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うろつく魔王  作者: こたつ布団
289/291

288.広場へ

 強い風がアンナの顔に打ち付けた。

 ゆっくりと目を開けると、大きな景色がひらけており、山並みや、眼下には箱庭のような小さな町が見える。

「ここは……クロム領なの?成功したの」

 アンナは振り返り、グリエラに尋ねた。


「うむ、大丈夫だ」

 周りを見回したグリエラは頷いた。

 その傍には慌てたように目を見開くテーナとマリアナの姿もあった。

「すごい……一瞬で全く違う場所に……」 

 これが転移、とマリアナは唖然として、一瞬前とはまるで違う風景を眺めた。

 テーナも初めて転移を経験したらしく、興味深げに辺りを見回している。


 アンナたちは切り立った崖の上にある鐘楼に立っていた。

「この道を降りると街の着くのかしら」

 鐘楼から麓に向かって心許ない細い山道が一本、蛇のようにうねりながら伸びている。

 基本的に魔力や翼で飛翔するアンティノキアにとって道の整備は申し訳程度に過ぎない。

「ああ、ここを降りると領主屋敷の近くに降りる」

「じゃあ行きましょう」

 

 アンナたちは高所に転移することをあらかじめ聞いていたので、動きやすい軽装を整えている。そのまま慎重に道を降りて行き、一行もそれに続いた。

「ふふ、アールス驚くかしら」

 微笑みながら山道を降りているところに、下方から、人々が一斉に声を上げる音が聞こえた。

「え……何」

 アンナの足がすくんだ。脳裏に王都で受けた怒号が浮かんだのだ。

 しばらく耳を澄ましていると、再び地鳴りのような罵声が上がり、アンナの顔からは瞬時に血の気が引いていった。

「もう少し進めば街の様子が見えるはずだ。どうする」

「……行く」

 深呼吸をするとアンナはゆっくりと進み出した。

 進むにつれ、木々や岩陰が途切れてきた。そのまましばらく進み、山道を曲がると、不意に視界が開けた。

「……!」

 アンナは息を呑んで立ち止まった。

 

 眼下には領主屋敷と広場が見えている。

 その広場をアンティノキアたちが埋めており、領主屋敷に向かって敵意に満ちた声を上げていたのだ。

「これって……まさか……」

「ああ、ナイガが来ている」

「……」

 アンナはここに来る前に事前にクロム領の現状を聞かされていた。

 自分が戦い方を明かしたために、前領主であるナイガが活発に動き出し、アールスとの再戦を求めクロム領内でその正当性を訴えているという。

 最終的には領主屋敷の前で演説を打つであろうと推測されていたが、もう少し日にちを要するだろうと報告を受けていたのだ。

 

「予想より賛同の声が集まり、一気に中央を攻めようと考えたのかも知れんな」

 グリエラが広場を見つめ、冷静に言った。

「そんな……私のせいだわ」

 アンナは唇を噛んだ。自分の決断が、遠いこの地でアールスを窮地に追い込んでいる。


「気配を消して行った方がいいだろう」

 グリエラがアンナたちに手をかざした。

 アンナには何かをされたという実感はないが、術はかかっているようである。グリエラは「では陛下」と道を進むように促した。

 進むにつれ広場の光景と人々の声がはっきりと聞こえてきた。

「出てこい」「弱いものを領主とは認めないぞ」という声にアンナの足取りは重くなった。


 一行は山道を抜け、広場に続く石畳が見えてきた。

 アンナは思わず身を隠した。すぐ近くにアンティノキアがおり、集会を眺めているのだ。

「大丈夫だ。そのまま進むといい」

「そんなこと言ったって……」

 アンナはグリエラを睨んだ。この光景は王都で受けた人々の視線や怒号をありありと思い出させ、広場に踏み出す決心がつかなかった。

「ほ……本当に誰にも気づかれないのでしょうか」

 マリアナがおずおずと尋ねるとグリエラは「問題ない」と微笑した。

 

 不意にテーナが歩き出し、ためらうことなく広場へと足を踏み出した。

 そしていきなり、「陛下、グリエラ様の力をご覧ください」、と得意げに群衆の端にいる一人のアンティノキアの太ももあたりを強く叩いた。

「な……」

 何をしているの!?と叫びそうになったが、アンナは見つかることを恐れ、口をつぐんだ。

 

 アンナと同じ程度の上背のテーナが、強く叩いたところで何ほどのこともないだろうが、叩かれたアンティノキアは「いて」と呟き、足元を見た。

「なんだ、嬢ちゃん。演説が見たいのか?抱き上げてやろうか」

 竜型のアンティノキアが、テーナに手を伸ばした。

「ふあっ!?」

 テーナは驚愕に目を見開き、慌ててこちらに戻ってきて身を隠した。

 そして見開いた目をグリエラに向けた。

「そなたはアンティノキアだろう。術はかけてないぞ」

 グリエラは口に手をやり、クックと含み笑いを漏らした。

「……」

「……」

 こんな時であるが、アンナとマリアナは顔を伏せ、肩を震わせている。

「……陛下まで……」

 テーナは口惜しそうにアンナの前に膝をついた。


 張り詰めた緊張の糸が、ほんの少しだけ緩んだ。 だが、広場からの怒号が止むことはない。アンナは再び領主屋敷へと視線を向けた。

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