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【第二十話】再来

 この夜の王都は、やけに静かだった。


 昼間の喧騒が嘘のように、灯りだけが揺れている。


 護衛隊本部も、例外じゃない。


 見張りと最低限の動きだけ。


 それ以外は、違和感を覚える程度に沈んでいる。


「……静かすぎるな」


 ハルが呟く。


 隊舎の屋上で少し強い風を感じながら

 横には、リーフィアがいる。


「……うん」


 小さく頷く。


 昼とは違う空気。


 重い。


 嫌な静けさ。


 そのとき。


 ——カチッ。


 音。


 鍵。


 ポケットの中で、勝手に鳴った。


「……来るな」


 ハルが呟く。


「……うん」


 リーフィアも、同じ方向を見る。


 次の瞬間。


 空気が削れた。


「っ!!」


 呼吸が詰まる。


 視界が歪む。


 そして——


 屋上の端に、立っていた。


「……また会ったな」


 黒い男。


 あの存在。


 何も変わらない。


 いや。


 前より、濃い。


「……ここまで来るかよ」


 ハルが言う。


 完全に、場所なんて関係ない。


「来たのはお前だろ」


 男が言う。


「中心に」


「……意味分かんねぇよ」


「そのうち分かる」


 同じ言葉。


 何度も聞いた。


 だが——


 今日は違う。


「……今回は、遊ばない」


 空気が変わる。


 圧が、一気に増す。


「っ……!」


 膝が揺れる。


 呼吸ができない。


 前よりも、明らかに強い。


「……ハル」


 リーフィアの声。


 少しだけ震えている。


「……来る」


 次の瞬間。


 消える。


 そして——


「右!!」


 リーフィアの声。


 反射で振り向く。


 間に合わない。


 手が伸びる。


 触れる——


 その瞬間。


 ——カチッ。


 鍵が鳴る。


 自動で。


「っ!?」


 空気が弾ける。


 男の手が、わずかに逸れる。


「……ほう」


 興味の声。


「勝手に動いたか」


 ハルの手は動かしていない。


 鍵が、自分で反応した。


「……なんだよそれ」


 嫌な汗が流れる。


 制御してない。


 してないのに、動いた。


「……やはり」


 男が呟く。


「完全に“それ”だな」


「だからなんだよそれ」


 答えない。


 ただ、笑う。


 次の瞬間。


 さらに距離が詰まる。


 速い。


 いや、違う。


 距離が消えている。


「……っ!!」


 避ける。


 ギリギリ。


 だが——


 肩が、削れる。


「ぐっ……!!」


 血が滲む。


 感覚が、少し消える。


「……削れたか」


 男が言う。


 興味なさそうに。


「……くそ……」


 ハルが歯を食いしばる。


 前より、通じない。


 押し返せない。


「……ハル」


 リーフィアが前に出る。


 魔力が揺れる。


 だが。


「……無駄だ」


 男が手を振る。


 空気が削れる。


 リーフィアの魔力が、消える。


「……っ!」


 膝が落ちる。


「リーフィア!」


「……平気」


 だが、明らかに削られている。


「……まだ足りない」


 男が言う。


 ハルを見る。


「お前も」


 次の瞬間。


 全体が削られる。


 空気、魔力、感覚。


 全部。


「っ……!」


 立っていられない。


 意識が遠のく。


「……終わりだ」


 手が伸びる。


 今度こそ——


 届く。


 そのとき。


 ——ギィンッ!!


 重い音。


 空気が弾ける。


「……あ?」


 男の動きが止まる。


 間に、割り込んでいた。


「……そこまでだ」


 低い声。


 リッパーだった。


 剣を構えている。


 目が、違う。


 昼間までの軽さがない。


「……遅ぇよ」


 ハルが息を吐く。


「ギリギリだろ」


 リッパーが言う。


 そのまま、一歩前に出る。


 男と向き合う。


 空気がぶつかる。


 削る力と、斬る気配。


「……いいな」


 男が笑う。


「やっと“まとも”が来た」


「そりゃどうも」


 リッパーが煙草をくわえる。


 火はつけない。


 ただ、噛む。


「遊びは終わりだ」


 低く言う。


 空気が変わる。


 完全に。


 戦場だった。

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