【第十六話】王都護衛隊本部
王都の中心部。
人の流れが一段と濃くなる中に、それはあった。
「……でけぇな」
ハルが呟く。
目の前にある建物。
石造りの巨大な施設。
無駄な装飾はないが、その分だけ威圧感がある。
「ここが本部だ」
リッパーが言う。
振り返りもせずに、そのまま中へ入っていく。
バルザスも無言で続く。
「……行くか」
「……うん」
ハルとリーフィアも後に続く。
中は、外以上に騒がしかった。
足音、怒鳴り声、報告の声。
慌ただしく人が行き交う。
武装した連中ばかりだ。
「……なんか、全員強そうだな」
「……うん」
リーフィアが小さく頷く。
視線が少しだけ泳いでいる。
人の多さに、少し疲れているようだった。
「気にすんな」
ハルが軽く言う。
「……見てるの、俺らだけじゃねぇ」
確かに。
周囲の視線はバラバラだ。
誰かに集中しているわけじゃない。
「……うん」
少しだけ、肩の力が抜けたようだった。
そのとき。
「おいリッパー!」
後ろから声が飛ぶ。
振り向くと、一人の女性が立っていた。
浅黒い肌に、短い黒髪。
引き締まった体。
そして——
やたらと脚が長い。
「また勝手に面倒事持ち込んでんのか!」
かなり強い口調だった。
だが、リッパーは気にした様子もない。
「持ち込まれてんだよ」
「同じだろうが!」
距離を詰めてくる。
ハルの前で止まる。
じろじろと見る。
「……こいつか」
「そうだ」
リッパーが答える。
「……普通じゃねぇな」
即断だった。
「顔見りゃ分かる」
「顔で判断すんなよ」
本日二回目だった。
女性はふんっと鼻を鳴らす。
「シャマリ・リオメーレだ」
名乗る。
「四番隊隊長」
「……隊長多くねぇか」
「多いぞ」
リッパーが即答する。
「無駄に」
「無駄言うな!」
すぐに蹴りが飛ぶ。
リッパーは軽く避ける。
当たり前のように。
「……速っ」
ハルが呟く。
「……あの人、強い」
リーフィアも小さく言う。
確かに。
今の一瞬だけで分かる。
あの蹴り、当たればただじゃ済まない。
「で?」
シャマリが腕を組む。
「何が起きてる」
真面目な顔に戻る。
さっきまでの軽さが消える。
リッパーが簡潔に説明する。
消失事件。
黒い男。
そして——鍵。
シャマリの表情が、少しだけ変わる。
「……厄介すぎるな」
「だろ」
「で、こいつらどうすんだ」
「監視下だ」
「……妥当だな」
あっさり頷く。
ハルはそのやり取りを見ながら。
「……勝手に決まってんな」
「早い方がいい」
リッパーが言う。
「迷ってる時間はねぇ」
それは確かにそうだった。
「……お前」
シャマリがハルを見る。
「戦えるのか」
「まあ、多少は」
「多少で足りる相手じゃねぇぞ」
「分かってる」
短く返す。
シャマリは少しだけ笑う。
「いい目してるな」
「そうか?」
「死にかけてるやつの目だ」
「褒めてねぇだろそれ」
「褒めてる」
真顔だった。
よく分からない。
だが。
悪い感じはしなかった。
「……で、どこ入れる」
シャマリがリッパーに聞く。
「とりあえず空き部屋」
「雑だな」
「後で決める」
「いつもそれだな」
軽口の応酬。
だが、その裏には信頼がある。
そんな感じだった。
ハルは周囲を見る。
忙しく動く隊員たち。
怒鳴り声。
笑い声。
この場所は——
「……ちゃんと機能してるな」
ぽつりと呟く。
ただの集まりじゃない。
ちゃんと動いている。
それが分かる。
「当たり前だ」
リッパーが言う。
「ここは王都だ」
短い言葉。
でも、重かった。
ハルは鍵を握る。
ここに来たことで。
何かが大きく動き始めている。
そんな気がした。




