元を超える仲
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結局、夕食までに目の腫れがひかなかったナタリアは、私室で夕食をとることにした。
先程、温かいタオルを用意したメイドは『やっぱりこうなりますか』と予想していたようで、手早く用意した。
「明日にはひきますよ。いつもの綺麗なナタリア様に戻ります」
メイドは食後のお茶を淹れながら、優しく言う。
明日にはいつも通り。
ナタリアは自分に暗示をかけるように呟いた。
ナタリアが二日続けて夕食の席につかないことを、辺境伯はアルヴィン殿下へ謝罪していた。
殿下は、気にしていないから謝らないで欲しい、と伝える。
殿下の護衛をしている時と同じ無表情なテオドールは、静かにワインを口にした。
ケネスはチラリとその様子を確認し、後で何かフォローしないといけないか、と思案している。
そしてこの日も談話室には誰も行かなかった。
テオドールはナタリアの部屋の前にいる護衛に声を掛ける。
護衛はナタリアの部屋に入り、テオドールが来たことを伝えると、どうぞと扉を開けたままテオドールの入室を促した。
ナタリアはソファに座り、お茶を飲んでいた。
「ごめんなさい。さっきはみっともないところをお見せして」
「良いんだよ。みっともないなんて思ってないし」
テオドールはいつものようにナタリアの隣へ座る。
ナタリアの目元を見て『うん、綺麗だ』と腫れがひいたことを告げた。
メイドがお茶を淹れ、指示はされていないが下がった。
「リア、明日は二人で町へ遊びに行こう。護衛隊長の仕事は明後日だから、明日は休みなんだ」
「そうですね。お祭りだから屋台も出て賑やかですよ。お昼前から行きましょうか。串焼き食べたりお菓子を食べたり」
「ああ、良いね。夕食を食べたばかりなのに、もうお腹が空いてくる」
テオドールが戯けて言う。
ナタリアが笑うと、テオドールは嬉しそうに目を細めて、ナタリアの頭を撫でた。
「私は平和祭りは初めてだから、とても楽しみだよ。二日目は仕事だから気を抜けないけど、三日目の花火も楽しみにしている」
「花火は舞踏会の最中に上がるんですけど、城から見るのに良い場所があるんですよ。舞踏会を抜け出してそこから見ましょう」
「ああ、それは楽しみだ」
ナタリアはいつもの調子に戻っている。
テオドールはそれを確認して『明日が楽しみだ』と部屋へ戻って行った。
テオドールが部屋へ戻ると、ソファにアルヴィン殿下が座っていた。
「ナタリアのところに行っていたの?」
「そうですよ」
「ナタリアは大丈夫だった?」
「いつものリアに戻ってました」
「それは良かった」
殿下はお茶を一口飲み、目の前に座ったテオドールを見る。
少し俯き大きな溜息を一つ吐き、再度テオドール見る。
「悪かった。あんな姿を見せるつもりは無かった」
「······私はお二人がどのような時間を過ごされたのか知りませんから、何も言えません」
「二人の時間か。ただの気のおけない友人だったよ。テオも知っているでしょ」
「殿下が何も仰らないので、私も言うことはありませんし、リアにも何も伝えませんよ」
「うん、それで良いんだ。ありがとう」
アルヴィン殿下は立ち上がり、扉へと向かう。
扉の前で振り返り『ありがとう』ともう一度言うと出ていった。
テオドールはソファに座ったまま、天井を見上げ感情を整理している。
ナタリアの様子を見て安心したはずなのに、殿下と話して気持ちに靄がかかる。
溜息を吐いても、靄は晴れない。
暫くじっとしていると、扉がノックされケネスが入ってきた。
先程まで殿下が座っていた場所にケネスが座る。
「お茶か?ワインにするか?」
「あ〜、すぐに行くから気を使わなくて良い」
二分くらい無言のまま、二人は微動だにしなかった。
最初に沈黙を破ったのはケネス。
「悪かった。あんなことになっているとは思わなかった。いつもは二人がダンスを踊って終わりだったんだ。気分悪くしたよな」
「いや、二人のダンスは美しかったから、見る価値はある。見て良かった。殿下の気持ちもわかったし、王都で警戒すべきことが顕著になって良かったんじゃないか?」
「警戒か。でも、ナタリアの気持ちは殿下にはないぞ。これは確かだ」
「うん、そう思ったけど、ケネスからも聞けて心強いな」
「なんだ、わかっていたのか」
無言になる。
「殿下は側妃を考えていないし、大丈夫だ」
また無言になる。しかし、今度はテオドールが言葉を発した。
「殿下はいつからだ」
ケネスは覚悟を決めたのか『ワインを貰うよ』とグラスに勝手に注ぎ、グイッと飲み干す。
「殿下は、ナタリアと初めて会った時からだと聞いている」
「そんなに前から。よく抑えていたな」
「王都では抑えていたのかもな。こっちではヒヤヒヤしていた。ユシーナ王女に噂が届くんじゃないかと。ただ、ナタリアにも婚約者がいたし、婚約破棄後は知っての通り、見合い相手を連れてきていたからな、かなり好条件の」
「私は見合い相手に選ばれなかった」
「それはそうだろう?だってテオドールを見合い相手に選んだら、ナタリアが受けるってわかるからな。殿下の最後の悪足掻きだろうよ。それに殿下が選んだ相手は、こっちでナタリアと生活する前提だっただろう?だけどテオドールだと目の前をチョロチョロするんだ。それは苦しいだろう」
「私だとナタリアが受けてくれるって、どうしてわかる?」
「わかるさ。私も殿下もナタリアの好みはよく知っている。お前はど真ん中だ。見た目も性格も。だからこんなに早く婚約できたんだ」
面映ゆい言葉に、テオドールは自分用とケネスのグラスにワインを注ぐ。
「まあ、悪足掻きはこっちの想像だが、ナタリアはドーレから出ない前提だったから、その段階でテオドールは候補外だったのは確かだな。それを陛下に直談判するから、殿下も笑っていたよ、もっと前にそうしろって」
「情報筒抜けだな。ケネスは殿下の味方か?」
「前に言わなかったかな?私はナタリアが幸せになるのが一番なんだ」
「それなら今は私の味方か」
「そうなるな。これは前に言った覚えがあるぞ。テオドール、お前を応援してるって」
「言われた。覚えてる」
「じゃあ、そういうことで安心して休んでくれ」
ケネスが立ち上がり扉へ向かう。
「ああ、そうだ。明日はリアと町へ行ってくるから」
テオドールが背中に言葉を投げかける。
「明日?またデートか。明後日の為に体力と魔力は温存しておけよ」
ケネスが静かに扉を閉める。
テオドールは今のケネスの話をゆっくり考え、ワインで流し込んだ。
もうこの話はこれきりに。
自分はナタリアを幸せにすることを考えれば良い。
それはきっと殿下も望んでいる。
朝食は、やっと皆が揃った。
アルヴィン殿下もナタリアも昨日のことなど無かったような顔をしている。
それを見てケネスは胸をなでおろした。
テオドールも今日はデートの為か、機嫌が良さそうな表情だ。
「テオ、随分とご機嫌だよね」
「今日はリアと町歩きです」
「え?良いなぁ」
「殿下は駄目ですよ。お祭りで人が多いんですから」
「わかっているけど。う〜、二人共楽しんで。お土産忘れずにね」
「わかりました」
テオドールとナタリアは、いつものように歩く。
町民は見慣れた二人に挨拶をし、お祭り楽しんで、と声を掛ける。
紹介所を過ぎたあたりから屋台が多く立ち並ぶ。
さあ、どこから?と二人で店を見て回る。
ふわっと風に乗って美味しそうな香りが届き、やはり串焼きか、と二人で並ぶことにした。
肉の串焼きと魚の切り身の串焼きがあり、一本ずつ購入し半分ずつ食べることにする。
ナタリアが魚の切り身の串焼きを一口食べる。
うんうんと頷き『美味しい』と言うと、テオドールは嬉しそうに目を細める。自分は食べずに、ナタリアが頬張るのをニコニコと見ていた。
「テオドールは食べないんですか?」
「うん、もう少しだけ見ていたい」
「何それ」
ナタリアはとりあえず半分食べた。
するとテオドールは手に持った肉の串焼きをナタリアの前に差し出し『はい、あ〜ん』と言う。
え?とテオドールを見ると『ほら、ほら』と期待の目をしている。
ナタリアが恥ずかしいと言っても、一口だけ、一口だけ、と引いてくれない。
じゃあ一口だけ、と口を開けるとテオドールが口に肉を持っていく。ナタリアが食いつくとスッと串を引き抜く。
うん、これも美味しいと言うと、テオドールもうんうんと頷く。そして自分はナタリアが持ったままの魚の串焼きを食べようと、ナタリアの手に自分の手を添えて串を自分の口に持っていき、パクリと食べる。
「うん。美味しい」
え?と思ったが、良い笑顔を向けたテオドールに、まあ良いか、とナタリアは許してしまった。
ナタリアの口の中が空っぽになると、テオドールがまた肉の串焼きを口元に持っていく。
ナタリアは口を開けパクリと食べる。テオドールがナタリアの手から魚の串焼きを食べる。
二人は周りを気にせず、串焼きを楽しんでいたが、今回も勿論護衛はついていて、護衛は二人の周りに目を光らせながらも、この様子に悶絶しそうになっていた。
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