ナタリア仕様
今日もよろしくお願いします
串焼きはあっという間に食べ終え、さて次は?と二人は歩き始めた。
すると、木彫りの細工物や置物を売っている屋台があり、ナタリアは思わず見入ってしまう。
それに気がついたテオドールも品物を見るが、どれも丁寧に作られていて手に取りたくなる。
ナタリアが見ていたのは、長方形の箱で、蓋に透かし彫りがされているが、その透かし部分に宝石が埋め込まれている。
宝石一つ一つは小さく、それ単体ではとても売り物にならない大きさだが、透かし彫りに埋め込まれているととても奇麗だった。
そして何よりその模様が宝石でできた『花火』で、平和祭りの最終日の花火をモチーフに作られているとわかる物だった。
「これが気になるのか」
テオドールはナタリアの横で、木箱に手を伸ばす。
箱は側面にも彫刻があり、模様は植物園で見た爽やかな香りのする、あの白い花だった。
ドーレを集めたような箱は、蓋を開くと中にビロードが貼られていて、どうやらアクセサリーを入れても良い作りだった。
「これは素晴らしい。リア見て、とても丁寧に作られている」
テオドールが感嘆の声を出すと、ナタリアも頷く。
「これはリアの為の品だよ、きっと。店主、これをいただこう」
「ありがとうございます」
店主は木箱を丁寧に包み、持ちやすく袋に入れてテオドールへ渡した。
テオドールは予想よりも安い値段に驚きながらも、支払いを済ませ品物を受け取る。
テオドールは次に行こうと声をかけようとナタリアを見たが、ナタリアは違う品物を見ている。
それに気がついた店主は
「そちらはペーパーウェイトにも使えますよ」
「可愛らしいですね。こちらをいただけますか?」
「ありがとうございます」
ナタリアが見ていたのは、リラックスしているように横になって、こちらを見ている犬の置物だった。
少し開いた口は笑っているように見え、確かに可愛い。しかも、瞳はやはり小さな宝石が嵌められていて、それはサファイアのようだった。
店主はこちらも丁寧に包み、袋に入れて渡してくれた。
ナタリアが支払いをし、テオドールを見て『いい買い物が出来ました』と嬉しそうに笑った。
二人は次の店を探す。
ナタリアは、道行く人達の手にある物が気になった。
すれ違う何人かが同じ物を持っていて、チラッとしか確認できなかったそれに興味がわいてしまった。
「ねえ、テオドール見て。あれどこに売っているんでしょう」
ナタリアの指差すところを見たテオドールは、次いで周りの屋台を見る。
ナタリアの言う『あれ』とは、ナタリアの掌大のボール状の入れ物に入ったフルーツだった。
フルーツにはピックが刺してあり、簡単に食べられそう。
背の高いテオドールはすぐにその店を見つけ、こっちだね、とナタリアの手を引く。
屋台についたときは四組並んでいたので、二人はその後に並んだ。
「見て、ただの入れ物かと思ったけど、あれ、パンよね」
近くで見ると、どうやらパンの中をボール状にくり抜き、そこへ苺やカットしたリンゴを入れ、ゆるくホイップした生クリームが上からかけてあるようだ。
二人の順番が来たので、一つ購入する。
テオドールが受け取る。両手が埋まっているので、ナタリアがピックで刺したフルーツをテオドールの口へと運ぶ。ピックは一つしか無いので、ナタリアもそれを使い自分も食べる。
もうそんなことは普通にできるようになった。
さっきまでは恥ずかしがっていたのに、祭りの雰囲気がそうさせるのか。
この日のテオドールとナタリアは、普通の恋人を楽しんだ。
そして殿下から言われたお土産を買い、日が落ちる前に城へと戻った。
城へ戻った二人は、まず着替えのためにそれぞれの部屋へ行く。
着替えを終えたナタリアは、テオドールの部屋へと向かった。
勿論テオドールは喜んで部屋へ招き入れ、ナタリアはソファへ座る。メイドがお茶を淹れている様子を見ながら、ナタリアは買った犬の置物をテオドールへ渡した。
「ペーパーウェイトにも使えるとの話だったので、執務机に置いてもらえれば良いかなと」
「私に?嬉しいが良いのだろうか」
「はい。最初からそのつもりでした」
見た目よりズシリと重い置物は、室内のランプの元で見ても可愛かった。
両手で持ってじっくり見ているテオドールの口角は、ほんの少しの上がっていて、喜んでいるのがわかりナタリアも嬉しく感じた。
「リアにはこれを」
とテオドールが渡してきたのはやはりあの木箱。
ナタリアは今気がついたが、先日いただいた髪飾りを入れるのにちょうど良い大きさだ。これをいつも見えるところに置いて、今日を忘れないようにしようと思った。王都で慣れない社交をしても、これを見たら頑張れそうだ。
「ありがとうございます」
横に座るテオドールを見上げながらお礼を言う。
テオドールは優しく肩を抱いて目を細め、ナタリアの額にキスをした。
ナタリアは突然のキスに驚いたが、最近は二人の距離が近かったことからすんなり受け入れ、ふふっと笑った。
夕食後、久しぶりに談話室へ集まった。
今日はケネス、テオドール、ナタリア、そしてアルヴィン殿下だ。
テオドールとナタリアは並んで座り、殿下はその正面、ケネスは横の一人用の椅子に座った。
テオドールとナタリアは、今日も手を繋いている。
正面にいる殿下は呆れた顔をして、大袈裟に溜息をついた。
「聞いてはいたけど、目の前で見るとやっぱり驚きだね」
「何がでしょう?」
テオドールのクールな返答を気にもせず、殿下は二人の繋いだ手を見ている。
「テオが、ナタリアにベタ惚れとは聞いていたが、ナタリアもこんなにあっさり受け入れるとはね。いや、実際に見てもやっぱり信じられない」
「私も、我が妹ながら、こんなことになるとは」
「テオ、真面目だと思っていたのに、いったいどんな手を使った?」
「特別なことはしておりませんが」
「それでこんなふうに変わるのか?」
「殿下、私は何も変わってないと思います」
「いいや、変わったよ。以前のナタリアは、男が手を触ろうものならスルスル〜と手を離して、笑みをうかべたまま後退して逃げていた」
「そんなことしたことないけど」
「イメージだよ。そんなイメージ。それがねぇ」
殿下はお土産としてもらった『ノラ婆さんの焼き菓子』をポリッと噛んで『あのナタリアがねぇ』とまだ呆れている。
今日はチョコレート味も売っていたので、キャラメル味と二種類買ってきた。少し多めに買ってきたので、殿下の部屋とテオドールの部屋にも置いてある。
殿下はキャラメル味へ手を伸ばす。
テオドールは昨日の今日でこれを渡すのは気が引けたが、今だからこそ渡して、何も無いし気にして無いとわかってもらいたかった。
受け取った殿下も『懐かしいね』と言って何事もないように食べている。
良かった。これで良かった。とテオドールは思う。
隣のナタリアも、いつものように話している。
明日は三の橋の握手が終わると、そのままユシーナ王女がドーレ城へ二日滞在する。
おかしな雰囲気など見せてはいけない。
以前、殿下は婚約者に誠実に在りたいと言っていた。ならば、それを貫き通してもらわねば。ユシーナ王女が憂いなく嫁いで来られるように。
殿下とナタリアの会話の様子から、これなら大丈夫だろう、とテオドールは胸をなでおろす。
殿下はそんなテオドールの思いを知っているのか知らないのか、テオドールをからかい始めた。『私と話す時はずっと仏頂面なのに、ナタリアの前では人が違うみたいだ』『しばらくテオドールの笑顔なんて見てなかった』『ナタリアが私の侍女だったら、テオドールは仏頂面なのか笑顔なのか』
ナタリアがテオドールの顔を見ているが、テオドールはいつもと違い苦笑いだ。
そんな表情が珍しくて、ナタリアは笑ってしまう。
ナタリアにつられて、テオドールもナタリアを見ながら笑う。
「やっぱり、別人じゃないのか?ケネス」
「あれはナタリア仕様のテオドールですね、殿下。ナタリア限定です」
殿下を呆れさせたまま、翌日は大仕事があるからと、お開きになった。
更新は毎日12時を予定しています。
読んでいただき、ありがとうございました。




