍵。


 なのに。


「……なんでだよ」


 答えは、出ない。


 ただ。


 あの男の言葉だけが、残る。


 ——面白い。


 ——いずれ分かる。


 嫌な予感しかしなかった。


「……しばらくは動くな」


 ドリューが言う。


「ここも安全じゃねぇ」


「王都でもかよ」


「むしろ王都だからだ」


 ロッジーニが苦笑する。


「面倒なことになってきたな」


「軽く言うなよ……」


 ハルは深く息を吐く。


 鍵を握る。


 冷たい感触。


 でも、その奥にあるものは——


 まだ、分からない。


 ただ一つ。


 確かなことがある。


 これはもう。


 “拾っただけ”じゃ済まない。

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