【第二十四話】拡散
西区、商業路地。
夜の王都は灯りで賑わっているはずだった。
だが、その一角だけ空気が違う。
人がいない。
いや——
“いなくなっている”。
「ここか」
リッパーが足を止める。
周囲を見渡す。
散らばった荷物。
倒れた屋台。
そして、不自然な空白。
「……同じだな」
シャマリが低く言う。
「消えてる」
バルザスは無言で地面に触れる。
指先でなぞるように。
すぐに立ち上がった。
「痕跡、薄い」
「削りだ」
リッパーが短く答える。
そのとき。
——カチッ。
ハルの鍵が鳴る。
「……いる」
ハルが呟く。
さっきと同じ感覚。
だが——
「……違う」
リーフィアが言う。
少しだけ顔を上げる。
「……二つ」
「……は?」
ハルが振り向く。
「二つ?」
「……うん」
短く頷く。
その瞬間。
空気が削れる。
右と左、同時に。
「っ!!」
リッパーが動く。
「散開!!」
声が響く。
全員が即座に距離を取る。
次の瞬間。
影が現れた。
黒い服。
同じ存在。
だが——
二人。
「……増えたな」
リッパーが低く言う。
目は笑っていない。
「……面倒だ」
右側の男が呟く。
声は似ているが、微妙に違う。
「……数、いる」
左の男が言う。
こちらは静かだった。
「……おいおい」
ハルが息を吐く。
「一体でもキツかったのに」
「二体だ」
リッパーが訂正する。
「正確にな」
「嬉しくねぇよ」
その瞬間。
二体が同時に動く。
消える。
「上だ!!」
シャマリが叫ぶ。
蹴り上げる。
空中にいた一体に直撃。
だが——
手応えが薄い。
「……削れてる!」
シャマリが舌打ちする。
同時にもう一体が地面へ。
広範囲に削りが走る。
「っ!」
バルザスが前に出る。
両腕で受ける。
筋肉が軋む。
だが、踏みとどまる。
「止める!」
そのまま押し返す。
地面が割れる。
「……化け物だな」
ハルが呟く。
「……違う」
リーフィアが小さく言う。
「……似てるだけ」
「何が」
「……本体じゃない」
その言葉。
リッパーが反応する。
「……分体か」
「……たぶん」
小さく頷く。
「……だから、弱い」
「これで弱いのかよ」
冗談じゃない。
だが。
さっきの“あいつ”よりは、確かに圧が薄い。
「なら——」
リッパーが踏み込む。
一体へ。
斬る。
——ズバッ。
今度は深い。
体が大きく裂ける。
「……効くな」
そのまま追撃。
間を与えない。
「ハル!」
シャマリの声。
「もう一体!」
振り向く。
迫っている。
速い。
だが——
「……見える」
ハルが呟く。
流れ。
削る前の“歪み”。
踏み込む。
鍵を振る。
——カチッ。
一瞬、止まる。
「リーフィア!」
「……うん」
即座に反応。
魔力が走る。
一直線。
貫く。
——バシュッ。
一体が崩れる。
完全には消えない。
だが、動きは止まる。
「……やれる」
ハルが息を吐く。
「……連携」
リーフィアが小さく言う。
「……通る」
その間にも。
リッパーはもう一体を押し込んでいた。
「終わりだ」
一閃。
完全に断つ。
黒い影が、霧のように消える。
静寂。
削る力が消える。
空気が戻る。
「……はぁ……」
ハルが息を整える。
「なんとかなったな」
「……一体ならな」
リッパーが言う。
周囲を見る。
「問題はそこじゃねぇ」
「分かってる」
ハルも頷く。
二体いた。
つまり。
「……増えてる」
リーフィアが言う。
静かに。
確実に。
「……ああ」
リッパーが短く答える。
その目は、すでに次を見ていた。
「これは、始まりだな」
軽く言う。
だが、、、
誰も、それを軽くは受け取らなかった。
王都のどこかで、また何かが消える。
その確信だけが、残っていた。




