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【第十三話】消える街

 王都の空は、ゆっくりと色を落としていた。


「……外、行くか」


 ハルがぽつりと呟く。


 店の中にずっといるのも、落ち着かなかった。


「勝手にしろ」


 ドリューは武器の手入れをしながら言う。


「ただし——」


 少しだけ手を止める。


「妙なもんに首突っ込むな」


「それ無理だろもう」


「……だろうな」


 短いやり取り。


 ハルは軽く肩をすくめて、外に出た。


 リーフィアも、無言でついてくる。


 街は、相変わらず騒がしい。


 昼よりも人が増えている気がする。


 行き交う人、店の灯り、呼び込みの声。


 普通の街だ。


 普通のはずなのに。


「……なんか」


 ハルが呟く。


「落ち着かねぇな」


「……うん」


 リーフィアも頷く。


「……さっきから、変」


「やっぱりか」


 あの感覚。


 空気が削られていくような違和感。


 それが、うっすらと漂っている。


 そのとき。


「きゃあああああ!!」


 悲鳴。


 すぐ近くだった。


「っ!」


 反射的に走る。


 人混みをかき分ける。


 路地裏。


 そこに、人だかりができていた。


「……なんだよこれ」


 ハルが呟く。


 地面に、荷物だけが落ちている。


 袋。布。靴。


 だが——


 持ち主がいない。


「さっきまでいたのに……!」


「目の前で消えたんだ……!」


 周囲の声。


 恐怖と混乱が混じっている。


「……消えた?」


 ハルが眉をひそめる。


 リーフィアが一歩前に出る。


 しゃがむ。


 地面に手を近づける。


「……残ってる」


「何が」


「……流れ」


 小さな声。


 でも、その表情は明らかに変わっていた。


「……強い」


「……さっきのやつか?」


「……似てる」


 短く頷く。


 ハルの胸がざわつく。


 ポケットの中の鍵が、微かに冷たくなる。


 ——カチッ。


 音がした気がした。


「……いるな」


 ハルが呟く。


 周囲を見る。


 人混み。


 誰もが普通に見える。


 でも。


 どこかにいる。


 “削るやつ”。


「……探す?」


 リーフィアが聞く。


 少しだけ、不安そうに。


「……いや」


 ハルは首を振る。


「探すんじゃねぇ」


 視線を前に向ける。


 路地の奥。


 暗い影。


「……向こうから来る」


 その瞬間。


 空気が、一気に削れた。


「っ!」


 息が詰まる。


 音が遠のく。


 視界が揺れる。


 そして——


「……いた」


 影の中から、現れる。


 黒い服の男。


 昨日と同じ。


 いや、少しだけ違う。


 目が。


 少しだけ、濁っている。


「……また会ったな」


 低い声。


 軽く言う。


 まるで、世間話みたいに。


「……人、消してんのか」


 ハルが言う。


「消してる?」


 男が少しだけ首を傾げる。


「違うな」


 一歩、前に出る。


「“削ってる”だけだ」


 その言葉。


 チョペンナの話と、繋がる。


「……それで死んでるだろ」


「結果は同じだ」


 興味なさそうに言う。


 リーフィアが、ハルの袖を掴む。


「……ダメ」


 小さな声。


「……強い」


「分かってる」


 でも。


 引く気はなかった。


 鍵を握る。


 ——カチッ。


 音が鳴る。


 男の目が、細くなる。


「……やはり、それか」


 ゆっくりと歩み寄る。


 空気が、どんどん削られていく。


 呼吸が苦しい。


 でも。


 “見える”。


 削られている流れ。


 その中心。


「……そこだろ」


 ハルが踏み込む。


 距離を詰める。


 鍵を振る。


 ——カチッ。


 一瞬。


 空気が戻る。


 だが——


「……甘い」


 男の手が、動く。


 触れられる。


 その瞬間。


「っ!?」


 体の一部が、消えかける。


 感覚が、なくなる。


「……っ、やば……」


 引く。


 強引に距離を取る。


 息を荒くする。


「……今の」


 冷や汗が流れる。


 あと少し遅れていたら。


 確実に——


「……削れるぞ」


 男が言う。


「お前も」


 軽い口調。


 でも、内容は最悪だった。


「……ハル」


 リーフィアの声。


 少しだけ震えている。


「……下がって」


「いや——」


「……お願い」


 その一言で、止まった。


 リーフィアが前に出る。


 珍しかった。


 自分から前に出るのは。


「……やめろ」


 ハルが言う。


「……大丈夫じゃない」


 リーフィアが答える。


 小さい声。


 でも、はっきりしている。


「……でも、止める」


 その言葉。


 昨日の夜の続きだった。


 ハルは少しだけ歯を食いしばって。


「……分かった」


 一歩、横に並ぶ。


「一人でやらせる気はねぇ」


 リーフィアが、ほんの少しだけこちらを見る。


 そして。


「……うん」


 小さく頷いた。


 男が、少しだけ笑う。


「……面白いな」


 同じ言葉。


 何度目か分からない。


 でも。


 今度は、違う。


 これは——


 本気のやつだ。

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