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【第十一話】おもちゃと鍵

 壊れた扉は、まだそのままだった。


「直さねぇのかよこれ」


「そのうちな」


 ドリューが素っ気なく答える。


「いやそのうちって」


「壊したやつが来る前に直しても意味ねぇ」


「理屈は分かるけど納得はできねぇ」


 ハルはため息を吐いた。


 店の中は、まだ少し荒れている。


 だが、ドリューは特に気にした様子もなく、武器の手入れをしていた。


 ロッジーニは外に出ている。


 リーフィアは、店の隅で静かに座っていた。


 いつも通りだ。


「……暇だな」


 ぽつりと呟く。


 さっきまでの緊張が嘘みたいに、時間が流れている。


 そのとき。


 ——ガンッ!!


 勢いよく、扉(仮)が吹き飛んだ。


「うおっ!?」


 ハルが思わず後ろに下がる。


「やっほーーー!!」


 元気すぎる声。


 小柄な少女が、勢いよく店に飛び込んできた。


 帽子に、ぬいぐるみ。


 テンションが明らかにおかしい。


「ドリュー!新作持ってきたよ!!」


「……帰れ」


 即答だった。


「なんで!?」


「お前が来ると店が壊れる」


「壊れてるじゃんもう!」


「それ以上壊すなって意味だ」


 ドリューの言葉を完全に無視して、少女はずかずかと中に入ってくる。


 そして——


「……ん?」


 ハルの方を見た。


 いや、違う。


 その視線は。


 ——鍵に向いていた。


「それなに?」


 距離が一気に詰まる。


「ちょっ——」


 反応するより早く。


 少女の手が伸びる。


 鍵に触れようとして——


 ——カチッ。


 音が鳴った。


「っ!?」


 少女の動きが、一瞬だけ止まる。


 そのまま、後ろに跳ねる。


「なにこれ!?」


 目を輝かせていた。


 危機感ゼロだった。


「やば!めっちゃやばいこれ!」


「おい触んなって!」


「触ってないよ!今拒否られた!」


「拒否られた?」


「うん!今絶対『ダメ』って言われた!」


 意味が分からない。


 でも。


 さっき確かに、何かが起きた。


「……それに触るな」


 ドリューが低く言う。


 少女はくるっと振り返る。


「なんで?」


「壊れるからだ」


「面白そうじゃん!」


「そういう問題じゃねぇ」


 全く話が噛み合っていない。


 少女は再びハルの方を見る。


「それ貸して!」


「貸さねぇよ」


「ちょっとだけ!」


「余計貸さねぇよ」


「えー!」


 ぶーぶー言いながらも、無理に奪おうとはしない。


 だが。


 目は完全にロックオンしている。


「……お前誰だよ」


 ハルが聞く。


 少女は胸を張って。


「メランコ・プランコ!」


 ドヤ顔だった。


「発明家!天才!未来の王都トップ技術者!」


「自称だろそれ」


「違うよまだ認められてないだけ!」


「同じだろ」


 ハルが呆れる。


 その横で。


「……うるさい」


 リーフィアがぽつりと呟いた。


 メランコが振り向く。


「おお!静かなタイプだ!」


「……違う」


「いいねいいねバランスいいね!」


 何がいいのか分からない。


 だが、一人で盛り上がっている。


「でさでさ!」


 またハルに向き直る。


「それ絶対分解したら面白いって!」


「するなって言ってんだろ」


「中身見たい!」


「やめろ!」


「ちょっとだけ!」


「ちょっとでもダメだ!」


 やり取りが、どんどん子供じみていく。


 ドリューが深くため息を吐く。


「……ロッジの連れか」


「まあ、そんなとこだ」


「……厄介だな」


「お互い様だろ」


 そのとき。


 メランコが急に真顔になる。


「でもさ」


 空気が、少しだけ変わる。


「それ、やばいよね」


 軽い口調のまま。


 でも、言っていることは違った。


「……何がだ」


 ハルが聞く。


 メランコは少しだけ鍵を見て。


「なんか、“変”」


「変って」


「うまく言えないけど」


 首を傾げる。


「普通の魔力じゃない」


 その言葉。


 ドリューが、わずかに反応した。


「……分かるのか」


「ちょっとだけね」


 すぐに、いつもの調子に戻る。


「だから分解したい!」


「結局そこかよ!」


 ツッコミが出る。


 でも。


 その言葉は、軽く流せなかった。


 普通じゃない。


 それはもう、何度も聞いている。


 でも。


 こうやって、別のやつから言われると。


 現実味が、増す。


「……まあいいや!」


 メランコが手を叩く。


「今度また来るね!」


「来るな」


「来るよ!」


 即答だった。


 そしてそのまま、勢いよく外に飛び出していく。


 壊れた扉(仮)が、さらに揺れる。


「……なんなんだあいつ」


 ハルが呟く。


「……ああいうやつだ」


 ドリューが短く答える。


 それ以上の説明はなかった。


 店の中に、少しだけ静けさが戻る。


 でも。


 さっきまでとは違う。


 少しだけ、空気が軽い。


「……うるさいけど」


 リーフィアがぽつりと呟く。


「……嫌いじゃない」


 意外な言葉だった。


 ハルは少しだけ笑って。


「……だろうな」


 鍵を握る。


 さっきの反応。


 拒否。


 あれは——


 初めてだった。


 誰かを、“拒んだ”。


 この鍵は。


 何を選んでいるのか。


 まだ、分からない。


 ただ一つ。


 確かなことがある。


 これは、ただの道具じゃない。


 “意思”に近い何かを持っている。


 そんな気がした。

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