【第十九話】貴公子の剣
昼過ぎ。
護衛隊本部は、いつも通り慌ただしかった。
報告の声、足音、金属音。
すべてが混ざり合い、一つの流れを作っている。
だが——
それをぶち壊す音が響いた。
——バンッ!!
「開けたぞ!!」
勢いよく扉が開く。
全員の視線が、そちらに向いた。
そこにいたのは——
「我こそはパトリシア・マクナウェル・オーダ・ディレタリア!!」
無駄に輝く男だった。
純金に宝飾を施したレイピア。
無駄に豪華な衣装。
無駄に整ったポーズ。
「本日より、この護衛隊に加わる!!」
沈黙。
数秒。
「……帰れ」
リッパーが即答した。
「断る!!」
即返しだった。
「ここは志願で入れる場所じゃねぇ」
「我は志願ではない!!選ばれる存在だ!!」
「選んでねぇ」
「選べ!!」
話が通じない。
ハルは横で呟く。
「……なんだこいつ」
「……うるさい」
リーフィアが小さく言う。
完全に同意だった。
「理由は」
バルザスが口を開く。
短い一言。
空気が引き締まる。
パトリシアは胸を張る。
「美しいからだ!!」
「……」
沈黙。
「帰れ」
「なぜだ!!」
真剣だった。
本気で言っている。
「戦えるのか」
バルザスが問う。
「当然!!」
剣を掲げる。
無駄にキラキラしている。
「この剣は芸術だ!!」
「戦え」
「芸術は戦いでもある!!」
「話が逸れてる」
リッパーがため息を吐く。
そして。
「じゃあ試すか」
ハルの方を見る。
「お前、相手しろ」
「また俺かよ」
「ちょうどいい」
「雑すぎるだろ」
「適任だ」
完全に面白がっていた。
「よかろう!!」
パトリシアが一歩前に出る。
「貴様を倒し、我が美を証明する!!」
「証明の方向性おかしいだろ」
だが、止まらない。
ハルは諦めて前に出る。
「怪我しても知らねぇぞ」
「美は傷すらも昇華する!!」
「意味分かんねぇよ」
構える。
パトリシアが踏み込む。
レイピアが閃く。
——速い。
だが。
「……軽いな」
ハルは一歩引く。
動きが素直すぎる。
癖がそのまま出ている。
「なっ……!?」
驚きが見える。
連撃。
だが全部読める。
避ける。
流す。
「……遅い」
「ぐっ……!!」
焦りが出る。
フォームが崩れる。
その瞬間。
踏み込む。
距離を詰める。
レイピアの根元を軽く弾く。
——カンッ。
剣が宙を舞う。
「我の……剣が……!?」
そのまま。
軽く、デコピン。
——コン。
「……」
「……」
沈黙。
「……負けた……のか……?」
パトリシアが呟く。
信じられない、という顔。
「……負けたな」
リッパーが言う。
あっさりと。
「……そんな……」
膝をつく。
ゆっくりと、自分の手を見る。
「……完璧だったはずだ……」
「どこがだよ」
ハルがツッコむ。
「全てだ!!」
「全部ズレてたぞ」
正論だった。
そのとき。
「……剣はいい」
バルザスが言う。
珍しく評価。
「だが、使い手が足りん」
「……っ」
パトリシアが顔を上げる。
悔しそうに。
だが、目は死んでいない。
「……どうすればいい」
低く聞く。
リッパーが口元を緩める。
「簡単だ」
ハルを指す。
「そいつに勝て」
「また俺かよ」
「分かりやすいだろ」
「雑すぎる」
パトリシアはゆっくり立ち上がる。
服の埃を払う。
姿勢を正す。
「……分かった」
真っ直ぐにハルを見る。
「必ず貴様を倒す」
「なんでそうなるんだよ」
「我が美のためだ」
「理由が一貫してんのは認める」
完全にライバルになっていた。
リッパーが小さく笑う。
「……いいな」
楽しそうだった。
ハルはため息を吐く。
「……なんなんだよほんとに」
だが。
少しだけ、口元が緩んでいた。




