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【第二十三話】残されたもの

 屋上に残ったのは、壊れた景色と重い空気だった。


 削り取られた床。

 抉れた壁。

 そして、何もなかったはずの空間に空いた“空白”。


 風が吹くたび、崩れた瓦礫が小さく音を立てる。


「……ひどいな」


 ハルが呟く。


 さっきまで立っていた場所が、そのまま消えている。


 現実感が薄い。


「これでも軽い方だ」


 リッパーが言う。


 いつもの軽さは戻っているが、目は笑っていない。


「軽いって……」


「本気でやれば、ここ一帯が消える」


 さらっと言った。


 冗談には聞こえない。


 ハルは言葉を失う。


「……あいつ、何なんだよ」


「分からねぇ」


 リッパーは短く答える。


「だが、普通の魔法じゃない」


「削る、ってやつか」


「ああ」


 煙草をくわえるが、火はつけない。


「魔力を“壊す”んじゃねぇ。“無かったことにしてる”」


「……それ、どういう違いだ」


「壊すなら残る」


 リッパーが床を軽く蹴る。


「砕ける。散る。痕跡がある」


 次に、消えた部分を見る。


「だがあれは、残らねぇ」


 確かに。


 そこだけ、綺麗に何もない。


 削れたというより、“消された”。


「……意味分かんねぇな」


「分からなくていい」


 リッパーは肩をすくめる。


「分かる頃には、死ぬ」


「物騒すぎるだろ」


 軽口のようでいて、内容は重い。


 そのとき。


「……でも」


 リーフィアが口を開く。


 静かに、消えた場所を見ている。


「……似てる」


「何が」


「……ハルの」


 その一言で、空気が少し変わる。


「……は?」


 ハルが顔を上げる。


「俺の?」


「……うん」


 リーフィアは小さく頷く。


「……止めてるけど、本質は同じ」


「同じって……」


「……触れてる場所が違うだけ」


 静かな説明。


 だが、内容は重かった。


 リッパーがわずかに目を細める。


「……続けろ」


「……あの人は“全部”削る」


 リーフィアが言う。


「……ハルは“流れだけ”止めてる」


 ハルは鍵を見る。


 何度も使ってきた。


 確かに、“何か”を止めている感覚はある。


 だが。


「……もし、同じなら」


 リーフィアの声が少しだけ低くなる。


「……範囲、広がる」


「……」


 嫌な想像が浮かぶ。


 今の男のように。


 全部、消せるようになる?


「……やめろ」


 ハルが言う。


「そんなの、使うかよ」


「……うん」


 リーフィアは頷く。


 否定しない。


 ただ、事実として言っているだけだった。


 リッパーが煙草を外す。


「……厄介だな」


 短く呟く。


「何がだよ」


「お前だ」


 即答だった。


「は?」


「その鍵もそうだが」


 ハルを指す。


「お前自身が“分からねぇ”」


 その言葉は、妙に引っかかった。


「……どういう意味だよ」


「普通なら壊れる」


 リッパーは淡々と続ける。


「だが、お前は残ってる」


「前も言われたなそれ」


「だから厄介だ」


 視線が鋭くなる。


「壊れねぇやつは、どっちにも転ぶ」


「どっちって」


「壊す側か、止める側か」


 シンプルだった。


 だが、それ以上なく核心を突いている。


 ハルは少し黙る。


 鍵を握る。


 冷たい感触。


 でも。


「……止める側だ」


 はっきりと言った。


 迷いはない。


 リッパーは一瞬だけ見て。


「……なら、証明しろ」


 それだけ言った。


 突き放すようでいて、認めているようでもあった。


 そのとき。


「隊長」


 別の隊員が駆け寄ってくる。


「市街で同様の現象がもう一件」


「……どこだ」


「西区、商業路地」


 リッパーが舌打ちする。


「早ぇな」


「さっきのとは別個体の可能性も」


「……あり得るな」


 空気が一気に引き締まる。


「おい」


 リッパーがハルを見る。


「動けるか」


「……無理でも動く」


「そうか」


 短く頷く。


「ついてこい」


 そのまま歩き出す。


 シャマリとバルザスも動く。


 完全に、次の戦場へ。


 ハルは一瞬だけ立ち止まる。


 崩れた屋上。


 消えた空間。


 そして、手の中の鍵。


「……行くぞ」


 リーフィアの声。


 横に並ぶ。


「……うん」


 小さく頷く。


 王都は、もう止まらない。


 何かが確実に広がっている。


 そしてそれは——


 ハルたちを中心に、動き始めていた。

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