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【第十五話】王都護衛隊

 静寂が、遅れてやってきた。


 さっきまで削られていた空気は、嘘みたいに戻っている。


 だが——


「……戻ってねぇな」


 ハルが呟く。


 地面に残った荷物。

 人の気配が消えたままの路地。


 何もかもが、そのままだ。


「……消えたまま」


 リーフィアが小さく言う。


 目を伏せている。


 そこにあったはずの“何か”は、戻らない。


 ハルは歯を食いしばった。


「……くそ」


 分かっていた。


 全部は守れない。


 でも。


 目の前で消えるのは、やっぱり気分が悪い。


 そのとき。


「そこまでだ」


 低い声が響いた。


 同時に、複数の気配。


 振り向く。


 路地の入口に、数人の男たちが立っていた。


 統一された装備。

 無駄のない動き。


「……王都護衛隊だ」


 先頭に立つ男が言う。


 年は二十代後半くらい。


 整った顔立ちだが、表情はほとんど動かない。


 ポーカーフェイス。


 だが、その目は鋭い。


「……お前らが騒ぎの原因か」


「違ぇよ」


 ハルが即答する。


「襲われた側だ」


「証明は?」


「できるかよ」


 短いやり取り。


 だが、空気は軽くない。


 男はゆっくりと視線を動かす。


 周囲の痕跡。

 削れた跡。

 そして——


 ハルの手元。


 鍵。


「……なるほどな」


 小さく呟く。


「面倒なのに関わってる顔だ」


「顔で判断すんな」


「大体合ってる」


 淡々と返される。


 そのとき。


「おいバルザス」


 後ろから別の声。


 少しだけ軽い。


 だが、その奥にある圧は強い。


「そいつら、昨日の件と繋がってる」


 現れたのは、もう一人の男。


 煙草を咥えている。


 目つきが鋭い。


 だが、どこか余裕がある。


「……リッパーか」


 バルザスと呼ばれた男が言う。


「お前が来るってことは、面倒確定だな」


「最初からだろ」


 リッパーが煙を吐く。


 その視線が、ハルに向く。


 そして——


「それ、見せろ」


 鍵を指した。


 空気が一瞬で変わる。


「……断る」


 ハルは即答した。


 リッパーの眉がわずかに動く。


「へぇ」


 少しだけ笑う。


「いい度胸だ」


「度胸じゃねぇよ。さっきも狙われたばっかなんだ」


「だろうな」


 あっさりと頷く。


「だから見せろって言ってんだ」


「どういう理屈だよ」


「確認だ」


 短い言葉。


 だが、その目は本気だった。


 ハルは少しだけ考えて。


 鍵を取り出す。


 だが、距離は取る。


 すぐに奪われない位置。


「……これだ」


 リッパーの視線が、鍵に固定される。


 煙草を咥えたまま、じっと見つめる。


「……なるほどな」


 小さく呟く。


「“そういう系”か」


「分かるのか」


「全部はな」


 肩をすくめる。


「だが、厄介なのは確定だ」


 それはもう、何度も聞いた。


 でも。


 この男の言葉は、少し違う重みがあった。


「……さっきのやつ、何なんだ」


 ハルが聞く。


 リッパーは少しだけ間を置いて。


「知らねぇ」


 即答だった。


「は?」


「正確には、“知られてねぇ”」


 煙を吐く。


「だがな」


 少しだけ目を細める。


「最近、同じような現象が増えてる」


「消えるやつか」


「そうだ」


 チョペンナの話と繋がる。


「……で、お前らがその中心にいる」


「勝手に巻き込まれてるだけだ」


「結果は同じだ」


 バルザスが淡々と補足する。


 逃げ場はない。


 そんな感じだった。


「……どうする」


 ハルが聞く。


 リッパーは煙草を捨てて踏み消す。


「簡単だ」


 短く言う。


「しばらく俺たちの監視下に入れ」


「……は?」


「逃がさねぇって意味だ」


「物騒だな」


「安全でもある」


 真顔だった。


 冗談じゃない。


 バルザスが一歩前に出る。


「拒否権はある」


「あるのかよ」


「だが——」


 ほんのわずかに、間を置く。


「おすすめはしない」


 圧だった。


 戦闘とは違う。


 組織としての圧。


 ハルは少しだけ息を吐く。


「……どうする」


 リーフィアを見る。


 彼女は少しだけ考えて。


「……行く」


 短く言った。


「……ここにいても、同じ」


「……だな」


 ハルも頷く。


 どうせ狙われるなら。


 強いやつの近くにいた方がマシだ。


「分かった」


 リッパーが軽く頷く。


「話が早くて助かる」


 そのまま背を向ける。


「ついてこい」


 それだけ言って、歩き出す。


 バルザスも無言で続く。


 ハルは鍵を握る。


 王都に来て、まだ間もない。


 なのに。


 もう、深く入りすぎている気がした。


 でも。


 止まる理由はない。


「……行くか」


「……うん」


 リーフィアと並んで歩く。


 その先にあるのが、何なのかは分からない。


 ただ一つ。


 確かなことがある。


 これはもう。


 元には戻らない。

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