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【第二十七話】白の屋敷

 王都の中心から少し外れた高台。


 そこに、アルルクァルト家の屋敷はあった。


 白い。


 ただひたすらに白い。


 壁も、門も、塔も。


 すべてが均一に整えられ、無駄な装飾はない。


 それなのに——


「……なんか、嫌な感じするな」


 ハルが呟く。


 見た目は整っているのに、落ち着かない。


 どこか“綺麗すぎる”。


「……うん」


 リーフィアも小さく頷く。


 視線は屋敷から外れない。


「……静かすぎる」


 確かに。


 人の気配がほとんどない。


 これだけの規模の屋敷なら、もっと動きがあっていいはずだ。


「警戒は最大でいく」


 リッパーが言う。


 軽口はない。


 完全に任務の顔だった。


「正面から行く」


「いいのか?」


 ハルが聞く。


「隠れてどうにかなる相手じゃねぇ」


 短く返す。


 そのまま門へ向かう。


 重厚な白い扉。


 近づくだけで、空気が冷える。


 リッパーがノックする。


 コン、コン。


 乾いた音が響く。


 しばらくして。


 扉が、静かに開いた。


 現れたのは、一人の男。


 白い服に身を包み、無駄のない立ち姿。


 表情はほとんど動かない。


「……何の用だ」


 低い声だった。


「王都護衛隊だ」


 リッパーが名乗る。


「調査で来た」


 男の視線が順に動く。


 リッパー、シャマリ、バルザス。


 そして——


 ハルで止まる。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに見られた。


 次に、リーフィア。


 そのとき。


 わずかに、目が揺れた。


「……入れ」


 短く言う。


 扉が大きく開かれる。


 中へ通される。


 屋敷の中も、白かった。


 床も、壁も、天井も。


 統一されすぎていて、逆に不自然だ。


 音が吸われる。


 足音だけがやけに響く。


「……落ち着かねぇな」


 ハルが小さく言う。


「……うん」


 リーフィアの声も低い。


 明らかに様子がおかしい。


 リッパーが横目で見る。


「大丈夫か」


「……平気」


 短く答える。


 だが、手は少しだけ震えていた。


 廊下を進む。


 誰ともすれ違わない。


 広い屋敷なのに、人の気配が薄い。


「……少なすぎるな」


 シャマリが呟く。


「隠してるか、減ってるか」


「どっちもあり得る」


 リッパーが返す。


 やがて、広い部屋に通される。


 応接室らしい。


 だが、装飾はほとんどない。


 白い机と椅子だけ。


 簡素すぎる空間。


「待て」


 案内の男が言う。


 それだけ言って、出ていった。


 扉が閉まる。


 静寂。


「……なんだここ」


 ハルが息を吐く。


「人の家って感じしねぇ」


「……違う」


 リーフィアが小さく言う。


「……場所じゃない」


「は?」


「……“箱”」


 その表現に、背筋が少し冷える。


 そのとき。


 ——カチッ。


 鍵が鳴る。


 強い。


 今までで一番、はっきりと。


「っ……!」


 ハルが顔を上げる。


 同時に、リーフィアも。


「……いる」


 小さく言う。


 すぐ近く。


 同じ屋敷の中。


 その瞬間。


 部屋の奥の扉が、静かに開いた。


 足音。


 ゆっくりとした、迷いのない歩き方。


 現れたのは——


 白髪の男だった。


 片目は黄色。


 もう片方は、鮮やかな赤。


 空気が変わる。


 重い。


 圧がある。


「……なるほど」


 男が呟く。


 ハルを見る。


 まっすぐに。


「来たか」


 その一言で分かった。


 この男は——


 ただの人間じゃない。


 リーフィアの指が、わずかに震える。


「……兄さん」


 小さな声。


 その呼び方で、すべてが繋がった。

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