【第二十一話】閃刃
空気が、裂ける。
削る力と、斬る気配がぶつかり合う。
屋上は、完全に戦場だった。
「……下がってろ」
リッパーが言う。
振り返りもしない。
それでも、分かる。
今までとは違う。
本気だ。
「……無理すんなよ」
ハルが言う。
息を整えながら。
「お前らが無理すんな」
リッパーは軽く返す。
だが、その声は低い。
完全に切り替わっていた。
「……来るぞ」
黒い男が一歩踏み出す。
その瞬間。
空気が削れる。
だが——
「遅ぇな」
リッパーが消えた。
次の瞬間。
金属音。
——ギィンッ!!
男の前で、剣がぶつかっている。
速い。
見えない。
だが、確実に当たっている。
「……なるほど」
男が呟く。
そのまま、手を振る。
削る力が走る。
だが。
リッパーは、一歩踏み込む。
斬る。
——シュッ。
空気ごと切り裂く。
削る力が、弾ける。
「……は?」
ハルが思わず声を漏らす。
「切った……?」
「……違う」
リーフィアが小さく言う。
「……ずらしてる」
「ずらす?」
「……流れを」
確かに。
よく見ると。
削る力が、完全には当たっていない。
わずかに逸れている。
「……見えてんのかあいつ」
「……たぶん」
常識じゃない。
あれはもう。
「……技術だ」
リーフィアが言う。
静かに。
その間にも。
リッパーは止まらない。
踏み込む。
斬る。
間合いを詰める。
速さが違う。
さっきまでのハルとは、次元が違う。
「……いいな」
男が笑う。
そのまま、後ろに跳ぶ。
距離を取る。
「やっと、戦える」
「最初からだろ」
リッパーが言う。
剣を軽く振る。
余裕がある。
だが——
完全に押しているわけじゃない。
互角。
いや。
「……微妙に押されてる?」
ハルが呟く。
「……うん」
リーフィアも頷く。
削る力が、徐々に強くなっている。
リッパーの動きが、ほんのわずかに制限されている。
「……やっぱりな」
リッパーが呟く。
「面倒なタイプだ」
「褒め言葉だ」
男が返す。
次の瞬間。
空気が、一気に削られる。
広範囲。
屋上全体。
「っ!!」
ハルが息を詰まらせる。
リーフィアも、膝をつく。
だが。
「……甘い」
リッパーは動く。
踏み込む。
一直線。
削る力の中へ。
「……おい」
ハルが思わず声を出す。
だが——
止まらない。
「当たらなきゃ意味ねぇだろ」
リッパーが言う。
そのまま。
一閃。
——ズバッ。
初めて。
確実に。
男の体を捉えた。
「……っ」
男の体が、わずかに裂ける。
血。
初めてのダメージ。
「……やるな」
男が笑う。
楽しそうに。
その瞬間。
圧が変わる。
今までより、深い。
「……っ、これ……」
ハルが顔を歪める。
「……濃い」
リーフィアが言う。
削る力が、増している。
「……なるほど」
リッパーが呟く。
「段階上がるタイプか」
「正解だ」
男が言う。
「ここからが、本番だ」
空気が歪む。
屋上の一部が、削れて消える。
「……やべぇだろ」
「……うん」
次元が違う。
だが。
「……いい」
リッパーが笑う。
ゆるく、そして、楽しそうに笑った。
「それでいい」
剣を構え、体勢を落とす。
「やっと、本気を出せる」
空気が変わった。
完全に別の領域に。




