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【第二十八話】血の系譜

 白い部屋に、重い空気が満ちる。


 現れた男は、ゆっくりと歩みを止めた。


 白髪。左右で色の違う瞳。


 その視線はまっすぐに、ハルへ向けられている。


「来たか」


 低い声だった。


 迷いがない。


 そして、どこかで“分かっていた”ような響き。


 ハルは一歩だけ前に出る。


「……誰だ、お前」


 分かっている。


 だが、あえて聞いた。


 男はほんのわずかに首を傾ける。


 視線が、横へ滑る。


 リーフィアへ。


「忘れたか」


 静かに言う。


「それとも、切り離したか」


 リーフィアの肩がわずかに揺れる。


「……兄さん」


 小さな声。


 だが、はっきりと届いた。


 ハルは目を見開く。


「……兄?」


 男が口元だけで笑う。


「ギリーア・アルルクァルト」


 名乗る。


「この家の“残り”だ」


 軽く言った。


 だが、その言葉の重さは軽くない。


 リッパーが一歩前に出る。


「王都護衛隊だ。調査で来た」


「調査?」


 ギリーアは少しだけ考えるように間を置き、


「今さらか」


 そう言った。


「何をやってたか、知らないわけじゃないだろう」


「知ってる範囲で聞いてるだけだ」


 リッパーは淡々と返す。


「存在干渉実験」


 その単語が出た瞬間。


 空気がわずかに軋んだ。


 ギリーアの目が細くなる。


「……ああ」


 短く頷く。


「やっていた」


 隠す気はなかった。


「結果は?」


 シャマリが問う。


「失敗だ」


 即答だった。


「半分消えた」


 あまりにもあっさりと言う。


 ハルの眉がひそまる。


「……それで済ませる話かよ」


「済んでいない」


 ギリーアは静かに言う。


「だからこうなっている」


 その言葉の意味を考えるより先に——


 カチッ。


 鍵が鳴る。


 強い。


 今までで一番、明確に。


「っ……!」


 ハルの手の中で、鍵が震える。


 ギリーアの視線が落ちる。


 鍵へ。


 そして、ゆっくりと笑った。


「……やはりか」


 その言い方。


 どこかで聞いた。


「それが、来る理由だ」


「……何言ってんだ」


 ハルが言う。


 ギリーアは一歩だけ近づく。


 圧が増す。


 だが、さっきの黒い男とは違う。


 “濃い”が、“削らない”。


「それは“鍵”ではない」


 静かに言う。


「開くためのものではない」


 ハルの手がわずかに強く握られる。


「なら何だよ」


「境界に触れるためのものだ」


 短い言葉。


 だが、重い。


 リーフィアが一歩前に出る。


「……兄さん」


 声が揺れる。


「……やめて」


 その一言。


 初めて、はっきりと感情が乗った。


 ギリーアはその声を聞き、


 少しだけ目を細めた。


「まだ残っているのか」


 小さく呟く。


「感情が」


「……違う」


 リーフィアが言う。


 震えながらも、目を逸らさない。


「……戻った」


 その言葉に、ギリーアの動きが止まる。


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


「……そうか」


 静かに言う。


 だが、その声にはわずかな変化があった。


「なら——」


 次の瞬間。


 空気が歪む。


 削りではない。


 だが、近い。


 “触れる”感覚。


「試させてもらう」


 ギリーアが踏み込む。


 速い。


「っ!」


 リッパーが動く。


 剣を合わせる。


 ——ギィンッ。


 重い音。


 だが、弾かれる。


「……っ、重い!」


 シャマリが距離を取る。


 バルザスも構える。


 空気が一気に戦闘に変わる。


 ハルは鍵を握る。


 反応している。


 明確に。


「……こいつも」


 小さく呟く。


 ギリーアの目が、再びハルへ向く。


「同じだ」


 静かに言う。


「触れている」


 その一言で、確信する。


 この男も——


 “向こう側”にいる。


「……お前もかよ」


 ハルが言う。


 ギリーアは答えない。


 ただ、わずかに笑った。


「来るなら、奥だ」


 そう言って、ゆっくりと下がる。


 戦うつもりはない。


 だが、逃げてもいない。


「ここでは壊れる」


 それだけ残して、背を向ける。


 白い廊下へ消えていく。


 静寂が戻る。


「……なんだよ今の」


 ハルが息を吐く。


 リッパーが剣を下ろす。


「誘ってるな」


「分かりやすい」


 シャマリが言う。


 バルザスは無言で頷く。


 ハルはリーフィアを見る。


 彼女は、まだその場に立ったままだった。


 視線は奥へ。


「……行く」


 小さく言う。


 だが、その声には迷いがなかった。


 ハルも頷く。


「……だな」


 ここまで来て、止まる理由はない。


 鍵を握る。


 冷たい感触。


 だが確実に、何かに近づいている。


 白い屋敷の奥へ。


 答えは、そこにあった。

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