表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/29

【第十二話】笑う情報屋

壊れた扉(仮)は、相変わらず壊れたままだった。


「……直す気あんのかよ」


「ある」


 ドリューは短く答える。


「いつだよ」


「そのうちだ」


「昨日も聞いたぞそれ」


 ハルはため息を吐いた。


 店の中は、昨日よりは片付いている。


 だが、まだ完全とは言えない。


 ロッジーニは外に出ている。


 リーフィアは、昨日と同じ場所で静かに座っていた。


 いつも通り。


 そして——


 ——コンコン。


 軽いノック音。


 壊れてるのに律儀だった。


「入るねー」


 扉を押して、ふわっと入ってきた。


 柔らかい雰囲気の少女。


 笑顔。


 ずっと笑顔だった。


「こんにちはー」


「……なんだ」


 ドリューが低く言う。


「情報持ってきたよー」


 軽い調子で言う。


 まるで世間話みたいに。


「いらん」


「いるよー」


 即否定、即肯定だった。


 話が通じていない。


 少女は店の中を見回して。


「あ、増えてる」


 ハルを見た。


 そのまま、にこっと笑う。


「はじめましてー」


「……どうも」


 少し戸惑いながら返す。


「チョペンナ・リコッティだよー」


 名前を名乗る。


 軽い。


 軽すぎる。


「……情報屋だ」


 ドリューが補足する。


「たぶん」


「たぶんってなんだよ」


「たぶんはたぶんだよー」


 チョペンナが笑う。


 意味が分からない。


 でも、悪いやつではなさそうだった。


「でねー」


 そのまま、話し出す。


「最近ね、変なの増えてるんだよー」


「変なのって」


「壊すやつー」


 さらっと言った。


 軽い口調のまま。


 でも。


 ハルの中で、何かが引っかかる。


「……壊すやつ?」


「うん」


 チョペンナは頷く。


「街の外とか、裏の方とかでねー」


 指でくるくると円を描きながら。


「なんかこう、バーンってなるの」


「説明が雑すぎるだろ」


「でもほんとだよー?」


 笑ったまま。


「あとね」


 少しだけ声を落とす。


「人も、消える」


 その一言。


 店の空気が、少しだけ変わる。


「……消える?」


 ハルが聞く。


「うん」


 チョペンナはあっさり頷く。


「昨日も一人いなくなったよー」


「……それ、ただの事件じゃねぇのか」


「かもねー」


 また笑う。


「でもねー」


 少しだけ首を傾げる。


「普通じゃない感じ」


「普通じゃないって」


「なんか、こう……」


 手を伸ばす。


 空気を掴むみたいに。


「なくなる感じ?」


「……」


 言葉にしづらいが。


 昨日のやつと、似ている。


「……それ」


 小さな声。


 リーフィアだった。


 チョペンナの方を見ている。


「……見たの?」


「見てないよー」


 にこっと笑う。


「でもねー」


 少しだけ、間を置く。


「分かるの」


「……どうして」


「なんとなくー」


 軽い。


 でも、その言葉は。


 妙に信用できた。


「……ふーん」


 ハルは腕を組む。


「で、それがどうした」


「どうしたってー」


 チョペンナは笑う。


「関係あるかもよ?」


 ちらっと、ハルのポケットを見る。


 鍵。


 見えていないはずなのに。


「……何と」


「さあー?」


 肩をすくめる。


「でもねー」


 また少しだけ、声が変わる。


「狙われてるよね」


 はっきりと言った。


 ハルは黙る。


 ドリューも何も言わない。


 分かっているからだ。


「……怖い?」


 チョペンナが聞く。


 ハルは少しだけ考えて。


「……分かんねぇ」


 正直に答えた。


 怖いかどうかも、分からない。


 ただ。


 面倒なのは確かだ。


「そっかー」


 チョペンナは、にこっと笑う。


「じゃあ大丈夫だね」


「なんでだよ」


「ほんとに怖い人はねー」


 くるっと回る。


「最初から逃げてるから」


 軽い言葉。


 でも。


 妙に刺さった。


「……なるほどな」


 ハルは少しだけ笑う。


 その横で。


「……その理屈は雑だな」


 ドリューが呟く。


「でも当たってるよー?」


「……否定はしねぇ」


 短いやり取り。


 チョペンナは満足そうに頷く。


「じゃあねー」


 手を振る。


「また来るねー」


「来なくていい」


「来るよー」


 軽い会話。


 そのまま、ふわっと出ていった。


 静かになる。


 さっきまでの空気が、少しだけ残る。


「……なんなんだあいつ」


 ハルが呟く。


「……情報屋だ」


 ドリューが答える。


「たぶんな」


「結局それかよ」


 ため息を吐く。


 でも。


 さっきの話。


 軽く流せるものじゃなかった。


 人が消える。


 壊すやつ。


 そして。


 狙われている。


 全部、繋がっている気がする。


 ハルはポケットに手を入れる。


 鍵を握る。


 冷たい感触。


 でも、その奥にあるものは——


 まだ分からない。


 ただ。


 確実に。


 何かが、近づいている。


 そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ