二人のセレモニー
本日もよろしくお願いします
平和祭り二日目。
三の橋の握手は十五時スタート。
テオドールはこの日、殿下の護衛に徹する。その為、朝食後から殿下、近衛騎士、護衛騎士達と行動している。
ナタリアといえば、日中は全く予定がない。夕食はユシーナ王女も一緒なので、晩餐会という形になり、いつもとは違うきちんとしたものになるので、ドレスを着てそこに参加すれば良いだけだ。
毎年、三の橋の握手は見ていない。自分が行ったら護衛もついていくことになり、見たいと思っている人の邪魔になると思ったし、セレモニー自体は十分くらいで終わってしまう。握手を見るだけで、往復で疲れることを考えると面倒だと敬遠していた。しかし今年はテオドールが護衛隊長をする。騎士服を着て仕事をしているのは、この先いつ見られるかわからない。今年は握手を見に行こうか、悩むところではある。
ちなみにケネスも殿下に随行するので、朝食後からいない。
最近悪阻の症状が出てきたディアーズは、勿論城で待機。
今朝は調子が良いというディアーズは、見ておいでとナタリアにしきりに勧めていた。
「殿下の結婚式の頃には近衛騎士を辞しているから、もう見られなくなるわ。テオドール様の騎士姿はとても素敵なのよ。城では一二を争うモテ男の晴れ姿を婚約者が見なくてどうするの」
そしてディアーズはメイドをケネスへと遣わせ、ケネスの横にナタリアもつくことに決まった。
ケネスは『もっと早く言ってくれ』と言葉では嫌そうに言ってきたが『来ると思ったけど』と笑っていた。
殿下も『やっぱり来た』と笑っていて、テオドールだけは『来てくれないと思っていた』と違っていた。
ナタリアがついてくるパターンも想定していたようだが、警備の変更をするつもりはなく、だからケネスの横に、と言うことらしい。
そうと決まればナタリアの着替えがある。
メイドがドレスを用意し、化粧もちゃんとしなくては、と慌ただしくなった。
ケネスは十三時三十分に出発だから、と伝えて仕事へ戻った。
ナタリアは軽食をつまみながら支度をし、出発十分前に玄関ホールへ向かった。
そこにはケネスが居たが、ナタリアはこっちだ、と辺境伯の紋章の入った馬車へと誘導された。
ケネスは馬で行くそうで、この馬車はナタリアだけが乗るらしい。
殿下が乗る馬車を先導する形にするそうで、辺境伯家の馬車の後ろには王家の紋章が入った豪華な馬車が停まっていた。
既に騎士達が乗る馬もいて、あちこちで嘶きが聞こえ賑やかだ。
既に三の橋へ向かっている部隊がいて、殿下が到着すると彼等が馬車や馬を誘導する。
三の橋までドーレ城から馬車で一時間はかからない。
騎士達の姿が馬上の人となると、ナタリアも緊張してきた。
もう馬車に乗ってしまおうと思った時、殿下とテオドールが来た。
「ああ、ナタリア間に合ったな」
殿下はそれだけ言って馬車に乗り込んだ。
テオドールはナタリアに微笑んだが、すぐに殿下の馬車の扉を閉め、自身は馬上の人となる。
もう仕事モードに入っているらしい。
ナタリアも馬車に乗り、出発を待つ。
すると突然扉が開き『嬢ちゃん、今回は俺も乗せてくれ』と魔法師団の団長が乗り込んできた。
そして座るとすぐに馬車に結界を張る。
直後に馬車は動き出した。
当初、殿下の馬車に一緒に乗って行く予定だったが、ナタリアの馬車に変更した、と団長が教えてくれた。
殿下の馬車にも結界を張ったので、護衛達はやることはないな、と団長は笑って話す。
帰りも同じように結界を張るが、共にドーレ城へ来る予定のユシーナ王女の馬車はあちらの魔法師が結界を張るらしい。
魔力切れが起こらないようにポーションも積んだ、と団長は座面を叩いた。
「祭りが終わったら、一ヶ月王都へ行くんだって?」
団長はナタリアに話し掛ける。
「五年ぶりですよ」
「あれ以来か」
「あれ以来です」
「まあ、なるようになったというか、上手くおさまったというか」
「そうなんですかね」
「嬢ちゃんなら幸せになれるさ」
「そう言ってもらえると、心強いです」
「嬢ちゃんのことは、子供の時から見てきたから」
「団長、泣かせにかかってます?駄目ですよ」
「そうか、やっぱりバレたか」
ナタリアが物心ついたときには、既にドーレ魔法師団の団長だった。
団長には息子が一人いて、ナタリアが子供の頃沢山遊んでもらったその人も、ドーレ魔法師団に入っている。
三ヶ月前に団長にとっての初孫が生まれた。
そんな団長にとって、ナタリアは娘のような感覚らしい。
「ディアーズ様のお腹の子、魔力量が高そうだ。腹の中から光が見える」
「生まれたら魔法の授業をしてあげてください」
「任せとけ。俺が教え上手なのは知っているだろ?」
「それは否めませんね」
「クレメンス様も魔力量が凄いから、嬢ちゃんに子供ができたら、魔力量の凄い子が生まれそうだ」
「そうしたら、王都まで出張して教えてもらえます?」
「嬢ちゃんが子連れで里帰りするんだよ。そうしたら大腕振って実家に帰れるだろう?」
「私、毎年平和祭りには、テオドールと一緒に花火を見に来る予定ですよ」
「あれか?クレメンス様が良いって言ってるのか?」
「はい」
「そうか。じゃあ、また来年元気で会えるように」
「はい。それを楽しみに健康に気をつけます」
「それがなくても気をつけろって」
泣きそうになる話をなんとか方向転換させ、ナタリアは楽しく会話をしている。窓の外を見ると、馬に乗っている近衛騎士と目が合う。
護衛のためについてくれているらしい。
一瞬目があった後、ニコッと微笑んた騎士は馬車から少し距離をおいた。
テオドールは護衛隊長の為、この隊列の先頭にいるはずだ。防御魔法か結界かは忘れたが、テオドールにも施したと聞く。
馬車は順調に進み、到着予定の十分前に三の橋の近くへ到着した。
平和祭り限定の馬車置き場の側に、殿下が休むためのテントがあり、殿下はそこで待機となる。
川沿いに張ったテントは団長が結界を施した。
対岸の川沿いにも同じようなテントがあり、そちらにはユシーナ王女が既に入っていると伝わってきた。
テオドールは殿下の側で護衛するが、ケネスはテントの出入口に立ち、中へは誰も入れないように見張る。
ナタリアはケネスの横に立っていたが、侍女を連れてきていないからナタリアがお茶を淹れなさいと言われ、テントの中でお茶を用意している。
外から合図が来たら殿下は橋へ向かい、橋の真ん中で握手をする。その後、今年はユシーナ王女の手を取り、そのままドーレ城へと向かう馬車に乗る予定だ。
団長は、橋の結界を確認する為に橋へ向かい、確認終了次第テントに戻ってきて待機となる。
テントから橋までは十メートル無いくらいで、三の橋から半径五十メートル以内は観覧者立入禁止となっているが、そこの範囲外にはかなり沢山の観光客が待っている。
両国の王族を、しかも今年はアルヴィン殿下とユシーナ王女。来年ご成婚なさる二人を見られるということで、前日から場所取りが激しかったそうだが、まもなく握手のセレモニーが始まる。その高揚感が風に乗ってテントまで届く。
「殿下。お時間です」
スッと立ち上がったアルヴィン殿下は『行こうか』とテオドールに声を掛け、『行ってらっしゃいませ』と頭を下げるナタリアの前を通りテントを出た。
テオドールも殿下の後に続いたが、ナタリアの前を通る時に、ナタリアの肩をポンポンと軽く叩いてテントを出た。
二人が出た後にナタリアもテントを出て、三の橋を見る。
立入禁止区域のため、テントから三の橋がよく見える。
テオドールと団長を従えた殿下は、ゆっくりと橋の真ん中まで進む。
反対側から金髪のユシーナ王女が、護衛二人を従えて歩いているのが見える。
同じタイミングで橋の真ん中についた二人は、暫く見つめあい、お互いが右手を差し出し握手をした。
観客からは拍手がおこる。
いつもならこれで観客に手を振って終わりだが、今年はユシーナ王女をこちらへエスコートすることになっている。
ナタリアからは遠目に二人の横顔が見えるが、二人共笑顔だった。そして殿下はユシーナ王女の右手を離さず、指先にキスを落としてタキバルレ側へと体を向ける。ユシーナ王女がそっと殿下と腕を組むと、二人はゆっくりこちらへ歩き始めた。
観客からは大きな歓声もあがり、二人は笑顔で応えている。
テオドールと団長は端により、二人を通すと後ろから同じ速度で歩く。
ソナモンドの護衛二人もこちらに歩いてくるので、王族二人の後ろに四列で護衛が歩いているが、ナタリアにはテオドールしか見えていなかった。
テオドールが殿下の護衛をしている場面は、何度も見たことがあったが、今までは視界に入っているだけで『意識して見た』ということは、これが初めてだった。
そもそも、当時のナタリアには婚約者がいたので、他の男性は見ないようにしていた。
今は、テオドールがナタリアの婚約者である。
ナタリアはテオドールだけを見ている。
今回着ている騎士服は式典用で、金の飾緒がついている。歩くとキラリと揺れるそれも、黒髪のテオドールを引き立たせるための装飾で、ナタリアはテオドールから目が離せない。
ケネスに肘を突かれてハッと現実に戻った時には、六人がテントまであと五メートルという距離だった。
ナタリアは慌ててテントの入り口で頭を下げて迎い入れる。
「ありがとう。世話になります」
高く可愛らしいその声は、ユシーナ王女のものだった。
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