【第十八話】護衛隊の昼
訓練の余熱が、まだ体に残っている。
「……腹減った」
ハルが呟く。
体を動かした分、やたらと空腹だった。
「食堂だ」
リッパーが言う。
「遅れると面倒だぞ」
「なんで飯で面倒なんだよ」
「行けば分かる」
嫌な予感しかしない。
廊下を抜けると、広い空間が開けた。
長いテーブル。
整然と並ぶ椅子。
隊員たちが、それぞれ食事をしている。
騒がしいが、妙な秩序がある。
「……思ったより普通だな」
「訓練場と一緒にするな」
皿を受け取る。
並んだ料理は質素だが、しっかりしている。
ハルは席に座る。
向かいにリーフィア。
相変わらず静かだ。
「……食わねぇのか」
「……少し様子見る」
「ここで警戒すんなよ」
「……必要」
即答だった。
そのとき。
「食べないなら下げる」
横から声。
振り向く。
そこにいたのは、細身の青年だった。
表情がほぼ動かない。
トレイを持っている。
「……誰だよ」
「フレン・ダルク」
短く答える。
「補給係」
「……ああ、そういう」
なんとなく理解する。
「残すなら返して」
「まだ食ってねぇよ」
「じゃあ食べて」
淡々としている。
圧があるわけじゃないのに、妙に逆らいづらい。
ハルはとりあえず一口食べる。
「……うまいな」
「当然」
フレンは頷く。
「体を動かすなら、食事は最適化する必要がある」
「急に理論派だな」
「当たり前」
真顔だった。
リーフィアも少しだけ口にする。
少しだけ止まって。
「……おいしい」
小さく言う。
フレンが、ほんのわずかに頷いた。
それだけだった。
だが。
評価された、という感じがした。
そのとき。
「おい」
シャマリが来る。
トレイを持ったまま座る。
「午後も動くぞ」
「早ぇな」
「止まってる方が危ない」
即答だった。
バルザスも来る。
無言で座る。
皿の量が多い。
明らかに多い。
「……食いすぎじゃねぇか」
「必要量だ」
「またそれか」
淡々と食べている。
無駄がない。
見ているだけで圧がある。
「……ここさ」
ハルが呟く。
「なんか変だな」
「何が」
リッパーが聞く。
「うるせぇのに、落ち着く」
少し考えて出た言葉だった。
リーフィアが、小さく頷く。
「……分かる」
「理由は」
「……バラバラじゃない」
静かに言う。
「……全部、同じ方向」
ハルは周囲を見る。
確かに。
騒がしい。
でも、崩れていない。
全員が、同じ“仕事”をしている。
「……なるほどな」
少しだけ納得する。
そのとき。
「食べ終わった?」
フレンが戻ってくる。
タイミングが早い。
「まだだよ」
「遅い」
「早ぇよ」
「栄養効率が落ちる」
「気にしすぎだろ」
「気にするのが仕事」
真顔だった。
そのまま、他の席へ移動していく。
全体を見ている。
ちゃんと、管理している。
「……あいつ何者だよ」
「補給係だ」
リッパーが言う。
「一番抜けると困るやつだ」
「戦えなさそうなのにか?」
「戦う必要がない」
短く言う。
「俺らが戦えるのは、あいつがいるからだ」
その言葉は、妙に重かった。
ハルは少しだけ黙って。
もう一口食べる。
味は変わらない。
でも。
意味は、少しだけ変わった。
「……ちゃんとしてんな」
ぽつりと呟く。
リーフィアが、ほんの少しだけ頷いた。




